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ビジネスモデルの未来

「ツールはユーザーが支配すべき」。リンクライブ澤村大輔氏が語る、「Stock」型情報共有ツールの未来

株式会社リンクライブ

2017年12月13日、Infinity Ventures Summit (IVS)2017 Fall Kanazawaで実施されたスタートアップ・ピッチコンペティション「LaunchPad」。ここで1つの情報共有ツールのピッチが行われた。サービス名は「Stock」、作り上げたのは社員数わずか5名というスタートアップ、株式会社リンクライブだ。

今、コミュニケーションツール市場は群雄割拠の時代を迎えている。ビジネスチャットで世界最大級のシェアを獲得している「Slack」や、日本発の「ChatWork」、さらにはエンジニアをメインターゲットとした情報共有ツールの「JIRA」や「esa」など、多くのプレーヤーがしのぎを削っている。そんななか、「Stock」は従来の情報共有ツールとは異なるポジションをとり、注目を集めている。

2018年1月時点で、本リリース前のベータ版を1,400社が導入済み。2017年9月のベータ版公開から半年弱での実績としては申し分ない結果だ。しかし、「Stock」の運営会社であるリンクライブの澤村大輔代表取締役は「ベータ版公開のプレスリリースを出すときには、正直ここまでニーズや反響があるとは思ってもいませんでした」と笑う。

決してITリテラシーが高いとはいえない中小企業や、誰もが知る大手企業まで、小さなスタートアップが作り上げた情報共有ツールが、なぜここまで必要とされているのか。その話を聞くと、ツールに振り回されがちなビジネスの実情と、あるべきコミュニケーションの形が見えてきた。

課題から生まれた新しいコミュニケーションツール「Stock」

リンクライブが2015年に初めてリリースしたのは、「ONI Tsukkomi(鬼ツッコミ)」というユーザビリティ分析ツール。「UIに対するアナログな指摘をWeb上で完結できれば」という思いを実現したこのサービスは順調に成長し、単体でも黒字運営ができていると澤村氏は語る。だが、リンクライブはその成功体験に安穏とつかるのではなく、さらなる挑戦を見据えて、2つ目となるプロダクト「Stock」を作りあげた。

創業間もないスタートアップは1つのプロダクトにこだわりそうなものだが、それでも新しいプロダクトを世に送り出したのには、リンクライブという会社の根幹にある「世界を突き動かすようなものを作る」という思いがあったからだという。

しかし、「Stock」というツールが最初からイメージできていたわけではなかった。事実、150近い新規事業案を社員で持ち寄ったが、そのすべてがボツになってしまった。「Stock」のアイデアは、そうした企画会議からではなく、何気ない日常から生まれたという。

「あるチャットツールを使って社内外問わずやり取りをしていたのですが、ふと情報共有に困っていると感じたんです。一番顕著だったのは、自分たちにとって必要な情報がどんどん流されてしまうこと。業務に関する話題の合間に飲み会やプライベートなトピックが挟まれて、必要な情報を取り逃してしまったりしていました。これは何よりも自分たちにとって必要なツールだ、という点から『Stock』の開発がスタートしたのです」

澤村氏たち自身が直面した課題を解決するために誕生した「Stock」は、チャットツールとファイルストレージを足したサービスというのが最もイメージしやすい。

多くのチャットツールはスピーディーな情報共有を可能にしたが、記述した内容が流れてしまうことも珍しくない。また、ファイルストレージは情報を格納する点については優れているが、都度情報をアップデートするとなると面倒な作業が発生する。そうした双方の課題を一挙に解決するツールとして登場したのが「Stock」だ。

「Stock」の特長は文字通り、情報を「ストック」する点にある。情報はノート形式でストックされ、タスク管理機能も実装されている。この2点に主要機能を絞ったことで、誰もが簡単に利用できるUI・UXを実現した。また、ノートにはファイルを添付することもでき、ダウンロードせずともプレビューをチェックできるといった細やかな気配りが心地よい使い勝手を実現している。

トピックごとに必要な情報が1つのノートにまとまって格納されているため、必要な情報がどこにあるのかを即座に見つけやすくなっている。大量の情報が流れていくフロー型のチャットツールとは一線を画す存在だ。

2016年の年末に着想し、1週間ほどでエンジニアがプロトタイプを作成。社内ツールとして活用しつつ、2017年に入ってからはクライアントにテスターとして活用してくれないかと依頼して回りはじめた。10社訪問しても9社から「必要ない」と言われたものの、1社だけ興味を持ってくれたのがある税理士事務所だった。

