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FinTechの未来

海外送金の手数料を極限まで圧縮するサービスで世界を席巻

トランスファーワイズ・ジャパン株式会社

隠れコストのない明瞭で割安な手数料体系

経済のグローバル化が進む一方で、金融取引や決済などに関わる手数料も引き下げ競争が活発化してきた。だが、こうした流れの中でポツンと取り残されてきたのが海外送金の手数料だ。

その点に着目し、まったく新たなビジネスを立ち上げたのが、英国を本拠とするTransferWiseだ。明瞭で割安なコストによる海外送金サービスを提供し、全世界における累計利用者は2016年9月時点で100万人を突破している。当初は英国とヨーロッパ間におけるサービスだったが、2015年にはアメリカとオーストラリア、2016年にはカナダ、ブラジル、中国、シンガポールなどにも対象を拡大し、約645の送金ルートを提供。日本円を含む38の通貨を取り扱っている。

2016年9月には、トランスファーワイズ・ジャパン株式会社が日本国内で本格的なサービスをスタートさせた。越智一真代表取締役は、次のように説明する。

「海外送金に関わる不透明な手数料体系を排除することで、一般的な銀行などと比較して、平均で3分の1という安価な手数料を実現しています。現在、全世界におけるTransferWiseを通じた月間合計送金額は約8億ポンド(約1,100億円、2016年9月時点)で、お客様全体で1日あたり100万ポンド(約1億4000万円、2016年9月時点)の送金コストを節約している計算になります」

越智氏が「不透明」と表現したように、従来の海外送金に関わるコストには、ある種の巧妙な仕掛けが隠されていた。海外旅行で外貨両替を行ったことのある人なら、すぐにピンとくるだろうが、例えば米ドル円の実勢為替レート(仲値)が111円の場合、円を米ドルに両替するレートが、110円、米ドルを円に戻す際のレートは112円と両替業者の手数料(スプレッド)が上乗せになっているケースが多い。この例では、外貨両替の手数料として「円→米ドル→円」の往復で1ドルにつき2円の手数料が設けられている。

無論、それを負担するのは外貨両替の利用者であり、自国の通貨を他の国の通貨に替えることになる海外送金でも同様だ。しかも、海外送金手数料が別途設定されているケースも少なくなく、決して軽視できない負担となっているのが実情である。また、送金手数料を安く提示し、両替手数料については詳しく説明していないことが大半だ。銀行送金の場合、送金後に、中継銀行手数料や、被仕向銀行手数料が追加で課金されることもある。

「TransferWiseでは、為替手数料などが上乗せされていない本来の為替レートである仲値を適用し、1時間に9回の頻度で最新のレートに更新しています。そして、原則、日本から海外への送金では送金額の1%を外付けの手数料として頂戴しています。手数料が安いことは当たり前ですが、お客様は、弊社の手数料が簡単に把握できるようになっております」

SkypeでもおなじみのP2Pを活用

TransferWiseはターベット・ヒンリクス氏とクリスト・カールマン氏という2人のエストニア人によって2010年に設立された。創業のヒントは彼ら自身の実体験にあった。当時、ロンドンで働いていたヒンリクス氏の給与はユーロ建てで支払われていた。同じくカールマン氏もロンドンで働いていたが、エストニアで借りたローンのためにユーロで返済を行っていた。彼らは海外送金のコストが高いことを痛感し、銀行に手数料を支払うことなく、ウェブ上で公開されている為替レートなどを適用して通貨交換する仕組みを考え出したのだ。

ここで特筆すべきは、ヒンリクス氏がSkype社(現・マイクロソフト社のSkype部門)の創業メンバーだったことだろう。TransferWiseのサービスには、パソコンやスマートフォン同士が直接つながって会話できるSkypeでおなじみのP2P(Peer to Peer=ピア・トゥ・ピア)が活用されている。家庭やオフィスなどにあるパソコン同士が、サーバーを介することなく直接接続してデータをやりとりする通信方式であるP2Pは個人間取引に該当するが、TransferWiseが仲介するため個別交渉は不要で、海外送金のオーダーを入れれば自動的に執行される。

「P2Pのプラットフォームを使用しているため、原則、資金が国境を越えることはありません。一般的な海外送金においては、中継役を務める銀行の手数料など、送金総額の10%以上におよぶ手数料が発生する場合がありますし、相応の日数も要します。しかし、TransferWiseの場合は、先にも触れたように平均で3分の1の手数料で済むうえ、送金完了までに要する日数も原則1~2日(ヨーロッパの場合)と、有利で安全かつ迅速なサービスを提供しています」

TransferWiseには、PayPalの共同創業者でFacebookにもいち早く投資したことで知られるピーター・ティール氏や、イギリスのヴァージン・グループ創業者であるリチャード・ブランソン氏など、そうそうたる顔ぶれの有力ベンチャーキャピタリストがこぞって出資している。2015年には世界的な経済誌であるフォーブス誌の「世界のフィンテック50社」、世界経済フォーラム「Technology Pioneers 2015」に選出され、同社のモバイル端末向けアプリはイギリス、ドイツ、フランスにおいて、Apple社の「Most Innovative 2015」を受賞した。

トランスファーワイズ・ジャパンのサービス開始は、2016年9月で、冒頭で述べたように、すでに日本語ウェブサイトを通じて海外送金サービスを提供しており、カスタマーサポートは9つの言語(日本語、英語、フランス語、ドイツ語、ハンガリー語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、スペイン語)に対応している。TransferWiseに本人確認書類などを提出して口座を開設すれば、海外送金サービスが利用可能になるが、その数は着実に伸び続けているという。

日本でのサービス展開にも本腰を入れる

現在、海外からの観光客誘致は国策の1つとして取り上げられており、日本を訪れる外国人の数は飛躍的に拡大中。2020年の東京オリンピックに向けてさらに右肩上がりになるのは必至の情勢だ。一方で、企業の海外進出は増加しており、海外に在留する邦人の数も増え、国境の壁はますます低くなっていると言える。日本・海外間での送金ニーズもいっそう広がっていくことが予測されている。

こうした流れを踏まえてTransferWiseは、日本への投資を積極化する方針で、その一環として2017年中にはトランスファーワイズ・ジャパンの社員数を増員する計画をとっている。トランスファーワイズ・ジャパンが求めているのは「革命家」だという。より具体的に表現すれば、「既存の不可解な仕組みを改善することに対して、自ら率先してアプローチを図れる積極的な人材」であり、現在のスタッフにもそういった共通点があるそうだ。

日本では、サービスを2016年9月にスタートしたばかりで、日本法人の認知度はまだまだ高くないのも確かだ。しかし、2015年8月に関東財務局から資金移動業者としての免許を取得し日本の法律を遵守している。また、万一、日本法人が破綻したとしても顧客から預かった資金を供託金として法務局に保管しているため、安心して利用することが可能だ。
 
「お金のやり取りに国境をなくすことがTransferWiseのミッションであり、それを果たすためにも、日本およびアジアにおけるサービスの普及に努めていきたい」と語る越智氏。海外送金時のコストを圧縮するフィンテックサービスの登場は、銀行をはじめとする金融機関のあり方にも大きなインパクトを与える力強さが感じられた。

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