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1950年創業の倉庫会社によるあくなき挑戦~寺田倉庫が日本初のサービスを連発できるワケ

寺田倉庫株式会社

2017年11月。日本初となるクラウド宅配ロッカー「minikura LOCKER」が発表された。昨今、メディアでも多く取り上げられる物流業界の深刻な人手不足問題に対して、解決の糸口となりうる一石を投じたのは寺田倉庫だ。

同社の創業は1950年。日本におけるテレビの本放送がはじまったのが1953年、東京タワーの完成が1958年。それよりもさらに前から日本の倉庫業を支えてきた、老舗企業だ。しかし、天王洲アイル駅周辺に立ち並ぶ同社の建築物は、黒を基調としたモダンなもので、近未来的なたたずまいすら感じさせる。ファシリティだけ見れば、渋谷や六本木にオフィスを構えるITベンチャーと聞いても違和感を覚えないほどだ。

なぜ半世紀以上もの歴史を持つ寺田倉庫が、「minikura LOCKER」のような新たな挑戦をスタートできたのか。一面ガラス張りのミーティングスペースで始まった話を聞くうちに、老舗企業であると同時に、斬新なサービスを連発するスタートアップでもあるその本質を垣間見ることができた。

物流業界のタブーに踏み込んだ「倉庫」のクラウドサービス

「倉庫会社って下請け事業になりがちなんですよね」

開口一番、そう言って穏やかに笑うのは寺田倉庫の月森正憲上席執行役員だ。月森氏は1998年に入社し、2014年に執行役員に就任。「minikura」事業の立ち上げから携わってきた人物だ。その月森氏いわく、寺田倉庫ももともとは数多くある倉庫会社の1つでしかなかった、と振り返る。

「リーマンショックの影響がまだ残る2011年ごろ、当社は法人向けの下請けのような仕事をしていました。しかし、倉庫業は企業の景気の波に左右されやすく、また倉庫会社間での価格競争も激しくなる一方で、今後の方針に頭を悩ませていました」

倉庫の借り手は、法人と個人に分類される。法人相手のビジネスであれば広大な敷地に倉庫や物流センターを構えるという拡大路線が一般的であるのに対し、個人向けのビジネスであればトランクルームに代表される月額制の貸しスペースが一般的だ。ただ、前者は倉庫・物流会社が運営しているのに対し、後者は不動産会社が中心となって運営しているという。

「はっきり言って、数ある物流大手と規模で勝負するのは厳しい。かといって不動産的な考えで次々と物件を開発するのも違う。自分たちは何を目指すべきなのか。そんな疑問が社内にまん延していました」

悩み抜いた結果、月森氏らが導き出した答えは、ニッチな分野でナンバーワンを目指すということだった。メジャーな部分は大手企業に任せてしまえばよい。自分たちにできる、自分たちにしかできないことでトップを目指す。そうして新しい寺田倉庫を象徴するサービスとして誕生したのが「minikura」だった。

「minikura」は箱単位で倉庫を持てるクラウドストレージサービスだ。専用ボックスに預けたいアイテムを詰め、宅配便で寺田倉庫に送ると、最適な温度や湿度、強固なセキュリティーに守られた倉庫に預けられるようになっている。月額200円から利用できるという安価さも目を引くサービスだ。また、寺田倉庫に預けたアイテムを撮影してもらい、そのままアイテムをネット上で販売したり、ネットオークションに出品したりできるプラン(月額250円)も存在しており、こちらは預けたアイテムの写真を閲覧できる機能も備えている。

ただ、この「預けたアイテムを写真で確認できる」ということが、この業界においては大きなタブーだったと月森氏は振り返る。「個人の所有物に倉庫会社や物流業者が触れるのはリスクが大きすぎると物流業界では言われておりました。個人の所有物はただ弁償すればいいということにはなりません。お客様の思い出が詰まった品が傷ついたり、破損してしまったりすれば、取り返しのつかないことになる。預けたアイテムを写真で確認できるというアイデアは素晴らしいという確信はありましたが、社内でも賛否両論でしたね」

アンタッチャブルだった業界の慣習に、しかし月森氏は挑戦するという決断を下す。絶対にこのコンセプトは受け入れてもらえる、という確信めいた予感があったためだ。次なる課題は「倉庫会社のサービスを、どうやって一般消費者に認知してもらい、浸透させていくか」ということだった。

駅前のコインロッカーより安い金額を実現し、わずか5年でニッチトップを達成

倉庫会社のサービスは個人客からは縁遠い存在だ。実際にフィギュアやプラモデルを多く保有するコレクターらが集まるイベントに出向き、チラシを配ってみたこともあるという。だが、反応はイマイチだったと苦笑する。

「ユーザー側からすると『なぜ倉庫会社がこんなサービスをやるのか?』という思いがあったのでしょう。そこで、私たちは倉庫会社としてのサービスを全面に出すのではなく、ECサイトやメーカーとタイアップし、そのサービスの一部として『minikura』を活用していただく方向性にシフトしたのです」

