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ヘルスケアの未来

「次世代までも持続可能な医療の在り方をテクノロジーで支える」。医療現場を知るチームだからこそ実現される、高齢社会への挑戦

株式会社インテグリティ・ヘルスケア

医療現場の困った!を払拭するサービスを

医師の診察を受けるとき、自分の症状を正確に伝えられず、もどかしい思いをした経験がある人は多いだろう。自身の体調をきちんと伝えきれなかったり、前回の診察からさまざまな症状の変化がありながらも、忙しそうな医師を目の前にすると「いいときも、悪いときもありました」といった言葉にしかならず、同じ薬を処方されるも改善した感覚が得られなかったりすることは、多くの通院者が抱えている悩みの一つだ。

適切な診断、適切な治療への第一歩は、患者の状態を正しく知ることだと広く認識されている一方で、患者側は自分が伝えたいことを伝えきれず、医師側も十分な診察時間の確保が難しいことから知りたいことが聞き取れない。こうした医療の現状は、医師の能力を十分に生かすことができないという点でも課題だ。さらに医療従事者が足りない場所での医療は、志のある医師が業務過多に陥りつつも、かろうじて「思い」を支えに継続している現状もある。

「ヘルスケア×テクノロジー」、いわゆるヘルステック領域にも注目が集まる昨今だが、「患者と医師がビデオチャット機能で話せるといったツールはごく当たり前のものになる。私たちが考えるヘルステックの本質とは、技術以上に、患者と医師との関係や医療そのものを変えていくことだと考えています」

そう語るのは、株式会社インテグリティ・ヘルスケアの武藤真祐代表取締役会長だ。現役の医師でもある武藤氏は、東京大学医学部附属病院、社会福祉法人三井記念病院で循環器内科に従事した後、宮内庁で侍医を務めた経験を持つ。その後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2010年に医療法人社団鉄祐会を設立。厚生労働省情報政策参与も務めている。

武藤氏が医師になることを志したのは6歳のとき。野口英世博士の功績を知ったことがきっかけだった。

「自分の人生を社会のために使うのはすごいことだと感動しました。しかし、いざ念願の医師になった後、それだけでは解決できない課題がたくさんあることが分かってきました。そこでマッキンゼーに入社し、課題解決の方法を学ぶことにしたのです」

創業のパートナーである園田愛代表取締役社長と出会ったのは、マッキンゼー在職時代だ。園田氏は株式会社リクルートホールディングスの事業開発室で、ヘルスケア関連事業に携わっていた。「実は、武藤とは起業1年前の2008年にも、一緒に組織を作っているんです」と園田氏は振り返る。

お互いに「医療をよくしたい」という思いがあったものの、武藤氏も園田氏も大きな組織の中で、「人生を懸けていくものが見えない状態」だった。そこで両氏は「医療をよくしたい」と願う人が志やリーダーシップについて情報共有し、切磋琢磨(せっさたくま)する場として、NPO法人「ヘルスケアリーダーシップ研究会(IHL)」を設立する。

こうしてビジネスパートナーとして関係を深めていた2人だが、あるとき、園田氏が「いずれ会社を退職し、人を切り口とした医療機関をサポートするビジネスを始める」と武藤氏に明かしたという。それに呼応するように、武藤氏は思い描いていた在宅医療を軸とするビジネスプランを話し始めた。

「武藤がやりたい事業の構想の中に、私がやりたい事業をビルトインできることが分かりました。話をした翌日に、会社に辞表を出しました」

ICTで患者と医師それぞれの力を引き出す

武藤氏が会長を務めるインテグリティ・ヘルスケアは、医療法人社団鉄祐会を中心としたTETSUYUグループの一員として「新しい医療システムの創造」を掲げている。具体的に同社が解決したい課題は2つあるという。

まず、患者が持っている潜在的な力を引き出す仕組み作りだ。例えば高齢になってかかりつけ医との関係が生まれても、「調子が悪くなった」「薬がなくなりそうだ」ということを機に通院する人が多数で、医療に対して積極的な姿勢をとる人は決して多くない。こうした現状を仕組みから解決することで、予防医療の価値観を広めていきたいという。もう1つが、短い診療時間の中で自分の本当の症状を医師に伝えることができる人は少ないことを、ICT(情報通信技術)を使って改善する動きだ。

