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ビジネスモデルの未来

弥生はレガシーを超えてエコシステムの実現を目指す

弥生株式会社

現状に満足せず、クラウドの領域にも進出

「弥生会計」などのソフトウエアで有名な弥生株式会社。会計ソフトのシェアは、17年連続ナンバーワンを獲得。1978年の創業から数えると実に40年近い歴史がある、いわゆる「老舗企業」だ。しかし、現在の弥生は「会計パッケージベンダー」とひとくくりで呼べない企業に変貌を遂げつつある。

「ここ数年、特に力を入れているのはクラウドサービスです」と語るのは、吉岡伸晃氏(マーケティング本部 マーケティング部 部長 兼 ビジネス戦略チーム シニアマネージャー)だ。中小規模法人向けの「弥生会計 オンライン」と個人事業主専用「やよいの青色申告 オンライン」「やよいの白色申告 オンライン」の3つのクラウドアプリのラインアップに加え、従来からあるデスクトップアプリの「弥生シリーズ」もクラウドの技術を組み合わせたサービスで強化している。

クラウドのメリットはデータへのアクセシビリティーおよび外部サービスとの連携にある。ローカルPCのみでデータが保存されているという状態では、そのPCでしかデータが見られないという不便が生じる。また、PCがクラッシュした場合、業務に支障が生じる。弥生ではそんなケースにも対応可能なクラウドストレージ(「弥生ドライブ」)のほか、銀行やクレジットカード、電子マネーなどの取引データを取り込み、仕訳データに自動で変換するサービス(「YAYOI SMART CONNECT)を、クラウドの特徴を生かして実現している。

「ブラウザで利用するピュアなクラウド会計ソフト市場に関して、個人事業主向け市場は広がり始めたところです。個人事業主の場合、一般的に取引量は多くなく、加えてオンラインバンキングの開設率も法人と違って高い。さらに、記帳から申告まで自社内で完結するケースが多い。こういった背景もあり、クラウド会計は、今後、成長していくと考えています。一方、法人の場合、記帳は事業者側、決算申告は会計事務所と、業務がわかれています。会計事務所におけるクラウド会計の導入率はまだまだ低いという実態もあり、法人のクラウド化会計普及は個人事業主向け市場に比べると遅れている状況です。弥生では、クラウド会計ソフトと従来のデスクトップ版「弥生会計」での双方向連携や、デスクトップ版「弥生会計」に自動仕訳機能等を搭載することで、デスクトップとクラウドの融合を進めています」。また会計処理の自動化を推し進めるために、各銀行とAPI接続の協議も進めている。

一方で弥生はテクノロジーだけですべてを解決しようとは考えていない。現在領収書をスキャナーやスマホで読み取り、自動で仕訳データ化するサービスを提供しているが、現状のOCRには精度などの問題も残っている。そこで弥生はテクノロジーだけではすぐには解決できない部分は、人的なサービスも組み合わせることも検討している。

さらに弥生が展開しているのが業務支援サービス「あんしん保守サポート」だ。これは年間契約による有償のサポートで、操作サポートや、データ保守、業務相談、法令改正情報などのサービスを受けることができる。「われわれのビジネスモデルは、製品を売って終わりではありません。新規に購入いただいた多くのユーザーがこのあんしん保守サポートに加入いただいています」と吉岡氏。

契約件数は47万社以上、継続率も約90%以上だ。事業主にとって、あまりよくわからない経理処理は、ソフトだけあっても作業ができないというのが実情。それを、ソフトの操作はもちろん、仕訳、決算、申告書の書き方まで相談できるとあってメリットは大きい。

「実は、製品を購入していただくことよりも、保守サポートの方が事業比率は高く、売り上げの7割程度を占めています。現時点ですでに、弥生はソフトウエアの販売よりもサービスビジネスに近いと言えるかもしれません」

Misocaとの協業体制で業務を強化

クラウドビジネスの強化を進めている弥生は、クラウド請求書サービスを運営している「Misoca」を子会社化し、製品ラインアップに加えた。株式会社Misocaとは、商取引における見積もりから請求、会計処理までをワンストップで支援したいというビジョンが一致し、協業にいたったという。

「弥生は、請求書を出すという業務を便利にするとか、請求を起こすと自動で会計処理ができる、というだけではなく、その先まで見据えています。請求、会計業務が楽になるだけでも十分な価値はありますが、弥生が目指しているのは、請求データや取引データをクラウドでやり取りすることで、売り手と買い手をつなげ、商取引全体での業務効率化や、取引データに基づく新たな価値を提供していくことにあります」

