探そう、まだ見ぬ未来を。

クルマの未来

完成車メーカーには実現できない技術を。「レベル4」の自動運転実現を目指す“クルマ屋”の挑戦

先進モビリティ株式会社

目指しているのは運転者を不要とする「レベル4」の完全自動化

「自動運転は危険だということ。どんなに小さな事故でも、それが起きてしまえば何もかも終わってしまう技術なのです」

これは対話の後半に出た発言だが、「自動」という言葉に対して誰もが抱く不安を自ら口にする意識は、強い覚悟が潜んでいることの表れだと確信したのでまず冒頭で紹介する。

電子関連のエンジニアとして、トヨタ自動車株式会社に約40年間在籍した青木啓二氏が代表取締役社長を務める先進モビリティ株式会社。東京大学駒場キャンパス連携研究棟にオフィスを持つこのベンチャーの理念は、自動車の自動運転を軸にした社会貢献だ。具体的には、運転者の存在すら不要とする「レベル4」の自動運転技術を物流の要であるトラックに応用することだという。

まず、自動車運転の自動化には、米国運輸省道路交通安全局が定義した5段階のレベルがある。ドライバーが常に主制御系統を操作するのがレベル0。主制御系統のいずれかで運転支援システムを介入させるのがレベル1。自動車メーカーのテレビCMで紹介されている自動ブレーキはここに該当する。自動運転をうたったことで注目を集めたアメリカのテスラモーターズのモデルSは、加速・操舵・制動という複数の操作を自動車側が行いつつも、ドライバーたる人間に運転監視義務が生じている点で、レベル2ないしはレベル3の枠にとどまるという。

そして最上位のレベル4は、人間が一切の操作を行わない文字通りの完全自動化だ。特殊な現場で使われる作業車両ではすでに運用されているが、一般公道用は今日現在で登場していない。先進モビリティは、このレベル4の自動化をトラックで実現させる研究開発を進めている。ではなぜ青木氏はトラックに的を絞ったのか。 

「レベル4」を達成しないと意味がない、と言い切る理由

「物流業界は今、深刻なドライバー不足問題を抱えています。ある試算では、2030年以降トラックドライバーが20万人から30万人も足りなくなるという結果が出ているんです」。この問題にはいくつもの理由が絡んでいる。まずは若者の自動車離れと免許取得者数の減少、大型免許保有者の高齢化、そして運送業のあまり芳しくない労働環境。要するに現在の物流業界には担い手が少ないわけだ。それがどんな未来図を描くかは想像に難くない。ゆえにレベル4の完全自動化実現は、物流業界にとどまらず、この国の生活基盤を守るうえでなくてはならない技術だという。

「実証実験を重ねているのは、トラックの隊列走行です。これは、経済産業省との話し合いのなかで、先頭車に人間が乗れば追従車は無人でも電子でけん引できれば良いという見解の法整備を進めていることに起因しています。隊列走行は5年前に実験済みです。車間距離を4メートルに設定しましたが、この距離だと隊列全体の空気抵抗が減り、15%の燃費向上が見られました。隊列が短ければ道路効率が上がり、渋滞緩和にもつながる。これは一般車両の方々にもメリットになるでしょう」

その実験では、念のため追従車にも人を乗せたが、ドライバーがハンドルに手を添える局面は訪れなかったそうだ。技術的にはほぼ確立されたといっても良い。しかし、万が一に備えてドライバーが乗車しなくてはならないようでは、意味がないと青木氏は断言する。

「いくら運転自動化といっても全部のトラックにドライバーが必要となれば事業会社はお金を出してくれません。人材不足を解消する一手となり得ないことには、やる意味がないのとほぼ同義だからです。だから僕らがやるのは、BtoBにおけるレベル4技術の開発。運転手不要の世界を達成しないと意味がないのです」

自動車メーカーの限界を超えられることがベンチャーの強み

青木氏によれば、自動運転で重要な要素はセンシングとAI(人工知能)。この2つが進化し、人間が持つ運転機能を完全代行できたときに自動化が達成されるという。ちなみに先進モビリティが計画しているビジネスモデルは、AIを搭載したコンピューターとセンサーを既存のトラックに後付けするスタイルだ。クルマ1台を新しくつくるわけではない。そこに自動運転の肝がある。

先に挙げた2つの技術要素は、自動車メーカー以外の企業やグループでも積極的な研究が行われている。なかでも2012年ごろから本格化したGoogleのセルフドライビングカー開発は、自動車業界に大きな衝撃を与えたそうだ。

