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ビジネスモデルの未来

LIMEX(ライメックス)が秘める地球環境問題解決への可能性

株式会社TBM

夢のような新素材、LIMEX

ティファニーが銀座本店を構えるビルの一室に株式会社TBMはある。2016年10月31日に越してきたばかりという真新しいオフィスは、ホワイトをベースカラーとした、ガラスのパーティションが織りなす洗練されたデザイン空間で、光が反射する光景はどこか未来的なテイストを漂わせる。それもそのはず、デザインしたのは曽野正之氏。NASAが開催した火星に宇宙飛行士が滞在する基地を設計、デザインするコンテスト(3D Printed Habitat Challenge)において、「MARS ICE HOUSE(火星の氷の家)」で優勝を果たした建築家だ。

TBMは2011年に山﨑敦義氏によって設立されたベンチャー企業だ。同社が開発した製品『LIMEX(ライメックス)』は、石灰石(炭酸カルシウム)を主原料とし、紙やプラスチックの代替となり、エコロジーとエコノミーを実現する新素材。これにより、2016年10月、米国シリコンバレーでベンチャー企業を育成する3大アクセレーターの1つであるPlug and Playにおいて「世の中に最も社会的影響を与える企業─ソーシャルインパクトアワード」を受賞するなど、世界中から注目を集めている。

通常、紙を1トン作るためには約20本の木と約100トンもの水を必要とする。しかし、LIMEXだと約0.6〜0.8トンの石灰石と約0.2~0.4トンのポリオレフィン樹脂だけですむ。また、石灰石は日本国内だけで100%自給でき、輸入に頼らなくていい資源の1つだ。紙だけでなく、プラスチックの代替品も精製することができ、この場合も石油由来成分を6割以上も削減できる。耐水性、耐久性にも優れているのに、可燃ごみとして廃棄可能、かつ半永久的にリサイクルもできる。まさに夢のような新素材なのだ。

派手さはないが、クリエーティブな仕事

そんなTBMに魅力を感じて転職してきたのが、河野博氏(経営企画室マネージャー・写真右)と中島圭祐氏(コーポレート・コミュニケーション室マネージャー・写真左)だ。共に同じ30歳。二人ともTBMの在籍は1年にも満たないが、すでに中核メンバーとして活躍している。

「私は外資系コンサルティングファームからTBMにジョインしました。もともとは京都大学の研究室で水資源利用工学の研究をしていて、環境問題にどのようにアプローチできるか、ということを学生時代はずっと考えていました」と語るのは河野氏だ。会社勤めをしながらもNGOやNPOの支援をしていたものの「コスト」という課題が非常に大きかったという。

「環境問題を解決するには、利益を度外視し、資金を投下して問題を解決するしか手はない。環境問題を改善することはコストセンターとなってしまう、というのが当たり前でした。環境問題を解決するプロダクトは世の中に多くありますが、コストがかみ合っておらず、なんらかの補助金や支援を必要としている自律成長性のないビジネスが大多数を占めています。経済的にも優れていて、かつ自然環境を改善するモデルはないかとずっと考えていたところに出会ったのがTBMでした」

石灰石というローコストな物質から紙やプラスチックという日常品を作り上げていくことができる。そこに大きな魅力と可能性を感じたという河野氏。「これが貴重な鉱物を使って、というのなら興味は引かれなかったと思います」と正直に話しつつ、TBMならではの魅力をこう続ける。「世の中に無尽蔵にあるものを使って、経済的な合理性を担保しながら環境問題に貢献できる。これは僕が見てきたなかで唯一無二のビジネスモデルでした。ITほどの先進性や派手さはありませんが、実はやっていることはすごくクリエーティブなんです」

大手広告代理店出身の中島氏もまた「クリエーティブな仕事」という点に同意する。「前職では世界最大級の飲料メーカーやファストフードチェーンなど、どちらかというと華やかで有名なブランドを担当していました。恵まれた環境にいましたが、圧倒的な知名度を誇るナショナルクライアントを担当していると、どんなに頑張って宣伝しても95%の認知率を100%に上げるのが限界です。そんなことを考えているときに出会ったのがTBMでした。あまり知られていない日本発のLIMEXという素晴らしい技術を、グローバルに広めていく経験が積める。そして、世界的なブランドを担当させていただいて身につけたこれまでのスキルを生かせるはずだとシンプルに思ったんです」

世界規模の環境問題に向き合う

環境問題の深刻度と、それに向き合う世界各国の真剣さは高まり続ける一方だ。例えば、投資にはESG投資という考え方がある。これは環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮している企業を重視・選別して投資を行うことを指している。2006年国際連合は、投資家がとるべき行動として責任投資原則(PRI)を打ち出し、ESGの観点から投資するよう提唱。これにより欧米の機関投資家のESG投資が一層活発になった。世界全体のESG投資額は約2,440兆円(2014年の調査)にのぼるのに対し日本は約1兆円。日本はESG投資という観点では圧倒的な遅れをとっている。

「フランスでは使い捨てプラスチック製レジ袋は禁止されています。また、レジ袋以外の袋も禁止へと拡大適用されています。アメリカでも発泡スチレン容器は禁止となりました。ESG投資を見てもわかる通り、日本は意識が低いのが現状です。しかし、世界は目に見えて動いています。私たちは、これからどんな素材と共に生きていくべきなのか、ということを真剣に考える時代になっているんです」と語る河野氏。

