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ビジネスモデルの未来

オープン出向制度で「日本的な人材の流動」をつくる

株式会社ローンディール

シリコンバレーを「追いかけない」働き方を目指して

リモートワーク、副業解禁、週休3日制、地方創生……日本政府が実現を目指す「働き方改革」における就労環境は急速に変化し続けている。

そのさなかに、新しい働き方のスタイルを根付かせようとしているのが株式会社ローンディールだ。手がけるのは、企業間をオープンな「出向制度」でつなぐ、プロジェクトベースのマッチングプラットフォーム「LoanDEAL」。ローンディールの原田未来(はらだ みらい)代表取締役は、自らのビジョンについて次のように語る。

「大企業の中でイノベーションの重要性が高まっています。コーポレート・アクセラレーションやオープンイノベーションといった取り組みが評価される一方で、人材の流動化が必要だという論調が強まっています。しかし、私個人としては、例えば『シリコンバレーでうまくいっているから、日本もこうあるべきだ』という外来的な考えに偏るのをあまり好みません。加えて、日本の市場でひたすら転職を繰り返しているような人材を許容できるようになるかというと、それも難しいと感じています。

そこで『日本的な人材の流動化』を模索することが、ひとつの解決策になると考えています。最大の目標は、企業規模、業界、働く場所などのさまざまな枠を超えながら、個人として成長するための経験を、それぞれの会社が提供し合えるような社会をつくることです。そのために出向制度が活用できるのです」

2015年9月にローンチされた「LoanDEAL」では、レンタル人材の受け入れが可能な企業プロジェクトが紹介されている。人材育成を目的として貸し出したい企業から問い合わせを受けると、ローンディールが受け入れ先として適切な企業の情報を提供し、面接や契約を取り持つ。実際に出向がなされた後は、随時出向者へのメンタリングを行い、より良い経験となるようなサポートも行う。

「LoanDEAL」は人材受け入れ/貸し出し企業の双方から、レンタル移籍期間中に毎月1人あたりの固定費用を得ることでマネタイズする仕組みだ。「今はこの仕組みを広げるためのフェーズ。マネタイズ以上に事業の質を高めることを大事にしています」と、原田氏は語る。

人材受け入れ/貸し出し企業の双方に費用が発生するため、企業も真剣だ。面接で落選することもまれではない。互いの眼でもって「プロジェクトの成功」を成し遂げられる人材を選びとるからこそ、より高い成果が期待できるという。現状は大手企業からベンチャー企業に人材を貸し出すケースが目立っているものの、サービスの本質的には企業規模の大小は考えていないという。

「井の中のかわず」からイノベーションの鍵に気づくまで

原田氏はアルバイトをしていた株式会社ラクーンへ大学卒業後に入社。会社は小売業者向けのファッション・雑貨の卸/仕入れサイト「スーパーデリバリー」の事業が軌道に乗り、2006年4月に東京証券取引所マザーズに上場する。

「30歳くらいのときだったと思いますが、社長に『一度、原田を商社あたりに出向させて修行を積ませたいな』ということを、何の気なしに言われたんです。私は26歳から部長職でしたから、必然的に話し相手も年上ばかり。30歳を超えてふと周りを見てみると、大手商社では同い年くらいの出世頭たちがパリッとした姿で働いているんです。自分とはまったく異なるキャリアを実現しているのを見て、私自身は“井の中のかわず”ではないかと感じました」

結果的に、原田氏はラクーンを退職し、株式会社カカクコムに転職。両社を経験した原田氏は、転職を通じて得られる視野・知識の広がりを実感する。その一方で、転職によって信頼関係がリセットされ、パフォーマンスを発揮するまでに時間がかかることも問題だと感じた。一社しか経験がない場合の視野の狭さ、転職によって失われる信頼関係、この両方に「もったいなさ」を覚えた。そんなとき、原田氏の頭をよぎったのが、かつて投げかけられた「出向」の二文字だった。そして、2015年に「LoanDEAL」を立ち上げた。

