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VR/ARの未来

破壊的なビジュアルSLAM技術で、目指すは「コンピュータ・ビジョン界のARM社」

Kudan株式会社

最先端のARとCV(コンピュータ・ビジョン)で世界を席巻

Kudan株式会社をご存じだろうか。スマートデバイスを活用したAR(拡張現実)/VR(仮想現実)用の開発エンジンを独自で開発・提供し、最新鋭のSLAM技術(Simultaneous Localization and Mapping:自己位置推定と周囲の地図作成を行う技術)を有するコンピュータ・ビジョン技術会社であり、欧米で既にあまたの先進企業と取引実績を重ねている。日本では、あまりなじみがないかもしれないが、世界的には広く知られる、日本人が作り上げた企業だ。

Kudanは、開発拠点こそ起業地の英国ブリストルにあるが、管理拠点は日本にある。「Kudan」と言っても「九段下」などで知られる地名からとられた社名ではない。その名の由来は、天変地異の前触れとされる半人半牛の妖怪「件(くだん)」。世界に対して、それほどまでの「破壊的な存在」になるとの意思表明であり、世界中どの言語圏においても可読性が高いことから命名に至ったという。なお、大野智弘代表取締役は英国に長らく在住し、ビジネスに携わっている。また、社員の出身国やバックグラウンドも実にさまざま。自他共に認める「無国籍企業」である。

同社のARエンジンが採用されているアプリケーションの一つに、スマートフォン上でフォード社のマスタングのCGを実物大で表示させるというものがある。好きな場所に実物大の車体が表示されるだけでなく、内装の細部までも表示される。ARを通じて、カタログだけでは分からない臨場感を実際に体感することができるのだ。

この実寸表示だけでも、従来のAR技術と一線を画すものであるが、さらにユニークなのは、マスタングを現実空間の特定の場所に固定して表示させられることだ。世界中を席巻したARアプリと言えば「ポケモンGO」が思い出されるが、あの中で登場するキャラクターたちは街並みの中に「浮いている」ように表示されている。一方、Kudanが提供するARは、すべてが「地に足をつけている」ものばかりで、近づいたり回り込んだりすることが可能だ。

床を床と認識し、壁を壁と認識する。スマートフォンというデバイスに、距離感や立体情報を正確に認識させることで、マスタングもきちんと床の上に影を落とした状態で表示される。ジュースの缶に対して、ARアプリを起動したスマートフォンをかざせば、その缶の周囲をぐるぐるとランナーが走り続ける。これは「缶」という物体を正確に認識し、「裏側に回り込む」という挙動を見せることで実現している。Kudanが提供するARは、今までのAR技術にはなかった、圧倒的なリアリティーを実現しつつある。

このような先進的なAR技術は、従来のゲームやマーケティングを超えて、リハビリシーンへの臨床例など、全く新しい活用方法への取り組みも始まっている。例えば、スイスの医療用VRスタートアップ企業のマインドメイズ社はKudanの技術を採用して脳血管障害患者のリハビリ用ヘッドセットを開発しており、ARの視覚情報に脳がだまされ、運動能力を取り戻す効果が認められているのだ。

「この先は、運動能力を標準以上にまで高めることも可能となるでしょう。メンタルトレーニングで、現実から理想へのギャップを克服しようとしているアスリートのトレーニングといった能力開発に、『視覚で脳をだますAR』が生かされる日も近いのではないでしょうか」

そう語るのは、Kudan株式会社の「諸葛亮」こと、項大雨戦略担当COOだ。

独立系の汎用技術は世界にKudanだけ。「見る」に注力した破壊的技術

AR技術というのは、何もない空間にあたかも架空の何かを「表示させる」技術だと思われがちだ。しかし、Kudanが注力しているのは「表示させる」ことではなく、物体や空間を正確に把握する、つまりは「見る」技術だという。同社の最新鋭のビジュアルSLAM技術では、2次元情報をリアルタイムで3次元情報に変換が可能。それで速やかに物体および空間認識を行えるのだが、同社の優位性は、スマートフォンに搭載のカメラでもそれが可能な点にある。

