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ビジネスモデルの未来

個人のスキルを共有して、学ぶ楽しさと教える喜びを感じられる社会へ

ストリートアカデミー株式会社

「入会金不要、1回から受講可」のスキル共有が、学びのカタチを変える

英会話教室や社会人向けの音楽教室などに通おうとすれば数万円の月謝がかかり、調理や写真教室、ライティングなどの専門学校に通うことになると、年単位での通学コミットが必要となり、費用もさらに膨らむ。これまでの「習い事」は、ある程度の時間と出費が伴うもの、というのが通例だった。ここに一石を投じたのが、C2C(Consumer to Consumer)型、つまり「一般人が一般人を教える」という教育モデルをインターネット上で実現したストリートアカデミー株式会社だ。

7,000件以上の講座が掲載されているまなびのマーケット「ストリートアカデミー」。その講座内容は、「バック転講座」や「包丁の研ぎ方講座」など、専門学校に通うほどではないけれどピンポイントで習得したいと思わせるようなものから、キャリアアップに役立つ「Web解析講座」や「プレゼン資料作成講座」に至るまで、実に多岐にわたっている。

入会金は不要で、ほとんどの講座が単発受講で完結。講師陣は、いわゆる教えることで生計を立てている専属講師ではなく、いろいろな分野の現役プロが週末や空いた時間で講師を務めるケースから、その分野において人より少しスキルのある人までと、さまざまだ。従来の専門学校やスクールにつきまとう「高い入学金」や「継続受講」というハードルを取り払った、気軽で自由な学びがそこにある。「あらゆる分野において、個人のスキルを共有することで、気軽に学び合える社会をつくる」というストリートアカデミーの掲げるミッションが体現されている。

「もっと気軽に学びたい、新しいことにチャレンジしたい、と思っている人はたくさんいます。自由に学べるコミュニティーがあれば、自分の好きなことを仕事にできる人の比率が上がりますよね。そうすれば、さまざまな分野の生産性もおのずと上がるはずです。誰にとっても一番のドライブになるのは、『好きだ』とか『やりたい』という感情ですから。昨今あちこちで「日本の景気は低迷から抜け出せるのか」というような話がされていますが、マクロ経済を変えたいのであれば、まずは個人が変わることが容易な社会を作らなければならないと思います。私は、学びを自由にすることで、社会において、好きなことをやっていて輝いている人を増やしたいと思っています」。ストリートアカデミーの藤本崇代表取締役CEOはそう語る。

専門学校の限界とシェアリングエコノミーの可能性

藤本氏自身、学びを重ねながら模索を続けてきたタイプだ。スタンフォードでMBAを取得する以前も、会社勤めの傍ら映画学校や料理学校など複数の専門学校への入退学を繰り返し、自分のやりたいことを模索し続けたという過去もある。その「自分探し」の経験も起業のヒントになった。

「専門学校やスクールといった教育ビジネスの市場規模は3兆円ほどだといわれていますが、肌感覚として、周りで専門学校に通っている知り合いは、あまりいなくないですか。それでも市場規模が3兆円というのは、1人あたりの支出額が相当高いということです。専門学校やスクールは、高い入学金と引き換えに就職斡旋(あっせん)や資格取得などの出口が用意されていて、学ぶ前から非常に高いコミットメントを生徒に求めます。ただ高額な支払いを突きつけられるとためらう人も多いですし、そもそもそこまでコミットできるほど目的意識が固まってはいないという人も多いはずです」

何か学びたいと思っている人のうち8割くらいは、「単純にインスピレーションときっかけが欲しい」というのが藤本氏の考えだ。人は興味さえ持てれば後は自分でどんどん学んでいく。こうしたやってみたいモードの人たちには、義務教育に準ずる時間と費用を求める専門学校やスクールはマッチしない。学びたいという気持ちはあっても、入学したり、毎週通ったりするまでのことではないんだという視点が入ると、やりたい欲求に対してアクションを取らない放置状態が続く。これらを総括し、藤本氏は「専門学校やスクール市場は、入学という商慣習のあり方自体が潜在ニーズを非常に大きく抑制している」と断言する。

