探そう、まだ見ぬ未来を。

ビジネスモデルの未来

言葉の曖昧さを機械が認知できる時代はすぐそこに

株式会社レトリバ

最先端の機械学習のノウハウをより容易にビジネスシーンで活用

人工知能と言語学の一分野である自然言語処理は、人が日常的に使っている言葉をコンピューターに処理させる一連の技術をいう。この領域の進歩は、近年大きな注目を集める人工知能をはじめ、より高い精度を実現しようとする機械翻訳、そして日常的なインフラともいえる検索エンジンなど、さまざまな分野を支え、活用されている。

自然言語処理という領域をビジネスとして得意としている企業は、Googleに代表される海外企業が中心であり、国内では大手情報通信会社などが、社内向けに行っていることがほとんどだ。こうしたなか、自然言語処理と機械学習に関する高い技術とノウハウで注目されている日本発のスタートアップがある。株式会社レトリバだ。

同社は2016年8月、コンピューターサイエンス分野で注目を集める株式会社Preferred Infrastructure(PFI)で自然言語処理を担ってきたチームがスピンアウトして設立した会社だ。同年10月には、PFIで開発された総合検索プラットフォーム「Sedue」を核とする、検索およびそれらに付随する自然言語処理、機械学習事業を取得する旨の事業契約を締結。PFIで行っていた検索、自然言語処理、機械学習分野事業の顧客を引き継いだ。

現在、同社の提供するソリューションは「VoC(※)Analyzer」と「Answer Finder」の2つが柱となっている。同社の河原一哉代表取締役社長は、「自然言語処理や機械学習の視点から見て、これら2つのソリューションは、国内でも相当先進的なものと自負しています」と話す。(※「VoC」とは「Voice of Customer」の略称。電話対応時の“声”のデータそのものを指す)

「VoC Analyzerは、企業のコールセンターに寄せられるお客様の声を分析し、それをビジネスに役立てようというソリューションです。一般的なVoC分析は、キーワードをベースにすることが多いのですが、弊社では機械学習を使い、『貴重な問い合わせ』を自動的に選別、ピックアップしています。一般的なVoC分析ソリューションが統計ベースで全体的な傾向を分析するのに対し、VoC Analyzerはレアケースを探すことに注力をしているのが特長です」

例えば、あるコールセンターには、毎日何千件、何万件という問い合わせがあるとする。この中から、サービスの課題を指摘してくれるもの、製品の改善ポイントを指摘してくれるものといった「貴重で珍しい問い合わせ」をピックアップし、「この問い合わせは、確認したほうが良いのでは?」と利用者にレコメンドをしてくれるのである。

もう1つのソリューションであるAnswer Finderは、ビッグデータ的なアプローチで、過去にあった膨大な問い合わせ履歴の中から、『似ている問い合わせ』を探し出してコールセンターのオペレーターを支援するものだ。

「基本的に弊社の提供する製品は、機械学習を簡単に使えることにフォーカスをしています。これまでの機械学習はチューニングに大変な労力と資金をかけていたのですが、弊社では、ユーザーが簡単に行えて、ビジネスシーンでより使いやすくしたいという思いで開発を進めています」

「貴重な情報」や「似ている情報」を探し出す難しさとは

自然言語処理や機械学習の技術を生かし、膨大な問い合わせ履歴の中から、「貴重な質問」や「似たような質問」を探し出す。しかし、その「貴重」や「似たような」という情報は人間が個別に認識、判断するものだ。それをコンピューターに認識させ、的確に拾い出すことは決して簡単なことではない。

「100件の問い合わせの中に1つの貴重な問い合わせがあったとします。機械としては、その貴重な1件を見逃しても、確率的には99%の精度となります。1万件の中の10件を見逃しても、精度は99.9%ですから、機械はかなりの確率で貴重な問い合わせを無視していることになります。そこでVoC Analyzerには、機械学習のチューニングを行い、精度を保ちつつ、貴重な質問を確実に見つけ出させる。そこに私たちの強みがあります」

一方で、「似ている過去の問い合わせ」を見つけ出すAnswer Finderにおいては、そもそも「似ている」という曖昧な概念を、いかに機械に理解・判断させるかという点に、技術的な難しさがある、と河原氏はいう。

「Aという問い合わせと、それに似たBという問い合わせがあるとして、機械に『AとBがなぜ似ているのか』という理由を理解させるためにはルールが必要になります。しかし、似ている理由というのは、言語処理的には説明しにくいのです。このため、ルールベースの仕組みは、技術的にも大きな負担となります。一方で、似ているか似ていないかという現象そのものは分かりやすいので、機械学習を使って人間が似ているか似ていないかだけを教えてやり、そのうえで機械が判断することで、簡単にチューニングができ、負担なく課題を解決できるソリューションを実現できるようにしています」

これからの自然言語処理が人と機械の意思疎通を支える

ビジネスシーンにおいて、コールセンターという部署が「コストセンター」と呼ばれることは少なくない。河原氏は、同社が提供するソリューションによって、こうした既成概念を変えていきたいと強調する。

「コールセンターはお客様との重要なインターフェースの1つです。だからこそ、ただ問い合わせを受けて、それに対応して終わるのではなく、ユーザーから寄せられる貴重な情報や、価値のあるデータを集められるような仕組みや組織になっていただきたいのです。従来のコストセンターという体質から、企業にとって重要な情報をヒアリングする、価値ある組織に変革したいというのが弊社のソリューションの目的です。単なるコスト削減の手段ではなく、付加価値を提供することこそがゴールなのです」

あらゆる商品やサービスが氾濫する現在、モノづくりやサービスの提供は、いかに顧客ニーズを的確につかむかがより重要度を増している。そうしたなかでわざわざ時間と労力を使い、企業に物申してくれるユーザーの意見は貴重なものだ。

しかし、現在の一般的なコールセンター業務では、その貴重な意見や情報を的確にピックアップし、商品開発や販売戦略にフィードバックすることは容易ではない。そこでAIを活用し、コールセンターをユーザーインターフェースの最前線に立つ、価値ある組織に変えていきたいのだと、河原氏は語る。それでは今後、自然言語処理や機械学習、それに基づいたAIの進化は、世界をどのように変えていくのだろうか?

「将来、人間は社会においてロボットなどの機械と共存していくでしょう。ただし、人間と機械の間でも、意思の疎通は重要です。人は機械に何をしてほしいのか? 逆に機械は今どのような状態や状況にあるのか? このような人と機械との意思の疎通は、従来はディスプレーの表示などで行われてきましたが、今後は会話など、より人間らしい方法でのインターフェースが求められるでしょう。しかし、人間の言葉というのはかなり複雑であり、機械にとっては扱いの難しいデータです。だからこそAIの進化において、自然言語処理が重要なファクターになるのです」

最近、AIの進化は人間の仕事を奪うのではないかという不安の声がある。しかしレトリバの目指すビジョンからは、AIを支える自然言語処理を追求していくことで、人と機械との垣根がなくなる未来が見えてくる。人間とAI、それぞれが互いに能力を発揮してより良い経済や社会活動が行われるという、未来の青写真が見えるようだ。

■プロフィール
株式会社レトリバ
代表取締役社長
河原一哉
電気通信大学電気通信学部電子情報学科を卒業後、2001年4月サン・マイクロシステムズ株式会社に入社。2008年に株式会社シーエー・モバイルに転職し、携帯電話向け電子書籍サービスの開発・運営に携わる。2010年、株式会社Preferred Infrastructureに入社。同社事業部長を経て、2016年株式会社レトリバを創業。

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