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VR/ARの未来

先端技術の面白さを一点突破で伝える大阪発スタートアップが考える、世の中に受け入れられるテクノロジーのあり方

トンガルマン株式会社

先日、現実空間にさまざまなものを投影するAR/MR(Mixed Reality)の先駆者として注目されるMagic Leap社が、ヘッドセットのデザインとシステムを発表し、話題を呼んでいる。こうしたテクノロジーの多くは先進的なガジェットに興味関心が高い、いわゆるアーリーアダプターから利用が広がり、一般化していくとされる。ドローンやスマートスピーカーといった近年登場したガジェットも、同じ流れのなかにあると言ってよいだろう。

ただ、新しいテクノロジーやガジェットを、情報感度の高い人だけのものにとどまらせたくないという思いを強く抱く人も存在している。トンガルマン株式会社の水野博之代表取締役もその一人だ。

「実はいわゆるご年配の方々にこそ、最先端テクノロジーは楽しんでもらえるものじゃないのか。そんなふうに考えさせられる現場も数多く見てきました」と語る水野氏は、社名の通り「とんがった」アプリケーションやデバイスを生み出し続けるアイデア集団をけん引。数々のユニークなコンテンツを世に発信してきた人物だ。大阪に本社を構え、世の中になかった新しさをテクノロジーに載せる。独自路線での挑戦を続けるトンガルマンの話を聞いた。

システムまわりの経験はゼロ。「誰かを楽しませたい」が起点になった今のキャリア

水野氏は企業ブランディングやマーケティングを得意とするWeb制作会社、株式会社ジーピーオンラインに入社後、「Web制作以外の新しいことに挑戦したい」と自ら声をあげ、スマートフォンアプリを手がける新規事業部を立ち上げた。大手広告代理店と共同開発したアプリがApp Store総合1位を獲得するなど実績をあげ、1年強でアプリ開発部門を分離・独立。そうして生まれたのがトンガルマンだ。しかし、意外なことに「システムやデジタルは、ジーピーオンラインに入社するまでは完全に門外漢でした」と水野氏は笑う。

「1社目では紡績会社の購買部に所属していました。他にも広告代理店を友人と創業したり、人材企業に勤めたりしましたが、デジタルまわりは完全にジーピーオンラインが初めて。ただ、小さなころからゲームはたくさんやっていて、コンテンツづくりには興味がありました。それと、昔はストリートダンスをやっていて、『誰かを楽しませる』という点では、この時の経験も今に生きていると感じます」

水野氏がそう口にする通り、彼の発想は、一貫して「誰かを楽しませる」に集中している。そしてスマートフォンが本格的に浸透、アプリ市場が急拡大していた2012年、トンガルマンを設立。「アプリという単語を社名に入れる企業が多くありましたが、自分たちはアプリだけをコアにするのではなく、とにかくとんがったものをやりたい、という意志から社名を決めました」と振り返る。

ちなみに、水野氏はCTOの肩書も持つが、一般的な「チーフテクニカルオフィサー」ではなく、「チーフトンガルオフィサー」だと自称している。情報過多の世の中において、人の心にメッセージを届ける一点突破を目指すトンガルマンは、あらゆる人にメッセージを伝えるべく、幅広い技術領域をカバー。スマートフォンアプリにVR/ARコンテンツ、マイクロソフトKinectやLeap Motionといった赤外線モーションセンサー対応アプリ、O2O(Online to Offline)施策などで多用されるiBeacon、さらにはIoTや人工知能などの研究・開発にも取り組んでいるという。

「社内でも新しいテクノロジーに触れる機会は意識して作るようにしています。業務時間のうち、約20%は自分たちの技術研究・開発にあてていて『VRのホラーゲームを作りたい』とか『メディアアートに挑戦してみたい』とか、そういう挑戦を後押しするようにしています」

聞けば、もともとバーテンダーだったエンジニアや、3Dモデリングの講師経験者など、経歴だけ聞いてもユニークなメンバーがそろっているというトンガルマン。「一筋縄じゃいかないメンバーばかりで、彼らにしか作れない、考えつかない何かがあるはずだと思っています。組織では比較的ネガティブに捉えられがちな『属人的』という言葉も、僕からするとすごくポジティブなものですよ」

