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ビジネスモデルの未来

【イベントレポート】『IoTで、生活は変わるか。<IoT推進ラボ合同イベント>』
「産官学」の立場から未来のスマートライフを考える

BizReach Frontier編集部レポート

IoTで生活は変わるか

近年、IoT(Internet of Things)という概念が、私たちの生活に当たり前のものとして浸透しはじめている。

テクノロジーの進歩によって、センサーや通信モジュールの小型化が進み、通信コストは大きく削減された。その結果としてIoTの導入が大きく進み、私たちは、製品、サービスの付加価値の向上、アフターサービスの質の向上といった恩恵を受けることができる。2020年には、世界全体で約300億ものデバイスがインターネットにつながるだろうといわれている(総務省「29年版 情報通信白書 第1部 特集 データ主導経済と社会変革」より)。私たちの生活とIoTを切っても切り離せなくなる時代は、もうすぐそこまで迫っているのだ。

そして今、「産官学」といったさまざまな立場のプレーヤーが、家電やウエアラブルデバイスから収集したライフデータを活用することで、生活者に新しい価値をもたらすスマートライフの実現を目指している。

今回は、2018年9月18日(火)に開催された『IoTで、生活は変わるか。<IoT推進ラボ合同イベント>』の模様をレポートする。

半日にわたって行われた今回のイベントには、有名企業やピッチに参加したスタートアップ企業、経済産業省や大学など、さまざまな立場からIoTに携わる人たちが集まった。生活者、消費者、そして、女性、地方在住者といった多様な視点による意見やアイデアが飛び交うことで、おのずと「未来の生活」の輪郭が浮かび上がってきた。

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【プログラム】

1. 基調講演
・後藤 真理絵氏(ヤフー株式会社/クリエイターエバンジェリスト)
・砂金 信一郎氏(LINE株式会社/Developer Relations Team マネージャー&プラットフォームエバンジェリスト)

2. パネルディスカッション‐生活に寄り添ってスマートライフを考える‐
・池澤 あやか氏 
・上村 遥子氏(合同会社DMM.com/亀チョク本部.make事業部 DMM.make AKIBA コミュニティ・マネージャー)
・千代田 まどか氏(マイクロソフト ソフトウェアエンジニア)
・和田 幸子氏(株式会社タスカジ/代表取締役社長)
・牧田 恵里氏(株式会社tsumug/代表取締役)

3. スマートライフ関連企業ピッチ(前半4社)
・株式会社ルグラン
・グンゼ株式会社
・Kotozna株式会社
・アドウェル株式会社

4. パネルディスカッション‐地方から変わる生活‐
・石山 アンジュ氏(一般社団法人シェアリングエコノミー協会/事務局渉外部長、内閣官房シェアリングエコノミー伝道師)
・小笠原 治氏(株式会社ABBALab/代表取締役、さくらインターネット株式会社/フェロー、京都造形芸術大学/教授)
・福田 崇之氏(学校法人金沢工業大学/産学連携局 次長) 
・吉田 基晴氏(サイファー・テック株式会社、株式会社あわえ/代表取締役)

5. スマートライフ関連企業ピッチ(後半4社)
・株式会社Strobo
・株式会社ニューロスペース
・Hmcomm株式会社
・mui Lab株式会社

6. 経済産業省等 関連政策紹介
・野城 智也氏(東京大学/生産技術研究所 教授)
・渡辺 琢也氏(経済産業省/商務情報政策局 情報産業課 課長補佐)
・八島 拓也氏(広島県商工労働局/イノベーション推進チーム 地域産業デジタル化推進グループ)
・的野 浩一氏(福岡市イノベーション課長)

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今回は、2名の基調講演を軸としながら、本イベントを時系列に沿って振り返っていく。

向き合うべきは、未来のユーザー

・後藤 真理絵氏(ヤフー株式会社/クリエイターエバンジェリスト)

ヤフー株式会社にて、主にデータ分析とマーケティングの業務に従事する後藤氏は、自身のデータビジネス関連の経験を踏まえながら、「未来のユーザーを見つめる方法」と題したプレゼンテーションを行った。

IoTなどのテクノロジーは、私たちの未来の生活をどのように変えていくのか。そして、より良い方向に変えていくために、IoTに携わる企業はどのような視点や考え方のフレームワークを持つべきなのか。今回、後藤氏が強調したのは「ユーザーインサイト」を捉えること、つまり、徹底的にユーザー視点に立つことの重要性であった。