学びの市場をそのように分析していた藤本氏は、同時にシェアリングエコノミーに可能性を感じ、自ら手がけてみたいと考えていたという。「インターネットの世界において、オークションなどに代表される物販やデジタルコンテンツに関しては早い段階からC2Cが登場していたのに、人的サービスの提供に対するマーケットプレイスは2000年代に入っても登場しませんでした。物々交換に比べてサービスをシェアするというトランザクションは定義しづらいからでしょう。人によってニーズも異なりますし評価もしづらい。それに気付いたときに逆に『それならネットに経験値がない自分でもできるかもしれない』と思いました。私はMBAを取得する前に、ユニバーサル・スタジオやフェデックスで、一貫して“モノ”ではなく“体験”をエンジニアするという仕事をしてきました。オフラインでのサービス体験の質を担保するという点では自分にも勝機があると思ったのです」

高額な入学金を払いながらも挫折を繰り返した苦い経験、“モノ”ではなく“体験”を扱ってきたという職歴に加えて、自分の妻が開いたケーキ教室の集客状況が芳しくなかったという出来事からひらめきを得たこともあり、2012年、藤本氏はストリートアカデミーの起業を決意した。

理想は、各地で「寺子屋」が自然発生する社会

サービスを開始した当初は「掲載する講座が9件しかなかった」と藤本氏は笑うが、2016年7月現在では、登録ユーザー数80,000人、累計受講者数57,000人、登録講師数6,000人を突破し、破竹の勢いで「学ぶ人」と「教える人」がつながるプラットホームへと進化した。成功の秘訣(ひけつ)は、すべてを可視化したことだ。受講者側には「自由と安心感」が、講師側には「模倣のしやすさ」が定着し、その結果、受講者と講師が自然発生的に増加し続ける好循環が生まれた。

「受講者にとって大切なのは、学びが気軽で自由なこと。学びたい人と教えたい人が集まれば、そこが学校になるという考え方です。ただ、そうすると『無名な先生では信頼できない』とか、『自分の求めるレベルではないかもしれない』という不安が出てきてしまう。そこで、受講者に安心感を持ってもらうために、講師の実名、顔写真、活動履歴、過去に受講した人のレビューなど、すべてを公開制にしました」

安心して自由に学べることが明らかになれば、自然に受講者が増える。当然ながら、そこから大成功をおさめる講師も現れる。そのような人気講師が「何をテーマに、いつどこで開講し、生徒が何人集まって、いくら稼げたのか」という過去実績データも可視化されているので、スキルを持っている人がマーケットを覗くと「これなら自分にもできるのではないか」と模倣を始める。講師登録が無料であることや、講師向けのハウツー講座が用意されていることなども魅力だ。藤本氏いわく、現在は「模倣が模倣を呼ぶサイクルに入った状態」で、講座数は増える一方だという。

「今、ストリートアカデミーに登録している講師は約6,000人ですが、経産省によると、日本全国でカルチャースクールに登録している講師数はその10倍近くいるそうです。つまり、誰かに教えることができる人はまだまだ数多くいるのです。こうした層にアプローチしていくことで、講師数はさらに増やせるはずです。2015年からは、スクールなどを運営する団体や法人もストリートアカデミーに出品できる機能を追加しているので、個人法人問わず講座はますます充実していくでしょう」

ちなみに、ストリートアカデミーでの人気分野は、ビジネスやITスキルだという。理由は明確で、この分野に関しては、これまで単発のスクールが存在しなかったからだ。ビジネスやITスキルのC2C分野において「今のところストリートアカデミーに競合はいない」と藤本氏は見ている。

また、藤本氏は現状に甘んじることなく、次の一手を既に仕込んでいる。地方展開や法人向けサービス「ストアカfor Biz」の充実にもさらに力を入れていく戦略だ。日本全国どこにいても、個人でも、法人でも、何かを学びたいと思ったときに、スキルを持っている人がいれば気軽に学べる、という理想の社会。そのイメージを「各地で寺子屋が自然発生的に増えていく状態」だと藤本氏は表現する。

「人の心の豊かさという意味でも日本の学び市場は世界でも特徴的です。単純に学ぶことが好きな人が多いのに加えて、本当にやりたいことは何だろうか、と自分探しをしている人もたくさんいます。肌感覚ですが、『稼ぎを増やしたい』という実利的なニーズよりも『自分のやりたいことを見つけたい』『どうせなら好きなことを仕事にしたい」と思っている人がとても多いと思います。インターネットでは情報収集はできますが、刺激や気づきを得るには実際に人に会うとか体験に勝るものはありません。この3兆円市場においてわれわれはまだ挑戦者ですが、今の日本において、“スキルのシェアリング”を提案していくビジネスには、まだ大きな可能性があると思っています」

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