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ヘルスケアの未来

広がり続ける薬剤師たちの輪。 KAKEHASHIがつなぐ、テクノロジーと医療体験の未来

株式会社カケハシ

「薬局」や「薬剤師」という言葉を聞いて、どのようなイメージを持つだろうか。おそらく多くの人は「薬を買いに行く場所」「お世話になることはあるが少し遠い存在」と思うだろう。しかし今、全国の薬局、薬剤師を取り巻く環境が少しずつ、しかし確実に変化し始めている。「私たちの生活をもっと健康的で豊かなものにするために、薬局と薬剤師が果たせる役割はもっと大きいはずだ」。その可能性を信じ、この業界に変化をもたらす企業、それが「医療をつなぎ、医療を照らす」というミッションを掲げる株式会社カケハシだ。

「医療と患者さんをつなぐカケハシ」「医療と明るい未来をつなぐカケハシ」になりたいという、中尾豊代表取締役CEOの強い思いから同社が設立されたのは2016年3月。中尾氏は、創業のきっかけについてこう語った。

「薬品メーカーでMR(医薬情報担当者)として、医療機関に自社の製品を売り込む仕事をするなかで、はじめはトップ営業を目指すことを一つのモチベーションにしていました。しかし、いざ営業成績を上げて評価をされたとき、もっと『患者さんのため』にできることがあるのではないかと感じ始めました」

中尾氏の言う「患者さん」とは、既存の枠組みのなかでサポートできる患者のみを指すのではない。その枠組みの外には、自分が助けになれるかもしれない患者がまだいることを知っていたからこそ、中尾氏はその現実から目をそらすことができなかった。

「業界大手の企業に所属していましたし、営業成績も悪くなかったです。実際『安定を捨ててまで、なぜ』というふうに疑問視されることもありました。しかし僕は、チャレンジすることこそが最大のリスクヘッジだと考えています。先月の自分と今の自分が何も変わらないのであれば、その環境にいない方がいい。それは環境に依存してしまっているのと同じで、一つの環境でしか存在価値を発揮できなくなることが一番のリスク。だからこそ僕は成長し続けたい。そして『患者さんのため』に新たな価値を生み出したい。それがKAKEHASHIを創業した理由です」

「無意識の動線」に、薬剤師が介在する価値を

「ヘルスケア領域において、アプリとオウンドメディアというソリューションは最善の手段ではない」と中尾氏は言う。患者さんはアプリを作っても簡単にダウンロードしないし、メディアを作っても毎日見てはくれない。なぜなら、必ずしも全ての人が、常に健康に対して高い意識を持っているわけではないからだ。しかし、体調が悪くなれば無意識に病院に行くし、無意識に近くの薬局に薬を買いに行く。だからこそ、患者の医療体験の「無意識の動線」にサービスを差し込む必要があると中尾氏は考えた。

中尾氏はまず、「患者さんのため」のサービスを考案するにあたって、400名を超える薬剤師へのヒアリングを重ねた。その上で導き出した結論は、薬剤師のポテンシャルが最大限に生かし切れていないということだった。

そうして薬剤師の業務を棚卸ししていくなかで、患者と向き合う時間よりも、書類作成の時間の方が長いということに、中尾氏は気付く。薬剤師は、患者に服薬指導した後、薬歴を記録として残さなければならない。しかし目の前に次の患者がいればその場で入力することができず、長時間の残業が発生してしまう。決して生産性が高い現場とは言えない。そして何より、雑務に追われていては、薬剤師が患者の「無意識の動線」に介在する価値を発揮することができない。

こうした問題を解決するために生まれたサービスが、同社の「Musubi」だ。薬剤師は、患者と一緒にタブレットの画面を見ながら服薬指導を行う。画面上には、患者の疾患・年齢・性別・アレルギー・生活習慣・検査値、さらには過去処方や薬歴に基づいた、一人ひとりに合った指導内容が表示される。タブレットを挟んだ患者と薬剤師のコミュニケーションを通して、患者が自らの健康について考え、理解を深めるきっかけが生まれるのだ。そして、その内容が自動で薬歴として記録されるため、薬剤師の働き方が効率化される。

「薬局は、薬をもらう場所と思われがちですが、そこには薬剤師が患者さんに価値を提供できるチャンスがある。だから作業を効率化することで、患者さんと向き合う時間を作ることができる。現場の薬剤師の負担が減れば、そこから『患者さんのため』に何をするべきか考える時間が生まれ、そこから新しい議論が始まると考えています」

