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VR/ARの未来

世界中のコンテンツの“VR化”を目指すスタートアップが見据える未来予想図とは

株式会社VRize

Google、Facebookも参入するVR市場は、この1、2年で大きく変わる

1990年代後半のパソコン、2010年以降のスマートフォンの普及がわれわれの世界を変えたように、これから2020年に向けて、VR(バーチャルリアリティー)の大きな波が押し寄せてきそうだ。そうした市況の中「VRize the world」を掲げ、企業やコンテンツのサポートを通して世界中のコンテンツの“VR化”を目指す企業がある。東京都赤坂にオフィスを構える株式会社VRizeだ。

日本初のVRアプリ内に広告を挿入するアドネットワーク「VRize Ad」、VR動画アプリを簡単に作れるCMS開発サービス「VRize Video」が事業の中心となる。「アプリとソフト」2本立ての企業が多いなか、裏側を支えるプラットフォーム に注力する。

「2017年6月の現段階では、VR市場はまだデバイスが普及していません。お客様になり得る広告媒体の開発も手掛けていくことで、市場全体を盛り上げ、未来の広告事業にもつなげていきたいのです」と中村拓哉COOは語る。現在、VRでマネタイズできている企業はわずかだ。年間10億円単位の売り上げを出している企業も存在するが、そうした企業は数十億円近い出資を受けていることも珍しくなく、業界はいまだ黎明(れいめい)期だ。市場としてVRが盛り上がるのはどのくらい先なのか。「仮に『ビジネスになる』レベルを年間に億単位で稼げることと定義するならば、約2年後にはそうした企業が多く出てきているだろうと思っています」と中村氏。

「VRコンテンツ制作で世界のトップを走る企業がグローバルで今、20社ぐらい出てきています。そのなかでも、『Job Simulator』という有名コンテンツなどを手がけ、VRコンテンツ制作で現状ナンバーワンといわれているOwlchemy Labs(オウルケミー・ラボ)が2017年5月、グーグル社に買収されたという発表がありました。Owlchemy Labsを買収するということで、グーグル社はVRコンテンツ作りに注力するという意思表示をした、といえます。同様にFacebookなどもVRコンテンツメーカーの買収に動いています。こうした『巨人たち』が本格的に動きだすときこそ、市場が大きく変わるのです。そして、その影響が出てくるのがここ1、2年ではないかと考えています」

デベロッパーが「簡単で、安く、高品質なアプリを作れる世界」をどう作るか

VR市場の大きな課題はデバイスが普及していないことに尽きる。スマートフォンのように「1人1台」とまではいかないのが実態だ。アプリ事業者側は「アプリを作ってももうからない」、ユーザー側は「面白いアプリがないから買わない」、まさに「ニワトリと卵」状態に陥る。こうした失敗例は過去のゲーム業界にも多く見受けられた。

「アプリ事業者が良いコンテンツを作らないと、デバイスも売れないし、市場が盛り上がっていきません 。アプリ事業者がVRをいかに安く簡単に作れるようになるか、ここが市場の一番の課題解決になるのではないかと思っています。そして、VRが本当に盛り上がるのが2年後からだとすれば、今から用意しないと間に合いません。『VRizeの事業はまだ早い』と言われることが多いのですが、だからこそ僕たちは『今こそやるべきこと』だと考えています。先んじてプラットフォームを作っておくことで、先行者利益も確保できるのは当然です。しかし、それ以上に市場を大きくするには、僕たちみたいなプレーヤーがいないといけません」

現時点でVRコンテンツの大きなカテゴリはゲームと動画の2つだと言われている。ゲームではバイオレンスや性表現といった、現実世界での禁忌をリアルに表現する。日本は海外に比べて、バイオレンスのレギュレーションは厳しいが、性表現については逆だという。また、動画でVRと相性がいいジャンルはスポーツだ。国際的なスポーツ大会の配信に関してもVRが注目されている。

「例えばNBAでは最前列の観客席を『プラチナチケット』と呼び、何十万円という金額が設定されています。試合内容によっては桁が変わることもあります。たった数人にのみ許された、極上の体験かもしれません。ですが、その観客席にVRのカメラを置き、その席からの観戦を『拡張』すれば、何人でも視聴できます。それこそVRの価値です。平面の画像であるテレビよりも圧倒的に臨場感があるのでスポーツと相性がいいですし、トレンドにも乗っています」

待ち遠しい技術もある。例えば、ボールの両サイドにVRのカメラを仕込み、映像をつなぎ合わせると360度全部を見られるようになるという。ボールを投げると回転によって本来カメラはブレるが、画像修正をかけることで真っすぐ飛んでいるように見えるのだ。2020年までには、サッカーやラグビーの「ボール目線」で試合を観戦する、という全く新しい体験ができるようになるかもしれない。

スポーツ動画について、VRizeはすでに手を打っている。スポーツテレビ局J SPORTSはオリジナルアプリ「J SPORTS VR」を4月末より提供開始している。その開発をVRizeが手掛けているのだ。J SPORTSはラグビーの放映権を持っており、2019年に日本で開かれるラグビーの国際大会に向けた取り組みが期待される。