ユーザーにとってなくてはならないユニークなサービスを提供して、そこから感動体験を生み出すためには、大前提として、ユーザーの真の目的を正しく捉える必要がある。後藤氏はまず、「ドリルを買う顧客が欲しいのは穴であって、性能の良いドリルではない」という「ドリル理論」を紹介した。そのうえで、ユーザーの真の目的を整理するためのフレームワークとして、「The Value Proposition Canvas(Copyright : Strategyzer AG, The makers of Business Model Generation and Strategyze)」について説明した。「価値提案キャンバス」とも呼ばれるこのフレームワークは、ユーザーのニーズと企業が提供する価値のマッチングを図式化したものであり、自社の製品やサービスが、ユーザーの真の目的を果たすためのものになっているか検証するために用いられる。

「ユーザーは、大きな穴を開けたいのか、小さな穴を開けたいのか、そして、その穴は家を改造するためのものなのか、電話線を通すためのものなのか。まずは、ユーザーの思考や状況を正しく捉えることから全てが始まります。そのうえで初めて、ソリューションとしてどのようなドリルを提供するべきか考えることができます」

「スーツを捨てよ、町へ出よう」

続けて後藤氏は、ユーザーの価値観を分析するためのもう一つのフレームワークとして、「Future User(Foresight FrameworkTM)」という考え方を説明した。たとえば、「2028年における21歳の若者」を未来のユーザー像として想定するとする。その未来のユーザーは、「現在(2018年)における11歳の子供」である。彼がこの先10年間で成長していく過程で、変わる価値観、変わらない価値観を、これまでの生活様式や文化の変化をもとに分析していく。たとえば、情報収集や可処分時間の過ごし方はテクノロジーの発展とともに変化しても、若者の根本的な行動特性や悩みなどは変わらないはずだ。このようにして、あるペルソナを時系列の流れのなかで捉えることで、2028年にあるべきサービスの形を考えることができるのだ。

後藤氏は、サービスやデバイスの開発に携わる人たちにとって必要なのは、「多様な人々の多様な価値観に興味を持ち、理解しようとする姿勢」であることを強調した。

「パソコンの前に座ってリサーチすることも必要ですが、実際に現場に足を運んで、そこで何が起きているのかを自分の目で確かめることがとても大事です。自分たちが向き合いたいと考えるユーザーが集まる場所に行って、その人たちの感動ポイントをたくさん見つけて分析する、そしてそれを自分も『共体験』する。そうすることで初めて、ユーザーの欲求に応えるための視点を持つことができると思っています」

後藤氏は、若者研究の一環として参加した音楽フェスティバル「Ultra Japan」の現場では、そこに集まった人たち同士でしか共有できない発見や感動が数多くあったという。私たちの未来の生活に寄り添う新しいサービスを生み出すきっかけとして、後藤氏は「スーツを捨てよ、町へ出よう」というメッセージで今回の講演を締めくくった。

IoTのプラットフォームとしてのLINE

・砂金 信一郎氏(LINE株式会社/Developer Relations Team マネージャー&プラットフォームエバンジェリスト)

「次のアタリマエを生活に浸透させる LINEのプラットフォーム戦略」と題された砂金氏の基調講演。LINEを軸としたさまざまな事業展開の紹介を受けるなかで、徐々に実現しつつあるスマートライフの未来像を見ることができた。

現在、LINEの日本国内でのMAU(月間アクティブユーザー)は約7,600万人。私たちの生活に欠かせないインフラとなりつつある巨大コミュニケーションプラットフォームであり、小学生以下の子供やシニア層はスマホを持っていないという可能性を踏まえると、スマホを持つ日本人の多くがLINEユーザーであると考えられそうだ。そして驚くべきことに、MAUの85%が、毎日LINEを利用しているという。

「ユーザーの毎日の生活に寄り添いながら、ユーザーの気持ちを最大限に尊重することこそが、LINE上でサービスを成功させる秘訣です。私たちは、技術を語ることよりも、どうしたらユーザーの生活をより良い方向へ変えていけるのかを考えながら、サービス開発を続けています」

そして、コミュニケーションアプリからはじまったLINEは、その巨大なプラットフォームの力を生かして、取り組みの幅を大きく広げている。

LINEは、LINEアプリのMessaging API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を公開することで、LINEのトーク画面上に、企業が自由にアプリケーションを作ることができる環境を提供している。LINEは、企業が積極的にLINEのプラットフォームを活用することで、誰もが、より便利に、そしてワクワクするような社会の実現を目指しているのだ。