「150社ほどの取引先を管理する際に発生していたコミュニケーションコストを解決するツールとして、『Stock』に興味を持っていただけたのだと思います。そこから非IT業界をメインターゲットとして据え、プロダクトのブラッシュアップと提案を重ねていきました」

「Stock」の使いやすさを端的に示すエピソードがある。「ある65歳の塾講師の方が『Stock』をマニュアルなしですぐに使いこなせたという話を聞いたときには、われわれも驚きました。同時に、直感的に操作できる『Stock』は、ITリテラシーが高くない方でも使っていただけることが強みになっていると確信したのです」

テクノロジーに振り回されてはいけない

フロー型のチャットツールはメールに代わる新しいコミュニケーションの形として多くの企業で導入が進んでいるが、一方で日々の業務とは無関係な雑談が急増したり、業務が細切れになってしまったりと、逆に生産性が落ちてしまう、という課題が表面化しているケースもある。また、セールス職のように長時間パソコンやスマートフォンを閲覧できなくなる職業とは、相性が良いとは言い難い。「大切なのは目的に応じてツールを使い分けること」と澤村氏は語る。

「『Stock』も、他のチャットツールと共存することは十分に可能だと思います。事実、リンクライブでも業務上のやり取りは『Stock』で、それ以外の何気ないコミュニケーションは別のチャットツールを使っています。フロー型のチャットツールは直接的な競合とは考えていません。そもそも用途が違うので比べる対象でもないですね」

また、ユーザーからの反響などを見るにつけ、澤村氏は「Stock」が極めて日本的なサービスだと感じるようになった。日本人の真面目で丁寧にコツコツと物事を進める姿勢と「Stock」は相性が良いという。

「日本人ってすごくメモ魔ですよね。それこそ、江戸時代に来日した外国人がビックリするくらい、とにかく書く民族らしいです。『Evernote』や『Twitter』も日本は北米に次ぐ市場規模だそうで、日本は文字を残す文化が根付いているのだと思います」

書くことを大切にする日本らしい習慣がポジティブに働くようにすることが大切だと澤村氏は説いている。ビジネスコミュニケーションの中心となったメールは、チャットツールの登場により、その流通量は減少したかもしれない。そこで、「Slack」や「ChatWork」といったチャットツールが台頭したが、既存のツールと「Stock」をどのように使い分けていくかを澤村氏は模索し続けている。

「たとえば会社のミーティングであれば『Stock』にアジェンダを書いて、議事録を書き、ホワイトボードを撮影した画像を貼り付ければ終了です。ファイルを開かない、作らない、更新しない。こうした省力化を実現できるようサービスを設計しています」

チーム内だけでの活用であれば、ドキュメントの体裁を細かく整える必要はない。必要なのは、時間をかけて整えることよりも、振り返ったときに必要な情報がすぐ取り出せることである。ある意味で合理的な「Stock」の指針は、多くのユーザーから支持を得ている。

今はまだ、社員を10倍に増やしても価値は10倍にはならない

リンクライブは2018年2月に「Stock」の有料サービス化に踏み切ったばかりだが、手応えも確かに感じている。たとえば、ベータ版公開前から「Stock」を利用している企業のノート数は5,000を記録。これはストックされた情報として驚異的な数だ。

今後はAPI連携機能の追加などを検討しているが、そもそもの土台をシンプルに設計した分、拡張性・自由度が高いことも強みになってきた。「とはいえ、むやみやたらにサービス拡張をするつもりはありません」と、慎重な姿勢は崩さない。それは資金調達などに関しても同様だという。

日本企業がスタートアップ企業への投資を増やし続けているなか、リンクライブとしても資金調達の検討が視野に入るフェーズだが、むやみに資金調達はしたくないと澤村氏は考えている。

「当社はまだ5名という小規模な組織ですが、この人数でもまだやれることは数多く残っている段階です。社員の数を10倍に増やしたとして、サービスの価値が10倍になるわけでもないですから。『ONI Tsukkomi』という黒字化できているサービスを保有しているメリットを最大限に生かしつつ、今はまだじっくりやるべきことをやるフェーズです」

「スタートアップにとってのバブル期」という声も散見されるなかで、市場の熱狂ぶりに踊らされることなく地に足をつけて歩みを進めているリンクライブ。この大人のスタートアップが、これからどのように「Stock」を普及させていくのか。近い将来、ビジネスコミュニケーションのあり方に一石を投じるのは、この小さなスタートアップなのかもしれない。

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