探そう、まだ見ぬ未来を。

FinTechの未来

個人投資家の意思決定をAIでサポートする

株式会社 xenodata lab.

膨大な決算報告書の分析をAIで完全自動化

広尾と恵比寿の中間あたり、静かな住宅街にたたずむ一軒家が株式会社xenodata lab.のオフィスだ。以前は六本木の国立新美術館のそばにある雑居ビルの一室がオフィスだった。「そこより、いまは広くなり、とても快適です」と笑うのはxenodata lab.の関洋二郎代表取締役社長。

関氏は慶應義塾大学商学部在学中に公認会計士の資格を取得。在学中よりあらた監査法人(現PwCあらた有限責任監査法人)で公認会計士業務やIT統制に従事。卒業後、2012年に株式会社ユーザベースに入社。アジア最大級ビジネスプラットフォームの事業開発部責任者を務めた。

その後独立し、2016年2月に財務分析用AI開発を事業とするxenodata lab.を立ち上げた。個人投資家向けの、AIによる自動生成決算分析レポート「xenoFlash(ゼノ・フラッシュ)」を事業の軸としている。公認会計士の資格を取得しているにもかかわらず、安定が見込める会計事務所ではなくITベンチャーを起業したのはなぜなのか。関氏はあっけらかんとした調子で言う。

「会計士として監査やコンサルを一生の仕事とする、ということは1秒も考えなかったですね。会計士の資格を取ったのは、経営知識を身につけて起業するためでした。ただ、結果として会計士の資格を取得する際の知識がいまの事業に生きているわけですから面白いものです」

会計士の資格を取ったころは、いまほど「Fintech」というキーワードが大きく取り上げられていることはなかったという。「正直、Fintechがこれほど来るとはまったく思っていませんでした。ただ、会計士をやっているときに、この業界はテクノロジーが行き届いていないと感じたので、業界をテクノロジーで便利にするということは、伸びしろがあるとは思っていました」

現在はxenodata lab.がターゲットとする証券会社や金融機関が相次いでFintechに取り組みだしており、その追い風に乗り、順調に売り上げを伸ばしている。「事業が爆発的に拡大する発射台の一歩手前にいる」ことを実感しているという関氏。それでも、起業するときはFintechという世の中の潮流に乗っていこうとしたのではないのだという。

「アナリストや個人投資家など、いろいろな人が企業の決算短信を読んで株価の分析をしているいまを、テクノロジーで変えようというのがxenodata lab.のスタートでしたが、Fintechというトレンドは意識していませんでした。設立間もない僕たちのプロダクトを導入してもらうためには、トレンド以上に、大幅に期待を超えるプロダクトを作らないといけません。Fintech ブームが追い風で検討していただける企業が多くなったのは事実ですが、これを一過性にしないことが大切だと感じています」

いいプロダクトを作る自信はあった。でも、いいものであっても売れない、という世界が怖かった。それが起業での一番の不安だったが、Fintechの追い風もあり、確かな手ごたえを感じている。起業して1年が過ぎたいま、オフィスの窓から見える景色が違って見えるのは、移転したことだけが理由ではないようだ。

膨大な情報を一言に集約することで、市場のニーズに応える

その、xenodata lab.は具体的にどんな事業を展開しているのだろうか。「いま展開している僕たちのプロダクト、xenoFlashは、企業の決算情報……例えば、決算説明会資料や決算短信、有価証券報告書などを収集し、数値データや文書データを、利用しやすいようにビジュアル化したレポートとしてアウトプットしています」

企業の決算情報は、企業のホームページや証券会社、金融機関などからも自由に閲覧することが可能だ。しかし、企業ごとに数百ページにも及ぶ決算報告書があり、それらを全て閲覧・把握することは容易ではない。従来は、ロイターの記者やブルームバーグの記者などが、大手株100社から200社くらいを選び、分析していた。それをxenoFlashは中小型株を含む全上場企業約3,600社を、決算情報に含まれる自然言語も含めて分析し、要点をまとめてビジュアル化されたレポートで提供した。もちろん、企業から決算が発表されると瞬時にレポートで見ることができる。

「マニアックな部分ではセグメント情報、要するに内訳ですね。内訳情報もxenoFlashではピックアップできます。投資情報の世界では大手証券会社でさえ、決算が発表されるとアシスタントたちが都度手入力していました。それをxenoFlashではセグメント情報等の自動データ化をするだけでなく、なぜ、減益したのかということなどのセグメント業績の背景の解説までします」

また、証券会社が独自コンテンツとして記載している決算コメントも、弊社のAIを使えば文章としても自動で提供できる。アナリストはこの分析に要していた時間を短縮することで、もっと高度な分析に着手することができるようになるという。

「ゆくゆくは、いろいろな人が弊社のAIを活用して、好きな形式で分析情報を作れたり、手間がかかっていたことを簡単にすませられたりする世界を目指しています」

xenoFlashが誕生することとなったのは、関氏が前職で財務データベース事業に関わっていたことが関係する。

「既存の財務データベースサービスでは原本財務データやヒストリカル株主データなど、膨大な情報をデータベース化しているのですが、クライアントからは『それで、結局この企業はなぜ減益しているのか』という分析情報を求められることがあってもそのニーズには答えられないことが多くありました。これらのやり取りの過程で、クライアントにとって膨大かつ詳細なファクトベースのデータももちろん大事ではありますが、『少量のインサイト』でも良いからファクトの背景となる分析情報も求めていると確信できました」

