探そう、まだ見ぬ未来を。

VR/ARの未来

VRから音声入力、そして未知のUXまで切り拓く

株式会社WHITE(株式会社スパイスボックス)

早くからVRに挑戦、多くの人たちを魅了

毎年3月に米国テキサス州で行われる世界最大級の音楽、映画、インタラクティブのフェスティバルであるSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)。テクノロジースタートアップの国際的な登竜門として知られているイベントだ。

2016年のSXSWにおいて、Interactive Innovation Awards VR&AR部門のファイナリストに日本企業で唯一選出されたのが、株式会社WHITEのダンボール製VRゴーグル「Milbox Touch(みるボックスタッチ)」だった。側面に導電性インクで印刷されたパターンを触ることで、ゴーグル内に設置したスマートフォンを操作できる仕組みとなっている。

生みの親である、同社の神谷憲司代表取締役社長は、クリエイティブディレクター/クリエイティブテクノロジストとしてデジタルコンテンツ制作を中心に活躍し、国内外の広告賞にも数多く輝いている人物だ。2006年、博報堂グループのデジタルエージェンシーである株式会社スパイスボックスに入社したが、当時はFlashの全盛期。企業がこぞって自社サイトで展開するスペシャルコンテンツなどを、神谷氏はプランナーとして盛り上げてきた。しかし、当時からすでにVR/ARや人工知能、ロボットなど最新技術に対する興味関心は強かったと述懐する。

「子どもの頃から教育雑誌などでよく人工知能やロボットの夢が語られていたのを目にして育ってきました。現実的なテクノロジーとしての一番古い記憶では、学生時代から愛読していた『InterCommunication』という季刊誌で1999年にVR/ARが特集されていたのを覚えています」

もともとデジタル志向のあった神谷氏は、リアルとインターネットの融合、今で言うIoTに興味を持ち始め、2008年ごろからはクライアントへの提案もWebサイトだけでなくデジタルイベントへとシフトしてきたという。当然、現在のようにスマートフォンはなく、ガラケー全盛期。PCなどのマシンパワーも潤沢とは言えない時代だったが、創意工夫と目新しさで多くの関心を引くクリエイティブディレクターとしてキャリアを積み重ねてきた。

そして2012年、スパイスボックス内にラボ組織を設け、デジタルプロモーションに使えるテクノロジーのリサーチと、「リアルな世界にテクノロジーをどう落とし込んでいけるか」という未来図を描くことを目的として、R&D活動を始めた。そのR&D部門こそ2015年4月に分社化された株式会社WHITEの原型であり、当時3人だったメンバーも今では43人(※出向者含む)にまで増員した。「これだけの規模になったからこそ、世の中に仕掛けられることも増えてきました」と神谷氏は目を細める。

VRの自社プロダクトをきっかけに、世界的に注目をあつめる

発足時のWHITEの活動の中心は、テクノロジー領域のリサーチ活動が中心だった。特に毎年年始にその時にブレイクが予想されるテクノロジーを6つ予測した「HOT TECH TREND6」は各方面で話題を呼び、その中で取り上げていたVRの可能性に興味を持ち、自社でもVRの商品作りを開始した。そうしたVR商品の開発を進めてきた中でのWHITEとしてのアウトプットの一つが、SXSWでファイナリストに選出されたMilboxTouchだった。

これをきっかけとして、さまざまな企業からVRの相談が集まるようになったのだが、相談の内容はゴーグルの購入希望よりも、VRを活用したソリューションの提案依頼がほとんどだった。

「『体験』することは『見聞』よりもはるかに記憶に残る。企業がもつブランドが生活者の記憶に残るような新しいやり口をVRを通じて発明できないか?」そう考え、VRを活用した体験型マーケティングの可能性を追求し始めた。

「当社が製造しているシンプルなスマホVRゴーグルのMilboxもタッチ操作が可能なMilboxTouchも、コンテンツなしでそれ単体ではなんの価値もありません。したがって、当社ではゴーグル販売だけでなく、VRを用いた体験型プロモーションの提供に注力しています。我々はそれを「VRマーケティング」と呼んでいますが、360°コンテンツを核として目的に応じてフレキシブルに体験型プロモーションをワンストップで提供しているのです」

WHITEでイベントを企画・運営して、ハイエンドなヘッドマウントディスプレイを使って記憶に色濃く残る、最もリッチな体験としてVR体験を提供することも可能であり、またMilboxとスマートフォンだけで自宅など、どこでも手軽にVRコンテンツを楽しむ体験を提供することもできる。さらには、360°コンテンツに対応しているFacebookやYouTubeなどでコンテンツを表示させれば、ユーザーはアプリをダウンロードする手間も省けるのでさらに手軽だ。こうして、リーチできる層はどんどんと広がっているというわけだ。

「Milboxが注目されたことで、WHITEイコールVRマーケティングの会社というイメージが先行しましたが、私たちは『イノベーションデザインカンパニー』であると自負しています。世の中にイノベーションを起こす確度を上げていくためにも、VRという技術にも、また自社プロダクトにも固執しすぎず、他社のサービスとの連携を積極的に行っていきたいと思っています」