新たなコラボレーションによって縮まる「人とサービスの距離」

実際に、APIを公開して以降、数多くのIoTコラボレーションが生まれている。たとえば、視覚障害者から発信されたデバイスの位置情報を連携し、周囲のサポーターにメッセージを届けることで、困っている人と助けたい人をつなぐプラットフォームとしてLINEを機能させることができる。また、LINEのトーク上で自宅の施錠状況を確認できるホームセキュリティーサービスも実現している。理想の未来の生活についてアイデアを出していけばきりがないが、既にLINEのAPIを活用したIoTコラボレーションによって、一つずつそのアイデアが現実のものとなっているのだ。

また、LINEはAIアシスタント「Clova」のスキル(機能)を開発できるClova Extensions Kitも公開しており、外部からのアイデアも積極的に取り入れながら、便利で快適な新しい生活の実現を目指している。

「私たちにとって、サービスやデバイスを提供することは手段でしかありません。LINEのコーポレートミッションは、世界中の人と人、人と情報・サービスとの距離を縮めること、『CLOSING THE DISTANCE』です。みなさんもIoTビジネスを考えるとき、ユーザーの本当の目的は何か、という視点を持つことで、新たな気付きが得られるのではないかと思います」

「女性」視点の真のニーズ、「地方」の可能性

(写真:パネルディスカッション「生活に寄り添ってスマートライフを考える」)

基調講演の後に行われた1つ目のパネルディスカッション「生活に寄り添ってスマートライフを考える」では、さまざまな立場からスマートライフに携わる5名の女性パネリストが登壇。「キャリアと家庭を両立する忙しい女性のために、ただ単に便利なものだけでなく、日常の不便を解消するものを生み出したい」「IoTデバイスは日々の生活と共にあるものだからこそ、かわいいデザインのものが欲しい」といった女性視点からの意見が飛び交った。

スマートライフの実現を目指す企業が、各5分のプレゼンテーションを行う「スマートライフ関連企業ピッチ」の前半では、株式会社ルグランは「気象」、グンゼ株式会社はセンシング用の「ニット配線」、Kotozna株式会社は「翻訳」、アドウェル株式会社は「栄養管理」の観点から、未来のあるべき生活についてビジョンを語った。

2つ目のパネルディスカッション「地方から変わる生活」においては、IoT推進によって地域活性化をはかる4名の登壇者から、「テクノロジーの力はボーダーレス、だからこそ東京でも地方でも向き合う課題は同じ」という共通の姿勢が説明された。そして、福岡にIT企業が集まっているように、「余っている土地、時間に追われないライフスタイルといった“余白”を生かすことで、東京に負けない勢いで新しいイノベーションを創出できる」という地方の可能性が語られた。

「スマートライフ関連企業ピッチ」後半では、株式会社Stroboは「防犯」、株式会社ニューロスペースは「睡眠」、Hmcomm株式会社は「音」、mui Lab株式会社は、生活に溶け込む「静かなテクノロジー」という観点から、スマートライフの新しい可能性をプレゼンテーションした。

「産官学」の連携で、スマートライフの未来を照らす

(写真:パネルディスカッション「地方から変わる生活」)

「経済産業省等 関連政策紹介」では、「官」「学」の立場から、生活者により良いスマートライフを提供していくために、それぞれの業界に点在するライフデータを連携させるようなシステムの未来像が共有され、その実現のためには、今後、大小さまざまなプレーヤーが参画するコンソーシアムが重要な役割を果たすことが説明された。そして、少子高齢化といった課題を、テクノロジーと“まちづくり”を通して解決するというスマートシティ構想「FUKUOKA Smart EAST」(福岡県)、“砂場”のように何度でも試行錯誤できるオープンな実証実験の場を提供することで、チャレンジングな提案を生み出すプロジェクト「ひろしまサンドボックス」(広島県)という事例が紹介された。

今回のイベントの全ての講演に共通していたのは、「生活者の視点」から未来のビジョンを描くことの重要性。そしてもう一つが、24時間・365日の生活を包括するために、「産官学」を超えた「コラボレーション」が必要である、ということだ。

未来のスマートライフの実現のために、近い将来、あなたの企業の持つテクノロジー、もしくは、あなた自身が持つスキルや知見が、必要とされる日が来るかもしれない。

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「BizReach Frontier」では、これからも最先端のテクノロジーや、それにまつわる企業について紹介していきます。テクノロジーの進歩に合わせて、これからの時代にどのようにキャリアを築いていくか、一緒に考えていきましょう。

取材・文:松本侃士(BizReach Frontier編集部)

(記事掲載:2018年10月30日)

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