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クルマの未来

変形合体する超小型モビリティが未来を創造するために

株式会社エクスマキナ

超小型モビリティが開いた扉

車体前部にあるステップが、モーター音をうならせながら下りてくる。そのステップに足をかけ、大きく上へと開かれたフロントハッチからパイロットは、一気にコックピットへと乗り込む。身体を固定するセーフティーベルトを装着し、おもむろにアクセルを踏み込むと機体はモーター音をさらに響かせながらゆっくりと動きだす。そのビークル(乗り物)の名称は、EXM-002-00(超小型モビリティ・エクスマキナ)──。

それがユニークなのは近未来的なデザインと、ボディーを折りたたみトランスフォームすることにある。通常のビークルモードでは時速30キロ、トランスフォームモードでも時速6キロで走行する。さらに、ボディーを回転させることも可能。このロボットのような自動車を開発したのが、株式会社エクスマキナだ。エクスマキナの母体となるのが株式会社フォー・リンク・システムズ。自動車メーカーなどに研究開発の分野でサポートしてきたベンチャー企業である。

「もともとは、ソフトウエアを開発している会社です。ハードウエア系とはまったく違うポジション。でも、さまざまな自動車メーカーさんと一緒に仕事をさせていただいている流れのなかで、『われわれもプロダクツを作ろうじゃないか』ということになったんです」。そう語るのは、フォー・リンク・システムズとエクスマキナ両社の代表取締役を務める木下浩臣氏だ。

自動車の研究開発にも関わってはいたが、それはあくまでもソフトウエアでのこと。機械を作る領域はまったくの異業種だった。それでもチャレンジすることにしたのは、国土交通省などが推進している超小型モビリティ計画にあった。超小型モビリティとは、自動車よりコンパクトで小回りが利き、環境性能に優れ、地域の手軽な移動の足となる1人~2人乗り程度の公道を走る車両を意味する。地域活性の、そして次世代の移動手段として注目されている、2008年からスタートしたプロジェクトだ。

超小型モビリティだけではないビジョン

「自動車産業に真っ向から入ろうとしても不可能です。しかし、『超小型モビリティ』なら参入障壁が低い。それで参入することにしたんです」

木下氏がリサーチすると、マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボが、折りたためる電気自動車『CityCar』を開発中だと知る。そこからMIT、スペイン、スペインのバスク州が共同で推進していた超小型モビリティ・プロジェクト『HIRIKO』との連携を構想。2012年11月に新潟県、HIRIKO、スペイン国バスク州、フォー・リンク・システムズとHIRIKOの日本展開に関する合意契約を締結。12月には新潟県とHIRIKOプロジェクトが開始。翌2013年2月、新潟県に「HIRIKO JP」を設立した。

「『HIRIKO』というのは、『街にある』という意味です。スペイン政府のプロジェクトでしたが、資金支援終了とともに終結してしまったんです」。そのため、共同開発は断念し、独自での開発へと乗り出す。HIRIKO JPはエクスマキナと名称を改めて再始動。ちなみに、エクスマキナに決定する前は、エクストリーム・エレクトロニック・マシン&ドライブスという社名を用意していたという。そこには超小型モビリティだけに固執していない木下氏の想いがあった。

「もともとは電気仕掛けで、『超』がつくほど過激に変わったことをする動く機械を作る、というところから始まりました。たとえば、時速100キロで走る電動アシスト自転車とか、足こぎボートのスワンを電動アシストにして20ノットくらい出すとか。『スワンが電動アシストになったら、おじいちゃんやおばあちゃんが孫と乗っても楽ちんだよね』と。超小型モビリティに限らず、いろんなことをやるのがコンセプトだったんです」

変形合体といえば大河原邦男氏しかいなかった

MITが研究していたのはチェンジングプレイス、場所の移動はどうすればいいかがテーマだった。効率のよい移動を実現するため、車体をコンパクトにして駐車できることを目指した。車を折りたたむことからのスタートではなく、車両のコンパクト化のために必然的に折りたたむ必要があったのだ。「日本の超小型モビリティ計画でも駐車スペースは小さいほうがいい、とある。じゃあ、折りたたもう。でも、ただ折りたたむのでは面白くない。やはり『変形』だよね(笑)となったんです」

そこから「変形するなら合体もさせたい、変形合体ロボットにしよう」というコンセプトが決まった。では、そのデザインを誰に依頼するのか? 答えはすぐに出てきた。「クールジャパンの代表選手といえば、大河原邦男さんだ」

広く世界で考えればメカデザイナーには、シド・ミードやH・R・ギーガーがいるかもしれない。しかし、クールジャパンにしたかった。すると世界にリスペクトされている日本のメカデザイナーといえば、大河原邦男氏だ。木下氏の依頼に大河原氏は当初、サイド7を走るエレカ(電気自動車)をイメージしてデザインした。そこからさらに『未来警察ウラシマン』に登場するような近未来的なデザインへと進化。今後のさらなる発展ではメカデザインに宮武一貴氏や出渕裕氏の起用も考えているという。

「変形させる、となると『どう変形させるか』も重要です。ウイングが出るとかそんなものでは変形した感がありません。やはりシルエットそのものが変わって、トランスフォームしないと」

