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「もう一度、Made in Japan」。45歳でスタートアップを立ち上げた男が語る、未来を実現するための発想術

ノバルス株式会社

あそぶ、つくる、えんしゅつする

スマホとつながる乾電池型IoT製品「MaBeee(マビー)」は、まさに我々が子どもの頃に見た夢を現実にした。乾電池製品の電池ボックスに、市販の単4電池を装着したMaBeeeを入れるだけで、既存のおもちゃがIoT製品に早変わりする。スマホを振ってみたり、傾けたりするだけで動いたり走ったり。音声認識で動かすことだってできる。「MaBeeeが子どもの頃にあったらよかったな」と、子どもと遊びながらそう思ってしまった方も少なくないだろう。

そんな乾電池型IoT製品を展開するノバルス株式会社の岡部顕宏代表取締役は45歳の時に起業した人物だ。2017年現在、若年層の起業はすでに珍しくない。学生起業家や20代でのIPO(新規株式公開)など、インターネットの普及により、起業家へのハードルは大きく下がった印象を受ける。ただし、社会人経験を数十年積んでからの起業となると、若気の至りという言葉では済まされないほどの葛藤がある。事実、岡部氏も起業家として歩みたいという鉄の意思がその胸にあったわけではなかったという。

前述したとおり45歳の年齢でスタートアップを立ち上げ、、2年半でシリーズB(開発した製品が商業ベースに乗ってきた段階)に到達。B2B事業への注力化や新製品「見守り電池」をリリースするなど、ノバルスは飛躍を続けている。

だが、すべてが順風満帆だったかというとそうではない。「創業当初は失敗したらすべて終わりという感覚でした」と、笑いながら自身の軌跡を振り返る岡部氏。そして、起業するまでに“二つの後悔”があると続けた。

現在の子どもたちに夢を見せ続けている彼の、2015年の創業ヒストリー、そしてこだわり続ける「モノづくり」への思いを東京都千代田区神田にある“秘密基地”といった印象を受けるオフィスで聞いた。

「同じ轍(てつ)は踏まない」。経験と後悔が起業への第一歩

──岡部さんがいかにして起業家への道を歩む決断をしたのか。まずは、ノバルス創業以前の話を聞かせてください。

もともと起業しようという意思はゼロではありませんでした。ですが、セイコーインスツル時代に一定の評価とポジションをいただいていましたのでこのまま過ごしていても……という気持ちもありました。大きなキッカケは「ヤミ研」でした。「ヤミ研」とは、企業に勤める人材でありながら、企業の枠を越えて集まったサークル活動のようなものです。私もこの「ヤミ研」の創設メンバーの一人でしたが、この取り組みを始めたのも自身の起業目的というわけではありませんでした。

──ヤミ研を創設した一人、とのことですが、どういう目的があり、立ち上げたのでしょうか。

当時、自社内だけでできることに限界があるという危機感を持っていて、課題の突破口を見つけるためヤミ研活動を始めることにしたんです。そこで各社の新規事業の話を聞いたり、こちらの状況を話したり。社内だけでは経験できないことがその場にはありました。

そこで、MaBeeeの基礎となるアイデアも生まれましたが、ある方に「このアイデアをワークショップの議題だけで終わらせるのか?」「人を呼んで、このアイデアをもっとブラッシュアップした方がいい」と言われました。そこで、さまざまな業種や経験を持つ方々を募り、IoTという言葉もまだメジャーではなかった頃にMaBeeeの可能性について議論する場として、ヤミ研ワールド・カフェを開催しました。「とにかくまずは人を呼んでナレッジを蓄積してみたら?」と背中を押されたことは今でも鮮明に覚えています。

その後、電子基板とソフトのプロトタイプが完成し、乾電池の中に入れるという着想が生まれるなど、一定のレベルにまで達した時が決断の時でした。ここでプロジェクトの推進を止めるのか。それとも起業するのか。その結果、私は起業を選びました。ここで思ったことが「あの時と同じ後悔をまたするのか?」ということだったんです。

──あの時の後悔とは?

一つは、前職時代の通信機能搭載ウオッチ、もう一つはその前の職場におけるモバイルリッチコンテンツサービス、共に途中で断念していました。当時一歩を踏み出すことができていればひょっとすると自分たちの手でグローバルスタンダードを作れていたかもしれないのに、です。

「ここで動かなければ3年後、5年後、同じことを言っているだろうな」と思いました。そんな後悔をもう一度するのであれば、MaBeeeに懸けてみようと思ったのが起業のキッカケです。MaBeeeとはまた違うグローバルプラットフォームのテーマに出会うまでには、恐らくまた何年もかかるだろうし、ひょっとするともう出会えないかもしれない。45歳という年齢を考えると、これは最後のタイミングだったのではないかと思っています。

たくさんのIoT製品であふれる社会にしたい

──現在取り組まれていることについてもお聞きします。直近では、BtoB領域の注力や「見守り電池」の発表がありました。

現在は二つの領域に力を入れていくことを考えています。その点は創業当初から考えていて、現在の主力製品であるMaBeeeと社名である「ノバルス」の名前が違うのもそうした背景からです。

一般的にマーケティングのことを考えると、社名とプロダクト名は一緒の方が合理的ではあるのですが、MaBeeeはあくまでもノバルスの一つの事業と考えています。ノバルスは「すべての製造業にIoTでのビジネスチャンスを提供する」ことを目的としています。自社プロダクトはもちろん、外部の製品も含めてです。ちょうどインターネットが立ち上がった時にいろいろなサービスが立ち上がったのと同じように、IoT製品もこれから続々と登場するでしょう。そこにおけるプラットフォームを目指しています。

