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VR/ARの未来

VRは、心を成長させるテクノロジー

株式会社ココロワークス

VRは“エンターテイメントだけ”のものじゃない

バーチャル・リアリティー(VR)市場に大きな注目が集まっている。VRを楽しむのに必要なヘッドセットの本格供給に乗り出したのはグーグル、マイクロソフト、ソニーをはじめとする世界的企業だ。また、VRコンテンツの開発にはグリーやコロプラなど国内大手企業も名乗りをあげ、既にいくつかのコンテンツが生まれている。2020年には市場規模が8兆円になるとの予測もあり、各社がしのぎを削る。

多くのIT企業が入り乱れる激しい争いのなか、まったくの異業種からVR市場に参入し、コンテンツと簡易ヘッドセットを独自に企画・開発した企業がある。大阪に本社を構える株式会社ココロワークスだ。

ゲームを中心に広がりを見せるVR技術にあって、同社のサービス「senz(センズ)-ココロアガルVR-」は一風変わったコンテンツを提供している。「感情をテーマに、人の心を動かすようなVRコンテンツのサービスを作りたかったんです」と語るのは同社代表取締役の小松英司氏。「senz」のサイトトップページでは「VRの可能性を“エンターテイメントだけ”のものにしない」と高らかに宣言している。

さらに同社のヘッドセット「InstanTRIP PAD」も異色だ。繰り返し利用できるウレタンフォームを採用し、手持ちのスマートフォンをフォームで巻き込むだけですぐに完成する。「senz」の提供するVRの世界へ、手軽に飛び込むことができるのだ。簡易VRヘッドセットを独自に開発したのは、エンターテイメント以外の領域のVRコンテンツで勝負するならハード面の手軽さもカギになるとにらんだからだという。飛行機の搭乗チケットをイメージさせる説明書には「Gate : smart phone」「From : your home」「To : anywhere you like」とあり、遊び心を感じさせる。

畑違いだから見つけた、VRの没入感を「癒やし」に変える可能性

ココロワークスはWebサイトやプロモーションムービーの受託制作を手がける企業として2000年に創業。以来、堅実に実績を積み重ねてきた。

コンテンツからヘッドセットまで手がけるVR事業は、既存事業が順調に推移するなかであえてリスクをとって飛び込んだ畑違いの業界だ。だが、BtoCの事業で一般消費者の心を動かす仕事に挑戦したいと考えていた小松氏は、既存事業が順調な今こそ新たな事業に乗り出す時期だと判断し、アイデアを練りはじめた。

そこで思い当たったのが、森林浴を疑似体験できるアプリを制作したときのことだった。森林セラピーで注目を集める鳥取県智頭(ちづ)町からの依頼を受け、森の入り口へと続くつり橋からの景色を360度見渡すことのできるコンテンツを作った。ホテル・ブライダル業界向けに提供していた映像技術を応用したもので内容はシンプルだったが、視聴者からの反響は予想以上に好評。癒やしやリラックスという「感情」に働きかけてくる点が、評価のポイントだった。欧米の心理療法で用いられる心理学・神経言語プログラミングの資格を持つ小松氏は、この「感情」に新事業のヒントを見いだしたという。

「日常生活は非常にストレスフルな環境に囲まれていて、無意識にストレスのかかる体験が多いんです。人は体験を通じて感情を持つので、ストレスのかかる日常生活からはネガティブな感情ばかり生まれてしまいます。そこで、感情のバランスを保つために意識的にポジティブな体験をすることが大切なんです。そのポジティブな体験と感情を、簡単に味わえる可能性を秘めているのがVRだと思います」

VRは視界に合わせて体の向きを変えるといった行動がともなう、まさに新たな体験のカタチだ。ただ現状、VRコンテンツとして提供されているものがゲームなどのエンターテイメントに偏っているために、「体験できる内容やそれによって得られる感情も偏っているのだと思います」と、小松氏は語る。VR独特の没入感によって生み出される、これまでにない体験を癒やしにつなげられれば……そんな発想から小松氏は智頭町の森林浴コンテンツをVR化。「人の感情を動かすVR」というコンセプトが固まった。

心理学がVRの新たなビジネスモデルを創りだす

「senz-ココロアガルVR-」は、まだ動きはじめたばかりだ。現在、用意されているコンテンツは14。好評だった智頭町の森林浴のほか、日本海に面した野趣あふれる露天風呂での入浴気分に浸れるものや、オフィスシーンでさまざまな人が応援してくれるコンテンツなど、いずれも日常生活で不足しがちなポジティブな感情が湧き上がるよう計算されている。

今後展開していく予定のコンテンツリストにも、ユニークなものが並ぶ。一人飲みのための視覚的おつまみと銘打つ「寡黙なバーのマスターすら、邪魔。」。プレゼンでついアガってしまう人に提案する「先輩、僕の気持ち以外は、準備OKです。」。さらに、何をやっても寝起きが悪い人へ目からの刺激を贈る「目覚めに、覚醒めた。」など。従来のVRコンテンツと一線を画す内容なのは間違いない。

このように既存のVRコンテンツとはまったく異なる内容を指向するだけに、乗り越えるべきハードルが多いのも事実だ。従来のコンテンツは、一部を除いて、企業イベントなどの単発企画で制作されるものがほとんど。ある種、使い捨てに近い感覚だ。小松氏はここに新たなビジネスのカタチを創りだそうとしている。

「コンテンツをより拡充させ、『senz』をプラットフォーム化できれば、企業とタイアップし、継続的に利用できるようになる。ユニークなコンテンツを生み出し、そこに出資してくれる企業が集まれば、テレビとはまた違う映像プラットフォームができるはずです」

最後に、異業種からVR業界に飛び込み、新たな業界標準を創りだす労を乗り越えた先にココロワークスが目指すのはVRのどんな未来なのか。あらためて小松氏に聞いた。

「認知行動療法や心理学、人間情報センシング技術など、科学的に実証された効果とVRをつなぎあわせ、人の心のあり方に貢献するサービスを育てたいと思っています。テクノロジーでさらに人の心を成長させる。VRならば、そんな未来を実現することが可能だと思います」

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