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ビジネスモデルの未来

IoT社会に欠かせない、安心・安全なIoTモノづくり。世界初、マイコンで動くハイパーバイザー

株式会社SELTECH

あらゆるモノがネットワーク化される未来社会の安全に貢献する画期的な技術

IoTによって到来するネットワーク社会では、家電製品から自動車、ウェアラブルデバイス、工場のラインなど、ありとあらゆるモノに通信機能が搭載される。だがもし、IoT化された製品に悪意あるハッキングがなされれば、自動運転中に交通事故を発生させたり、電子レンジによる火災誘発を行ったり、プライバシー情報をネット上に流出させたりと、さまざまなセキュリティーリスクが生じてくる。

そんな環境で強く必要とされるのは、ハッキングによる制御データの乗っ取りから機器を守る万全なセキュリティー対策だ。もちろん、コストや容量の問題から、あらゆる機器に高性能なCPUを搭載することはできない。そうしたなか、50MHz程度のマイコンで動かせる株式会社SELTECHのハイパーバイザー「FOXvisor」は、未来社会の安全に貢献する画期的な商品として注目を集めている。

ハイパーバイザーとは、1960年代にIBMが開発した複数のOSを同時実行するプログラムを指す。ただし、リソースが無限にあるサーバー上で動かすことはできても、組み込みプロセッサ上でCPUを安定稼働させることに成功した企業は、この数十年で存在しなかった。SELTECHは、それを世界で初めて成功させた革新的なベンチャーだといえる。

江川将偉代表取締役は、SELTECHを起業する以前は半導体商社のトーメンエレクトロニクスで地デジ開発のマーケティングを担当していた。そこで目の当たりにしたのは、日本のテレビ作りが産業として崩壊する光景だったという。

当時、台湾の半導体メーカーが地デジ開発に必要なソフトウェアを無料で配布する戦略をとった。これにより、同社のソフトウェアを採用した台湾や中国のメーカーでも、日本製と同品質のテレビが作れるようになったのだ。

「海外のOEM/ODMで購入しても品質が変わらないならば」と、日本のメーカーも必然的に人件費の安い国から製品を購入するようになった。その結果、発生したのは製造業の空洞化だ。地デジ関連製品の生産拠点は台湾へ移り、国内の製造業は大打撃を受けた。「このままでは、日本は衰退し続けるだけだ」と、江川氏は強い危機感を抱いたという。

そこで「日本にはこれからどんな産業が残るだろう?」と考えたときに、出た結論はソフトウェアだった。「ソフトウェアはまだ日本のコアになり得るだろう」と考え、世界に対抗できるソフトウェアの企画・開発を目指し、ソフトウェア開発に特化したSELTECHを立ち上げた。世界から必要とされるソフトウェアとは何かを追究し続けるなかで、「FOXvisor」は生み出された。

CPUとOSの間にハイパーバイザーを入れるという斬新なアイデアで世界初の快挙

「FOXvisor」を開発するきっかけとなったのは、半導体IPにおける世界的なリーディングカンパニーであるARM社が開発した携帯機器向けセキュリティー技術「TrustZone」だった。「これを使って何か商品を製作できないか」と相談を持ちかけられた際に、江川氏はドライバーやカーネル上にもう1つOSを載せることでハイパーバイザーを作れるのではないかと考案。単一のCPUコアに直接働きかける仮想システム上で、複数のOSを独立して同時に動作させることができる「FOXvisor」を開発した。

「こうした発想そのものは、数十年前から存在していました」と語る江川氏。これまで失敗が続いていた要因は、PCやサーバーに向けた仮想化技術の概念をそのまま組み込みに持ち込もうとしていたからだ、と指摘する。対して、江川氏はCPUとOSの間にあるドライバーやカーネルと呼ばれる箇所にハイパーバイザーを組み入れるという斬新なアイデアを思いつき、見事製品化にこぎつけた。

この先進的な商品に、まっさきに目をつけたのは自動車業界だった。先進技術の結晶である自動車は、ネットワークサービスの積極的な導入を進めるにあたり、各社それぞれ高性能なハイパーバイザーの開発に億単位の予算をかけ、何年もうまくいかない状況が続いていた。ところが江川氏が開発したハイパーバイザー「FOXvisor」を試しに使ってみると、たった2カ月でスペック要件を満たすまでに。「こんなモノが世の中にあるのか!」と各社から絶賛を博し、SELTECHの存在感は一気に高まった。