そして、環境問題のなかでも特に注目度が高いのが「水危機」だ。2015年のダボス会議では、紛争も含めた社会課題のなかで今後、10年で影響力の大きいグローバルリスクのひとつが水危機だとされている。もちろん、水危機は日本も例外ではない。

「日本は水道水をそのまま飲める、世界的にも珍しい国です。生活用水の不足にもさほど困ることはありませんし、あまり水危機と言われてもピンとこないかもしれません。しかし、私たちの生活を見てみると、驚くほど大量の『仮想水』を消費していることが分かります」

中島氏が口にする「仮想水」とは、農作物や畜産物の生産に必要な水を指す。例えば、小麦1キロを生産するのに必要な水の量は2トン近いとされる。牛肉1キロの生産には、さらにその10倍、20トンもの水を要するという。世界の水の使用量は工業に2割、生活用水は1割、そして農作物の生産分に残りの7割が費やされているというデータもある。日本は水を自給自足できていると思いがちだが、日本は小麦の大部分を海外からの輸入に頼っている。農作物の輸入分を含めて考えてみれば「水危機」も決して対岸の火事ではないのだ。

紙やプラスチックをLIMEXにし、世界をゲーム・チェンジする

「世界的に使われている紙は4億トン。80億本もの木と400億トンもの水を消費していることになる。リデュースを推し進めたとしても使用量は嫌でもさらに伸びてしまうでしょう。この4億トンをすべてLIMEXに替えるということは考えていません。当然、今まで通りの紙の方がいい場合もあります。私たちは選択肢を増やすことが重要だと考えています」

河野氏の言葉からは、世界というキーワードが何度も出てくる。それは、LIMEXが日本国内の産業だけにとどまらず、既に世界を見据えていることを明確に示している。

「環境問題の大きな課題は、先進国が使った資源や生み出した害悪のツケを途上国に回してきた傾向にあることと考えています。限られた資源の消費を抑えていく、という活動はすごく大切なことですが、途上国にその発想は難しい。紙の使用量を見ても日本は1人あたり約210キロに対し、インドなどは約10キロ。これは、経済成長と共に紙の使用量も当然、増えていくはすです」

途上国に対しても経済成長を阻害しない形でより環境負荷の低いものを選択肢として作っていかなければいけない。そんななか、LIMEXには中東からもオファーがあったという。オイルマネーで潤沢な資金を得る国も多い中東諸国だが、数十年後に来るとされる石油枯渇に先立って「Beyond Oil」……つまり石油に代わるものを見つけ出そうという動きが活発化している。その選択肢の1つとしてLIMEXに白羽の矢が立ったのだ。「中東諸国では石油の次に何をやらなければいけないかを切実に考えています。しかも水も木もない。紙はほとんど輸入に頼っている。そんな状況のなかで私たちの技術を使うことにとても期待していただいています」と中島氏は語る。

水や樹木といった資源の乏しい中東、逆に石油資源の乏しい途上国で紙やプラスチックを作ることが可能となるだけでなく、自国内にプラントを建設することで新たな雇用も生まれる。だが、河野氏の考えでは、LIMEXが中東諸国に進出するメリットは、それ以外にも数多くあるという。

「私見なのですが、途上国の経済的な不安定さは、政治的な不安定にもつながっていると思っています。そこに私たちの技術が貢献できて、少しでも政治的にプラスになれば、こんなに素晴らしいことはありません。LIMEXの良さをいち早く世界に広めるためには、自分たちだけでプラントを作り、稼働させるだけでは成長スピードは鈍化してしまう。いろいろな企業を巻き込み、共同でスケールさせていく方が良いと考え、LIMEXに興味を持ってくれる企業とのパートナーシップ締結を推進しています」

日本でも2016年11月、印刷の大手である凸版印刷株式会社と共同開発を進めることに基本合意したと発表した。また、Plug and Playのビジネスマッチングを通し、誰もが知るグローバルリーディングカンパニーから引き合いが来ているという。もちろん、TBMもいまの技術に満足するつもりはなく、今後、さらなる用途に向けて開発研究も進めている。

今までにない紙やプラスチックを生み出すというLIMEX流の「重厚長大」なビジネスモデルが、世界を席巻する日は近いのかもしれない。

「いまのベースの石灰石とポリオレフィン樹脂の混合でどこまでいけるのか、という議論もあります。薄膜化や耐熱化など、なんらかの要素を付け加えるとか、そもそもポリオレフィン樹脂そのものを疑ってみる必要もあるでしょう。他にも、石灰石は肥料としても使われてきたので、LIMEXの加工技術を生かして農業分野に進出できる可能性もあるかもしれません。石灰石はさらに研究することでワールドチェンジングレベルの素材になると思うんです」

水資源や森林資源の問題は食料資源の問題にも直結している。LIMEXでそれら全ての問題が解決できるわけではないが、希望が持てることは確かだ。LIMEXが持つ無限の可能性は、地球を飛び出した先でも生かせるかもしれない。中島氏は「僕の妄想ですが」と前置きした上で口にする。

「今後人類は宇宙に飛び出していくでしょう。最初のテラフォーミング候補となるであろう火星は二酸化炭素濃度が高い分、石灰石も多くあると思います。成分も当然違うでしょうから、地球製とはまた違うLIMEXが生まれるかもしれません」

技術力は高いと評価される日本企業。だが、既存のビジネスでは海外に遅れをとっている部分もある。しかし、石灰石からつくる革命的新素材、LIMEXが世界をリードする時代が訪れるかもしれない。世界に誇れる日本の新技術として今後に期待が高まる。

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