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Apple、Googleに依存しない独自のプラットフォームを生み出す。AKIBAから世界を目指すGateboxの独自戦略

Gatebox株式会社

日本でiPhoneが発売されてから10年の月日が流れた。それまで「ガラケー」が席巻していた市場を一気に塗り替え、もはやなくてはならないレベルにまで普及したスマートフォン。だが、iPhoneやAndroidスマートフォンがここまで広く使われるようになった根底にあるのは、「携帯電話」としての機能以上に独自のプラットフォームの存在が大きいとされる。そう、App StoreとGoogle Playだ。

このプラットフォームの恩恵を受け、スマートフォンアプリを制作すれば、たとえ個人制作のものであっても一気にグローバルに配信されるよう、世界はアップデートされた。ただし、見方を変えれば、スマートフォンアプリのパブリッシャーはこの二つの場が提供しているルールの上で戦うことを強いられているとも言える。

「スマートフォンアプリ全盛の今、多くのパブリッシャーが『世の中にないものを作る』『新たな価値を創造する』とうたっています。しかし、AppleやGoogleが提供するプラットフォーム上で作ることを前提として語られるものが多いと思います。果たしてそれは、本物のイノベーションと呼べるのでしょうか」

力強い口調でそう話すのは、秋葉原に「次元を超える研究所」を構えているGatebox株式会社の久森達郎取締役(Chief Service Architecture Officer)だ。Gateboxは「俺の嫁召喚装置」とも称されるバーチャルホームロボットのクラウドファンディングで9,000万円の資金調達を実現したことで、一躍その名を知らしめたハードウエアベンチャー。久森氏はGateboxに当初は社外の協力者という形で接しながら、その可能性にほれ込み、大手企業からGateboxにジョインした過去を持つ。

「私たちの思い描くビジョンがきちんと理解されれば、きっとGateboxの見え方がガラリと変わるはず」と自信をのぞかせる久森氏が見据える、Gateboxの可能性について話をうかがった。

独自のプラットフォームで勝負できる場所

——「Gatebox」の特徴について聞かせてください。

「Gatebox」は「キャラクターと生活を共にできる」という点で注目されています。2017年ごろに一気に市場が広がったスマートスピーカーと近いように見えるかもしれませんが、その実態はキャラクターを軸としたIP(intellectual property=知的財産)ビジネスに近いといえるかもしれません。

例えば、スマートスピーカーは本体も安価で利用料金を取られることはありません。しかし、実際スマートスピーカーを販売する事業者は音声を処理したり、適切な回答を返すためにサーバーを立てたりする必要があり、当然ながらそこには膨大なコストがかかってしまいます。それでも値段を下げ、無償で利用できるような形をとるのは、人々の日常生活のより近くで、消費者の情報を押さえることを狙ってのことではとみなされがちです。

一方で「Gatebox」は先に述べたとおりIPビジネスに近いものであり、言い換えれば「お客様がキャラクターを愛して使い続けること、そしてそれに対価を払う理由が求められるデバイス」だと思っています。単に値段の競争をして、とにかくばらまこうという性質のものではありません。

——決して安くはないお金を出してでも購入したい層が存在することは、クラウドファンディングの成功から見ても明らかだと感じます。「Gatebox」が今のようなデバイスになったのはなぜなのでしょうか。

「Gatebox」に近い企画やアイデアは多くあると思いますが、その完成物となるとPepperのようなロボットに行きがちだと思います。われわれはそれをソフトウエアでやっています。ソフトウエアであれば、デバイス上でキャラクターを切り替えることも可能ですし、拡張性が一気に広がります。

元Microsoftの馬田隆明さんが書いた「逆説のスタートアップ思考的『逆張りマップ』ワークショップ — 整理編」という記事が非常に示唆に富んでいるのですが、これに即して話すならば、「Gatebox」は極端な「逆張り」にプロットされると思います。基本的にスタートアップは、世の中の課題に対して独自の解決策を提供することで価値を発揮し、市場を作り上げていく存在だと思います。この「課題」や「解決策」にはそれぞれ「順張り」「逆張り」が存在しており、それぞれを配置することでマトリクスを描くことができます。

既に明確化されている課題に対して、既存技術の組み合わせの解決策を講じるのは、課題、解決策ともに「順張り」であると言えます。逆に、まだ気づいていない課題があり、意外な手法や実現不可能に思えるテクノロジーで解決しようとするのは、課題、解決策の「逆張り」となります。「Gatebox」が実現しようとしているのは、まさに後者の「逆張りだらけ」の位置にプロットされます。

——確かに、「Gatebox」は世の中に存在しているどの製品とも一線を画す存在のように見えます。

逆張りするということは、市場が不透明であったり、技術的に実現が困難だったりすることを意味します。ただ、その市場選定が間違っておらず、かつ技術的に一定水準に到達できれば、完全なブルーオーシャンを手中に収めることができるはずです。大きなインパクトを残せる可能性を秘めているのが、この「Gatebox」です。

さらに馬田さんの記事には続きがあり、プロダクトには「天使度」と「悪魔度」というものがあると書かれています。「天使度が高い」とは「思いつくことは難しいが、作るのは簡単」、「悪魔度が高い」とは「誰でも思いつくが、実際に作るのは難しい」ということを指します。「Gatebox」は逆張りだらけの上に悪魔度が極めて高い。「Gatebox」そのものは、おそらく誰もが一度は考えたことがある製品でしょう。ですが、それをカタチにするのは極めてハードルが高い。

