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ビジネスモデルの未来

日本経済活性化の可能性を秘める、大企業と日本中の中小企業をつなぐプラットフォーム構想

リンカーズ株式会社 前田佳宏

日本経済は1950年代半ばには戦後からの復興を遂げ、戦前の個人消費額や賃金の水準を突破。以降、1973年の第1次オイルショックが起こるまで、年平均10%という飛躍的な経済成長を続けてきた。それを支えたのは、世界に誇る高い技術力だ。日本が今なお「技術大国」と称されるゆえんだが、翻って現在では円高・財政赤字・信用不安などさまざまな要素が絡み合い、日本のものづくりは衰退の一途をたどっている。そんな状況解決の糸口となるのが、2012年に前田佳宏氏が創業したリンカーズ株式会社のビジネスマッチングプラットフォーム「Linkers(リンカーズ)」だ。インターネットを活用し、大手企業と日本各地に点在する中小企業を結びつけるもので、新たな産業を創出する要となりつつある。

日本のものづくり産業に改革を起こしたい

――リンカーズを創業されるまでのご経歴についてお教えください。

2000年に大阪大学工学部を卒業し、京セラ株式会社に入社をしました。工学部出身ではありましたが、幅広い視野で仕事をしたかったので営業を志望し、携帯電話に使われる電子部品の海外営業を担当していたんです。また、学生時代から京セラの創始者である稲盛和夫さんの考えに共感していましたので、京セラに入りたいという思いは強かったですね。6年半ほど勤めて、「もっと世の中にインパクトを与えられる仕事がしたい」と、株式会社野村総合研究所へ転職。ここでは主に日本の大手製造業を中心としたコンサルティングを行っていました。

――起業を意識されたきっかけとは?

野村総研でも約6年半働いていたのですが、最後にクロスボーダーM&Aをやっていたんですね。そうすると、欧米と日本国内のメーカーにおける産業構造を比較する場面が出てきます。その過程で、日本の産業の未来に危機感を覚えるようになりました。

例えば、欧米諸国では高い技術力を持つ中小企業や、ビジネスの可能性を感じさせるスタートアップが誕生すると、大手企業がすぐに買収したり、起業する側も数年後のバイアウトを見越して会社を立ち上げたりする。一方、日本では大手企業はその「枠」から飛び出して外部の企業を取り込むことに消極的でしたし、中小企業は細々と目の前の請負仕事だけに専念するといった産業構造ができあがっているんです。

ご存じのとおり、日本の労働人口は減少し、グローバルでの競争が激化するにあたり、確かな技術力がある中小企業にとって、どんどん厳しい時代がやってくる。でも、日本の「技術立国」たる理由は、こうした中小企業の存在があるからに他ならない。そう考えたとき、産業を大きく変革しなければならないと感じたんです。

そこで最初に考えたのが、ビジネスSNSでした。日本では事業の秘匿性が重視されるあまり、大手メーカーの営業にしろ、研究開発にしろ、なかなか自社の情報や現状を発信しづらい状況にある。だからソーシャルニュースメディアのNews Picksのように、業界関係者たちがサイト上で議論を行える場をつくってみました。それが野村総研を退職し、起業した2012年の4月。自動車、機械、医療器具、食品・飲料など、産業別に細分化したカテゴリを300業界ほどつくったのですが、活発な議論を起こすまでに至らず3カ月で継続を断念しました。

――約300業界に細分化されたというシステム上の仕組みはすごいですね。

そうなんです。SNSはダメでしたが、ここで構築したバリューチェーンは業界の構造が全て分かるほど細分化されており、これを使わない手はないと考えました。東北の復興にも携わりたかったですし、このシステムを持って東北の支援機関を40くらいまわったんです。そこで唯一興味を持ってくれたのが、東北経済連合会。彼らはものづくり産業の復興に苦戦しているタイミングだったことも重なり、業務提携を結ぶ運びとなりました。当時、われわれは名もない小さなベンチャー企業ですから、勇気のある決断をしてくださったと感謝しています。

中小企業の「暗黙知」を引き出すコーディネーターの存在

――東北経済連合会との業務提携後、まずどのような取り組みを行ったのですか?

ビジネスSNSを閉じた後、さまざまな業界の企業が技術や製品をウェブ上でPRできる常設展示会「eEXPO(イーエキスポ)」を立ち上げていたので、1年かけて東北の中小企業約400社を訪問し、eEXPOへの代行登録を行いました。

その過程の中で気づいたのは、中小企業はウェブにほとんど技術情報を掲示していないということ。それには訳があって、大手企業とのエクスクルーシブな契約により非公開情報であることが一つ。二つ目は技術が盗まれるかもしれないという懸念。そして三つ目が「暗黙知」。これが最も大きな理由なんです。

――「暗黙知」とはどういうものですか?

