探そう、まだ見ぬ未来を。

ビジネスモデルの未来

ウェアラブルデバイス開発15年。大阪発ベンチャーが見据える、ウェアラブルの可能性とは

ウエストユニティス株式会社

メガネ型ウェアラブルコンピューターで新市場を狙う

Apple WatchやGoogle Glassなど、ここ数年で多くの製品が発売され、ぐっと身近なキーワードとなった「ウェアラブル」。メガネや腕時計、指輪や靴など、その形状はさまざまだが、体に装着したまま使えるという特徴からスマートフォンやタブレットなどのモバイルとは区別されている。

「時代をさかのぼれば、モバイルとウェアラブルはかつて同義で語られる時代もありました。その後に、iPhoneをはじめとするスマートフォンやタブレットの台頭が、ウェアラブルの存在感を非常に薄いものにしてしまった。でも今、あらためてウェアラブルに期待する声は徐々に大きくなってきていると感じます」と語るのは、ウエストユニティス株式会社の福田登仁代表取締役だ。

ウエストユニティスが開発製造するInfoLinker(インフォリンカー)はメガネ型のウェアラブルコンピューター。単眼型、非シースルータイプのヘッドマウントディスプレイの形状をとり、Wi-Fi経由でインターネットに接続し、メガネのレンズにあたる部分に文字や映像を映し出す。映像と音声で遠隔地とのコンタクトが可能。製造現場でマニュアルを見ながら作業する使い方を想定して開発されたこともあり、音声認識システムによってハンズフリーで操作することができる。視界を遮ることもなく、軽量で電源コードも不要のため動きを邪魔することもない。

こうした製品を仕上げることができたのは、福田氏の言葉を借りれば「ウェアラブルに徹底的に時間をかけてきたから。この形になるまで15年の期間がかかっている」からだ。ここまで聞くとまるでデバイスメーカーのようだが、同社が本領を発揮するのはソフトウエア開発。「自分たちはソフトウエアメーカーとしてやってきた。開発したソフトウエアを売るために、ウェアラブルの仕組みをつくったのです」と福田氏は胸を張る。

始まりは製造現場が使うアニメーションマニュアルから

同社は1983年にマニュアル制作会社として創業。当時は文字中心の紙媒体が主流だったが、福田氏は「専門用語が分かりにくい。アニメーションにしたらどうだろう」と、文字の代わりにフルアニメーションで解説する電子マニュアルをつくり始めた。

アニメーションマニュアルの評判は上々。しかし、製造現場でそれらを閲覧するために適した機器がなかった。「最初はデバイスメーカーからモニターや機器を買っていましたが、『重たい』『有線が邪魔』『作業効率がむしろ落ちてしまう』などの声が多く聞かれ、現場で使えるものとしてはどれも不十分でした」。メーカーに要望を出しながら購入した機器に地道な改造を重ねたが、思うような形状にはならなかったという。

そのうえ立ちはだかる壁は技術面だけではなかった。映像によるマニュアルの分かりやすさは評価されつつも、販売先となる当時の製造現場に集うのは職人気質の強い世代。「こんなもんでオレらの仕事ができるか」。ものづくりに対する思い入れが強い分、既存のやり方にこだわりを持つ人たちにウェアラブルコンピューターのコンセプトはなかなか受け入れられなかったという。

それでも、福田氏をはじめ、ウエストユニティスの面々は「この方向性は間違っていないはずだ」と、諦めることをしなかった。そこで「小型で使い勝手のいいものを自分たちでつくろう」と決断を下した。そしてハード・ソフトともに改良に次ぐ改良を重ね、約15年間のノウハウが詰まったウェアラブルデバイスInfoLinkerを完成させる。さらに2015年、同社は10年ぶりに鈴鹿8時間耐久ロードレースのピットクルーにInfoLinkerを無償で提供。メディアの脚光を浴び、開発の依頼が増え始めた。「時代がやっと追いついてきた」と福田氏は感慨深そうに笑う。

医療、建設、警備、物流、スポーツ……無限大に広がる活用用途

InfoLinkerの活用事例は幅広い。建設現場の測量支援、医療機関の手術の術式のライブ配信、警備の遠隔作業支援、モータースポーツのピット内情報共有、物流倉庫のピッキング作業支援など。「なかでも製造業の作業ナビゲーションシステムの注目度は高い」と一例を紹介する。

製造ラインの作業者がInfoLinkerを装着すれば、マニュアルを呼び出し作業するだけでなく、作業プロセスをカメラで撮影し、エビデンス映像を残すことができる。その記録から作業時間の収集が可能になり、そのデータを解析すると、各工程の適切な時間の割り当てやレイアウト見直しにも利用できる。「世界中の全工場で使っているラインの状況が一手に見える。業務改善に使える仕組みです」

福田氏はInfoLinkerの主戦場をBtoBと捉えている。「使い道が明確だ、というのが大きな理由です。そもそもInfoLinkerは工場向けのマニュアル制作から始まっている。メーカーの作業ナビゲーションもシステム自体は10年以上のノウハウが蓄積されているもの。これらを有効に活用するために、まずはBtoB市場を狙っていく」と言う。

なにより同社には約15年間のノウハウの蓄積がある。多くのデバイスメーカーがウェアラブルに乗り出しているが、運用面のコンサルティングとサポートがあることにより、同社の優位性は高い。「ずっとソフトウエアメーカーとしてやってきたことが、今の私たちの強みになっています。当時、現場から言われてきた言葉はすべてシステムとして生きているのです」

時代はモバイルからウェアラブルへ

2016年度のInfoLinkerの販売数は海外も含め、約5,000台を見込んでいる。短期間に大きく伸びたが、福田氏は「まだ市場をつくっているところ」と話す。Google Glassの登場は大きな話題を呼んだが、市場形成にはまだ至っていないというのが福田氏の見解だ。

これまで多くのウェアラブルデバイスが登場し、市場を席巻してきたものの、「ユーザーの声を聞けば、一番利用するのは時間を見たり、天気予報を見たりする程度の機能。必ずしもウェアラブルデバイスである必要性がないという状況です。なにか破壊的なイノベーションが起きないかぎり、BtoC向けのウェアラブル市場は急激に拡大しないでしょうね」と、福田氏は気を緩めない。

事実、ウェアラブルデバイスでの事故や犯罪に対する法的規制は現時点で不十分だ。「ちょっとしたことで市場が冷え込むリスクをはらんでいる。でも、長くウェアラブルに携わってきた私としては、できるだけみんなで便利に楽しく使える社会にしたい。市場をけん引するというよりは、みんなで市場を生み出し、そのなかで自分たちも仕事ができたらいいと思っているんです」。その言葉を裏付けるように、福田氏は自分の知見やノウハウを積極的に他のデバイスメーカーに提供し、市場拡大に努めている。

「当面はBtoBだが、行き着くところはBtoC」。同社は年内にコンシューマー向けのコンセプトもつくろうと考えている。コンシューマー向けとなれば、それこそ時計やメガネのように、毎日でも身につけられることが必要だ。「要は使いやすさと格好よさが肝心。InfoLinkerにもまだまだ改善の余地はあります。でも、2020年の東京オリンピックが開催されるころには、みなウェアラブルを利用しているんじゃないでしょうか。海外からもたくさん観光客が来日するのでいいPRになる。モバイルを持たず、ウェアラブルだけ身につけることがスタンダードになる時代は、きっと、すぐそこまで来ています」。モバイルからウェアラブルへ。その変化の兆しを、福田氏の目は確かに捉えている。

LATEST POST