原田氏も「もし3年早く始めていたら見向きもされなかっただろう」と話すほど、「LoanDEAL」のアイデアは時代も味方してくれた。業績の成長曲線が鈍くなるなか、外部とのコラボレーションや新規事業プランコンテストなどを行い、活路を見いだそうとする企業が増えてきた。現在、どの業界でも叫ばれる「オープンイノベーション」の波がやってきたのだ。

「経営企画部やイノベーション推進部が抱えている課題と、人材育成を担っていた人事部の課題が、ものすごく密接になっているように感じます。すでに彼らとしても社内で施策は打っているけれども、望んだような結果がなかなか出てこない。その課題を突き詰めると、結局は『人材の問題』であることにたどり着いているようです」

「LoanDEAL」に問い合わせを寄せる企業の業種業界は幅広く、特に、過去に出向を経験したことのある担当者から多くの問い合わせがあることも励みになっている。これは、彼らがそれだけ「良い経験をした」と感じている証拠だ。

出向制度はキャリアパスに「納得感」を生む

原田氏は「LoanDEAL」を通じた出向者に「良い経験」を提供すべく、主に2つのポイントを重視して定期的なメンタリングを行っているという。

ひとつは「現在得ている経験を、自社へ戻った後にどのように生かせるかを考える」。新しい環境で爆発的にインプットが増えるが、ともすると一過性の知識になりかねない。会社が費用をかけて出向させてくれているという期待を再確認してもらいつつ、いかにして自社に還元するかを共に言語化するのだ。

もうひとつは「企業からのフィードバックを伝える」。人材をめぐって、受け入れ企業からの評価と、貸し出し企業からの評価は、仕事内容も異なるため、どうしてもズレが生じる。しかし、そのズレこそがこれまで見えなかった強みとして浮かび上がる。貸し出し企業にその評価を伝えることで、出向から戻ってきた際のキャリアパスに役立てられる可能性がある。

一方で、出向先の企業にそのまま転職してしまうリスクは「当然にある」と原田氏は語る。ただ、そこにも時代の変化がある。Webで求人情報や同年代の活躍を目の当たりにでき、転職活動のハードルが下がったことで、採用活動そのものがオープン化しているのが現状だ。原田氏は、社員を囲い込む時代が終わりを告げ、次のフェーズへ入ったと感じている。

「出向を経た後の不必要な離職は、僕らも全力で止めます。ただ、一昔前から多くなったMBAの取得も同じですが、自社へ戻ってきたときに学んだことを生かせないのが最大の問題なのです。どうすれば出向経験で培ったことを社員が出せるかを設計し、企業が機会を提供すれば、すぐに辞めるとは考えにくいですから」

また、原田氏は今後のワークスタイルにおいて、個々人が「納得感」をもって働くことの重要性を説く。

「大企業からベンチャー企業だけでなく、逆のパターンを経験してみたいという人も多くいます。ベンチャー企業に勤める友人は『大企業はきっと肌に合わない』と思いながらも、それを確認してみたいと言っています。それを知るには、これまでなら転職するしかありませんでした。ですが、プロジェクト単位の出向なら、経験と確認の両方を得て、これまでよりも納得感をもって仕事に取り組めます。自社に対する責任感や愛着もさらに湧くかもしれません」

最後に「LoanDEAL」が目指す『日本的な人材の流動化』を、原田氏は未来に起きうる例え話で締めくくってくれた。

「先日、あるメーカーさんから、引退セレモニーの話を聞きました。自社工場の社員が50年近く勤め上げて引退する際には、最後に必ず社長から直接感謝状が手渡されるそうです。とてもステキな話です。ただ、僕らの世代が70~80歳まで働かなければいけなくなった頃、おそらく会社は社員すべてを最後まで雇用し続けることは現実的に難しい。仮に60歳や65歳で一つ目の会社を引退することになったとき、他社で働いた経験が一度もなければ、次のキャリアの選択肢はかなり狭まってしまう。せっかく長年培ってきた能力を仕事人生の終盤において十分に発揮できない状況が生まれかねないというのは、今後の大きな問題だと思っています。一方で、ひたすら人材の流動化が進むと、ステキな物語が減ってしまうような気がします。私は出向制度を用いて、ステキな物語と流動化、両方の良いところを取り出すことができないかと考えているのです」

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