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ビジネスモデルの未来

スマートシティを実現するIT型総合商社

株式会社エスキュービズム

シリコンバレー型企業ではなく、「組織」ありきの日本型企業

言葉の賞味期限というのは、まことに早い。ある新しい言葉が示され、それが時代の共通理解として広く知れ渡った頃には、その価値や考え方に対する新鮮さや驚きを失いつつあることが少なくない。たとえば「ユビキタス」や「web2.0」といった言葉は、2000年代には時代を象徴する言葉としてもてはやされてきたが、2017年現在では、ビジネスシーンにおいても、あるいは社会生活上においても、もはや当たり前のこととなったが故に、言葉としての賞味期限が失われている。

ただし、これらが無価値になったということではない。そこで示されるテクノロジーやイノベーションが、完全に日常的なものとなり、普遍的な意味や価値を持ったがために、言葉としての賞味期限を失ったということである。

同様に昨今もてはやされている「IoT(Internet of Things:モノのインターネット化)」という言葉についても「この言葉そのものは、2017年内にはどんどん使われなくなるのではないでしょうか」と指摘するのが、株式会社エスキュービズムの薮崎敬祐代表取締役社長だ。

2006年5月設立の同社は、ITを基盤としたインターネット時代の総合商社のような存在だ。まずビジネスの基幹となるのは、EC・オムニチャネルパッケージ事業。業界でも売上およびシェア1位を誇る「Orange」シリーズは、多くの有名企業のECサイトやオムニチャネルの仕組みに採用されている。

しかし一方で家電製品の製造販売を行うアプライアンス事業やさまざまなネットワークを駆使して低コスト化を実現した自動車販売などの流通事業、さらにかき氷製造機の販売まで行っている。

一見脈絡のない事業を行っているように見えるが、そこにはしっかりとしたビジョンがある。「エスキュービズムは、ITを活用して3つの領域を“スマート”にすることを目指しています。まずは店舗ソリューションやECサイトなど企業向けのビジネスプラットフォーム、2つ目はスマートハウスやスマート家電などの生活者向けのライフ領域、そして街全体をより便利にするスマートシティです。ITというとスマホゲームやウェブなどのイメージがあるかもしれませんが、それは氷山の一角にすぎず、Information Technology(IT)は、世の中の仕組みをまったく新しいものに変えてしまえる大きな力を持っているのです」

エスキュービズムの経営はいい意味でIT企業らしくない。薮崎氏はITという技術が大切だからこそ、人や組織を重視しているそうだ。

「私がエスキュービズムという会社を立ち上げたとき、まずは『組織』を作ろうと思いました。企業というのは、連続性を前提としたものだと私は思うのですが、シリコンバレーのような欧米のベンチャー企業というのは、ひとつの商品や事業を大きくするために会社を作り、そこに人と資金が集まって成立するものです。一方で日本を見ると、このような形で世界的な企業になっているところはほとんどありません。世界的ブランドの日本企業の多くは、町工場や中小企業からはじまり、目の前のお客さんの要望に技術で応えていくなかで、事業をさまざまに展開しながら大企業に発展してきました。技術者集団が世の中を変えてきたのです。それは、今の時代にも普遍性を持っており、日本発で事業を行うには、こうした日本型のモデルが必要なのだと思うのです」

日本のビジネスシーンにおいて、きちんとした社会的インパクトのある事業を成立させるために、50人、100人の組織を作ろうと思えばそれなりの時間がかかる。しかし、その時間をかけて作った組織があるからこそ、初めてイノベーションが起こせるのだ。

製品サイクルを含め世の中の流れが速くなっているからこそ、そのようなイノベーションを起こそうと思うのなら、それを実現できるリソースが内製化されていることが必要だ。そして、トップダウンで動くリソースがすべてそこにあり、モチベーションが共通している状態にあることで、スピードを保ちつつダイナミックな動きができると、薮崎氏は指摘する。

