探そう、まだ見ぬ未来を。

VR/ARの未来

2016年は本当に「VR元年」だったのか? VR業界のキーマンが振り返ってみた

BizReach Frontier編集部レポート

2016年、VRに対する注目度は過去最高に高まった1年間であったことは間違いない。

2016年3月末の「Oculus Rift」発売を皮切りに、「HTC Vive」や「PlayStation VR」といったハイエンドVRHMD(ヘッドマウントディスプレイ)が立て続けに発売。これらに加えて、ダンボール製のゴーグルとスマートフォンを組み合わせて、気軽にVRを楽しめる「ハコスコ」などの製品も登場するなど、ハードウェアの裾野が一気に広がった1年だと言えるだろう。

一方で、「VR元年」という言葉に対して、疑問符がつくという声もあるのも事実だ。VRコンテンツの特性として「実際に体験してみないと分からない」という部分が大きいものの、今もVRを経験したことがないという人もかなり多いのが実態として存在する。いわゆるアーリーアダプター界隈で流行っているものを「元年」と本当に言い切っても良いものか、というのはVR業界に身を置く人間にとっても大きな関心ごとの1つだ。

そうした思いを1つにするイベントが2017年1月、VR専門メディア「VR Inside」主催で開催された。VR業界のキーマンを集めた本イベントで語られたVR市場の実情と可能性、そして今からVRの世界でキャリアを築く面白さなどをまとめて紹介する。

安易な挑戦者がふるい落とされた1年に

日本におけるVRの第一人者ともいわれる株式会社桜花一門の高橋建滋(けんじ)氏は、VRコンテンツを手がける事業者がふるいにかけられた1年だったと述べる。

「資金力、技術力、なりふり構わない覚悟……このうち、どれか1つでも尖ったものがない企業は、ことごとくVR市場から撤退していきましたね。『VRはお金になりそう』と安易に飛びついた人たちは散り散りになってしまった印象です」

VR市場はまだまだ未成熟の市場である一方で、数年内に爆発的に市場が広がっていくことは確実視されている。各社によって予測値こそ異なるが、2020年までに全世界で数兆円単位にのぼるという予測が大勢を占めており、VR/AR合算で10兆円を超えるという試算もある。

一方で2016年、日本国内で1億円以上の資金調達を実施した企業数は180社ほど。そのうち、VR関連の企業は6社。アメリカなどと比較すると数も金額も寂しい印象は否めないものの、そもそもVRHMDなどのデバイスが出回っておらず、採算を見込めることすら難しい市場に対してこれだけの金額が動いている事そのものが期待度の現れであり、一種のバブルのようにも感じられる。

事実、2016年5月に1.5億円の資金調達を実施した株式会社ダズルの山田泰央(やすてる)氏(※写真上)も「VR領域だけで単月黒字化を達成できるまで、まだ時間はかかりそうです」という。

「ダズルは元々スマートフォンゲームの受託開発から始まった会社なので、それが地盤となっています。今の時点で、既にVR領域で儲かっている人なんて、そんなにいないんじゃないのかな。海外に目を向ければ、オンラインゲーム配信プラットフォーム『Steam』でマーケットTOPにもなれば、億単位の売上が見込めるでしょうが、今はまだまだ。最初から北米や世界を意識したコンテンツづくりをしないと、相当厳しいでしょうね」

ビジネスモデルそのものは、スマートフォン向けゲームらと変わらないものの、一人一台が当たり前となりつつあるスマートフォンとVR機器と比較すると、やはりまだ市場そのものが形成されていないというのがVRの現在位置なのだ。

ユーザーと直接の接点が持てる「リアル」に注目が高まる

一方で、VRが持つポテンシャルを存分に発揮している事例も続々と出始めている。VRだからこそ体験できる「没入感」をリアルに楽しめるスペースの登場だ。その先駆けとも言える、渋谷初のVR体験型アミューズメントパーク「VR SPACE」には、新しい製品やガジェット好きな若い層だけでなく、老若男女問わず、幅広い年代の方が訪れてくるという。そう話すのはVR SPACE Executive Producer & Co-Founderの二宮明仁氏(写真)だ。