グローバル企業との提携にも迷いはない。2017年のSXSWでは、クリエイティブ向けペンタブレット市場で約9割の世界シェアを誇るワコム社と共同開発した、ペンタブレットでVR空間に描画できるソフトウエアを出展して話題を呼んでいる。「平面に描いた2次元のものが、筆圧を反映して3次元に展開される仕組みです。スマートフォンとペンタブレットという、すでに普及しているものにソフトウエアを加えることで実現できるわけで、世界市場に向けた展開も期待できます」と、神谷氏は語る。

本質的なテクノロジー改革となり得る音声デバイスに注目

数々の先進的なプロダクトを世に発信してきた神谷氏だが、今後大きな可能性を感じているのは「音声入力・音声認識」と「AI」だという。Siriの普及などもあって、音声入力というアクションはぐっと浸透した。Amazon Echo や Google Homeといった音声アシスタントデバイスにも一層の注目が寄せられるなど、全てのテクノロジーのハブであるスマートフォンに将来とって代わる存在となるかもしれない。

「CES2017で米国のおもちゃメーカーMattel社が発表した『Aristotle(アリストテレス)』が面白いんです。音声で子どもの見守りを行うスマートスピーカーで、詳細はまだ明かされていませんが、子どもが言葉を覚えていく過程において知育学習コンテンツを提供していくようなものになるのではと想像しています」

話せる言葉の段階に応じてロボットが子どもと対話する。スマホネイティブどころか、ロボットとの会話でコミュニケーションを覚える乳幼児が一般的になる時代も近そうだ。「ロボットに子どもの世話をさせるなんて」「家族の何気ないつぶやきまで聞かれてしまうのか」という抵抗を感じる人もいるだろうが、「子どもの見守り」といった明確なニーズがあれば多くの人々に受け入れられるはずと神谷氏は指摘する。

親が家事や別の仕事に手をかけている間だけ、ロボットが子どもをあやし、話し相手になってくれれば育児負担は大きく軽減される。日本語だけでなく、英語などの外国語もロボットならば自由自在に使い分けられる。さらに、高齢者の夜間徘徊(はいかい)をチェックする離床センサーなどを追加することも、当初はプライバシー面での問題ばかりが注目されがちだったが、必要があり実効性があれば社会的にも受け入れられていくことは、これまでの他の製品を見れば明らかだ。

「WHITEでは今マーケティングやエンタテインメントシーンでのテクノロジー活用がメインですが、そこから離れた実用的、社会的サービスにもチャレンジしていきたいと、個人的には思いますね」

人類がまだ知らないUI/UXを追求していくために

さらに注目しているのが、音声型UXが誰にどう作られていくのかという点だ。従来の入力デバイスにはディスプレーが不可欠であり、そこにキーボードや各種コントローラーが付随する。一方、音声入力を軸とするUXを設計する際にはそもそもディスプレーが必要なのかという問題がある。どんなインターフェースが必要なのか、タッチポイントはどうするのかなど、従来の常識が通用しないのは間違いない。

「ECサイトでは購入につなげるために考えるのはボタンの配置や色、大きさ、そしてユーザーの興味を喚起する導線設計などが軸となりました。しかし、音声によるショッピングでは、ボタン配置などはそこまで重要ではなくなるでしょう。画面を見ずに欲しいものを調べ、注文するとなった場合、そのキーとなるのは何かということです」

神谷氏は例として、ある心理学研究を挙げる。「人間の意思決定プロセスには会話の運びによる誘導が大きく関わるということが分かっています。例えば、3人のうち2人がいいねと言えば、あとの1人も同調したくなる、などです。それを考えると意思決定させるための会話の組み立て方といったものが会話型UXの在り方になるのかもしれません」

「こんなものが欲しい」という意思決定してからの検索行動をフォローするのであれば、音声になってもこれまでと本質的には変わらない。しかし、日常のホームアシスタントとの雑談や何気ないつぶやきを重ねることによって、ユーザーのニーズや嗜好(しこう)性が導き出されるとすれば、それに基づいてホームアシスタントからの提案やアドバイスといったコミュニケーションが展開されることになるわけだ。そうした未来が待っているとするとなれば、「プランナーは技術を、そしてエンジニアは技術以外をより理解し、情報収集し続けておく必要があるだろう」と神谷氏は言う。

神谷氏自身もまた、エンジニアではなくプロデューサーやプランナーといった立場でテクノロジーに深く関わってきた人物であり、今もメガトレンドを踏まえて未来を見据えている。

「これまではテクノロジースキルを持つのは限られた職種だけでよかったかもしれません。しかし、これからはあらゆる場面にテクノロジーが入り込んでいく時代です。時代要請的には、営業職であってもテクノロジーの素養が求められていくでしょう。この流れが不可避なものだとするなら、いっそグッと踏み込んでしまった方が面白いはず。テクノロジーの未来は、どこまでも奥深くて面白いですよ」

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