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ヘルスケアの未来

日本の医療サービスを最適化する、医療版ミシュランガイドを

株式会社クリンタル

日本の受動的な病院選びに一石を投じるサービス

「レストランや不動産を選ぶときには、本やインターネットなどを駆使して必死に情報を収集するでしょう。でも、病気に侵されたり、けがを負ったりしても、近くの病院に足を運ぶだけで、かかる医者のことを調べる習慣がほとんどありません。これって不思議なことですよね」。そう疑問を投げかけるのは、株式会社クリンタルの杉田玲夢社長だ。

日本には自分がかかる医者や医療機関について調べるという習慣があまりない。大学病院でも小さな診療所でも、受けられるサービスの品質と診療費は大きな差はないためだ。これは日本が持つ医療サービスの充実ぶりが招いた、一種の弊害であると杉田氏は語る。欧米諸国では医者の技術レベルや実績に応じて、診療費が大幅に変わることも珍しくないという。費用とリスク、これらを天秤にかけて考える機会が身近に存在しているため、自分の病気やけがをどの医者に診てもらうかは慎重に判断する。「そういう意味では、日本の患者は極めて受動的です。それが本当に正しい形なのか。その違和感がサービスの原点になっています」

自分にあった「名医」を見つけ出せるWebサービス

同社が運営するのは、専門医が選定した、各疾患における「名医」の情報を提供するWebサービス「クリンタル」。「臨床・技術」、「学術・知識」、「受診しやすさ」の各項目をスコア化し、点数上位の医師を「名医」として登録している。利用者は無料で名医を検索できる。また、自身や家族に最適な名医を提案してもらうことができる有料サービスも展開している。

特徴的なのは、「名医」の選出にあたって手術数や専門医資格の有無、論文発表本数などの客観的データのほか、当該医師と同じ診療科の専門医による業界内での評判なども反映させた評価を行っている点だ。客観データを基礎にすることで口コミサイトにありがちな評価のブラックボックス化を防ぐと同時に、業界内での評判など定性的データを組み合わせ、すでに臨床現場を離れた医師などを除外できるようにした。これにより、患者にとっての「名医」であることを担保しているというわけだ。現在ベータ版として公開している同サービスでは、16診療科の89疾患について、907人が名医として登録されている(2016年1月現在)

医者でも探し出せない「名医」を、誰もが探せるようにする

現役医師でもある杉田氏の起業は、ごくプライベートな問題からはじまった。「親が網膜剥離になって、病院探しに苦労したんです。網膜剥離の治療で一番実績のある、ベストな医師の治療を受けさせたい。そう思ったとき意外にも、眼科医である自分自身もどの先生に頼んだらいいのかわからなかったんです。医師でない一般の人なら、なおさら悩むだろうと、その時に気付きました」

このことがきっかけとなり、次第に日本の医療や病院のありかたについても考えるようになったという杉田氏。その後、コンサルティングファームへと活躍の場を移して、病院経営のアドバイスを手がけるようになる。そこで見えてきたのは患者や医師の奪い合いで疲弊する、地域の医療現場だった。同一地域に同一診療科が乱立し、効率的な診療ができなくなっていたのだ。

「総合病院はみな、『この地域の患者は自分たちが守るんだ』という熱い思いにあふれています。そのため、どの病院も膨大な労力を割いて専門医を呼び寄せ、診療できる科目を増やすんです。その考え自体は素晴らしいことですが、マイナスに働くこともあります。例えば、1つの地域に3つの病院があり、それぞれの病院に1人ずつ心臓外科医が在籍しているとします。実は、心臓外科の手術には医師が3人そろっていないと実施できないものもあります。そのような手術のたびに、遠い出身大学の医局からヘルプの医師を呼ぶようなことになります。これは圧倒的に非効率的で、患者さんのためになりません。しかし、そうした医療現場の現状が、今の日本にはあります」

そこで杉田氏が考えたのが、病院ごとに得意な診療科をつくり互いに補完しあうことが可能になる仕組みであり、その第一歩が「クリンタル」だった。

医者でも探し出せなかった「名医」を、誰もが探せる世の中に

「患者さんは、いわゆる名医がいる病院に向かう傾向がある。そこで、医療版ミシュランガイドのようなサービスをつくって医師の情報を公開すれば患者さんの動きが加速して、各病院に得意診療科ができ、ひいては医療サービスの最適化に貢献できると考えたんです」

同サービスの目指す「医療の最適化」は、患者個人の医療体験だけに向けたものではない。「調査によると、経験豊富な名医の手がける患者は合併症などのリスクが少なく、入院日数が短くなることがわかりました。10%から20%ほどの期間短縮となります。疾患ごとに適した名医が担当すれば、国全体で数千億円の医療費削減が見込まれます」と、日本の課題である医療費削減への貢献をも見据える。国全体の医療費削減まで視野に入れるクリンタル。サービス認知向上のため、まずは健康・生命保険との連携を図りたいという。

杉田氏にサービスの将来像を問うと「良心的なサービスにしたい。医療者出身として、『患者さんのために』という軸は絶対にブレることなくやっていきます」と笑顔を見せた。

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