中小企業がこれまで培ってきた言語化できない情報や技術のことですね。これが非常に重要なんです。技術におけるノウハウは、聞かれないと答えられない。ネットや論文では検索が不可能ですし、展示会で技術者らと話をすれば「暗黙知」を引き出すこともできますが、直接の接点がないと難しい。情報を収集できる方法が非常に限定的で、網羅性に問題が残ってしまうんですね。

網羅的に「暗黙知」を回収するには、地域の中小企業と信頼関係が築けている人物を介することが必要だった。そのキーパーソンとなるのが、東北経済連合会のような各地域の産業支援機関に所属するコーディネーターです。そこで行政機関主導のもと、47都道府県の計350機関、約1,700名のコーディネーターと契約を結び、一気にネットワークを構築していきましたね。

そうして2014年1月にリリースしたのが、マッチングプラットフォームである「Linkers」。ものづくりのマッチングは、やはり人を介さないと難しい。だからといって人だけでもダメで、IT×人なんです。標準化できる部分はシステム化しつつも、人もうまく介入させていく。「プラットフォームを作りましたから、情報を掲載してください」では、どこも動いてくれない。信頼できる人を経由することで、初めて「暗黙知」が少しずつ表に出てくる。改めてこのマッチングビジネスは人がいてこそ成り立つものだ、と痛感しています。

“ミッシングピース”を埋める企業こそ、市場開拓の要

――大手企業と中小企業のマッチングの必要性についてお聞かせください。

大手企業にはいわゆる“ミッシングピース”があるんです。例えばアマゾンの物流センターで稼働しているキバ・ロボットのような自動搬送機をつくる技術の8割は抱えているけど、うち2割は自社だけではカバーできないといった声はよく聞かれます。自社で全て開発するとコストがかかり過ぎますし、その部分を補う技術力がない。だからこそ技術を外部から調達するオープンイノベーションが必要になってくるんですよ。

下請け企業が請け負うミッシングピース自体は1億円にしかならないかもしれませんが、これを見つけることにより100億円規模のプロジェクトが動き出す。つまりわれわれがこのような案件を100件マッチングさせれば、1兆円の市場が生まれるといっても過言ではないんですね。

無理やりパズルのピースをはめるように、妥協した企業に依頼したり、80%しかマッチしないパーツをあてがったりすると、驚くほど失敗します。大手企業と中小の下請け企業がつながる機会がなかったこと、それこそが日本のものづくり産業が抱える一番の課題であり、Linkersを利用することでこの課題を打破できるんですね。

――Linkersには中小企業が何社くらい登録されているのですか?

日本各地に43万社のものづくり企業があり、その中で一流として評価ができる企業の数万社が登録されています。地方自治体、銀行、大学の研究室などの各機関で中小企業を支援されているコーディネーターの方から提案してもらうかたちですね。

流れとしては、大手企業から「こんなことができる企業を探している」と、条件と画像イメージとともに依頼が入り、それを守秘義務契約を結んだコーディネーターに一斉に流します。すると全国から候補企業が集まり、条件を満たした企業だけが最終的に3、4社残る。そこから大手企業との面談に進み、マッチングが成立。マッチング率と顧客満足度はともに90%以上です。リピート率も非常に高いです。

中小企業とコーディネーターとの間に信頼があるからこそ、提示された条件にも、「なぜできるのか、なぜできないのか」ときちんと答えてくれます。コーディネーターがいなければ、大量の暗黙知を吸い上げることはできません。これらの暗黙知情報はビッグデータとして登録されているので、いずれはAIとともに活用していく予定です。

ビジネスモデルとしては、1案件あたり大手企業からいただく探索費用は100万円から。半分が着手金で、面談に進んだら4分の1、残りの4分の1が成果報酬です。以前は中小企業からも売り上げの一部をいただいていたのですが、われわれはプラットフォームに徹すると決めて、それをやめました。徹底的に中小企業を支援する側に回った、と言えるかもしれません。

「日本ものづくり株式会社」が世界にニッポンの技術を知らしめる

――マッチングにより、市場が開拓され、下請け企業にも仕事が生まれ、まさに日本の経済の活性化につながる可能性を有しているのですね。

そこが狙いです。われわれに対応できるのは、1次請けできるハブ企業。彼らが利益を生めば、波及的に2次発注、3次発注が起こっていく。バンダイナムコグループの新規事業開発会社、株式会社VIBEからの案件で生まれた段ボール防音室はいい例ですね。福島県の神田産業株式会社がマッチングしたのですが、現に2次発注、3次発注が発生し、周辺企業も潤っているんですよ。地域に新たな産業が創出されることで、地域活性のみならず結果的に日本経済の活性化にもつながっていくんです。

――今後のビジョンについてお教えください。

日本のものづくり企業1万社が加盟する「日本ものづくり株式会社」で次世代商社をつくることです。これまでニーズ起点だったものを、技術をPRして逆に売り込んでいく。さらに海外進出も考えていて、日本の高い技術力をいかにアピールするかが大切なんですね。国内ならマッチングさえすれば取引は成立しやすいですが、海外だと基本契約の締結やコミュニケーションなどのサポートをしないとうまくいかない。技術ライセンスの契約をきちんと結べば、たとえ中国で量産されても生産量に従ってフィー(使用権料)が入ってくる仕組みになります。

日本ものづくり株式会社は、国内外問わず量産までの機能をワンストップかつ短期間で進め、中小企業の技術を守り、ファイナンスの支援も行えるようにしていきたいです。Linkersのプラットフォームを軸に、さまざまな展開に発展するよう、これからも挑戦し続けたいと思います。

【プロフィール】
リンカーズ株式会社
代表取締役CEO 前田佳宏

1977年生まれ。2000年大阪大学工学部卒業後、京セラ株式会社に入社。2006年より株式会社野村総合研究所にて勤務。2012年4月Distty株式会社(現リンカーズ株式会社)を創業、同年東北経済連合会・東経連ビジネスセンター・マーケティング支援チーム・ナビゲーター就任。

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