探そう、まだ見ぬ未来を。

ヘルスケアの未来

「医師が処方する治療アプリ」で医療にイノベーションを

株式会社キュア・アップ

アプリによる「モバイルヘルス」でニコチン依存症や肝疾患を治療

パソコンやスマートフォン、タブレット端末などの普及によるIoT化の波は、いまや世界的かつ全産業規模で広がっている。このトレンドは、医療の世界においても同様だ。スマートフォンなどの携帯端末を利用して行う医療行為や診療サポート行為は「モバイルヘルス」、海外では「mHealth(エム・ヘルス)」とも呼ばれている。

欧米では、先駆的な「モバイルヘルス企業」が複数あり、たとえば心臓病や糖尿病などの治療にモバイルヘルスが用いられている。なかには、その治療効果の高さから、FDA(アメリカ食品医薬品局)の承認を得て、市場で販売されたり、保険償還の対象になっていたりするものもある。

21世紀の医療にパラダイムシフトをもたらすかもしれない「モバイルヘルス」。その日本におけるトップランナーともいうべきスタートアップが株式会社キュア・アップだ。同社が開発しているのは、疾患治療に用いる治療用ソフトウエア。そのコンセプトについて、医師でもある佐竹晃太代表取締役社長は次のように解説する。

「弊社の開発する『治療アプリ』は、医師から得られた医学データや、患者様が自らスマートフォンに入力した日々のログなどをもとに、アプリのシステム自体が独自に解析処理を行い、医学的なエビデンス(科学的根拠)に基づいたガイダンスを提供します。しかもそのガイダンスは画一的なものではなく、患者様個々の病気の状態や日々の体調がパーソナライズされたものであり、かつリアルタイムに、必要な時にいつでも発信されるのです」

このような治療アプリは、どのような価値を提供するのだろうか? たとえばニコチン依存症の治療の場合、一般的に2週間から1カ月に1回程度、病院や診療所を訪れ、医師の診察や治療、禁煙指導などを受ける。このため患者は、自分ひとりで、診療以外の院外・在宅での長時間を苦しい離脱症状やニコチン依存と闘わなければならない。結果的には、禁煙外来での薬物療法の治療成果は低い。3カ月の治療を受けて1年後も禁煙を維持できている人は、全体の3割にも至らず、治療を受けた患者の7割以上が、禁煙に失敗しているのが現状だ。しかし、ここに治療アプリが入ることで、ニコチン依存症の治療効果向上が期待できると佐竹氏は指摘する。

「ほかにも、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)という肝臓の生活習慣病があります。この病気は、そのまま放置すると、肝硬変や肝がんなど、致命的な病気に至るものです。しかし、糖尿病や高血圧などほかの生活習慣病と違い、現時点では治療薬が存在しません。このためNASHに対しては、食事の制限や運動の励行など、患者様自身による生活習慣の改善しか、有効な治療法がないのです。そこで、治療アプリを用いることで、肝臓の病状改善に特化した形の、生活習慣改善を行っていただくことができるのです」

東京大学医学部や慶應義塾大学医学部と共同で進められる臨床研究

佐竹氏は、これら治療アプリの最大の特長と優位性は、医療の専門家である医師が自ら開発している点にあると言う。

「治療アプリ自体はソフトウエアですが、その根底にある考え方や実際のアルゴリズムは、医学的なエビデンスに基づいています。こうしたコアの部分が、一般的なヘルスケアアプリと、弊社が提供する治療アプリとの決定的な違いです」

佐竹氏と同じく医師としての顔も持つ鈴木晋CTOも、「一般的なビジネスとは異なり、弊社におけるKPI(Key Performance Indicators:重要業績評価指標)は、治療効果であると断言できます。ここが、他社とは圧倒的に違うところですね。このため、治療効果のないものを上市することはありません」と話す。これらの治療アプリは大学病院などの臨床研究で学術的な評価を受けており、実際に効果があるものとして認められているという。

