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ビジネスモデルの未来

世界に誇る「Made in Japan」を残したい。日本発のファクトリーブランド創出を目指す、ファクトリエの挑戦

ライフスタイルアクセント株式会社 山田 敏夫

ここ数十年の間に、日本のアパレル市場にはいくつかの大きな変化が訪れた。高級ブランド志向の強かったバブル期を経て、2000年代にはファスト・ファッションが台頭。アパレル市場で勢力を拡大し続けている。他方、日本国内におけるアパレル品国産比率の現状にも目を向ける必要があるだろう。1990年には50.1%だった国産比率は、2014年には約3%にまで減少。その背景には、製造をコストの安い海外に切り替えたという理由がある。しかし、「Made in Japan」の品質と信頼性の高さは世界中が認めている。その灯火が消えぬよう、日本のアパレル工場の名前を前面に出し、製造・販売するファクトリーブランド「ファクトリエ」を立ち上げたのがライフスタイルアクセント株式会社の代表取締役社長・山田敏夫氏だ。

日本のアパレル工場から世界ブランドを誕生させるというハタチの決意

――日本のアパレル工場に特化したブランドを設立しよう、と思われたきっかけを教えてください。

大学2年生の時、フランスのポール・セザンヌ大学の経済学部に留学をしたんですね。留学中にパリのグッチでアルバイトをして、その経験によって学んだことがブランド設立の契機となっています。

グッチのスタッフはグッチのブランドを心から愛しているんです。店の格調に反するファッションで訪れた客に注意をするほど。それこそ、傲慢なくらいに、です。

僕は熊本の商店街にある婦人服店の息子なので、日本の小売店の感覚からするとその光景は「お客様に対して失礼だろう」と感じざるを得ないものでした。ただなぜ彼らがそのような態度をとったかというと、モノづくりの誇りをもっているからなんです。

――“モノづくりの誇り”というと?

グッチをはじめ、ヨーロッパのファクトリーブランドに共通することですが、モノの価値をしっかりと分かっているんです。一つのバッグに職人がどれだけ手間をかけ、責任を持って仕事に取り組んでいるのかを知っている。だから何十万で販売されていようが、「高い」とは思わないんですよ。

本当は日本だって同じはず。輪島塗や南部鉄器といった伝統工芸品は今も高値で売られ、それを買い求める人も一定数存在しているように、値段に関係なく「良いものは良い」と自信を持って作り、販売できる人がいるのです。

しかし、日本のアパレルは違う道を歩んでしまった。安価であることを過剰に追求しすぎたのかもしれません。生産コストの安い海外に製造拠点をシフトしたり、生産側よりも販売側の力が強く、10万円でもおかしくないものが1万円で売られたりしているわけです。その矛盾に気づいた時、日本のモノづくりの現場から世界的なブランドを誕生させたいと強く思ったんです。グッチやプラダのように、工場から歴史を積み重ねてきた、世界に通用するファクトリーブランドを作ってみせるんだ、と。

「お客様は神様です」を捨てた経営者としての人生

――ご生家は1917年創業の老舗婦人服店とのことですが、幼い頃からアパレル業界に進もうと意識されていたのですか?

そうですね。「僕が4代目として家業を継ぐんだろうな」と、小学生の頃には漠然と考えていました。大学で商学部を専攻し、留学先もファッションの本場であるフランスに決めました。

――しかし大学卒業後はアパレル企業ではなく、インターネット関連の企業に就職されたのが意外でした。

新卒で転職サイトの運営をしているソフトバンク・ヒューマンキャピタル株式会社に就職をしました。まずは社会人として、経営に近い営業経験を積もうと考えたんです。ここでは営業はもちろん、インターネットの捉え方など、大変多くのことを学ばせていただきましたね。営業マネージャーを務めましたが、ファッションの世界に戻ろうと4年ほどで退職しました。

その後、ECサイト「fashionwalker.com」とファッションイベント「東京ガールズコレクション」の両方を運営していた会社に転職しました。でもファッション関係の実務経験はなく、倉庫番のアルバイトからのスタート。それでもECとイベントのリアルなノウハウを勉強させていただき、2012年、29歳で独立をしました。

――ご自身でビジネスを始めるにあたり、掲げられた思いとはどのようなものだったのでしょう?

最初に「お客様は神様です」という精神を捨てました。今の世の中的には「客なら何をしたって構わない」というふうに、客側にとって都合のいい言葉として捉えられている。僕からしたら、商品を買ってくれる方こそがお客様。極端ですが、見込み客ですら、まだお客様ではないんです。

――特に小売業や製造業において、言葉が独り歩きしている状況がありそうですね。

「すべての人に土下座する」という認識になってしまっているんです。その先で苦しい思いをしているのは、モノづくりをしている人たち。ユーザーのマーケティングをすればするほどイノベーションが起きにくくなっている。「いい商品を作れば売れる」とか、そういうレベルの話ではなく、業界構造、あるいはその既存概念を打ち壊さない限りダメだと感じました。

例えば、アパレル市場においてもむちゃな単価を要求することがまかり通っているわけです。原価率を仮に20%とすると、市場は「お客様が3,000円のTシャツが欲しいと言っているから600円で作れ」と言う。でも、日本の工場でそれをやろうとしても無茶がある。そもそも人件費だけでそれくらいかかってしまうわけですから。そうしたら「人件費にそんなにコストはかけられない」と言って、製造は海外で行い始めた。結果、日本のモノづくり業者がなくなってしまいました。

もちろん、なんとか生き残っている工場だってありますが、順風満帆ではありません。運営や機械のローンの支払いがありますから安くても仕事を受けなくてはならず、にっちもさっちもいかない状況に陥っている。日本中で負のスパイラルが続いているんです。雇用も減る、消費も減る、ニーズも減る。回り回って、全員が全員、損をしているわけです。

のれん型ビジネスと画期的な流通構造

――商品を消費者に届けるまでに中間業者を介入させていないファクトリエの流通構造は珍しいのでは?