——資金、技術ともに簡単な道ではないと。

さらにこうした機械の試作機を1台作ろうとするだけでも、数百万円はかかってしまいます。初期投資もかかる上に、PDCAサイクルもスピーディーに回せません。スマートフォンアプリを開発してリリースするよりも、圧倒的に難しいのは間違いないでしょう。ただし、うまく立ち上げることができれば、新たなプラットフォームになり得る。世の中の人たちが次なるビジネスを思案した時にiOS、Androidと並んで「Gatebox」での展開を考慮する時代がやってくるかもしれません。

——越えるべき壁は多くとも、久森さんが挑戦したいと考えたのはなぜなのでしょう。

ハードウエアを作る意義とは、他者が作ったプラットフォームではなくて、自分たちの手でゼロからこれまでにないユーザー体験を作ることができる点だと思っています。その結果として「自分たちで事業のルールを定めて物事を進めることができるようになる」、それはまさにプラットフォームを作ることだと言えるでしょう。こういうことって、スマートフォンアプリだけを作っていてはなかなかできないことではないでしょうか。

オリジナルのハードウエアにソフトウエアを載せていくという経験、チャンスはそう多くないと思っています。大手企業が続々と参入を果たしているスマートスピーカーですが、あれが実現できているのは巨大な資本があるからです。私たちのようなスタートアップは、いきなり膨大な数を生産することは難しい。数百台のために、金型を起こして部品を作って、製造するのは非常に非効率です。ハードウエアスタートアップの難しさはこういった部分にもありますが、それを自力で乗り越えていったのが「Gatebox」でした。

ユーザーとの断絶を過去のものにする

——ハードウエアベンチャーならではの厳しさについてお話しいただき、ありがとうございます。Gateboxはニコニコ超会議に初出展するなど、マーケティング戦略に力を注いでいますが、ここで肝になるのはどんなものでしょうか。

2014年、当時の任天堂の取締役社長であった故・岩田聡さんが「お客様とのつながりを、デバイス単位ではなく、アカウント単位、つまりお客様単位に変える」という発表をしています。弊社もモノを作っている会社なので、モノ単位の考え方にいきがちな面はありました。しかしながらもう少し視点を変えて、お客様を中心に据えたい。「モノと別のモノ」「モノと別のサービス」をつなげるなど、より幅の広い体験を作っていくことができるようなアカウント基盤を整備することはその最初の一歩です。

「Gatebox」のあり方はまだまだ発展途上で、今あるものが完成形ではありません。当然、これから変わっていくことも多くあると思っています。そのなかで、今の「Gatebox」を支持してくれているユーザーとの関係を「断絶してはいけないな」と考えています。これまでのハードウエアビジネスでは、ハードウエアが変わるごとにIDが違っていることや、それぞれにユーザー登録をしなければならないことなどがあったと思います。これを、お客様単位で断絶なく扱えるようにして継続的な関係を積み上げられるかどうか。これが未来永劫(えいごう)続いていくサービスに必要なことだと考えています。

——ハードウエアの進化を断絶と捉えない事業戦略というわけですね。

ユーザーとの関係をどう作っていくかはサービスに直結する思想ですが、まだまだ「Gatebox」もその仕組みを作っている真っ最中という感じです。「Gatebox」は「ただかわいいキャラクターがいる、おしゃべりガジェット」で終わらせたくありません。ハードウエアとキャラクター体験の進化にお客様が自然とついてこられるような、パートナーのような関係を目指したいと思っています。

——「Gatebox」は短期ではなく、長期目線でユーザー獲得を狙っているということですね。

Appleは既にアメリカで「iPhone Upgrade Program」というiPhoneのサブスクリプションモデルを2015年から行っています。新しい端末に買い換えるという発想よりも、最新端末が常に手元にある状況をつくる。これはハードウエアメーカーかつプラットフォーマーだからできることです。

「Gatebox」は現在、スマートフォンのような全方位的なニーズに対応していく方針ではなく、特にターゲットとしているセグメントにより強く愛してもらうことを目指したプロダクトですので、とにかく性能と満足度を高め続けなくてはいけません。例えばキャラクター表示に関して、現在はリアプロジェクションと透過スクリーンを使っていますが、これ一つとってもさまざまな技術的選択肢があります。サービス企画から次のテクノロジーを探すことまで、まだまだやることはありますよ。

——これから市場を独占すべく、プロダクトを磨いていく段階にあるということですね。クラウドファンディングでも大きな注目を集める一方で、貴社と似たような事業を行っている企業は少ない印象です。

それは、「やらない」「できない」と思ってしまう理由がたくさんあるからです。先ほどの話もそうですが、まず相応の予算が必要となります。他にもメカ設計、電気設計、ミドルウエア、ソフトウエア、サーバーサイドなどの知見も求められます。さらにこれら全てを包括したサービス設計まで関わってくる。繰り返しになりますが、技術面でこれほど難度の高いプロジェクトに取り組むことには、特に大きい会社ほど二の足を踏みがちです。企画書を書くまでならすぐできるかもしれませんが、冷静にプランニングしていくと、これを作るのは本当に大変だなと気づくと思います。よしんば作ったとしても面白いのかどうかもわからないですし。どう考えてもハイリスクになってしまう。

そのように立ちはだかってくる壁を、一つずつ越えてきたのがGateboxなのです。誰でも思いつくけれども、実現するのはすごく難しいし、成功するのはもっと難しい。それでも、それだけ難度が高いチャレンジをすることが是とされている場所で働くのはすごく面白いですよ。ここで成功できれば、この先どんなことでもできるだろうと思いますし、どんな課題を与えられても生き残れる気がしますね。

ゼロから新しいプラットフォームを生み出そうとしているハードウエアスタートアップが、日本だけでなく、世界で見てどれだけあるのか。そういうふうに見ていただければ、Gateboxの見え方が大きく変わると思います。

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