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ヘルスケアの未来

ICTによる遠隔診療で、既存の医療システムに風穴を

ポート株式会社

現役の医師を迎えて提供する国内初の遠隔診療プラットホーム

病気やけがをして病院へ行く。そのときに費やされる交通費や往復時間、待ち時間の負担は意外に大きい。重症でも軽症でも病院に行かなければ処方薬は手に入らず、都市部の大病院では最先端医療の追求と医療の細分化が進む一方で、離島やへき地では医師不足が叫ばれ、広い地域を一医療機関がカバーしなければならない、という地理的条件による医療格差はより一層顕著になっているのが現状だ。

こうした「仕方ない」とされる現状に切り込み、国内初の遠隔医療サービスの提供を始めたのがポート株式会社だ。もともとインターネットメディア事業や採用コンサルティング事業を展開しており、新たにポートメディカル事業を立ち上げて遠隔診療に乗り出したのは、2015年11月。同年8月に厚生労働省が遠隔医療を事実上解禁した流れを追い風に、宮崎県日南市と協業で、遠隔診療の実証事業を始めた。

ポートメディカル事業には東京大学医学部の医師らを迎えて、医療研究チームを発足。明確なエビデンスに基づいたサービス提供で、今までになかった新しい医療のあり方を、テクノロジーを駆使して切り開こうとしている。

チームメンバーの一人、園生智弘氏は言う。「2016年7月からこのプロジェクトに関わっていますが、今も救急医として医療現場に携わっています。遠隔診療は、医療における不便や不公平のソリューションとして大いに期待できます。ただし、遠隔診療のマーケットをどう成立させ、広げていくかが課題です」

同氏は現役の救急科専門医であり、臨床現場におけるICT利用をテーマにした研究を数多く手がけている。ポートメディカル事業では、事業開発およびエビデンス構築の臨床研究の推進役として関わっているキーパーソンだ。

園生氏のように医療従事者が、病院からではなく民間企業からの医療イノベーションに取り組む流れは近年顕著だ。だが、今回の遠隔診療は一企業のサービス提供にとどまらず、公共医療サービスとしての普及を目指しており、まさに医療業界の既存構造を抜本的に変えていく取り組みといえる。

学術的エビデンスで、遠隔診療の適正推進を目指す

ヘルスケアアプリは市場に多く出回っているが、それらは生活習慣改善や病院受診を促す「健康増進」あるいは「医療相談」の部類にある。園生氏は医療相談を超えた医療行為、つまり病院を舞台に行われる診察や処方そのものを提供できるサービスとして遠隔診療を広げたいという。だが、対面診療を前提とした診療報酬で成り立っている保険医療では、医療従事者側は遠隔診療を積極的に広めるインセンティブに乏しい。そこで注目したのが地方自治体と患者サイドからの普及だ。

「当社にはすでにインターネットメディア事業を通じて約1,000万人のユーザーがおり、将来的な遠隔診療の利用者として期待できます。また、地方創生事業を通して自治体とのつながりもあります。メディア事業の開発力とテクノロジー、そこに学術研究の視点を組み合わせて、エビデンスに基づいた継続的なサービスを提供できる体制が整っています。これは他社にはない当社の強みです」

実際、自治体にとっても遠隔診療の導入はメリットが多い。医師や医療機関の不足による住民の不満や人口流出を防ぎ、住民の健康維持に貢献、ひいては税収アップも見込める。

では、すでに実証事業が進む日南市の遠隔診療はどうか。「画面越しに対面した医者と対話するということに高齢者の方々が抵抗を感じることなく利用していただけるか正直不安でしたが、ものすごく好評でした。地元の公民館で、看護師が介在してテレビ電話による遠隔診療を行っているのですが、片道2時間かけて病院に行く必要がなく、いつもの先生にお互いの顔を見ながら診てもらえて、薬も配送される。それがわかると、世代にかかわらず受け入れてもらえるようです」

だが、遠隔診療の実証に手応えを感じる一方で、課題も多いという。対面ではないため聴診や触診ができないのは、遠隔診療の弱みだ。その点を懸念する声は医師・患者双方からあがっている。「だからこそ住み分けが必要になってきます」と園生氏は語る。

