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VR/ARの未来

VR×サブカルチャーから生まれる、真のクールジャパン

MyDearest株式会社

超劇場型のエンターテインメントで世界を席巻する

日本のお家芸だった「ノベルゲーム」が世界中で流行し始めている。全世界で1億人以上のユーザーを抱え、パソコン向けゲームやソフトウェアのオンラインプラットフォーム最大手である「Steam」では、2014年から「ビジュアルノベル」というカテゴリが創設され、日本発のノベルゲームがさまざまな言語にローカライズされて発売されている他、アメリカを中心とした海外発のノベルゲームが発売されている。日本のビジュアルノベルが原作のテレビアニメがきっかけとなり、海外でたい焼きがブーム になっているという話題を耳にしたことがある人もいるかもしれない。

そして、最近のゲーム界隈(かいわい)を語る上でもう一つ外せないのがVRだ。前述のSteamではVR関連のコンテンツも続々と新作がリリースされており、やはりこれも世界中でにぎわいを見せている。

VRが実現可能にした、これまでの映像機器とは一線を画する圧倒的なまでの没入感。これはゲームのみならず、エンターテインメントやビジネスにおける新たな可能性を切り開くものとして期待されている一方、「VRをどのように扱うべきか」に明確な答えをどこも見いだせていないのが現状だ。将来的には市場規模10兆円を超えるとも見られているVRだが、大手メーカーからスタートアップまでその扱い方は手探り状態が続いている。

ビジュアルノベルとVR。いずれも高いポテンシャルを感じさせるものでありながら、世界中を席巻したあの「ポケモンGO」のような爆発的なヒット作には恵まれていない。事実、「VRはユーザーが期待するほどのインパクトを残せるとは思えない」といった指摘の声も一部あがってきている。しかし、それに異を唱えるのがMyDearest株式会社の岸上健人代表だ。

「大いに盛り上がっているこの二つを掛け合わせた最初の成功例を作れるのは、日本人以外に考えられません。そして、その一番手になりたいというのが、僕たちの野望です。超劇場型のエンターテインメント体験を作り、VRの可能性を一気に広めることを目指しています」

空想の世界を現実に変えたVR技術

岸上氏は慶應義塾大学を卒業後、ソフトバンク株式会社に入社。仕事上でVRに触れる機会はなかった。まして、自分がVRで起業することになるとは夢にも思っていなかったという。

「VRとの接点は学生時代です。学生寮で同じ部屋だった友人がVRについて熱心に研究している根っからのギークで、彼から話を聞きながら、ぼんやりと『いつかVRは来るだろう』とは思っていました。でも、本格的にはやりだすのは2020年くらいじゃないかと思っていたんです」

しかし、VRヘッドセットの先駆けであり、VRの知名度を飛躍的に高めたOculus Rift(オキュラスリフト)の登場が、岸上氏の考えを一変させることになる。あくまでフィクションだったアニメの世界が、いよいよ現実のものになるという確信めいた予感が、自他ともに認めるアニメオタクだった岸上氏の心をざわつかせた。

「僕が大好きなライトノベルであり、アニメ化もされた『ソードアート・オンライン(以下SAO)』という作品があるのですが、その世界観をVRで完全に再現できてしまうのはそう遠くない未来だとはっきり確信したんです。そして、これだけ可能性を感じるコンテンツを誰かに作ってもらうだけで終わるのはもったいないなと思い、ソフトバンクを退社しました」

「VR元年」という言葉も飛び交い始めたころ、その波に乗るようにして2016年4月にMyDearestを立ち上げる。自身も強く影響を受けたというSAOの世界観をリアルでも体験できるようなコンテンツを作り出すべく動き出したMyDearestだが、その中で生まれたキーワードが「FullDive Novel(フルダイブノベル)」だ。

「小説好きな方は、時に『小説の世界に“入る”瞬間がある』といったことを口にしますが、『FullDive Novel』はそれを強力にサポートする可能性があると感じています。小説が持つ世界観を第三者としてのぞき見るのではなく、その場の当事者、つまり主人公の視点で見ていくわけですから、当然それだけ世界に“入る”ことがやりやすくなる。将来的には視覚や聴覚だけでなく、ウエアラブル端末と組み合わせて緊張や興奮などの心理状態までハックできるようになることを目指しています。『FullDive Novel』は、小説の概念を再定義するものです」

主人公になりきるという感覚は、「ドラゴンクエスト」などのロールプレーイング・ゲームではよくあることだ。ゲームに登場する主人公はプレーヤーの分身として振る舞う。そもそもロールプレーイングという言葉が「役割(role)を演じる(playing)」という意味を持つものだと考えれば、「FullDive Novel」は小説やゲームの垣根を取り払う、新しいエンターテインメントの形となるかもしれない。

VR成功のカギは、いかにユーザーをだまし続けるか

圧倒的な没入感を実現するVRコンテンツで成功をおさめるためのカギは視線誘導にあるといわれている。360度、ありとあらゆる方向を自由に見ることができるVR世界の中で、作り手としてユーザーに見てほしい方向へ巧みに視線を誘導することが求められる。

