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ロボットの未来

「警備ロボット」という市場を創造する、大学発ベンチャーの挑戦

SEQSENSE株式会社

人材ニーズが急騰している警備業界に、ロボットを

首都圏での都市再開発が活況だ。超高層オフィスビルや大規模商業施設などが相次いで建設されている一方で、24時間体制の巡回警備など、高度なレベルのセキュリティーが必須となり、警備員の人材不足が大きな課題として浮き彫りになってきている。

「展示会には予想をはるかに超えたポテンシャルユーザーが集まり、切実なニーズを実感しました」と語るのは、自律移動型ロボットを開発する明治大学発のスタートアップ、SEQSENSE(シークセンス)株式会社の黒田洋司CTO(同大学理工学部機械工学科教授)だ。

SEQSENSEは知能機械学、機械システム(ロボット工学)を専門とする黒田氏が、金融の世界を長年歩んできた中村壮一郎CEOと2016年10月に創業。独自のレーザーセンサー技術を持つ自律移動型ロボットの、実用化に向けた開発を行っている。

黒田氏は自律移動型ロボットの開発を20年以上手掛けてきた。東京大学大学院在学中は日本で唯一行われていた海中ロボット研究を、明治大学の教壇に立ってからはJAXA(宇宙航空研究開発機構)と連携した月や惑星探査を目的としたローバの開発などを行っている。

人間との共存ができるまでに技術が進歩したことで、2004年ごろからロボットが「人里に降りてきた」と黒田氏は表現する。名だたる大学が無人運転などの実験を始め、グーグル社の自動運転が話題になった。「そこでわれわれは、道路で動かすよりもはるかに複雑な、人のすぐ近くでロボットを動かす研究をスタートさせました」

もちろん、ロボットの制御にはクラウドやAI、IoT、センサーといったソフトウエア技術が必要になる。しかし「アメリカではコンピューターサイエンティストがサービス、ユーザー目線でものを作って成功しているのに対し、日本では『この技術は何に使えるでしょう』という発想から始まる。ゴールを先に設定して進めるのではなく、手持ちの武器からゴールを考える傾向にある。異分野の専門家が連携することもまれです」と、黒田氏は語る。

日本が持つ技術力を、よりよい形で生かせないか。そうした問題意識を抱いていたなかで、ある転機が訪れる。2015年、黒田氏率いる明治大学理工学部機械工学科ロボット工学研究室はAI分野に注力していたTIS株式会社とタッグを組むことになった。目的は自律移動型のサービスロボット技術を確立し,実用化することだ。その道程における推進力の一つとして,NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の公募研究事業「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」に採択されることを目指した。

「TISはソフト系の方の集団であるにもかかわらず一部ロボットに食い込んでいる人材がいます。われわれはどちらかといえば『ものづくり系』なので、両者のコラボによってすごいことができるのでは、というワクワク感がありましたね」

黒田氏の狙い通り、応募は採択された。しかし、そもそも公共空間で走るロボットは実用化されておらず、市場もない。NEDOとともに、ゼロからマーケットを開拓する必要がある。そこで、SEQSENSEという会社を創業するに至ったのだという。

警備分野の「一点突破」が、未来を切り開くカギに

SEQSENSE の始まりは、TISの会議室を借りてのスタートだった。市場を切り開きながら、先端研究も同時並行で行う。そのためには大学発のベンチャーという事業戦略が最適だと考えた。

TISからはスタート時に1名、現在はさらに3名の人員の提供を受けている。都銀、外資系金融機関を経てベンチャー支援などに携わり、ファウンダーとしてSEQSENSEに経営参画した中村氏は「黒田先生には、研究者の立場からすれば納得できないであろうビジネスの判断も理解し、譲歩してもらっている。研究者とビジネス目線のバランスが絶妙」とコメントする。

実験機の映像を見ると、さまざまな点に驚かされる。なかでも特筆すべきは、ランダムに歩く人の動きをリアルタイムで見ながら走行し、画像処理だけでなく3次元レーザースキャンも行って、バックグラウンドでは3次元マップを作っていることだ。

「先日、学会で発表したばかりですが、大学のキャンパス1.5kmを走行して元の場所に戻ってくる、その出発点と到着点の誤差が平均35cm。走行しながら作成する3次元マップの精度が非常に高いのです」

最初に精度が高いマップを作成することには、大きな意味がある。マップとリアルタイムスキャンを比較していくことで「本来は、そこにないもの」が検知できる。もし侵入者や運び込まれた異物などがあっても、レーザースキャンによって発見されるので、隠したつもりでも簡単に検知される。「人間の眼」を挟まない分、見慣れた風景であったとしても見逃すことはない。