いつしか患者のなかに、「この知識、薬局で教わったな」という気付きが重なっていく。そして、「薬剤師から学ぶ」という文化が定着すれば、薬剤師がそのポテンシャルを最大限に発揮できる社会へと変わっていくだろう。

「患者さんのために」という思いが結んだ薬剤師たちの輪

日本には約58,000もの薬局があり、その数はコンビニよりも多いと言われている。Musubiはリリースから9カ月が経過(2018年5月時点)しているが、既に約8,400店を超える薬局から問い合わせを受けている。驚異的なペースでサービスの導入が進んでいることになるが、KAKEHASHIにはいわゆる「営業」担当はいないという。

「この業界がどんな問題を抱えていて、その問題を抱えているのはなぜなのか。この業界が果たすべき役割、どのように働けば患者さんのためになれるのか。全国の薬剤師と定期的に会ってプレゼンテーションを行っている。それはサービスの機能や値段よりも重要なことで、薬剤師の方たちも僕らを営業担当としては見ていない。何かあったらお互いに相談し合える関係を築いています」

Musubiが全国の薬局に広まっていったのは、「患者さんのため」というKAKEHASHIの思いが、たくさんの薬剤師から共感を得ていった結果だった。薬局のオーナーが、その共感をSNSを通じて発信、さらには、オーナー同士で声をかけ合いイベントを開催することもあるという。「患者さんのため」という思いでつながった仲間の輪は、今もMusubiとともに広がり続けている。

改めて言うまでもないが、中尾氏の決してぶれることのない軸、それは「患者さんのため」であるかどうかだ。中尾氏は、薬局、薬剤師に真摯(しんし)に向き合いヒアリングやプレゼンテーションを重ねながら、常にその先の患者を見ている。だからこそ、同じ思いを持つ者同士がつながることができたのだ。患者に価値を与えるためには、薬剤師が最大限にポテンシャルを発揮しなければならない。人が介在することの価値を、決して無駄にしてはならない。そのビジョンの実現のために、KAKEHASHIは今日も奔走する。

医療分野におけるテクノロジー利用の可能性

「医療をつなぎ、医療を照らす」というミッションを掲げるKAKEHASHIには、まだまだ挑戦しなければならないテーマがあるという。例えば、残薬の問題だ。処方されたものの飲まれないまま患者の家にたまってしまっている薬が多く、その金額は非常に膨大であるという。飲み忘れているのか、飲むのが嫌いなのか、そもそも飲む必要がないのか。この問題を解決できるのも薬剤師であり、ただ薬を受け渡すだけでなく、患者と薬剤師がインタラクティブなコミュニケーションを取るための仕組みを作ることが必要だ。

患者がお薬手帳を忘れてしまった場合、これまで服用していた薬のチェックが物理的に不可能となり、飲み合わせの悪い薬を服用することで患者の症状が悪化してしまうという問題もある。現在、お薬手帳の電子化の動きが進んでいるが、将来的にはMusubiとの連携も考えられる。薬剤師は、薬を患者に渡す際に副作用が出る可能性を伝えるが、現状では、実際にどうであったかは患者にしか分からない。しかし、Musubiと連携したアプリを通して、服薬のタイミングで「どうでしたか」とヒアリングすることで、患者からの生の情報を得ることができる。薬局を通してだけでなく、日常生活と結びついたコミュニケーションによって、患者の健康と安全を守ることができるのだ。

また、クラウドには多くの貴重なデータが集まる。これを生かして、どの薬が効くのか、どの薬で副作用が発生しやすいのかを大学等の研究機関と連携して検証し、今までになかった医学的インサイトを提供することも目指していきたいという。KAKEHASHIが向き合っている医療の分野には、無限の可能性があると言えるだろう。

成長を続けるKAKEHASHIとはどんな組織で、どんな人が集まっているのだろうか。中尾氏は次のように語る。

「薬局での医療体験、そして患者さんの医療体験全体を変えたい、という同じ思いを持った人たちが集まっています。新たな事業を作りたい人にはぜひ一緒に挑戦してほしいです。もし、MR時代の僕と同じように悩んでいる人がいたら、その人にとってこの会社はその悩みを解決して成長できる場所だと言えます。目の前の数字だけでなく、本当に『患者さんのため』になっているか。『意味のあることをしよう』というテーマは、社員全員が共有しています」

薬局や薬剤師のイメージ、そして果たすことのできる役割は、既に変化しつつある。そしてこれから、薬局体験だけではなく、医療体験も少しずつ変わっていくだろう。それらの変化は全て「患者さんのため」だ。2016年3月の創業から、わずか2年。KAKEHASHIの挑戦はまだ始まったばかりだ。

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