「僕らが目指すのはICTを使い、適切に働きかけることによって、患者と医師それぞれの、本来の力を引き出すことです。そのうえで患者と医師の関係をリデザインしていきたいのです」と武藤氏は語る。そして、こうした課題解決の試みの1つがインテグリティ・ヘルスケアの提供しているオンライン診療システム「YaDoc(ヤードック)」だ。心の距離が近く親密な関係で交わされる「やあ」というあいさつから命名したという。医師と患者の距離もそうであってほしいという願いを込めた。

YaDocは従来の医療現場とは一線を画すユーザー体験を実現している。例えば外来診療なら、患者は待合室でタブレットを渡される。そこにはあらかじめ疾患や症状に応じた問診項目が設定されており、自分のペースで回答していく。これが問診に代わる。回答はリアルタイムで医師側の端末の画面に反映され、過去の回答内容や診察データと比較できる。医師は診察前に状況を把握し、必要な場合は治療方針を検討できるようになる。よりきめ細やかな経過観察も実現できるのだ。

また、高齢や身体機能の低下により通院が困難であったり、多忙のため頻繁に通院することが難しかったりする患者には、オンライン診察という選択肢もある。2018年度の診療報酬改定では、遠隔診療に対する報酬制度の期待も高まっている。こうした動きもある中、2017年4月から、福岡市と福岡市医師会による「ICTを活用した『かかりつけ医』機能強化事業」にてYaDoc(ヤードック)を提供し、事業の普及に向けた検証を始めている。

テクノロジーに強いスタートアップは、業界の既存構造にイノベーションをもたらす際に「破壊的」とも感じられる変化をもたらす企業も少なくない。それに対し、医師であるとともに、「第7回未来投資会議」にてオンライン診療を含むICTについての未来に提言を行うなど、国の政策にも関わっている武藤氏の考え方は「新旧のいいとこ取り」だ。

「公的医療という偉大な社会インフラを変えていく必要がある時代、いかに新しい価値を過去のものに融合させていくか。既存のプレーヤーの方々の理解を得ながら、そこはていねいに進めています。福岡市と福岡市医師会にとって、オンライン診療を提供している企業とのコラボレーションは当社が初めてです。こうした実績を積み重ね、医療という社会インフラをより良い形に育てていきたい。ほかの自治体からもYaDocへの問い合わせが増えており、確かな手応えを感じています」

実現したいのは「タブレット入力すら不要」な世界

高齢先進国とも称される日本。テクノロジーの進化や規制緩和などがあいまって、社会は目まぐるしく変化している。今後、医療はどんなふうに変わっていくべきなのだろうか。武藤氏は健康寿命の重要性について語る。

「私は医師だからとりわけそう思うのかもしれませんが、『心身ともに健康である』ことは、誰もが望んでいます。しかも、客観的に見て必ず100%健康でなければならない、ということではなく、重病であっても高齢であっても、その人の中で『健康』な状態でいられることをみんなが望んでいる。それならばそんな世界を、本当に実現したいと思っています」

また、園田氏は「何も意識せずとも、ごく自然に医療サポートが実現できる世界を作りたい」と話す。

「診察で医師から受けたアドバイスを実行する、薬をちゃんと飲む、といった生活そのものが治療であり療養です。治療や療養は生活の中に自然にあるべきなので、技術やテクノロジーの力で、もっとサポートできないだろうかと考えています。さきほど武藤が話したようなタブレット端末を手にすることすらなくなる、それが医療の生活への寄り添い方なのではないかと思います」

近い将来、「昔は待合室でタブレットに病状を入力していたし、もっと前は診察室で先生に一から十まで病状を説明していたよ。他の患者さんもいるから全然時間が足りなかったなあ。今は家でも先生に伝えたいことは、自然と伝わるようになっているね。日頃は自分で症状に気付かないけど、良く分かってくれていて安心だね」と振り返るような時代が来るかもしれない。当然、乗り越えるべき壁は高い。「だからこそ、医療に対する情熱を持っている人に、この会社に加わってほしいのです」と武藤氏は強く訴える。

「まだ存在しない市場を創造することが求められるため、医療に対する強い思いや危機意識がある方ほど、ワクワクする仕事ができるはずです。会社の雰囲気は和気あいあいとしていますが、個々人の能力は素晴らしく高い。それぞれがプロフェッショナルであることを認め合い、挑戦する風土が根付いています。まだ十数名の組織ですが、2017年内には30名まで社員が増える見込みです。一人一人が発揮できる強さの総和が、会社の強さになると考えれば、この先会社がどこまで成長できるのか、世の中にインパクトを残せるのか。すごく楽しみで仕方ないですね」

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