変形するスタイルをデザインしてから、それを実現させるために設計をする。そこには解決しなければならない課題は多かったという。当初は3モードを構想していた。ビークルモード、トランスフォームモード、そしてその中間形態であるガウォークモードだ。しかし、ガウォークは車体を一点で支えるため負荷が大きく、さらに車体が2メートル超えるため軽自動車の枠から逸脱してしまう、ということから断念。ただ、ガウォークを諦めたわけではない。技術の改良により実現する可能性はある。

「他にも大河原さんから『手を出せ』とか言われていて(笑)。まだまだ課題は多いです。でも、それは実現させたい。夢がないとワクワク感が出ないですよね。『見たら車だよね』というところから、『腕が出たよ』『ガウォークになってるぜ』とワクワク感を出していきたい」

現在、試作機であるEXM-002-00の改良を進めており、2017年初頭のナンバープレート取得を目指している。

クルマの文化へオタク文化の人たちを呼び込む

木下氏は現在の形が最終形ではないという。「最後はやっぱり二足歩行させたい」と笑う。現在は002号機だが、009号機までがミッションとしてある。「それぞれにペットネームがついていて、002号機はジェット。009号機はジョー。これらは往年のアニメファンならニヤリとする、『サイボーグ009』のキャラクター名から抜粋しているものです。009号機は2019年の完成を目指しています」

アニメやマンガが世界に誇るコンテンツだ、クールジャパンだ、と叫ばれている。そんな層にも自動車メーカーはアピールしたいが、キャラクターをボディーに描くようなことしかやっていない。ファンにとっては少し物足りなさを感じる。

「日本を代表するものがアニメやマンガだといわれて、それをどう演出する、といったときに車をペイントしても結局、車という主軸から切り離れていない。僕たちは『そこからぜんぜん違うものを作ろう』というコンセプトを持っています。エクスマキナはオリジナルだから自分の世界を作れる。乗る人は自動車ではなく、ロボットに乗っている気分になれるんですよ」

アニメ文化の人たちに「ロボットに乗って操縦しているような感覚がいいんだ」といってもらうことが目標だという。ターゲットはアーリーアダプターやマニアな層。そこからさらにアーリーマジョリティーを狙う。そのためにも、エクスマキナをアニメやオモチャにするなど、ブランド化も計画している。

「エクスマキナをブランド化することでいろんなものに展開し、さまざまなものとコラボレーションすることを考えています。オープンイノベーションでいろいろな世界の人たちと提携して、世界に打っていく。エクスマキナでそういう世界を作ろうと思っています」

自動車とアニメコンテンツの親和性は意外と高いのかもしれない。最近では日本国内で格調高いイメージが先行するメルセデス・ベンツがアニメーション制作会社「Production I.G」とタッグを組み、長尺のアニメ動画を作成。テレビCMとしても放送され、多くの新規ファンを獲得したという事例もある。メディアなどで「若者の自動車離れ、バイク離れ」と言い立てられることもあるが「それは仕方ないこと。欲しい自動車がないんですから」と木下氏はいう。

木下氏は「自動車よりもスマホやゲームに無限に広がる世界があります。若者が自動車よりもスマホやゲームなどに興味を持つことは当然です」と指摘する。だからこそ、自動車にワクワク感がないとダメだという。

「僕らの時代はそんなものがなくて、手っ取り早くワクワク感を楽しめるのは自動車しかなかった。それくらい娯楽が少なかったわけです。でも、いまはワクワクできるものがあらゆる形で分散してしまっている。自動車にワクワク感を期待している人をいくら掘り起こしてもそんなに集まるわけがない。それなら他の世界でワクワク感を持っている人たちを自分たちの仲間に引き込むのが一番、早いじゃないですか」それこそ、木下氏が考えるアニメやマンガの世界にワクワク感を持っている人たちなのだ。「だから、僕らは自動車会社と戦う気はなくて、スマホやゲームと戦っている感覚なんです」

そんな木下氏の考える未来の自動車とはなんだろうか?「いまはライカンハイパースポーツのような1台数億円に憧れる人たちの世界があるかと思うと、『自動車なんてなんでもいい』という人もいる。そんな人の関心は燃費だったり安全だったりして、そこにデザインは求めていない。それって広がりがないし、面白みがないよね。僕は自動運転という、自分に代わって運転してくれる自動車ではなくて、駐車場から自分で来てくれる自動車が欲しい。僕が行くのではなく、自動車が来てくれる。

それは実現されるだろうし、自動車はAIを装備したロボットと垣根のないものになっていくでしょう。自動車はタイヤがあって基本的に4輪というスタイルは変わらないとしても、使い方やデザインは変わっていくと思います。未来の自動車はもっと多種多様になるでしょう。でも、乗る人のマインドが変わらないと自動車は変わらないんです。乗る人のマインドを変えるひとつのアプローチとして、僕らはロボットのような自動車を作り、未来を変えることを実現したかったんです」

安全で安心な自動車が欲しいというオーダーから自動運転の発想が生まれたのだろう。しかし、それをぶち破るくらいの何かをやらない限りは、ワクワク感は生まれない、というのが木下氏の考えだ。そこには経営面などのリスクもあるだろうが、誰かが大英断でやらないといけない。そこでエクスマキナが立ち上がったのだ。

エクスマキナを起点として新しい自動車文化が生まれ、車に乗ってみたい、と思わせたい。自動車に興味を持ってもらえる切り口になればいい。それが自動車に対してやれることだと思っているという。

「僕は自動車が好きだから、衰退してもらっては困るし、もっと発展してほしいんです」。木下氏はいままでの自動車文化とは違う目線で、魅力的なプロダクツを提案していきたいと考えている。

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