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VR/ARの未来

まだ存在しないVRプラットフォームを制し、世界で勝つ

ナーブ株式会社

VRの国内市場は2021年度には1,700億円になるとの予測もあり、様々な業界から注目が集まっている。とはいえ今のところ、VRが盛り上がっているのはゲームやアミューズメント施設など、エンターテインメント分野が中心だ。

そのような状況のなか、いち早く法人向けのクラウド型VRプラットフォームの提供を始め、急成長を遂げているスタートアップがナーブ株式会社だ。代表取締役CEOの多田英起氏は長年、IT受託開発に携わった後、SI会社の社内事業としてVR事業を立ち上げた。それをスピンアウトさせ、2015年10月にナーブを創業。翌年5月にはジャフコ等からの第三者割当増資による2億5,000万円もの資金調達に成功。日本最大級のVRプラットフォーム提供企業として、今後の躍進が期待されている。

VRはお客様の課題を解決するための手段

「今はVRがブームとなり、参入する企業も増えています。ただそれだけに、サービスや製品は玉石混交といった状態です。なかにはお客様不在で、VR自体が目的になってしまっているように感じるものもあります。我々にとってVRは手段です。VRはあくまで、お客様の課題を解決するためのツールだと考えています」と、多田氏は語る。

例えば今、急速に導入が広がっている同社の「VR内見™」は、不動産会社の営業活動を飛躍的に効率化し、コストを削減するための接客サービスだ。自社開発したVR閲覧デバイス「CREWL(クルール)」で顧客が見ている物件のVR映像を、営業マンもともに見ながら、実際に現場にいるかのように物件を案内できる。店舗にいながら遠方の沢山の物件を紹介でき、実際に現地まで出かけて行う内見の数を大幅に絞り込むことができるのだ。

また、CREWLは、従来のヘッドマウントディスプレイと異なり、VR以外でも活用が可能だ。普段はデジタルサイネージとして店頭に置くことができ、くるっと回して裏返すとVR端末となる。この仕組みは国際特許も申請している。こうしたアイデアの根底にあるのは物件を探しにやってくるユーザー属性への配慮だ。

「通常のVRデバイスは家庭用で、没入感を高めるためにバンドなどでがっちり固定します。でも「VR内見™」をご利用いただくお客様は、なにもVRそのものを楽しみたいわけではありません。女性が利用しても、髪型が崩れにくく、化粧がついたりしないように、との配慮もしました」

「VR内見™」は、物件を探している人にとってもメリットが大きい。物件探しの時間を短縮でき、沢山の物件を見ることができるので希望の物件に出会えるチャンスも増える。そのため「VR内見™」を集客ツールとして活用する不動産会社も多い。とりわけ三菱地所や京王不動産、東急リバブルといった大手不動産会社が積極的に採用し、すでに導入店舗は500店以上。2017年内には1,000店、さらに翌年には5,000店に出荷する予定だという。

一方、高機能ではあるが、「VR内見™」の利用料は月額1万8,000円からと低コストに抑えている。まだ他社にない独自技術だけに、本来であればその5倍以上の価格での提供も可能だった。しかし、あえてこのサービスがデファクトになったときの金額で最初から提供しているという。一気に利用数を増やし、先行者利益を獲得することもナーブの明確な戦略として仕上がっている。

何でも事前に体験し、納得して買える社会へ

「『VR内見™』の良い点は、天気の悪い日や夕方などでも、昼間の明るい室内を確認できることです。また中古住宅を売る際の内覧会は、部屋を掃除し、購入希望者とのスケジュールを合わせるなど、何かと面倒なものです。でも『VR内見™』なら一度、物件を撮影してしまえば、後はその映像を見せるだけ。物件を売る際の手間や負担がうんと減ります」

最近は中古マンションを売る際に、家具などを置いてより魅力的に見せるホームステージングが流行っている。ナーブでは、このホームステージングをVRで可能にするシステムも開発。このサービスを利用すれば、家具の購入費用や搬入・搬出の手間やコストも大きく抑えることができる。