現在、技術開発から市場展開へのスピードアップを推進しているSELTECHだが、江川氏や若手技術者の活躍に加え、取締役CFO・中井純氏の存在も大きかったという。東京大学を卒業後、ソニー株式会社に入社。その後、MITに留学して博士課程を修了し、日本に戻ってからは外資系企業の日本法人やベンチャーなどで経営や資金調達に携わってきた、技術と経営のエキスパートだ。中井氏も「これからIoTが爆発的に普及する時代、セキュリティー強化は不可避の技術的課題です。そこにCPUからアプローチし成功したSELTECHには大きな可能性を感じました」と語る。

開発力、仕組み作り、ポジショニング。他者を追随させない圧倒的な優位性

「FOXvisor」は他社の追随もあるなかで、圧倒的な優位性を保持し続けているという。その理由はいくつかあるが、まずSELTECHという会社がIntelやARMなど半導体メーカーからのサポートが受けられる、まれなベンチャーであるという点が非常に大きいという。そして、OSとCPUの両方を深く理解しているエンジニアが市場には圧倒的に少なく、かつSELTECHには同領域の精鋭がそろっている点も強みにつながっている。オープンソースなどを活用し、見よう見まねで開発する企業も存在しているが、「まだ100分の1程度のスペックしか実現できていないのが現状」だという。

また、ハイパーバイザーの開発を行っている競合企業のほとんどがOSベンダーである点も、SELTECHにはプラスに働く面が大きい。OSベンダーからすると、他社のOSは併用しづらいという弊害があるためだ。その点、OSベンダーでない中立的な存在にあるSELTECHは、余計な摩擦を避けたい製品メーカーにとっては、非常にパートナーシップを結びやすい相手というわけだ。

家電、車、産業機器と裾野があまりに広すぎるIoTにおいて、セキュリティー対策は無数に存在する。たとえば、通信回線にVPNを張ったり、OSにアンチウイルスソフトをインストールするのもその一つだろう。しかし、IoT化に絶対不可欠な製品はCPUだ。もしIoT向けにCPUを提供している主要メーカーを「FOXvisor」で軒並みおさえることができれば、世の中にある大多数のIoT製品にSELTECHの技術が活用されることになる。「私たちが目指すのは、あらゆるIoTのなかに、自然とSELTECHが入り込んでいること」と、江川氏は笑みを浮かべる。

さらなる一手として、大手も含めたパートナーへの開発環境の提供も開始している。こうすることでSELTECHにはそれぞれが開発したIoT製品の膨大なデータが蓄積されることになる。そこから技術トレンドや新たな潮流を読み解き、さまざまな顧客に向けたコンサルティングや情報提供を可能にするのだ。これも競合にはまねできない優位性の一つだといえる。

目指すは「Amazon Echo」「Google Nest」「Pepper」のハイブリッド

ハイパーバイザーとは別に、高度な音声/画像認識技術に人工知能機能を組み合わせたソリューションを持っているのもSELTECHの特徴だ。人工知能にも安心・安全は必要不可欠で、ハイパーバイザーでセキュアな人工知能の提供を目指している。ハイパーバイザーと人工知能を1社で開発しているのは世界で唯一の会社ともいえる。自動運転やコネクテッド・カーと同じような機能が今後拡充されていく「住宅」に着目したSELTECHは、2015年の末から大手ハウスメーカーとタイアップをし、センサーから家電製品まですべてをネットワーク化して人工知能と結びつけたマンションの建設にも挑戦している。

「目指すのは、Amazonの人工知能スピーカー『Echo』とGoogleの『Nest』事業を足して2で割って、ソフトバンクのロボット『Pepper』に落とし込んだようなもの。この辺りが弊社の一つの目標形態になってくると思います」と江川氏。

日本製のソフトウェアで世界を席巻する。そんな思いからスタートした企業は、IoT社会の到来に合わせて、その存在感を日々色濃いものに変えている。ネットワーク社会をいかに安全に、快適に過ごせるようにするか。そうした尽きない議論の中心に、SELTECHはこれからもずっとあり続ける企業になるだろう。

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