「身近な例で言うとマジシャンの方々の動きはすごく参考になりますね。彼らの手の動きやしぐさ、その一つ一つがまさに視線誘導の塊みたいなものです。VRのことを知れば知るほど、人間の行動や感じ方、生態などが本当に興味深いものだと感じます。何をされたらうれしく感じて、どうすると不快なのかとか。人間を再発見し続けているような感覚ですね」

どんなに作り込まれた世界であっても、「これは現実じゃないんだ」とユーザーがひとたび感じてしまえば、それだけで没入感は半減してしまう。いかに虚構の世界を限りなく本物だと「だまし続ける」かがVRコンテンツにとって重要なのだという。そして「FullDive Novel」上でそうした視線誘導をごく自然に行うためには、強くユーザーを世界に引き込むストーリーテリングがカギを握るという。

「欧米のVRへの考え方は『もう一つの現実を作り出す』というものです。つまり私たちが住んでいるこの世界をいかに再現するかということに焦点を当てる傾向があります。しかし、それでは没入感を損ねる可能性が高いと考えています。現実を再現しようとすればするほど、VR上での些細な現実との違いが『やっぱりこの世界はウソなんだ』という感覚を引き起こしてしまうからです。対して日本製のVRコンテンツは、日本アニメ・ゲームに代表されるファンタジックな世界でモンスターを退治したり、かわいい女の子たちに囲まれたりと、最初から現実ではありえない設定が用意されていることが多いです。でも、それくらい現実感に乏しい世界の方が没頭しやすいという面があり、ストーリーテリングのやりやすさでは日本的なオタクっぽいコンテンツの方が間違いなく上だと思います」

海外のゲームユーザーにも、日本型オタクコンテンツのファンが非常に多いという。そして、世界中に存在するターゲットに向けて、MyDearestには、エンジニアだけでなく、キャラクターや世界観の根幹を担うグラフィックデザイナーなどが在籍している。さらに、前述した「SAO」や数々のライトノベル作品を大ヒットに導いてきた編集者、三木一馬氏を外部アドバイザーとして招聘(しょうへい)。強力な体制を構築できたことで、急ピッチで製作が進んでいる。2017年内にいくつかFullDive Novel作品をリリースし、一気に業界内での知名度を高めていきたいという。

世界に通用するVR世界の新たなアイコンを

VRという切り口から日本型オタクコンテンツを世界に発信することを目指しているMyDearestだが、その構想は既にVRから外れたところにまで及んでいる。

「僕たちが目指すのはパブリッシャー、つまり版元です。『FullDive Novel』から生まれたキャラクターや世界観がマンガやアニメ、グッズ化といった形で多角的に広がるメディアミックスを仕掛けていきたいと考えています。一番近しい例が初音ミクかもしれませんが、それを超えるものにしたい。目指すのはVR業界における少年ジャンプです。当然、日本だけにとどまるつもりはなく、最初から海外展開を見据えています」

マンガやアニメ、ゲームといったサブカルチャーは、かつて日本が圧倒的な強さを持つコンテンツだった。日本独自のサブカルチャーは人気を博し、今なお世界中のオタクたちを引きつけてやまない。しかし、岸上氏は「かつて日本のサブカルチャーは海外展開が下手だったと感じる」と言う。

「インターネットがこれだけ普及したことで、日本のゲームやアニメが好きな人は世界中で増え続けています。しかし、ローカライズの問題や市場規模の違いがあるとはいえ、かつて日本のサブカルチャーはほとんど国内にしか目を向けておらず、結果的に違法アップロードされた動画や海賊版の商品が横行しています。しかし、ファンの心理としては、手に入りやすいのであれば当然正規品を手に入れたいはずです。幸い、『Steam』などのプラットフォームが登場し、定着しつつある今だからこそ、僕たちのようなスタートアップにも世界で成功するチャンスが出てきています。世界に照準を合わせた日本のサブカルチャーを発信する。VRはそのためのツールであり、あくまでも起爆剤です」

中国では膨大な数の海賊版が流通しているとされるが、そのオタク人口は2億人近いともいわれている。もし彼らに対して魅力的なコンテンツを適切な形で提供できれば、作り手が享受できる利益も相当なものになるだろう。しかし、海外展開を前提にするとはいえ、岸上氏らは「あくまでも日本らしさで勝負する」と断言する。

「下手に海外ユーザーに迎合するつもりはありません。日本のサブカルチャーが世界中で評価されているのは、日本という国の中でガラパゴス的に独自の進化を続けてきた結果です。Oculusの創業者もSAOの大ファンですし、VR界隈にいる人たちの多くは、SAOがある種の共通言語になっているほどで、それだけ日本のサブカルチャーには強さがあります。その強みをVRに凝縮させて、世界中に届けること。海外のオタクたちに『やっぱり日本のオタクはクレイジーで、クールだ!』と思わせることこそ、MyDearestが目指すクールジャパンなんです」

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