「それでどのメーカーも自動運転に手を挙げるようになりました。ただし、実現できても人間が乗るレベル3まで。最後はドライバーに責任を取ってもらうということが前提になっている。レベル4を追求し、そこで事故が起きればその責任はすべてメーカー側が負うことになりますから、当然、長年積み重ねてきたブランドイメージにも傷がつきかねません。おっかなくて、とてもレベル4には手出しできないわけです。良い悪いの話ではなく、これが自動車メーカーの限界なんです」

ここまでが自動車業界全体を取り巻くビジネス上の話だとすると、ここからは青木氏が自動運転にこだわる理由の話だ。青木氏は、トヨタ自動車に勤めた約40年間の半分を自動運転技術の開発に費やした。マイコンを自作するところから自動運転技術を追求し始めた、まさにゼロからの模索であり、果てしない挑戦の連続でもあったという。そこで育まれたのは、“クルマ屋”としての強烈な自我だった。

「かつて僕は、自動運転のテスト走行中に2回ほど死を覚悟したことがあります。いずれも予想外の誤作動でした。そんな経験があるから、僕はコンピューターを信用していません。自動運転が危険というのは、100%安全だと断言できる技術の実現が本当に難しいからです。どんな機械、どんなプログラミングにも『絶対』はあり得ない。自動運転にしても、もしトラブルが発生した場合、最小限のリスクで食い止める設計をしなければなりません。センサーや画像解析など、自動運転に結びつく要素技術は個々に発展していますが、それらの技術を組み合わせて行う自動車本来のリスク管理は、“クルマ屋”にしかできないだろうと思っています」

自動運転技術の確立には、当然ながら膨大かつ精緻な知識が必要になる。だが、それと同等以上に経験が大事だと、青木氏は考えている。その経験を後進に伝えられるのは自分しかいない。そんな思いから、青木氏は先進モビリティに参画する決心をしたという。

「トヨタ時代の僕は、ついに何もものにできなかった。会社も一度は自動運転を諦めた。もしあのまま残ったら、ただ定年の日を待つような人生だったでしょうね。でも、“クルマ屋”の自分にしかできないこと、語れないことがあるなら、もう一度挑戦する価値があると思ったんです。不完全燃焼なんでしょうね、結局は」

自動運転実現は2020年。残り3年強で、数十年越しの夢を現実に

「何もものにできなかった」という発言は謙遜に違いない。自動運転にもっとも長けている人物として、自動車業界で青木氏は有名だった。経済産業省がトラックの自動運転研究開発を始める際に声をかけたのがその証拠と言っていい。定年を前にベンチャー立ち上げに踏み切れたのも、「完成車メーカーでは自動運転はできない」と断言した東京大学生産技術研究所次世代モビリティセンターの須田義大氏の支援があったからだ。

そして先進モビリティ設立から2年後の2016年3月、ソフトバンク株式会社との間で、スマートモビリティサービスの事業化に向けた合弁会社、SBドライブ株式会社の設立が発表された。ソフトバンクが先進モビリティに5億円の出資を行ったのだ。

さまざまな技術が猛烈な勢いで進化し、新しいテクノロジーを利用した事業に乗り出す企業も現れた。そのすべては、この国の自動運転の歴史だ。何もものにできなかったと青木氏は言ったが、それは何かをものにするための序章にすぎず、つまり機は熟したということなのだろう。

「トラックの自動運転実現は2020年に定めました。それまでにはいくつもの実証実験をこなさなければならず、また経済産業省と詰めている法令の準備も必要です。2020年に開催される4年に一度のスポーツの祭典に合わせて、政府はロボットタクシーの実用化を発表しましたから、いろいろな物事が加速していくでしょう。実際、僕らも急かされている。しかし、安全を後回しにはできない。そこは決して譲れないところです」

最後に、失礼ながら2020年は何歳かをたずねてみた。「71歳、ですね。いやぁこの仕事、しんどい時期はたくさんあったけれど、結局おもしろくて楽しいんですよ。あとは、難しいからと逃げてきたさまざまな事柄を、この3年強で一気に詰めます。その思いに共感してくれる人たちがここに集まってくれるとうれしいですね」。自動運転に魅せられた“クルマ屋”がのぞかせる笑顔には、確かな自信がみなぎっていた。数十年越しの夢が現実となる日は、もうすぐそこまで来ている。

LATEST POST