「従来、物体や空間を的確に認識するためには、一般的に2つ以上のレンズを持つステレオカメラや深度センサが必要でした。これは人間が2つの目で見ているのと同じ原理で、人間も片目を閉じた状態だと距離感がうまくつかめないですよね。しかし、KudanのビジュアルSLAM技術では単眼カメラで動きながら、仮に対象が動いていても、高度な処理で空間認識できるようにしています」

Microsoft社が発売したHololensは複数の高度なセンサと専用プロセッサを搭載して空間把握を実現したが、一台40万円以上と普及価格には程遠い。KudanのSLAM技術は普及レベルのスマートフォンで精緻なデータを取得でき、あらゆるソリューションに組み込める形で提供している。それによって幅広い応用と、大幅なコストダウンまで可能にしているが、驚くべきことにこの汎用的なソフトウエア技術を、独立的に研究開発・推進しているのは、世界でKudanのみという。

「2年前まで競合が2社ありましたが、いずれも誰もが知る大手IT企業に買収されました。AR、そしてコンピュータ・ビジョン領域で戦い続けているのは我々だけということになります。AR領域において『見る』技術を徹底的に追求している我々は、現在の市場からするとかなりニッチです。しかし、そこにこそ勝機があると見ています」

AIとIoTのつなぎ役として、「コンピュータ・ビジョン界のARM社」を目指す

究極の「見る」技術を手中に収めようとしているKudan。「見る」技術はそのままソリューションとすることは難しいかもしれないが、要素技術としての活用方法は無限にあるといってもよい。本格的なビッグデータ時代の到来とともに「見る」技術の重要性はますます大きくなっていくことが明確だからだ。

IoTによるセンシングは「見る」ソリューションの代表格であり、画像認識でも「見る」技術は不可欠だ。ドローンやロボット、そして自動運転にも当然「見る」技術は搭載される。あらゆる用途でKudanが培ってきた技術は利用できるのだ。

「20年ほど前に、誘拐ロボット問題という重要な提起が学術領域でありました。ロボットが、完全に未知の環境に連れてこられたら、果たして自身で周りを『見て』、位置情報の把握が行えるかというものです。それから、非常に高度なセンサやハードウエアに専用化されてSLAM技術は進化してきましたが、実用レベルに至っているものは未だ限定的です。Kudanの技術を組み込めば、より多くのロボットが自律的に動く未来が描けるでしょう。周囲の環境、状況を正確に把握することができれば、あたかも意志を持っているかのように振る舞えるはずです」

そんな同社が目指すのが、コンピュータの『目』となるIoTと、コンピュータの『脳』となるAIをつなぐ橋渡し役となることだ。すると、自律的に動くのはロボットにとどまらない。ネットワークを介してシステムが『視覚』を持つことで自律的に動くような社会が到来し、工場が丸ごと、街が丸ごと1つの統合されたシステムとして振る舞うのが究極の未来像だという。

「今は自動車にセンサが搭載された自動運転技術の開発が進められていますが、自動車だけでなく街のあらゆる場所や人にもカメラが備われば、相互的に情報をやり取りし、全てが1つの個体のように振る舞うようになるでしょう。渋滞は緩和され、自動車と街並みが相互に連携することで事故発生は抑制されます。あらゆる製品、あらゆるデバイスが相互に『見つめ合う』社会。我々としては、その『見る』を丸ごと獲得したいのです」

自分たちでは個別のデバイスやソリューションに手を出すことなく、コア技術への集中に徹しているのは、目先のビジネスではなく、数年後、数十年後を見つめているが故だ。「見る」技術を徹底的に追求することで汎用(はんよう)性を高め、先進的なアルゴリズムをAIやIoTスタートアップなどに提供、個別にカスタマイズするという経営方針を貫いている。項氏は月の半分をシリコンバレーで過ごし、気鋭のスタートアップなどとも関係構築を重ねているという。

「破壊的な部分に一点集中し、狙うのは『コンピュータ・ビジョン界のARM社』のポジションです」。ARM社は、イギリスのケンブリッジに本社を構え、2016年にはソフトバンクグループが3兆円超の大型買収を実施したことでも話題になった、スマートデバイスのプロセッシングコア市場の大半を手中に収めている企業だ。Kudanは「見る」技術における、唯一無二の存在を本気で目指している。