異物と検知されたものは、写真撮影してAIで画像処理を行い、たとえば「財布」と分かれば落とし物センターに情報を送り、判別ができないものだけをセキュリティー担当者らに送る仕組みだ。これにより警備員の労働を軽減できる。また、歩行中の人の進路を予測し、実際にどの経路をどう歩いたかの記録が残せる。これも警備に有用だ。

AI技術は日々進歩する。人間が「何だか不審だ」と感じて危険人物を警戒するように、いわゆる危険人物の発見も、人間に近づけるように精度を高めていく。警備以外にも応用できそうだが、「今後クライアントと、ロボットが行うことと警備を行う人間の作業を整理していきます。しかし、警備活動だけに絞っても、人間の挙動すべてをロボットにインプットするのは非常に難しいはず。シンプルに、ターゲットをぼかすことなく、一点突破しないと多分うまくいきません。そのくらい厳しい世界だと思っています」と黒田氏は語る。

警備ロボットの分野で成功し、新分野に転用をしようということになったら分社するなど、新分野に特化した組織を作るつもりだそうだ。

自己満足ではなく、世界中に評価される製品を

2017年2月、SEQSENSEは公募型の羽田空港実証実験プロジェクトに応募、採択された17社のうちの1社として「セキュリティロボットSQ-1」を走行させた。ただ、羽田空港は壁も床も光沢がある磨き上げられた空間のため、レーザー光線が反射してロボットまで返ってこないというトラブルもあった。「当日になって一般の人の中を走るのは難しそうだと判断、限定された空間を走行することになりました」と苦笑いを浮かべる黒田氏。それでも、現在は調整を重ね、同様の環境でも自分の位置がしっかり把握できるようになっているという。

研究と実用との大きな壁でもある。研究として行う場合は理論が証明されればいいので、10回テストをして6回動けば合格だ。しかし工業製品の信頼グレードでは母数が数万、数十万という数になる。当然、求められる精度も非常に高くなる。

また、研究者自身が操作することを想定したロボットは、見た目や使い勝手への配慮は乏しい。しかし、商業用ロボットとして活用するとなれば、警備会社などのクライアントが使うことになる。そうなれば複雑な操作は必要とせず、ボタン一つで動かせるようにしたり、不具合が起きたらすぐにロボットのサポートスタッフが駆けつけたりといった要素も不可欠だ。製品化には、技術力とはまた次元の違うところで多くの課題が出てくる。そうした課題を一つずつつぶしている段階にあるという。中村氏が招聘されたのは、まさにそこが理由だ。

「黒田ではなく、金融機関出身の私がCEOに就任したのは、そういうビジネス的な側面を推進するためでもあります。大学の教員は経営が本分ではないので、あくまでも技術に専念していただき、ビジネスは私が担当する。とはいえ、黒田も研究者でありながらビジネスに対する理解がある分、やりやすいですね」

どんなに優れた技術であっても、先進的な事例であっても、それがきちんと世の中に受け入れられなければ意味がない、というのは黒田氏も同意している点だ。

「まずは製品として形作らなければなりません。バッテリーを抱えて動くものですから、特に大切だと思っているのは電気周り。基本的には人が全く関与しなくても決められた時間に作動するようにしたい。多少の雨にも耐えられる頑丈さ、人にぶつかっても事故を回避できるインターフェース。こうしたものを、がっちりしっかり作れる人材が必要なのです。具体的には、家電の製品開発をしているといった人です」

2017年は試験機を作って手直ししていくフェーズだが、2018年からはクライアントに貸し出してテストも行う。「経験のある、生産技術系の人員も必要です。大量生産は先の話ですが、少量の量産に明るい方がいれば、ぜひその力を生かしてほしい。当社には今のところ、うるさいルールは何もないので(笑)、志として同じ方向を向いてくださる人であれば大丈夫です」

黒田氏いわく、「知る限りでは、アメリカには警備を前面に出した自律型ロボットのベンチャー企業が2社ありますが、日本に競合はいません」と。ヒト型ロボットの研究者やベンチャーの数は多いものの、水中のロボット、無人ドローン、宇宙といった海外でいうと軍事研究に直結するような研究は、日本でははやらないという。日本の研究者のほぼ全員の顔を知っているくらいの、非常に狭い世界だそう。

「だからこそ、日本という狭い範囲で競い合うのではなく、みんなが仲間となって結集しオールジャパンとして協業できる未来を楽しみにしています。その先には世界の仲間たちとも協業して世界のシェアを取りに行く。そんな未来が来てくれたらうれしいですね」

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