「IT業界やゲーム好き以外の方も数多く来られます。おかげさまで色々なメディアにも取り上げていただきましたが、特に印象的だったのが、『ラジオで聞いて面白そうだったから』と来られたシニア層の方ですね。一通り体験した後は『すごく面白かったから、今度は息子を連れてきます』と仰ってくれて。来場者に満足度アンケートをとっていますが、10点満点中9点以上をマークし続けていて、満足度は非常に高いと自負しています。週末になればお客様でいっぱいになりますが、平日はまだまだ。週末にブースを出せる場所を探したり、東京以外のエリアに進出したりといったことも含めて動き出しています」

桜花一門の高橋氏も、こうしたリアルな体験をいかに広げられるかが、VR市場の早期成熟に役立つという考えを口にする。

「映画館で観て感動した作品を、DVDやブルーレイで購入するという層は一定数いますよね。そうした初期体験も何もなく、最初からVRHMDを購入する人は珍しいギークかもしれませんが、一瞬の驚きや感動体験は永続的な思い出として残り続けるものですし、多くの人達が体験するものです。それを確かめるために手元に商品を置いておきたいという方はいるので、まずは取っ掛かりとしてVR SPACEのような空間は非常に意義ある存在だな、と思っています」

その上で、と続けて高橋氏が語るのは、3Dテレビの存在だ。2012年のロンドンオリンピック前に大きな賑わいを見せた3Dテレビ(3D放送)も、現在ではほとんど目にする機会がなくなっている。2017年1月には、最後まで3Dテレビを製造していたLGとSONYが3Dテレビ製造を終了することを発表した。

「3Dテレビが普及せずに失速したのは、『3Dテレビならでは』がなかったことではないでしょうか。世界中で大ヒットした映画『AVATAR』は、3Dメガネをかけることでより迫力ある、ダイナミックな映像を実現したものの、3Dメガネを装着せずとも美しい映像は見られてしまう。『3Dだけ』のコンテンツをスタンダードに持ち込めなかったことが敗因でしょう。その点、VRには圧倒的な没入感という武器があります。これは『VRだけ』の強みであり、これをいかに広く、多くの人達に届けられるかが重要になってくるでしょう」

Windows95の爆発的ヒットのように、歴史は繰り返す

「VRだけ」とはいうものの、どういったものがキラーコンテンツになりえるのかは、今まさにコンテンツパブリッシャーが試行錯誤を続けている課題だ。どれだけ表現技法に優れているとしても、コンテンツの質が良くなければ市場から評価されることはありえない。

「どれだけ精巧に浅草の街並みを再現したところで、首都圏内の人たちからすると『ちょっと交通費を出せば本物の浅草に行けるから』と思われるでしょう。ただし、海外在住の日本文化に興味が強い人たちからはものすごい反響が得られるかもしれない。いずれにせよ、VRコンテンツは言語を必要としない、ノンバーバルなコミュニケーションツールだからこそ、ただ精巧に作るだけでなく、最初から海外を意識したコンテンツづくりが必要です」と語るのは、ダズルの山田氏。

いかに非現実的な体験を創出できるか。それがVRコンテンツの肝だとすれば、VRブームの火付け役となったジェットコースター系のコンテンツや、圧倒的な臨場感を演出するホラーゲームなどは、リアルにはない「VRならでは」につながるはずだと期待が寄せられている。

