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ビジネスモデルの未来

日本の医療現場のあり方に変革をもたらす、医師の挑戦

株式会社メディカルノート

専門家による、密度の濃い情報にこだわる

「医学部時代の同級生が約100人いるのですが、そのうち約10人は医師以外のことをしています。ベンチャーを起業したのは3、4人でしょうか。『これからの医療業界は大丈夫だろうか』といった医療の継続性への疑問や、現場の非効率を解決できるのではないかという問題意識を持って、外から医療を変えようと、それぞれのフィールドで頑張っています」

そう語るのは、株式会社メディカルノートの木畑宏一CEO。2014年10月に創業し、臨床の第一線で活躍する専門家の監修・執筆による信頼できる医療情報を発信する医療Webメディア「MedicalNote」の運営と、病院やクリニックに向けた経営コンサルティング、事業承継、マーケティング支援といった医業に対する支援を行っている。

木畑氏は医師として経験を積んだ後、医療以外の世界を見るべくコンサルタントに転身、その後MBA取得、投資ファンドなどビジネスの第一線を経験した後にメディカルノートの代表取締役に就任している。

「医療にはいろいろな課題がありますが、患者さんが医療を選ぶときに迷ってしまうというのは非常に大きな課題です。医療の中身がブラックボックスになっていて、自分や家族の身に関わることなのに、どこで診療を受けるべきかが分からない。診療前に不安になってインターネットで検索すると、正確でない情報も出てきてしまい、それが正しいかどうかを判断することもできない。仮に誤った情報を信じてしまえば患者さんが不幸になるだけでなく、医療現場にとっても支障をきたします」

そうした思いから誕生した「MedicalNote」は、全記事が専門家による執筆や専門家への取材に基づいたものだ。「耐性菌の拡大を抑制するための東京都立小児総合医療センターの取り組み」「副作用が軽減される 放射線治療の先端である動体追跡放射線治療とは」など、記事タイトルを見ても、明らかに一般的な情報サイトとは一線を画すことが見て取れる。情報の密度と専門性が圧倒的に高いのが、「MedicalNote」の特徴だ。

「ユーザーの多くが、病名をインターネット検索してたどり着いた人たちです。病気だと診断されたら、その病気についてもっと詳しく知りたいと思うもの。その領域の専門の医師が懇切丁寧に説明してくれる情報は、多少難解な内容でも必要とされているはずです」

医療情報の発信にはいくつかのフェーズがある、と木畑氏は語る。2016年末に不正確な医療情報サイトが世間をにぎわせたように、未監修の情報を発信するのは論外だとしつつも、医師免許を持ってさえいれば誰が何を書いてもいいというわけではないという。

「医療の世界は、専門性がかなり細分化しています。専門外のことでも、教科書に載っているようなことについてであればどの医療従事者もある程度書けるでしょう。しかしその領域の現場で、日々診療している医師が持っている膨大な知識と経験の量にはかないません。専門医による深い情報発信がなければ、読み手は決して満足が得られないのではないかと思っています」

「MedicalNote」は業界のトップクラスの医師とのネットワークを構築して協力者を増やし、質の担保のためライターも外部委託せず、社内で養成している。制作にはかなりコストがかかるが、この姿勢は揺らいでいない。

「当初から『なぜこんな高コストでやっているのか』『やっていることが意味不明だ』と言われてきました(笑)。しかし、トップクラスの医療従事者が名前も出して顔も出して情報発信をしてくれる、そのことによって医療的な信頼性が担保される。われわれにとってはそれが本当に大事なのです」

不正確な医療情報サイトが社会問題化してから、逆風は追い風に変わった。「医療に対する真摯(しんし)な姿勢がやっと認められた」と木畑氏も笑顔を見せる。

「患者さん、医療業界からの強い信頼、これは大変重要です。最初の1、2年は自分たちが医療業界から信用される存在にならなければならない、という使命を持ってメディアを作ってきました。今後のビジネスにおいても、これはかなり強いアセットになると自負しています」

クリニックの事業承継をM&Aでサポート

メディカルノートが会社として目指すのは「医療を良くすること」だ。「MedicalNote」というWebメディアは、患者さんを支援するもので、目指す姿のあくまでも一部にすぎない。医療現場を良くするためには患者、医療従事者の両サイドをバックアップする必要がある。

「医療機関への支援の一つとして、当社が力を入れているのが医療機関の事業承継です。日本全国で現在、10万ほどのクリニックがあるわけですが、そのうち、毎年5,000ものクリニックが廃業し、ほぼ同じ数が開業しているといわれています。廃業する理由の多くが後継者問題です」

木畑氏は投資ファンドのM&Aの最前線でも働いた経験を持つ。かかりつけ医などの形で地域に根ざしているクリニックが廃業してしまうことは、地域社会全体を見てもマイナスだ。「それであれば開業する人と廃業する人をマッチングさせればいい」と木畑氏は考えた。

「クリニックを譲る側の医師にとっては退職金代わりのお金が手に入りますし、開業したい医師にとっても経営面、営業面でのリスクが下げられます。患者さんも、自分のかかりつけのクリニックがなくなってしまうということが避けられます。関係者の皆にとってメリットが生じる非常に面白い機会だと思っています」