「少量のインサイト」にこそニーズがある。多くのデータからインサイトを導くことは専門家でさえ手間と時間がかかるし、そうではない人からするとそもそもたどり着けない。関氏はこの「少量のインサイト」を、AIを活用し、数字データと自然言語処理を組み合わせることで実現した。

既にxenoFlashは大手ネット証券への導入が決定している。そのユーザーはいままで速報レベルや数字でしか見ることができなかった情報をより詳しく、しかもわかりやすいレポートつきでで見ることができるようになる。

「証券会社のアナリストの投資情報はどんなに多くても主要な500社くらいしかフォローしていません。残りの80%の企業については情報がないのが実情です。しかし、決して大企業ではなくとも、ニュースで見て気になって情報を見たいということもあると思います。そんな個人投資家には便利に使っていただけると思います」

今後はより多くの証券会社への導入を狙っている。さらに、xenoFlashの技術を応用したサービス、xenoDigestのリリースも予定している。これは、xenoFlashのようにグラフで表現するものではなく、決算分析文章を文字でアウトプットするプロダクトだ。これにより、証券会社の企業調査部、経済を扱うWebメディア等で数行のコメントを決算分析記事として配信できるようになるなど、活用方法は広がりを見せている。

未来を分析することでベンチャーにもメリットが

まだ、創業1年を経過したばかりのxenodata lab.だが、未来のビジョンは非常に明確だ。

「分析には“過去の分析”と“未来の分析”がありますよね。過去の分析はxenoFlashで実現しました。でも、皆さんが知りたいのは“未来の分析”のはずです。今後、この企業はどうなるのか? それを論理立てて説明できる情報を提供したいと考えています」

この未来予知をほうふつさせるプロダクトの開発は2017年からスタートさせ、翌年にはリリースする予定なのだそう。企業の未来の価値をAIが予測する。個人投資家には朗報だろう。

しかし、関氏はやみくもに個人投資家を増やすことは目的ではないという。あくまでも現在、株投資をしている個人投資家から「このサービスはすごく便利だね」と言われることが目的なのだ。投資家の裾野を広げるだけではなく、自分たちのミッション「テクノロジーの力で、5年後の当たり前を提案する」の実現が目指すことなのだ。では、xenodata lab.にとって「5年後の当たり前」とは何か。

「5年後には、xenoFlashでなくとも金融業界の分析業務はAIで自動化されているのが当たり前になっているでしょう。情報を整理して、収集して、分析して、意思決定する。その意思決定の手前まではAIが処理する。でも、僕は最後の意思決定は人間がやるものだと思っています。そういう点では、人間の役割はAIに取って代わられることはありません。意思決定は人間のやるクリエーティブな領域です。だから、僕はロボ・アドバイザーを作って自動投資のようなものを実現させるという発想にはなりませんでした。僕たちは“黄金のつるはし”と言っていますが、意思決定者である人間に役立つ黄金のつるはしになるビジネスをやっていきたいと思っています」

xenodata lab.の数値データと文書データを分析する技術は、法律分野や医療分野、他にもさまざまな分野でも応用できるのではないかと尋ねると、それは現在、あえて考えていないという。

「少なくともあと10年くらいは金融業界でと考えています。もちろん、僕たちの技術で分野を広げるのは可能だと思いますが、いまから法律や医療に中途半端に取り組むより、まず、この業界で勝ちに行くことを考えています」

まずは堅実に事業を伸ばしていくことを軸に置いている関氏。そして、xenodata lab.がもたらす恩恵は、個人投資家だけにとどまらないというのが、関氏の考えだ。

「どういう企業に投資したらいい、という意思決定までのプロセスが効率化されることで、『今後、このAという企業が伸びるかもしれない』とわかることも出てくるでしょう。知名度もなく、注目されていない企業には誰も投資はしません。銀行から融資を受けることも難しかった、それでも素晴らしい伸びしろのある企業が僕たちのプロダクトで理由と共にピックアップされることで、世界中から投資を受けられるようになるかもしれません。それこそ僕が思い描いている世界観です」

個人投資家だけにメリットがあるのではなく、埋もれている会社にもメリットが生じる。知名度が低い企業ゆえにプロのアナリストの評価は低くとも、掘り起こされることで知名度のない企業に資金が回るようになるようなプロダクトに育てるのが夢だという。そこには資金調達で苦労した関氏の思いも重なる。

「僕たちは金融業界の“脳”になりたいと思っています。どこにどれくらい投資すべきなのか、それをちゃんとサジェストできる“脳”を作っていけたらと考えています」

創業1年というアーリーステージに立ち、夢を膨らませ続けているxenodata lab.だが、市場の期待度などからも、さらなる飛躍を遂げることは間違いないだろう。「次のオフィス移転では、もっと大きなオフィスビルに」と考えている。そのとき、眼下に広がる光景は、もっと違ったものに見えることだろう。

LATEST POST