「例えば、高血圧、高脂血症や糖尿病などの生活習慣病や、精神疾患や花粉症などの軽症アレルギー疾患などは遠隔診療にフィットする代表的なものです。遠隔診療に切り替えても、大まかにいえば診察方法に変化はありません。また、精神疾患は担当医師以外にも時間的・地理的要因を克服してカウンセラーなど多くの方が同時に患者さんの治療に参加できることから、遠隔診療のほうが治療効果が高いとさえ海外の研究では報告されています」

日本では遠隔診療の普及はこれからだが、すでにアメリカやイギリスでは遠隔診療の事例も多く、病状別の有効性もある程度実証されている。日本と海外では保険制度、外来受診の頻度、薬剤処方の制度などに大きな違いがあるため、日本の医療制度の中で安全かつ便利に遠隔診療を行えることのエビデンスを示していくのが重要になる。2016年春にポートで実施したWebアンケート(https://www.theport.jp/news/20161014_1/)によると、遠隔診療という言葉を聞いたことがある、またはどういうものか知っている人は全体の1割程度。そして5割の人が遠隔診療に「抵抗がある」と答えている。知名度や認知度がまだまだ低いのが現状だ。また、園生氏は臨床現場の感覚として、患者が医療に対して求めるものは必ずしも、正確な診断、正確な治療だけではないと語る。

「医療技術や知識が優れていても対応が冷たい医者より、技術、知識が多少劣っていたとしても感情に共鳴できる医者のほうが患者に人気があることは明確です。心身が弱っているときに、人は話を聞いてほしい、寄り添ってほしいと思うものです。未来の医療においてはおそらく、正しい診断や治療を提示する観点ではAIが人間を上回るでしょう。しかし、感情に寄り添うという観点からは、人間の医者は決して不要にはならないと思います。遠隔診療も合理性、利便性を追求するだけではなく、人のセンシティブな感情に配慮した導入を心がけたいところです」と強調する。

IoTを活用して東京女子医科大学と共同研究

このようにいくつかの課題はあるものの、遠隔診療の社会的なニーズは確かにある。ポートでは地域医療現場のみならず、都市部での遠隔診療の安全性や有効性を検証するべく2016年9月に東京女子医科大学との臨床試験をスタートさせた。遠隔診療での高血圧治療が、従来の対面診療と同等または、ケースによっては秀でる可能性があることを実証するのが目的だ。

IoTを活用し、患者が所有するスマートフォンから定期的に血圧測定データがサーバーに送られ、それを基に担当医が定期診察時にチャットやテレビ電話を通じて所見と治療方針を伝え、内服薬を処方する。薬は後日、患者の自宅に郵送されるという仕組みだ。高血圧管理で重要とされる家庭血圧の記録を、従来の血圧手帳への記載から、スマートフォンによるリアルタイムでの記録に変更するようなイメージである。

「遠隔診療プラットホームを使ってもらい、各患者さんの病状に合った適切な医療を提供することがわが社の役割です。そのためにもプロダクトの開発や改良など技術面強化に向けてエンジニアを求めているところです。プロダクトやアプリに蓄積される実臨床の情報そのものにも、医学研究者としてはとても魅力を感じます。

個人的には、今後CTやMRIなどの画像読影はある一定レベルまでは機械で判断できるようになるでしょうし、風邪など問診内容や治療方法もパターン化している疾患においては、遠隔診療サービスとこういった臨床情報をベースにしたAIを組み合わせた診療が導入されてくると思っています。軽症の病気であれば駅などの端末で通勤中に医療を利用できるようなシステムが、技術的にはすでに実現可能でしょう」

「あったらいいな」ではなく「なくてはならない」を創ることをコーポレートミッションとしているポート。遠隔診療もまた、「一部の人のみが使用するツールや一時のブームではなく、3~4年後には保険診療で誰もが利用できるサービスになっていますよ」と、期待ではなく確信をもって、園生氏は爽やかに笑った。

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