当然、M&Aの仲介も信頼がなければ成り立たないビジネスだ。ここに、「MedicalNote」というメディアを通じてコツコツと積み上げてきた信頼と実績、そして日本中に広がる医師ネットワークが生かされている。加えてM&Aで豊富な実績をもつプロフェッショナルが加わり、事業承継を牽引している。

「これからの時代、医療機関も積極的にマーケティング活動を進めていくことが求められます。しかし医療機関には今までマーケティングといった概念そのものがありませんでした」

病院、クリニックの広告宣伝といえば、地元の駅に地図入りの広告を掲載する、電柱に看板を出すなど、何十年も変わっていないのが実情だ。しかし現在では病院にかかる場合、多くの人はインターネットで情報検索をしている。見かけた看板の電話番号を覚えている、登録しているというケースはあまりないだろう。医師がどんなに優れた技術を持っていたとしても、広く分かりやすく情報発信していかなければ、選んでもらえなくなるおそれがある。ガイドラインを遵守しながら、インターネットで医療情報を発信し、マーケティングを行っていくことが重要になる。

木畑氏は「医療従事者の理想とする医療を実現するための経営支援を行っていきたい。医療従事者には患者さんを診ることに集中していってほしい」という。

「医療における経営は医療そのものだと思っています。診療の質と収益性の両方を追っていかなければならない、チャレンジングな世界です。私自身は医師であるからこそ、他の業界で学んだ知見やネットワークを医療の世界に還元していくことで、医療経営を改善し、医師が理想とする医療を実現するサポートができるのではないかと考えています。他の業界では当たり前と思われていることを医療業界に持ち込んでいければ、この世界はどんどん良くなるはずなんです」

インドで実現していた「理想の医療機関」を目指して

そんな木畑氏が「理想」と語る病院がある。木畑氏がMBA取得後に半年間働いた、インド・バンガロールの病院、ナラヤナ・ヘルスケアだ。インドでは食生活などから糖尿病を患い、そこから心筋梗塞になる人が多い。この病院は心臓外科の治療に特化した専門病院も擁し、年間6,000例もの心臓外科手術を実施しているという。

「幅広い層の人々が無理なく手術を受けられるようにするには、コストを抑えなければなりません。そこでトヨタのような自動車産業に学んで徹底的にムダをなくしてコストを下げ、設備には投資をしてメリハリを付けます。ナラヤナ・ヘルスケアのCEOは医師なのですが、事業会社のトップらを幹部に迎え、ランチミーティングで毎日経営会議を行っています」

さらに、年間6,000例の心臓外科手術を行うことで医師のスキルも向上し、オペレーションも効率化されるという好循環が生まれている。インドは、日本に比べて規制が少ないといった外部要因はあるだろう。しかし日本の病院も、コストを下げながら質の向上を図らないと持続できなくなってしまうのは医療費増大の社会課題などからも明確だ。事実、メディカルノートを頼りにしてくる医療機関は大手医療法人からクリニックまで、さまざまだという。

メディカルノートは現在、約50人の体制だ。前職で医療に従事していたメンバー以外にもゲーム会社のエンジニア、金融業界のトレーダーなど幅広い。しかし共通するのは、多かれ少なかれ自分や自分の家族が医療と関わったときに感じた課題を何とかしたい、という思いだ。

「異業種出身のメンバーから見ると、『医療の世界でもこうした方が良いのでは』というアイデアがどんどん浮かんでくるようです。しかし医療の世界には、自由な発想をそのまま持っていっても通らない壁がある。そこを『医療の世界とは、こういうもの』と伝えて調整する、医療の経験者のアドバイスも必要になる。そのバランスが私たちの強みです」

メディカルノートに入社すると、まず連携している医療法人での実地研修を受けることになるという。医師の診療の場に同席するなどして現場を体験し、現場の理解を深めることができる。医療にビジネスとして関わっていく過程で、医師が現場で何を感じ、何を考えているかを理解できているかいないかの差は大きいだろう。

迷ったとき信頼できる、医療の情報ソースに

「適切な医療機関に適切にかかれるよう情報を見える化する、それによっていろいろな医療の無駄を省き、不適切なものは淘汰(とうた)する。このように、新しい環境は作っていかなければなりません。しかし新しいことをやろうとするときは、特殊な医療の世界をよく理解し、連携してやっていく必要があります。大きなことを成し遂げたいからこそ、慎重に物事を進めていきます」

木畑氏はまた、情報の受け手でもある私たちが、安易な情報を求めることもリスクだと語る。「本質的な医療の情報とはそれほど面白いものではありません」と苦笑交じりに言うが、真剣に情報に向き合っていかないと、不利益を被ってしまう可能性も高い。私たちが難しい情報を避け、手軽な情報に飛びついてしまうのは考えなくて済むからだろう。その結果「これを食べれば健康になれる」といった情報が氾濫するが、医療というのはそんなにシンプルではなく、不確実性が高いものだ。

「医療情報を見るときは、『誰が語っているのか』ということが重要です。医学博士という肩書きだけではなく、その専門家が普段何に従事しているかも重要な情報です。ここだったら信用できるという情報ソースを持つことが必要です。そして、その習慣づくりを私たちは会社やメディアを通じて実現していきたい。日本の医療の未来を、作りたいんです」

そう語る木畑氏の目には、確かな自信が宿っている。2017年4月にオフィス移転、増床を完了し、さらなる成長軌道に突入したメディカルノートは、どんな医療の未来を私たちに見せてくれるのか、楽しみでならない。

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