もともと、弥生では請求業務のクラウド化は必須と考えていた。日常業務のなかで請求書を起こすというのは手間のかかる作業。その上さらに、会計ソフトに入力するという二度手間ともいえる作業が発生していた。こうした課題を早々に解決するため、弥生自らが開発するのではなく、すでに実績のあるMisocaと提携することを決定したという。

パッケージベンダーから事業コンシェルジュへ

そして弥生では、あんしん保守サポートからもう一歩踏み込んだ「事業コンシェルジュ」というコンセプトでの事業展開を強化しようとしている。「製品に関することだけでなく、お客様の業務全体をサポートするサービスも立ち上げています。例えば福利厚生サービスや、給与計算や年末調整、社会保険業務や入退社処理など、労務に関する相談といった業務相談サービスの分野にも力を入れて進めています」と、吉岡氏は語る。

ユーザーが弥生製品を使うのはソフトウエアを使いたいからではなく、やらなければならない必要な業務を手間をかけずに、かつ間違えずにやりたいためだ。当然、会計業務よりも事業に集中したいと考えている。課題は会計業務だけではなく、経営そのものにもある。弥生はここに注目した。

「われわれは、ユーザーが持っている悩みをサポートしたいと考えています。そのため、業務の相談を受けて回答する業務相談サービスだけでなく、例えば情報システム部門のない事業主のためにネットワークトラブルや、他社製品のPCソフトの使い方までアドバイスするサービスも展開しています。すべては『ユーザーが本業に集中できる環境を整えるため』です。今後は資金調達のサポートや経営に有益なサービスの情報提供など、カバー範囲を広げていきたいと考えていますが、そのすべてを弥生単体で作ろうとは考えていません。すでに、ビジネスとして展開している企業との連携や協業も選択肢の1つです」

弥生では起業支援にも力を入れており、すでに起業家向けに無償で製品提供するサービスも開始している。「起業家の経理部となり、さらに経営のサポートをする右腕の存在になれたら」と吉岡氏は言う。

ここまで聞いて気になるのは、「今後、弥生はどんな企業になろうとしているのだろうか?」ということだ。この問いに対して、吉岡氏の回答は明確だ。

「弥生は今後ソフトウエアの会社ではなくて、ユーザーのビジネスの困りごとを解決する会社、ユーザーの事業を支える会社となるはずです。日本経済におけるエコシステムの一翼を担う会社を目指して、変革し続けます」

スタートアップ企業の寿命を伸ばし、日本を元気に

弥生はソフトウエアの会社からサービスの会社へとかじを切りはじめ、さまざまなサービスを掲げている。「弥生と聞くとソフトウエアの会社で、新しいことはしないのではないか、と思われがちですが、これは全く違いますね」と吉岡氏は語る。

「弥生は業務ソフトという領域にサービスを限定するつもりはありません。新しい事業を起こす、新たなマーケティング手法を実践するといったチャレンジができる会社です。課題をどう解決するかということをゼロから考えて実践できる自由さがあると感じています」

そこに、38年の歴史が築いた事業基盤として47万社以上のユーザー、さらに7,400にのぼる会計事務所のパートナーという資産がある。そのスケールと「会計ソフトといえば弥生」といわれるほどの知名度は、ビジネスを展開する上でダイナミズムを感じるには最適な環境だと言えるだろう。

「一社数千円規模のビジネスであっても、47万社以上に利用いただければ売上金額のインパクトは非常に大きくなります。また、日本全体でいえば人口や法人数が減少しているという話はありますが、一方で開業する人や設立件数は決して減っていませんし、今後起業家は増えていく傾向にあるのではないかと思っています。創業後5年の廃業率が85%※といわれているなかで、弥生のあんしん保守サポートに加入いただいている企業のサービス継続率は、それを大きく上回る数字になっています。会計管理がきちんとできる会社が増えれば、より元気なスタートアップが増え、結果として日本全体の成長に貢献できるはずだと確信しています」

弥生のことを、会計ソフトでシェア・ナンバーワンを誇り、そこで満足しているレガシーな企業だと考えていたとすれば、それは大きな間違いだ。弥生は「日本の中小企業、個人事業主、起業家の事業を支える社会的基盤(インフラ)として、日本の発展に能動的に貢献します」という理念を常に原点と捉え、ソフトウエアのメーカーという枠を超えてエコシステムの実現を目指している。日本経済を活性化させる根幹を担うのは、実は彼らなのかもしれない。

※2005年国税庁調べ

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