そして、VR技術をビジネスシーンで活用するといった動きも、着実に増加中だ。BizReach Frontierでこれまでに、BtoB向けに特化したVR制作ソフトウェア「SYMMETRY」を開発しているDVERSE Inc.や、最先端の光学領域VRに挑むOPTIS Japan株式会社などを取り上げてきた。ハイエンドなVRHMDはどうしても高価になりがちで、一般人の手には渡りにくい側面があるものの、ビジネスにおいても有用だと判断されれば、多少高額でも設備投資の一環として活用されるケースは多くなる。そうしたビジネスユースからVRがどんどん広がっていくのでは、という見方も存在する。VRを「装着する」という感覚が一般的なものになれば、2017年は一気にVRが広がる可能性も十分に秘めているだろう。VRの普及ペースについて、「Windows95と比較すると分かりやすい」というのが、桜花一門の高橋氏の言葉だ。

「Windows95が爆発的なヒットを記録した背景には、いくつかの積み重ねがありました。それこそコンピュータを扱っていると物珍しく見られている時代もあって、BASICを触っていた僕なんて珍獣扱いだった(笑)でも、ファミコンが登場してコンピュータに対するイメージがガラリと変わり、DOS/Vパソコンの価格破壊があり、圧倒的な可能性を感じさせるパソコン通信の存在があって、Windows95の爆発的普及につながったわけです。ポケットパソコンと呼ばれる、パソコンの元祖が1980年に発売されたのを考えれば、約15年の開きがあった。VRはまだまだ触っている人が物珍しい代物ですが、数年後にはどうなっているか見守っていこうじゃないですか」

歴史は繰り返す。VRという新しいコンテンツは、まだ発展途上の、最序盤にいると言っても良いだろう。それでもなお、あの没入感を体験した人間としては大いに期待したくなるのは間違いない。あとはどれだけ市場にインパクトを与えるキラーコンテンツを生み出せるかどうかだ。多くのハードウェアが市場に投入され、多くの人達がVRの秘めた可能性を認知し始めた。そういう意味では2016年は、VRの未来を感じさせる「VR元年」といっても差し支えないのかもしれない。

VR業界でキャリアを築くために必要な要素とは

前述の通り、VRに対する市場、そして投資家からの期待値は非常に高い。一方で、VRに精通したエンジニアやデザイナーはごく少数であり、その事を開発者側も理解していることから、比較的間口は広いと言える(もちろん、Unityをはじめとする各種言語や開発環境への慣れは必要だが)

これが3年後、5年後となれば「VR経験者優遇」といった文言も目立つはずだが、現時点ではVR未経験者も積極的に採用しようという動きが活発だ。なかでも資金調達を実施した企業の多くは人員採用に注力しているケースが多い。

VR業界が他の業界と異なるユニークな点を挙げるとするならば、市場の大多数が未開拓、いわゆるブルーオーシャンだという点に尽きるだろう。良くも悪くも勝ち筋が見えていない中で、大手企業からスタートアップ、そしてVR領域外の会社(WEB制作会社など)などが参入し、独自のアイデアと切り口で市場を作ろうとしている。

その多くが「型にはまらない」ビジネスモデルであり、社風についても同様に「型にはまらない」企業が多いように見られる。勤務時間が柔軟に設定でき、ユニークな福利厚生を設けている企業も珍しくない、GoogleやFacebookといったシリコンバレースタイルの会社作りを目指しているところが多いのも特徴的だ。

何より多くの企業を見ていて感じるのは、未来しかないプロダクトに携わるワクワク感を、多くの人達が感じながら日々働いている、という点に尽きる。まさに日進月歩のスピードで進化し続けており、毎日新しいニュースが届けられる環境であるため、特に刺激と話題に事欠かない業界だといえる。

もしVRの歴史もまた、Windows95の再現のように繰り返すものだとすれば、このタイミングで挑戦の第一歩を踏み出しておくことは、キャリアの選択肢としては非常に意義あるものになるだろう。

取材・文:大城達矢(編集部)
写真提供:株式会社ダズル 川上紗耶

(記事掲載:2017年2月17日)

LATEST POST