はい。アパレル業界の一般的な構造として、商品が店頭に並ぶまでに商社や問屋といった中間業者が介入しています。結果、工場は原価抑制を強いられ、経営が厳しくなってしまう。この状況を打破するために、ファクトリエでは中間業者を完全排除した「工場直販」の仕組みを導入しています。そうすることで工場は利益を確保できますし、お客様にも高品質の商品を適正価格で提供することができるんですね。

中間業者を取り払ったことで、従来3万円するだろう品質のシャツが1万円で販売しても工場側に利益が出るようになりました。こうした金額も初回の生産ロット数も工場の方で決めてもらっているんですよ。ただし、買い取りはすべてはしません。

「本当に売れる自信がある品質と価格なのか」という覚悟を見せてもらうという意味でも、在庫を工場さんにも持ってもらい、リスクは背負ってもらうようにしています。すべてをフェアに、対等な立場でいることをめざしているからです。

――ファクトリエはマーケティングを重視したビジネスとは一線を画しているように感じます。

アメリカ型のマーケティングと対極にある、「のれん型」のビジネスを突き通そうと考えているんです。これは「合わない人は来なくていいよ」という一見ちょっとずうずうしいモデルなのですが、ヨーロッパは大概にしてのれん型なんですね。

全世界をターゲットに据えるなら、何千億という市場規模があります。これまで全国各地550の工場を訪れ、現在40の工場と提携して商品を販売しているのですが、この40社を成功させ、彼らも僕らも利益を得て、「モノづくりってもうかるんだ」と世の中に浸透させていきたいんですよ。すべての会社を底上げするよりも、いい事例を一つでも良いから作る。その方がみんなの希望になれるはずなんです。

――工場に提携を打診する際の基準などはあるのですか?

工場内を見学させていただき、技術、環境、スタンス、会社としての考えなどをヒアリングしていくなかで、社内で制定した項目で合格点が取れているかどうかを基準にしています。ですが最も大切なのは、その工場が将来を見据えているかどうか。

技術力はもちろん重要ですが、未来志向でなければなりません。提携工場は宮内庁御用達のファクトリー、国内外の一流ブランドのOEMの商品実績のあるシャツ工場、機織り機でオールハンドメイドのネクタイを織り上げる工房など、世界と戦える技術とプライドを持っているところばかりです。

日本のアパレル工場に一筋の光が差し込みはじめた

――ファクトリエと提携したことによって、工場ではどのような変化がありましたか?

商品のタグには製造した工場名も入れているんですね。完売したら工場中にざわめきが起こりますし、そのことが働く方たちの誇りにもつながっていく。さらに少しずつでも利益体質へと改善されると、人員も採用できるようになっていくんです。地元の新聞に取り上げられて高校の先生が実習で訪れたことがご縁となり、採用がうまくいっているところもありますね。

現在、提携工場の3分の1くらいにはどんどん若い人たちが入ってきています。工場見学ツアーを実施するのも、実は工場のためなんですよ。愛用してくださっているお客様とのリアルなコミュニケーションは、工場内のモチベーションにもなりますから。バスが1時間に1本来るか来ないかという土地に、わざわざ日本中から工場見学に来てくれる人がいる。応募数が100件を超えることだってざらですよ。現地集合現地解散なのに(笑)。作り手としては、とても幸せなことだろうと思います。

――今後の展望をお聞かせください。

ありがたいことに売り上げは急激に伸びつつありますが、数字だけにこだわりすぎないようにしています。というのも、僕らのやるべきことは1年、2年で達成できるようなものではないんです。ファクトリエが仕掛けていることって、世間的にみたら、ECサイトもやっているし、アパレルブランドも立ち上げているし、工場見学を行ったりしているし……といったように、いろいろ手を広げているように映ると思うんです。

それらをきちんと連動させ、日本のモノづくりを再興させるために、やれることは全部やっていく。「語れるもので日々を豊かに」という理念を常に大事にしながら、「日本から世界ブランドを作る」というハタチの時に胸に刻み込んだ思いを実現すべく、突き進んでいくだけです。

【プロフィール】
ライフスタイルアクセント株式会社
http://www.lifestyleaccent.co.jp/
代表取締役社長 山田敏夫

1982年熊本県生まれ。2006年中央大学卒業後、ソフトバンク・ヒューマンキャピタル株式会社へ入社。2010年に東京ガールズコレクションの公式通販サイトを運営する株式会社ファッションウォーカー(現:株式会社ファッション・コ・ラボ)へ転職し、社長直轄の事業開発部にて、最先端のファッションビジネスを経験する。2012年、ライフスタイルアクセント株式会社を設立。2014年中小企業基盤整備機構と日経BP社との連携事業「新ジャパンメイド企画」審査員に就任。2015年経済産業省「平成26年度製造基盤技術実態等調査事業(我が国繊維産地企業の商品開発・販路開拓の在り方に関する調査事業)」を受託。年間訪れるモノづくりの現場は100を超える。

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