探そう、まだ見ぬ未来を。

VR/ARの未来

「非言語UI」で世界進出を目指す。B2Bに特化したVR制作ソフトウエア

DVERSE Inc.

コンシューマー向けではなく、B2Bモデルで解決すべき課題を見つけた「SYMMETRY」

2016年の5月、ついにグーグルからモバイルでVR(仮想現実)を提供するプラットホーム「Daydream」が発表され、同年秋にはVR対応のスマートフォンの販売がスタートする。また「プレイステーション」からもVRシステムがリリースされ、OculusやHTC Corporationも専用ヘッドマウントディスプレーを一般販売するなど、「VR元年」と呼ばれた前年に続き、2016年もVRは大きな盛り上がりを見せている。

そうしたなかで、2014年に創業し、建築・土木・デザイン向けのVR制作ソフトウエア「SYMMETRY(シンメトリー)」を開発するDVERSE Inc.は、まだプロダクトの市場投入が始まっていないにもかかわらず世界有数のシードベンチャーキャピタルの日本向けファンド「500 Startups Japan」や「Colopl VR Fund」「KLab Venture Partners」から投資を受ける注目のスタートアップとして熱い視線が注がれている。

「対称性」を意味する「SYMMETRY」は、その名の通り、ユーザーが思い描いたイメージやアイデアをそのままVR空間へと移行できる画期的なVRコンテンツ制作ツールだ。人間の体験そのものを創り出し、共有できる革新的な技術領域へいち早く足を踏み込んでいる先進性ももちろんだが、特に投資家から高い評価を得たのは、コンシューマーをターゲットとするエンターテインメント領域ではなく、建築・土木・デザイン業界に利用目的を定め、ビジネス向けにパッケージングしたところにある。

DVERSE Inc.でCEOを務める沼倉正吾氏はそうした理由を、この業界が設計側とクライアント側で完成イメージの食い違いを生みやすい苦悩を抱えているからだと語る。「たとえば、家やマンションを建てる際に、経験豊富なデザイナーは図面を見ただけでどういったものが出来上がるかを想像することができますが、一生に何度もそのような経験をすることのない購入者は図面からは正確なイメージを抱くことができません。しかし、もしVRの世界でそうした建造物を作り上げることができるなら、こうした課題を低コストで解決できるようになるんです」

事実、プロトタイプの製作発表後に、不動産業界や建設業界からかなりの数の相談を寄せられたことが、高い将来性を有する証左といえるだろう。リアルタイムで3D-CADデータやモデルファイルを読み込み、VR空間内で編集・出力までできる「SYMMETRY」は、誰でも直感的に操作可能な「非言語UI」を導入することで、日本のみならず海外展開も視野に入れることが可能となった。 

「パソコン」「インターネット」「モバイル」に続き、4度目の衝撃を受けたVR

そんな沼倉氏が初めてVRと触れたのは、いまから3年ほど前のこと。クラウドファンディング「キックスターター」でOculusが240万ドルもの資金調達に成功したVRヘッドマウントディスプレーをアメリカから取り寄せたときだ。

これまでの人生で「パソコン」「インターネット」「モバイル」と、自身の心を圧倒的に突き動かす技術に3度出合ってきたという沼倉氏だが、「VR」を体験したときに、それに近い4度目の衝撃を受けたという。

「パソコンやスマートフォンは2次元のモニターを見ながらマウスを使ったり、指を使ったりして操作するものですが、これらの作業をVRの世界で行うことで効率性を劇的に上げることができるのではないかと感じました。グーグルのAI(人工知能)開発の責任者である未来学者のレイ・カーツワイル氏も『2025年くらいまでにVRの中で日常生活を送れるような世界が到来すること』を10年以上前に予言していて、その時間軸通りに『Oculus Rift』が誕生したこともあり、決して荒唐無稽な技術ではないと確信しました」

その後、ビジネスの可能性を模索しはじめた沼倉氏は、VR技術で先頭を走っていた北米にオフィスを設立。海外で資金を調達しながら、当初はエンターテインメントや教育の分野でニーズを探し、NHKエンタープライズと360度展開されるドラマを制作したり、KDDIとVRプロモーションを制作したりとさまざまな経験を重ねた。

