探そう、まだ見ぬ未来を。

クルマの未来

ビッグデータ解析能力を生かして新しい移動体を生み出す

株式会社スマートドライブ

提供したいのは未来から逆算したデータプラットフォーム

株式会社スマートドライブがオフィスを構えるのは、グラスキューブ品川というビルの10階だ。大きなガラス窓からは、眼下に京浜運河、少し先に首都高速湾岸線とJRの大井車両基地が見える。その向こうには、旅客機が上空を行く東京湾が広がっている。まさに陸海空の交通網を一望できるというロケーションだ。しかし、首都高速のジャンクションを巡るクルマは列を連ね、遅々として動かない。これが都会の日常風景だ。

「未来から逆算するとこれは当たり前の景色じゃないんですよね」。窓の向こうに目をやりながらつぶやいた代表取締役の北川烈氏には、まったく別の街が見えているのかもしれない。

現在のスマートドライブが目に見える形で提供しているのは、Baseデバイスというプロダクトと、それを活用するためのアプリだ。手のひらに収まる小さなデバイスをクルマに装着し、Bluetoothでスマートフォンアプリと連携させることによってさまざまな情報を読み取ることができる。直近で可能になるサービスは、効率性と安全度をポイント化した購買促進プランや、車両のリアルタイム情報で整備時期を知らせる機能を生かした整備工場との連携だ。また、会社設立1年半後の2015年4月に実現したアクサ損害保険株式会社との業務提携により、走行データから保険料を査定するシステムもあるという。

「エコドライブできているか、クルマに不具合がないかを知るためだけに1万円以上もするデバイスを自分が買うかといえば、微妙ですよね。でも、デバイスを通じて自動車保険料の見直しが細かくできるならアリかもしれない。僕らが展開したいビジネスはそれです。大事なのは、そこに未来があるかどうか。スマートドライブが目指しているのは、1台ずつのクルマから収集・解析した情報を活用し、あらゆる企業が利用できるオープンなデータプラットフォームの提供です」

クルマは広義な移動体へと変革し日常生活は一変する

北川氏によれば、スマートドライブ設立時点で同業他社、すなわち後付けデバイスでデータ分析のプラットフォームビジネスを行う会社は海外に5~6社あったという。しかし、確実にビッグデータ化する車両情報のテレマティクスやIoTを念頭に置いて活動をしているところはなかったそうだ。

「自動車社会がこれから迎える転換点は自動運転化です。日本でも2020年までに自動走行車を公道で走らせる計画が発表されました。その10〜20年後にはほとんどのクルマが自動走行を可能にしているでしょう。それが未来に実現するとしたら、クルマは使いたいときだけ呼べばいい。そうなれば車両自体の数が少なくなるから渋滞も事故も減る。ガレージだって不要になる。現状ではクルマの非稼働率は97パーセントという調査結果があるんですよ。本当に必要な台数というのは、今後自動運転化がはっきりさせていくでしょう」

自動運転技術によって現在のクルマが個室や会議室のような形で動けば、クルマという概念自体が消失し、より広義な移動体へと変革する。われわれの日常生活も一変する、というのが北川氏の見ている景色だ。

「スマートドライブとしては、そこに必ず付帯してくる保険やメンテナンス、購買情報などを一気に収集し、周辺データベースを確立し、必要な分だけ必要な機能を使えるようにさせたいのです。すでに浸透しているAWS(Amazon Web Services)に近い形かもしれません。そしてまた、自動車メーカー間にいまだ存在している情報の隔絶を解消したい。昔のガラケーが他社の携帯電話にSMSを送れなかった、みたいな。スマートフォンの登場はそんな非生産的実態をOSのつながりで打破しました。クルマの世界では、僕らのデータの解析能力を生かしてそれを実現させます」

その他にも、Baseデバイスのカメラシステム向上によって、街中を走るすべてのクルマが防犯カメラになる等々、そうなるのが必然だと納得する未来像がいくつも語られた。それだけ自動車社会に重点を置いたビジネスを発想しながらも、実はそれほどクルマに興味があったわけではないと北川氏はいう。しかも車酔いすると打ち明けるように話してくれた北川氏は、果たしてどこからこの事業を思いついたのだろうか。

留学時代の自動運転車との出合いで社会が大きく変わると確信

北川氏は大学在籍時からベンチャーでインターンを経験した。ただし、「よほどおもしろいと思えることがなければ起業するつもりはなかった」という。当時の北川氏は、卒業後に1年間のアメリカ・ボストン留学に臨んだ。そこで「よほどおもしろいこと」に出合ったのだ。

「友人の縁で、Googleやテスラの自動運転車に乗せてもらえる機会があったんですね。これがスゴかった! キレイな走行をするからまったく酔わない。クルマでの移動が初めて楽しいと思えた瞬間でした。この可能性に満ちたプロダクトがビッグデータと組み合わさったら、社会は大きく変わると確信できたのもその体験からです」

そして留学時代の北川氏は、自分自身の世界が広がるいくつもの経験をした。「僕が通った学校には、頭がいいという以上に、素晴らしい世界観を持っている人がとても多かったんです。たとえばインド人の学生は、故郷の治安を向上させたいという目的で勉強していました。これがまた学期末だけ授業に出ては先生をうならせるような回答を披露しちゃう天才なんです。こんな学生もいるなかで、私自身はというと、アメリカはどの程度だとタカをくくって留学したのに、生まれつきの器用貧乏というか、突き抜けるところまではいけない事実を思い知らされました。そういう自分であれば、人の話を聞き、アイデアをつなげることで僕なりの世界観をつくり上げていこうと、決めたんです」

創業からちょうど1年後の2014年9月。スマートドライブが提出した「自動車のOBD-IIとスマートフォンの連携を用いたテレマティクスデータ活用技術」が、総務省の平成26年度I-Challenge!(ICTイノベーション創出チャレンジプログラム)の案件第1号として採択された。そこから生まれたBaseデバイスは、現在数千台の車両に搭載されている。

来年中には数万台に達する見込みがあるが、数十万台の実用化を果たしてこそ彼らの夢はより現実に近づくという。それまで着実にこのビジネスを育てていくのが北川氏の当面の目標だ。「僕らが見ている世界観に共感してくださる方々にぜひジョインしていただきたいですね」

窓の外の首都高速は相変わらず滞ったままだ。しかし北川氏の頭の中にある世界ではおそらく「渋滞」はすでに過去のものであり、クルマもまた今とは異なる移動体へと進化した存在になっているのだろう。

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