現在、株式会社キュア・アップでは、2つの治療アプリの研究・開発を進めている。ニコチン依存症治療アプリは慶應義塾大学医学部呼吸器内科学教室との共同開発、NASH治療アプリは東京大学医学部付属病院消化器内科との共同研究だ。いずれも医師が患者にアプリを処方し、それがひとりひとりの患者に最適化されたガイダンスを行うことで、ニコチン依存症やNASHの病態の改善と生命予後に資することができると期待されている。

大学病院との共同による治療アプリの臨床研究は、2017年春には終了し、次のステップである薬事承認に向けた「治験」に入る。その後、1年半程度で治験が終わり、おおよそ2年〜2年半後には、これらの治療アプリが薬事承認され、病気で苦しんでいる患者のもとに届けられる予定だという。

薬物治療や手術に次ぐ、第三の治療となる可能性

今、日本は、これまで世界中のどの国も経験したことのない少子高齢化という大きな社会変革に直面している。その波は医療の世界にも否応なく変化を要求してくる。こうした中、株式会社キュア・アップの提供する治療アプリは、どのように日本の医療を変えるのだろうか? 佐竹氏は次のように語る。

「従来の医療には、薬理的な作用から病気を治す『薬による治療』と、手術に代表されるような『機器による治療』の2つがありました。しかし、それでも治すことのできない病気が、世界には数多くあります。先にお話ししたニコチン依存症やNASHは、これら従来の治療法で治すことが難しい病気の一例です。あるいは今後、日本で患者やその予備軍が急増しそうな糖尿病についても、治す薬はあっても、実際の治療では患者様の約4割が治療を中断しているという報告があります。そこで、ソフトウエアを使った第三の治療が、患者様の行動変容、依存症や心理的な病気からの脱却を促すツールとして使われ、これまで治すことのできなかった病気も克服できるようになるでしょう」

加えて鈴木氏は、同社が治療アプリ開発のスタートアップとしてトップを走り続けるために求める人材像について、「医療だからといって、構えてほしくない」と強調する。

「アプリケーションを作るというところで、特にエンジニアの皆さんの誤解を解いておきたいのは、医療というものに対する先入観、フィルターを排してほしいということです。積極的に新しいテクノロジーを採用し、新しい未来を作っていこうというのが弊社のスタンス。医療関係に限らず、生かせる経験やスキルは数多くあります。だからこそ『医療は専門性が高そう』だとか『自分の経験と親和性がなさそう』と考えず、まずは一度興味を持つところから始めていただきたいと思っています」

「医師が処方する治療アプリ」の開発を進める株式会社キュア・アップは、日本における治療アプリの薬事承認はもとより、今後は海外での事業展開も進めていく予定であり、将来的には同社治療アプリのFDAによる承認も視野に入れているという。近い将来、病院に行くと医師から、「あなたの病気の治療には、お薬と一緒にアプリを処方しましょう」と言われる日がやってくるのかもしれない。

■プロフィール
株式会社キュア・アップ
創業者 代表取締役社長 医師
佐竹晃太
1982年生まれ。慶應義塾大学医学部卒。2007年から2012年まで日本赤十字社医療センターなどで呼吸器内科医として勤務の後、上海の中欧国際工商学院(CEIBS)へ留学し、経営学修士(MBA)を取得。その後、米ジョンズ・ホプキンス大学に留学し、医療インフォマティクスを専攻、公衆衛生学修士号(MPH)を取得する。2014年に帰国し、株式会社キュア・アップを創業。

取締役 最高開発責任者 医師
鈴木晋
1986年生まれ、慶應義塾大学医学部卒。東京大学医科学研究所にてバイオインフォマティクス分野データ解析に従事した後、2012年より研修医としてがん研有明病院勤務。2013年、自身が開発に参加したアプリケーション「かすたねっと」が人工知能学会現場イノベーション賞金賞受賞。2014年より東北大学生物情報学博士課程に在籍。

LATEST POST