世界基準の技術エコシステムの中で、エンジニアとしての視座を持て

Kudanがコンピュータ・ビジョン技術を打ち出す戦略にかじを切ったのは、項氏が同社に転職し、「諸葛亮」として陣頭指揮を執るようになった2016年11月からのことだという。項氏はトヨタ自動車でエンジニアとして活躍しており、そのエンジニアとしての目からも、KudanのSLAM技術のずば抜けたすごさに驚かされ、大幅な事業方針の転換に踏み切ったのだという。

「私は以前トヨタ自動車ではガソリンエンジンを担当していましたが、『枯れた』領域の中で専門性が高まって行く閉塞感を抱えていました。自分なりにEV技術やライド・シェア・サービスを形にできないか模索していましたが、やはりビジネスの体系的なノウハウが必要だと思い、マッキンゼーに転職。十分な経験を積んだ後でライドシェアのビジネスを始めようと思ったのですが、その頃には既にUberが台頭し、グローバル展開を成功させていました。イノベーションというのは、そのくらい一気に爆発するものだと身に染みました」

そこで項氏は一から技術イノベーションに携わるために、スタートアップで「数年後ではなく、10年後を見据えた先端技術」に挑戦することを決意したという。そこで出会ったのが、Kudanだった。

「正直な話をすると、Kudan以外に、日本で破壊的なイノベーションの可能性を秘めたコア技術を持つスタートアップが見当たりませんでした。これは持論ですが、日本の産業を支えてきたモノづくりの『技術力』というのは『コア技術』と『オペレーション』の掛け合わせです。日本企業は、生産工程における『オペレーション』が組織的に強い一方で、次世代産業の『コア技術』となるとアメリカやイスラエル、さらに言えば中国にすら負けているのが実情です。技術論文の国別数を見てもその差は歴然としています。『コア技術』と『オペレーション』というのは別物なのです」

そこまで強く言えるのは、今最先端の技術を持って世界を飛び回り、提携・協力関係を探っていても、日本企業の名前を全く耳にしないからだという。「よく耳にする企業はアメリカや中国、イスラエル、英国、ドイツ」とのこと。次世代産業の中でも、医療やバイオ領域では日本の企業や学術機関を耳にする機会はまだあるとは言え、ITやIoT領域で世界を席巻しうる日本発の新興企業はないのでは、と項氏は警鐘を鳴らす。

「Kudanは技術に特化してきましたし、これからもそうです。破壊的な技術を突き詰めていけば、そこから市場開拓はおのずとできていきますから。あらかじめ市場が望めるサービスを開発するという姿勢ではなく、技術の深淵を探索し続けるというのは、半導体におけるARM社と同様です。世界にとって『なくてはならない』存在となることが肝要なのです」

項氏はまた、日本企業が次世代産業でグローバルには存在感を示せていないのは、「グローバルな技術エコシステムに組み込まれていないから」と語る。シリコンバレーでは、グローバル大企業が社内技術と組み合わせて育てていくことを見越して、スタートアップが豊富な投資資金を元手に、言語や市場に依存しない破壊的な技術シーズを創る。しかし日本においては、いまだ内向きの文化が残る大企業は、買収や連携によるコア技術の外部調達において海外企業の後塵に拝し、言語や地域市場のバリアで守られたスタートアップは、日本市場に目を向けたサービス企画・開発だけにとどまる。英国生まれのKudanは創業からこれらと対極にある存在だ。破壊的な技術は常に無国籍であり、見据えているのはグローバル・トップとしての座、その一点のみなのだから。

「世界を変える技術は何か、自分の能力はどうすれば生かされるのか。私自身がキャリアで大いに悩みました。そのかいあって、今は世界で革命を起こせる可能性を秘めたポジションにいて、それを実現できる企業で働けていると実感しています。日本では今、真の技術力を持つ企業はごく少数でしょう。そうした技術力を持つ企業に身を置かない限りは、『衰退している日本のエンジニア』というくくりに収まってしまうかもしれません。せっかくキャリアを築くなら、日本の枠に縛られない存在でありたいと私は思います。本当に今の場所で働き続けることが正しいのか。ぜひ視野を広く持ち、世界基準で見るべきだと私は思いますし、日本中のビジネスパーソンに声を大にして『奮起せよ』と呼びかけたいですね」

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