トンガルマンのプロダクトは、リアルとデジタルが融合しているものが数多い。それも、圧倒的にユーザーフレンドリーを追求しているものばかりだ。VRHMD(VRヘッドマウントディスプレー)と測域センサー、サーキュレーターを組み合わせ、4D的感覚を味わいながら仮想空間を散歩できるイベントコンテンツなどを手掛けてみたり、自転車型トレーニング器具を改造した通称「ヴァーチャリ」にVRHMDをかけ合わせて中世ヨーロッパの世界を自由にサイクリングできるようにしたり。「新しい技術を分かる人だけのものにするのはもったいない」と水野氏は言う。

「年配の方も楽しめるテクノロジー」が生む社会貢献。テクノロジーの敷居を下げることを追求する

トンガルマンが世界ゆるスポーツ協会と共同開発した「ゆるスポーツ」は、その象徴的なモデルケースだ。世界ゆるスポーツ協会が企画・運営を担い、トンガルマンが具現化した競技たちはユニークなものばかりだ。こたつの上でエアホッケーを行う「こたつホッケー」、風船を天井に投げて的に当て、点数と花火の大きさを競う「打ち投げ花火」、そして声を認識してその声量で土俵を揺らし、トントン相撲を行う「トントンボイス相撲」など、年配の方に楽しんでもらえることを意識したスポーツ競技たちが生まれた。

「例えば『こたつホッケー』はプロジェクターで投影されたみかんがパックで、手につかんだ湯飲みをマレット代わりにしてホッケーを行えるようにしたものです。座ったままプレーできるので、腕を動かすことでリハビリ運動につながり、新しいコミュニケーションツールとして機能するように仕掛けています」

これらの競技を持ち込んだのは、とある老人ホームだったが、想像以上に好評で作り手側が逆に驚かされたという。老人ホームに入居している方々はゲートボールなどのレクリエーションにも真剣に取り組み、時にはちょっとしたけんかになることもあり、ある種熱くなりやすい側面もあるという。「だからこそ、身体能力で差がつかないように偶然性を加えていましたが、皆さん大いに喜んでくれたようでした」

プロジェクターで投影した夜空に風船を投げ上げ、点数を競う「打ち投げ花火」も、腕や頭を上下させることで運動不足の解消につながるものだ。「トントンボイス相撲」は、声を出すことで土俵全体が揺れるトントン相撲を再現し、普段、あまり大きな声を出さない人の発声運動を促すプロダクトに仕上がっている。観客用のマイクも設置し、観戦中の声も土俵を震わせるという、プレーヤー以外も楽しめる仕組みを取り入れた。

世界ゆるスポーツ協会が企画した種目たちはどれも年配の方々が楽しめる素朴なコンテンツのようにも見えるが、その裏側にはリハビリや認知症の発症・進行を予防するといった思惑が隠されており、極めて社会性の高い取り組みだ。トンガルマンはこうした企画をただ形に落とし込むだけでなく、極めて高い次元でユーザーフレンドリーを実現している。

「どうしても先進的なテクノロジーというのは、初心者お断り感が出てしまいがちで、むしろそれ自体が『革新的だから仕方ない』と好意的に解釈されている感じもあります。しかし、ARやVRといった体験型のコンテンツやロボット、ドローンなどのテクノロジーが本当の意味で広く浸透するには、年配の方が初めて触れた瞬間から使い方を理解し、楽しめるようにすることが大切だと感じています。そして、それはデジタル上だけの話ではありません。例えばHMDを装着してプレーするコンテンツを提供する際には、手荷物を置けるかごを用意しておくといったことも、大切なユーザビリティだと考えています」

技術の進歩は目覚ましく、多くのプロダクトやサービスが生まれては消えていくなかで、本当に人々から必要とされ、日々の生活に浸透していくものはごく一部にすぎない。そうした状況のなかで、真剣にユーザーにとって優しいサービスとは何なのかを追求しているトンガルマンの思想は、多くの気付きを与えてくれる存在なのかもしれない。

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