「家のような高価なものを買うなら、誰だって実際に家具を置いて、どのような雰囲気になるのか、住み心地を体験したうえで購入したいはずです。でも今までは現実的にそこまではできず、それが当たり前だと多くの人は思っていました。でも私どもは、VRを使うことによって、今までの当たり前、常識を覆したい。どんなものも事前に体験をし、納得したうえで購入する。買い物のスタイルを、そのようなものに変えたいのです」

今、ITと不動産ビジネスを融合させた不動産テックの動きも始まっている。今年の10月からは法改正により、不動産契約の際に必要な重要事項説明がオンラインでできるようになる。ナーブでは不動産テクノロジー企業「いい生活」と業務提携し、VRによる内覧とIT重要事項説明をセットで提供する予定だ。

さらに不動産業界に続いて、ナーブがVRプラットフォームの展開を進めているのが旅行業界だ。すでに沖縄のオリックスレンタカー11拠点にて、体験型観光を疑似体験できる「VRトラベル」を展開。窓口での手続きの合間に、現在地から訪問できるアクティビティを現実に近いかたちで体感できる。今後はエリアを拡大するとともに、空港やホテルなどへの設置も進めていくという。

「旅行も、これからは事前にどのような体験ができるかをVRで比較してから出かける時代になるでしょう。例えば超高級ホテルに泊まるか、それともワンランク落としたホテルのセミスイートにするか、VRで疑似宿泊体験をしてから決める。また沖縄に出かけるとき、北側と南側のビーチではどちらがいいか、その雰囲気をVRで体験したうえで決める。そのようなことも、これからは可能になります」

さらに今後、VRプラットフォーム上に様々な企業に仮想出店してもらい、遠隔接客ができる「どこでもストア™」という無人店舗の設置を進めていく。その第一号店を、7月にイオンの品川シーサイド店に出店した。

「私どもはリアルな場所の価値はとても大きなものがあると考えています。しかし例えば銀座や丸の内のような地価の高い場所に出店するのはコストもかかって大変です。でも『どこでもストア™』なら、そのような場所にも従来では考えられない低価格で出店することが可能になります。今後、すべての駅に『どこでもストア™』を設置することができれば、駅の利用法も変わり、その付加価値も飛躍的に高まるでしょう」

目指すはコト売り業界のアマゾン

社会が成熟した今、ビジネスの中心はモノ売りからコト売りへと移行し始めている。価格やスペックが重要なモノ売りの世界に対して、コト売りの世界では感覚が決め手となる。VRによる体験がますます重要になってくるわけだ。多田氏の目標は「ナーブをコト売り業界のアマゾンにすること」だという。受託開発の依頼はすべて断り、プラットフォーマーであることにこだわり続けているのもそのためだ。そこには長年、日本のIT業界でエンジニアとして働いてきた多田氏ならではの想いもある。

「日本のITエンジニアは、iPhoneが出たとき、自分たちのほうが技術的には絶対に勝っていると思ったはずです。事実、当時のiPhoneアプリはとてもお粗末でした。テキストのコピー&ペーストもできず、AppleStoreもない。地図アプリもありませんでした。日本のフィーチャーホンのほうが技術的には圧倒的に先を行っていました。それが今となってはどうか。それは皆さんご存知のとおりです。また、クラウドやネットワーク技術も日本は非常に優れていました。それなのに気がつけばAmazon Web Servicesの一人勝ちになっている。我々はこれらの敗北から、ビジネスにおいてプラットフォームを制することがいかに重要かを学びました。また単に技術を追求して仕事をしている者と、世界を変えようとの大きなミッションで仕事に取り組んでいる者との違いも思い知らされました」

多田氏はVRに出会ったとき、まさにインターネット黎明期に近い雰囲気を感じたという。そこに大きな可能性があるのは分かるが、実際にどのように活用すればいいのか、誰も分かっていなかった。そのような状況のなか、ナーブは大きな志を掲げ、技術を磨き、いち早くプラットフォーマーとしての地位を確立した。今、それが大きくスケールする段階に入っている。

「今度こそ我々は世界で勝てるし、負けるわけにはいかない。自分たちの技術で世界を変える。未だに圧倒的勝者が存在しないVR領域であれば、我々は世界に打って出ることができる。本気でそう信じています」

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