その1つが「minikura」の倉庫・物流システムと提携先のWebサイトをITでつなぎあわせるAPIの提供だ。例えば、2014年からはソーシャルショッピングサイト「BUYMA」とも連携し、「minikura」を通じた返品可能サービスを打ち出した。他にもオンライン・ファッション・レンタルサービスやフィギュア・アニメグッズの保管、アート作品のシェアリングサービスなど、さまざまなサービスと連携することでユーザーを獲得することに成功。現在の取り扱いアイテム数はスタートから5年で1,700万点を超えるまでに成長している。

「従来の倉庫業とはビジネスモデルもがらりと変えています。例えば、保証人や印鑑証明の提出義務を廃止しました。料金体系も分かりにくい従量課金制をやめて月額課金制に。とにかく使いやすくユーザーフレンドリーなサービスにする。ダンボール一箱200円から、という価格設定にもそうした思いが反映されています。すべてインターネットならではのお作法に合わせているのです」

ECビジネスがますます活況となるなか、倉庫が活躍するフィールドも広がりを見せ続けているが、こと個人ユーザー向けのクラウド倉庫という分野においては「ニッチ分野でトップシェアを獲得する」という当初の目標を達成している。

とはいえ、月額200円からというサービスは、価格破壊というレベルすら超えているように感じられる。だが、この価格設定に関しては「実は当初はもっと安い価格で検討していた」と月森氏は笑う。

「社長の中野からは当初『50円でやろう!』って言われたんですよ。さすがに50円だと採算が合わないので、検討を重ねた結果、200円になりましたが、そうした突拍子もないことを言う人間がトップにいることも大きいと思いますよ」

「minikura」という倉庫から、新しいビジネスを創出させていく

人手不足が深刻化する物流業界だが、課題解決のためにテクノロジーを駆使しようとする動きも活発だ。LogiTechと称される分野だが、寺田倉庫もそうした潮流を見極め、新しいビジネスのあり方を模索し続けているという。

「今は、われわれとスタートアップが共に作った新しい土台、つまりプラットフォームに大手企業が参加してくるという流れが多くなりつつあるという印象です。これからは大手企業そのものが革新的なサービスを生み出そうとする流れがより加速するのではないでしょうか」

個人のニーズが細分化され、価値観が多様化されている現代において、今後は大量生産・大量消費型のビジネスではなく、一人ひとりの志向性にマッチしたサービスがより強くなるだろう、と月森氏は語る。そうした時代のなかで、キーワードになるのは「やはり人工知能(AI)でしょう」と月森氏は言う。例えば、現在「minikura」にアイテムを預けた際に撮影した写真と登録情報をひも付けているが、そこからさらに貸し・借り・売りについてのデータを連続して構築していくといったことなどが考えられる。

実際に、寺田倉庫はオンライン・ファッション・レンタルサービス「airCloset」とも提携しているが、誰にいつまでレンタルして、どんな出来事があったのか。そんなヒストリーを蓄積することで、新しいビジネスチャンスが生まれると考えている。預けたアイテムが自動的にお金を稼いでくれる可能性だって考えられる。SNSで信頼が可視化される時代の新しい投資術だ。

ただし、月森氏は先のこと以上に目の前の地盤固めにも注力すべきだと考えている。

「今私たちが力を入れるのは、オペレーションを工夫することで、これまで断念せざるを得なかったことを実現すること。“人力”の価値を最大化するということです。その補助ツールという意味でAIなどがあると私は考えています。倉庫内で完結させず、自分たちにない技術をAPIでつないでいくことで、まだまだ『minikura』の可能性は広げられると思いますね」

勢いだけで先走ることはない。焦らず、確実に勝率の高い選択を取る。一方で、変化を続けなければ会社はよどんでしまう。寺田倉庫もまた、事業整理などを進めることで資産をスリム化するといった変革を推進してきた結果、今があるという。安定だけを求めていては今の寺田倉庫はなかった。これまでの実績を大事にしつつも、常に勝ち続けるために必要なことを考え、実行できる。こうした商売感覚が、老舗ベンチャーのアドバンテージなのかもしれない。

「将来的には、パーソナライズされた物流システムを作っていきたいという思いがあるんです。例えば誰でも倉庫や物流システムが持てる、そんな時代です。これまでのトランクルームのUXって『モノが預けられて、スッキリした』ですよね? これからは預かったモノを通じて、何が生まれるのか、どんな付加価値を付けられるのか? そんな文化を作りたいです。ただし、ひょっとしたら来年、『minikura』から派生した、全く新しいことをはじめている可能性もある。それが、今の寺田倉庫なんですよ」

1950年創業の倉庫会社。同社がフィロソフィーとして掲げる「余白を創造するプロフェッショナル」への挑戦はまだまだ続く。

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