社会にインパクトを与える変革は、積み重ねの「連続」によるもの

顧客のニーズを実現できる、有能な組織を作ることで、事業を多角的に展開しているエスキュービズム。その結果として、現時点ではEC・オムニチャネルパッケージ事業を基幹としたIoT事業が主力となっているが、同社はこれからの世界におけるIoTの進展をどのように考えるのだろうか。それについて、薮崎氏は次のように語る。

「IoTの世界というのは、私が10年前に創業したときから考えていたことであり、これまでやってきた事業の数々は、いずれもIoTです。初めにお話ししたように、『IoT』という言葉そのものは、遠からず廃れてしまうかと思います。しかし、ITを活用することによって生活がより便利になるという流れは絶対に不変です。例えば、いまだにFAXを使った商取引などが行われています。それを電子化するだけで、手作業によるヒューマンエラーをなくしたいと考えています。私たちが目指すのは、『なくてはならないモノ』をITで進化させていくこと、そしてそれによって社会をより良くしていくことです」

かつて係員が切符を検札していた改札口が、現在のような機械による自動改札となったように、社会にとって「なくてはならないモノ」が、すべてIoT化されるように変化すると、薮崎氏は指摘する。これからの世界では、たとえば自動運転が挙げられるだろう。

その上で重要なのは、こうした変化は決して「非連続」的なものではなく、常に「連続」して起こるということだ。たとえば、数十年後には自動車が無人で空を飛んでいる未来も存在するかもしれない。それだけを見れば、空を飛ぶ車の存在やテクノロジー、イノベーションは「非連続」なものとして見える。しかし実際には、そこに至るまでの技術の進歩は、すべて1日1日の積み重ねであり、「連続」的なものなのだ。

「世の中のベンチャー論の多くは、とかく『非連続』として語られることが多いのですが、私は『連続』でしかモノを考えていません。ですから、今の時点だけで弊社の事業を見る方は、EC事業やIoT事業もあれば中古車のリースもやるし、家電も作って販売していると思うでしょう。遠巻きに見れば不思議に思われるかもしれません。しかし私たちが取り組んだスマートシティが実現したとき、きっと今行っている事業の意味を納得してもらえると思います。また、もしかしたら現時点における弊社の事業をまったくご存じない方からは、『どうしてこのようなビジネスが実現できたのですか?』と尋ねられるでしょう。しかし、そこに至るには企業としての連続的な文脈があり、家電製品の開発からオムニチャネルパッケージ事業まで、多角的な事業の積み重ねの結果として、それらがあるということなのです」

この国を良くするための経済成長モデルを作りたい

顧客が求めるモノやサービスを、コツコツと積み上げて事業化する。こうしたエスキュービズム式の事業戦略について、薮崎氏は「驚くような未来を提示するのではなく、今のイノベーションを積み上げて最大化し、それを誰よりも早く実現すること」なのだと話す。

「つまり、私たちのアプローチは、理想的な未来を実現するために、一か八かを仕掛けているのではなく、目の前のお客様が必要だといってくれるものを、実現してお届けしているだけのことなのです。ですから、いわゆるベンチャーやスタートアップといわれるような企業とは、事業の作り方という概念が、おそらく根本的に違うのではないでしょうか」

20代の頃の薮崎氏は、この国をより良くするために政治家か実業家のいずれかの道を選ぶことを真剣に考え、結果として実業家の道を選んだという。だからこそ、日本がきちんと経済成長をするためのモデルを作りたいのだと、その志を語る。こうした意味で、エスキュービズムの目指す事業の在り方は、従来のシリコンバレー型ではない、21世紀における日本企業の新しいビジョンと戦略を指し示しているのではないだろうか。「イノベーション」という言葉が殊更にもてはやされている現在、世界を席巻するようなイノベーションを起こすのは、実はこういう企業なのかもしれない。

■プロフィール
株式会社エスキュービズム
代表取締役社長
薮崎敬祐
1979年、兵庫県生まれ。2002年に東京大学経済学部卒業後、2004年に東京大学大学院経済学研究科を終了し、株式会社リクルートに入社。2006年5月に株式会社エスキュービズムを設立。

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