──なるほど。社名をヒットした商品名に変更する企業もある中で、ノバルスにこだわる理由も明確にあるのですね。

これまではMaBeeeをミニ四駆や電車などの玩具で楽しんでいただきました。今後、使い方をどんどん広げていこうと考えています。例えば、教育分野ですね。すでに、2020年にプログラミング教育が必修化されることは決まっています。その中でMaBeeeをどう活用していただくかも考えています。例えば、豆電球やモーターといった理科の実験教材は乾電池と親和性が高い。こことMITメディアラボが開発したScratchなどのプログラミングソフトウエアを組み合わせることで、プログラムで理科の実験教材を動かすことができます。

乾電池の形状をしたMaBeeeと組み合わさるソフトウエアを広げていくことで、より多くの使い方が展開できます。教材メーカーとのコラボレーションも現在検討中です。このように、乾電池の形状で各社とコラボしつつ、IoT製品を増やしていくことがまず一つ。次に、今回発表した「MaBeee IoT モジュール」があります。

──MaBeeeとは切り離した形で、非IT製品をIoTでインターネットに“つながる化”させるというものですね。

乾電池形状には手軽さというメリットがありますが、制約もたくさんあります。そうした課題を解決するために今回の基板開発がありました。このMaBeee IoT モジュールをもとに、さまざまなメーカーとIoT製品を作る事業が始まります。

この取り組みにはMaBeeeが一役買ってくれました。従来型のMaBeeeをプロモーションしていくうちに「乾電池でミニ四駆を制御できるのなら、うちの製品をIoT化できないだろうか」といううれしい声が届くようになったんです。お話をいただいている企業は、防災機器メーカーや日用品メーカーなど、いわゆる非IT系製品を手がけている会社が中心となります。それぞれの会社は、各々の分野で素晴らしい製品を開発してこられました。

モノとインターネットがつながるIoTは、すべての製造業にビジネスチャンスを生み出す種になります。ですが、そうした非IT企業の社内に無線やアプリ、クラウドなどIoTに必要なエンジニアの方が今はいません。そうした課題を解決するために、今回のMaBeee IoT モジュールを組み込むことで、スピーディーに製品開発ができるようにしていきたいのです。「スマートカーを丸ごと作りましょう」と言われると、さすがにスキルセットは違いますが、MaBeeeで培った技術に近いところで多くの貢献ができると考えています。

──創業当初からこのタイミングでBtoBプロダクトにも乗り出す予定だったのですか。

実は計画上もう少し先の話でした。ただ、市場を見ると「LPWA(low power, wide area:低消費電力で広域をカバーできる無線通信技術)」をはじめとするIoT向け無線技術が台頭するなど、IoT製品の広がりが加速的に進んでいることを鑑みて、前倒しで進めることにしました。

──そうなりますと、今後はさらに人材が必要となりそうですね。

そうですね。とはいえ、ノバルスが手がけているのはまだ市場が形成されきっていない領域なので、経験や知見以上にゼロから何かを生み出すことに強みを持つBtoB領域でのプランナーが欲しいです。今後、間違いなく市場は拡大していきますが、その初期から携われる機会は滅多にないはずです。

もう一度、Made in Japanを自分たちの手で

──MaBeeeやMaBeee IoT モジュールなどを生み出している、岡部さんのモノづくりに対するこだわりを聞かせてください。

一番大事に考えているのは、細部にこだわってキッチリ作り込むという点でしょうか。もともと精密機械畑を歩んできたということもありますし、ここまでこだわっているのだという誇りを持ちたいというのはあります。乾電池の場合は表現しづらいところもあるのですが。

──具体的にはMaBeeeでこだわった点はどこでしょう。

構造というよりも電気周りのこだわりになるのですが、普通の電気製品は必ずスイッチがありますよね。でも、MaBeeeにはスイッチがないんです。どうやってONになるかというと、例えばMaBeeeを入れている玩具のスイッチがONになると、MaBeeeも同時にスイッチが入る仕組みになっています。

多くの玩具の場合、電池を外すときはネジで外す必要があるんです。これはお子様の誤飲を防ぐための仕様なのでとても大切なことであるのは間違いありません。ただし、子育てをしている親御さんの立場から考えると、遊ぶたびにネジを外してMaBeeeのスイッチをONにするのは面倒。ですので、MaBeeeをカタチにしていく段階で、スイッチをなくす技術を取り入れることにしました。細かいところかもしれませんが、そういったところにもこだわって考えていますね。

大事なのは「制約があるからできないではなく、制約がある中でもとことん何ができるか考え抜く」ことだと私は思います。乾電池は極めてシンプルなので、一見すると工夫する余地がないと思われがちです。ただ、そういった発想のプロセスは常に持っておきたい。諦めず、粘り強く取り組むのが我々のモノづくりのこだわりです。

──厳しい制約の中でより良い製品を作るのは、日本人が得意としていた領域のように感じます。

そうですね。ノバルスの資料にも「もう一度、Made in Japan」という言葉を入れています。GoogleやFacebookといったソフトウエアやインターネットサービスと比較すると、日本がどうしても海外勢を後追いする構造になっていました。

しかし、IoT製品の分野では負けたくない。日本の会社だからこそできる細部までこだわるモノづくりの強みを最大限に生かしながら、そこにIoTのテクノロジーを組み合わせていきたい。日本ならではのIoT製品文化を醸成するのがノバルスの役割だと思っています。

弊社の社名であるノバルス(Novars)は、「NOVA」はラテン語で新しいという意味、そして、「ARS」はArtから取ったんです。工業製品が生まれる以前のモノづくりまでさかのぼると、彫刻などのアートだった。それは、本来変わってはいけないと思うんです。そうした気持ちを大切にして、新しいモノづくりを実現していきたいです。

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