現在の建築・土木・デザイン業界での利用にたどり着くことになった理由を、「建築や土木、インダストリアルデザインは、もともとCADにより3Dが広まっている業界なので、エンターテインメントと違い、すでにニーズがある分野でした。その分、ビジネスの成長スピードは速いと考えたのです」と沼倉氏は語る。

まだ正解がないVRだからこそ、可能性は無限大

現在のDVERSE Inc.の開発は日本を拠点としている。起業こそは北米だったが、予想以上にVRのトレンドが世界中に広がるのは早く、まだどこの国にもデファクト・スタンダードが存在していないため、日本からでも世界へ進出できるチャンスが十分あると見込んだからだ。

また、沼倉氏は「日本はエンジニアの質が高い」ということもその理由の一つに挙げる。突出したエンジニアはシリコンバレーの方に多いかもしれないが、「平均値は日本の方が高い」というのが沼倉氏の実感だ。

「VRがコンシューマー向けになって、2016年時点でまだ3年ほどしかたっていません。弊社のエンジニアもほとんどが違うジャンルの開発に携わってきた方々で、私自身もVRの研究を何十年とやってきたわけではないのです。そんなできて間もないVRの分野でこれから花開くのは、UIやUXをどうしていくか、チュートリアルをどう出していくか、という非言語型のユーザビリティーの確立だと思っています。従来のエンターテインメント領域で行われてきたことをVRの文脈でどうやって実現するかがメーンとなってくる。そもそもVRの専門家は現時点ではいないので、その役割を担いながら新しい市場を創っていくのが私たちの仕事だと考えています」

ほんの数年前までVRを動かすには数千万円という高額な機材が必要だったが、いまやそれが数万円のスマートフォンで動く時代が到来した。それはソフトウエアについても同様で、沼倉氏は「数年後にはその価格は相当下がる」と予見する。2017年6月の製品版リリースを目指す「SYMMETRY」も現在、デザインの現場で使用されているソフトウエアの5分の1~10分の1程度の価格で提供できる予定だという。

その理由は、VRの開発環境が充実してきたことが大きいと沼倉氏は語る。たとえばグラフィックのエンジンをイチから制作していたらかなりの手間がかかってしまうが、Unityのエンジンを利用することでその分、UIやUXに注力できるようになったというのだ。つまり、スマートフォンのゲーム制作などでUnityを扱ってきたエンジニアにも新しい未来を切り開く挑戦ができる条件が整ったともいえるだろう。

目指すは「3D化」ではなく「VR化」

「SYMMETRY」がターゲットとする建築・土木・デザインの分野は北米とヨーロッパをメーン市場としているため、DVERSE Inc.の見定める海外進出はこの2地域からはじまる。そして、全世界に3,000万人のユーザーを抱える3Dモデリング・ソフトウエア「SketchUp」への対応から開始するのが今後の目標だ。「SketchUp」のユーザー規模の大きさももちろんだが、使いやすさやわかりやすさを重視する「SketchUp」のブランドアイデンティティーと「SYMMETRY」が目指すVR世界との親和性の高さもその理由となっていると沼倉氏は語る。

また、VR内に構築したマンションのショールームにスタイリストがセレクトしたインテリア(ビジュアルデータ)を配置することで、気に入ればその場で購入できるような仕組み作りもインテリアメーカーと模索しているという。もし、それが実現すれば、ECの領域へと展開できる可能性も秘めている。

そんなDVERSE Inc.が描く未来は、パソコンとマウスで作り上げている現在の3D作業そのものをVRの世界へと移し替える「VR化」の実現だ。将来的には作り手の視野そのものをVRの世界へと誘い、その意識を没入させようとしている。つまりクリエーティブ作業をVRの中で行うというSF映画さながらの世界の実現を目指しているのだ。

「でも、まずは数年後に誕生するであろうVRのデファクトとなるUIを作り出すポジションを取りにいくことからですね」。夢見るリアリストである沼倉氏は、VRの未来を提示するプロダクトの製作のみならず、VR市場そのものの創造をけん引していってくれるに違いない。

LATEST POST