VRで圧倒的なクオリティーの広告表現

VRizeは、VRを稼げるコンテンツにするべく、広告配信ビジネスにも着手している。「スマートフォンアプリのマネタイズ手法には課金と広告があり、売上比率はだいたい1対1、つまり課金と広告が同程度です。一方VRでは、僕は課金が5、広告が1くらいになると予想しています。非常に没入感のある映像なので、時間と場所が制限されるため課金のほうが売り上げは高くなるでしょう。とはいえ、1と考える広告のほうの市場も決して小さくはありませんし、ここを広げられれば、個人のデベロッパーが増え、VR市場の成長もさらに加速できるはずと考えています」

VRの広告の価値は、クリエーティブのクオリティーが圧倒的に高くなるということだ。スマートフォンの場合、画面上に突然ポップアップ画面が現われて、ユーザーの操作を妨げるといった広告も見受けられるなど、ユーザーフレンドリーでない広告、つまりクオリティーの低い広告も確かに存在している。中村氏は「VRの広告市場は、国内で僕らが初めて取り組んでいます。ああした過ちはなるべく起こさないようにしたい」と語る。

広告事業を手掛けてきた経験もある中村氏は、広告の価値は主にリーチ、コンバージョン、ブランディングと考える。VRはスマートフォンと比べ、普及台数が違いすぎることからリーチを取ることは難しいが、リッチな表現ができるためコンバージョン、ブランディングは実現する。例えばCMで目の前に車が現われて停車し、ドアが開いて内装を見ることができる、インテリアや家具のサイズ感が体感できる、といったことも実現できる。「実際に足を運ばなくても、VRによってよりリアルに近い体験が可能になります。広告は体験をさせるのが良いと思っているので、それでコンバージョンが一気に上がると思います」

盤石な地位を確立したスマホの座を狙う、VRの可能性を信じて

VRが広く普及するために必要なもの。それは「省スペース化」だと中村氏は断言する。現在のヘッドマウントディスプレーは、持ち運びに少々不便だ。これが「メガネくらいの大きさになり、手軽に持ち運べるようになって初めて潮目が変わるでしょう」という。

「それだけ完成度の高いプロダクトができれば、VRに限らず、AR(拡張現実)、そしてMR(複合現実)も一気に浸透するでしょう。社名にこそVRという言葉は入っていますが、ARもMRも地続きだと考えていますし、全フォーマットで対応できるものを開発していきたいと思っています」

当然、そこには大きなチャレンジが伴う。ガラケーからスマートフォンへの変化は劇的ではあったものの、革新的ではないというのが中村氏の考え方だ。その根底にあるのは、ユーザーとのコミュニケーションをどのようにとるか、があるという。VRコンテンツも、いわゆる明確な完成形は存在しておらず、どのようなコミュニケーションのとり方が最適なのかを市場全体で模索している段階だ。さらにVRコンテンツを提供するのがメガネ型などになった場合、音声認識による操作が一般的になるだろう。これもやはり、どのような操作方法が最適なのか、明確な解は出ていない。

「正直、VR市場はまだわからないことだらけ。それを楽しめる人でないと厳しいですね。逆に楽しめる方にはこれ以上ない市場だと思います」と中村氏は笑う。未来の「ARのある生活」で、中村氏はコミュニケーションの形が劇的に変わると予測する。テレビ電話やPCに表示される平面的な画像によるコミュニケーションには、相手を隣に感じられるまでの臨場感はない。しかし、VRの場合、リアルな感覚で「そこにいる感覚」が得られるかもしれない。

「体験をしながら、横にチャットが並列されるといったことも可能で、バーチャルの方が豊かな表現でコミュニケーションができるかもしれません。会ったことがない人とバーチャル上でデートをするなど、コミュニケーションの部分が一番面白くなるはずです」

当然、ビジネスとしての用途も大きく広がると見ている。特に医療や教育との親和性が高い。絶対に3Dのほうが便利なのに、これまでは平面で表現せざるを得なかったものは多くあった、と中村氏は指摘する。

「例えばCTスキャンもその1つ。CTスキャンで体の内部を輪切り表示にされても、どうしてもピンときません。ですが、自分の体のホログラムが現われて、ここが患部ですと示されたら、患者にとっても分かりやすくなりますし、病気の発見率も高められるでしょう。他にも、学校教育などとも相性は抜群です。『ビッグバンをVRで見てみましょう』『明治時代の街並みをVRで体験してみましょう』というようなことができるはずです。そんな未来のために今、VR市場を盛り上げていきたいのです」

冒頭にも述べたとおり、まだまだVRはマネタイズが難しい市場だ。しかし、上記のような未来が実現できるまでに市場が成熟すれば、新たな有名企業、そしてスタープレーヤーが登場するに違いない。

「例えば、スマートフォンやソーシャルゲームに精通したトッププレーヤーは数千万円という年収を稼いでいるのが当然です。VRも近い将来、同じような状況が出てくると思いますし、その際にトッププレーヤーでいるための条件は、早くからVRに携わっていることが大前提。数年後の市場価値を獲得するために、今からVRでキャリアを築いておくことは決して損にならないと思いますし、VRはスマートフォンの座を奪えるはずだと信じられる方にこそ、ぜひチャレンジしてほしいですね。当社はもちろんですし、このVR業界全体がそうした人材を求めています。今がその過渡期にあると感じています」

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