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クルマの未来

アップデートはクルマだけではない。IoTでつくる「未来の駐車場」

株式会社SPOT

「最もIT化が遅れている場所」を進化させ、スマートパーキングへ

「クルマの未来」は自動運転技術だけにとどまらない。「運転する」という日常のシーンに目を向けてみると、手付かずの領域が残っているようだ。2014年に創業した株式会社SPOTの花房寛COOは「クルマを取り巻く環境のなかで、最もIT化が遅れている場所は駐車場だ」と話す。同社が手がけるのは時間貸し駐車場にインターネットを組み合わせたスマートパーキング事業である。

同社は独自のハードウエア「満空検知センサー」を開発。このセンサーは時間貸し駐車場に設置された「満車/空車」を表示するLED案内板に取り付け、LED光を感知することで利用状況を識別する。識別した情報はハードウエア内の3G通信回線からサーバーへ送られるので、ほぼリアルタイムで利用状況を把握できる。センサーはソーラーパネルを動力源としており、既存の設備に取り付けるだけで済むため、営業を中断するような工事も不要だ。

SPOTでは現在、センサーから取得した情報に加え、満空情報を配信している企業と提携し、時間貸し駐車場の利用状況や料金がわかるアプリ「Smart Park」を提供。ドライバーは駐車場を探しまわる手間が減るだけでなく、駐車場ごとに異なる利用料金の見当を簡単に済ませられる。また、駐車場運営者は日々の稼働状況をチェックすることで、収益改善化につなげやすいというメリットもある。将来的にSmart Parkは、利用状況や価格からドライバーに駐車場をレコメンドしたり、先行予約のサービスを提供したりすることで、都市部での駐車場探しを自動化する構想を掲げている。

しかしながら、あくまでSmart Parkは「駐車場の未来」につながる第一歩のようだ。SPOTは今後、通信回線を有する満空検知センサーにさまざまな情報を「相乗り」させることで、駐車場という場所のバージョンアップを図ることも視野に入れる。

たとえば、敷地内に設置した自動販売機の補充状況や、動体センサーによる不審者感知などの情報を、満空検知センサーを経由してサーバーへ送信する。これにより、駐車場内にある設備すべてがインターネットにつながる、いわゆる「駐車場のIoT化」が低コストに成し遂げられる。

法人利用が上回る時間貸し駐車場の最適化へ

花房氏が「SPOTはいぶし銀ベンチャー」と例えてくれたように、創業メンバーは外資系コンサルティング企業や総合商社でキャリアを重ねてきた面々だ。メンバーは新事業の創案にあたって、アメリカで開催されたIoT関連のカンファレンスや現地視察、ウェブなどのリサーチで知見を積み、スマートパーキング事業に狙いを定めたという。

すでにアメリカを中心にスペインやロシアでも同事業を手がけるスタートアップ企業は多額の資金調達に成功し、事業を加速させている。それに伴い、アメリカにおける市場規模は2014年から2019年にかけて年間35%ずつ上昇する目算が立つほどだ。あるサンフランシスコのスマートパーキングでは近隣店舗の売り上げが12%アップした事例もある。

日本の駐車場業界は、SPOTの試算によれば市場規模1兆円にのぼり、駐車場の数や自動車の台数が増えるにつれ、さらに成長していくと見込んでいる。この目算は、生活者視線からすれば不思議に感じるかもしれない。たしかに自動車の多くは個人所有だが、時間貸し駐車場の利用者としては法人の比率が上回っていると、SPOTは各種データから導き出している。現状でも「空き駐車場が見つからず時間をロスする」といったビジネスパーソンの不満は多く、それらを解消するだけでも時間貸し駐車場の価値はより高まっていく。

花房氏は「まずは満空検知センサーを東京都内主要5区、その周辺5区をメインに設置していきたいと考えています。現状は1,000台を設置して実証実験も重ねていますが、2017年以降は5,000台、1万台と広げていく予定です。ただ、私たちはあくまでITベンチャーであり、絶対に駐車場事業そのものはやらないと決めています」と、すでに事業を展開している企業との連携を強調した。駐車場単位の稼働状況や売り上げ予測がつぶさに把握できてしまうからこそ、あくまで中立的な存在として、時間貸し駐車場全体の最適化と効率化を貫く姿勢だ。

時間貸し駐車場を軸に「体験」も変えていく

日本における時間貸し駐車場のIT化が遅れている理由は、業界シェアの特殊性にも理由があるという。都道府県別に見ると、業界上位10社が保有する駐車スペースを足しても過半数未満となる地域がほとんどであり、時間貸し駐車場の多くは中小零細が管理している。さらに駐車場業者と精算機メーカーも異なるなど、「プラットフォーマーは不在だが、プレーヤーが多い」という状況だ。

そのため、おのおのの駐車場で満空情報を発信するようなIT化は、費用対効果として見合わないと判断されやすいのだ。前述の通り、SPOTの満空検知センサーは追加工事が簡便であり、LED案内板のある駐車場ならば設置可能である。あらゆる業者が利用しやすいような仕組みとなっており、このジレンマを解消する手立てとなりうる。

独自でIT化を推し進め、空車情報をアプリなどで発信している企業もあるが、その多くは自社保有の駐車場だけが検索できる仕様となっている。しかし、ユーザーからすればすべての時間貸し駐車場を横断検索できるほうが利便性は高い。SPOTは今後も提携企業と設置駐車場を増やし、Smart Parkにおける情報の充実を図りたい考えだ。

花房氏は「マネタイズに関しては、いわゆるフリーミアムモデルをとっています。Smart Parkから送客し、駐車場を利用した料金に基づいたプロフィットシェアを検討しています」と話す。また、今後はSmart Parkに「スポットキュレーション」を実装し、クルマに乗る人の体験も変えていきたいと意気込む。Smart Parkで駐車場の利用状況とユーザー情報をひも付け、それぞれの好みにあった近隣の飲食店情報などをプッシュ配信したり、地図上に表示したりする機能だ。

この機能は、現状で時間貸し駐車場を営む事業者にも大きなメリットがあると花房氏は話す。「今は、新規に作られた駐車場の告知をする媒体がありません。目につきやすい表通りならまだしも、駐車場は裏通りにできることが多いので、それらをSmart Parkで注目表示させたり、オープニングキャンペーンとして料金を割引したりといった展開もできます」

SPOTは他にも、満空検知センサーから蓄積した稼働状況ビッグデータをもとに、価格最適化のコンサルティングや、空き状況に応じて価格を調整する「ダイナミックプライシング」の取り組みなど、これまでの時間貸し駐車場業界には見られなかった領域への拡張ももくろむ。記事冒頭で「自動運転技術だけにとどまらない」と書いたが、駐車場の稼働状況ビッグデータは自動運転車が普及するにつれ、渋滞回避や目的地案内といった学習/研究データとしてもますます価値を帯びてくる。新たな都市開発計画のなかに、SPOTが保有するデータベースが活用されている、といった可能性もあるだろう。

自動運転やカーシェアリングなど、どうしても自動車本体に注目が集まりがちな「クルマの未来」だが、セットで考える必要がある駐車場の問題。SPOTが手がけるスマートパーキング事業は、自動運転車と共に栄える「クルマの未来」の姿を予感させる。

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