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ビジネスモデルの未来

「家具×IoT」で世界を広くするスタートアップ

KAMARQ HOLDINGS PTE.LTD

生活空間に「余白」を増やす、独創的な家具ブランドを

日本人は長く「余白」や「遊び」を大切にする文化を育んできた民族だ。豪華な装飾品よりもわびさびに思いを寄せ、シンプルな物事のなかに美を見いだしてきた歴史を持つ。そうした積み重ねに着目し「生活に新たな『空間』を作り、一人一人の『世界』を広げていくようなプロダクトを作りたいと考えたのです」と語るのは、KAMARQ HOLDINGS PTE.LTDの創業者である和田直希CEOだ。

KAMARQが手がけるのは、家具にIoTの機能を付け加えた、次世代の家具たちだ。家具製造のプロフェッショナルだった和田氏は、シリアルアントレプレナーの町野健氏やデザイン家電ブームの火付け役ともなった「amadana(アマダナ)」のデザインなどを手がけたデザイナー、鄭秀和(テイ・シュウワ)氏らとの出会いから、「家具×IoTで、家具業界のAppleを目指す」というビジョンを掲げ、KAMARQを創業するに至った。

「家具を透明にする、というコンセプトが、私たちの共通認識です。家具は世界中、どの部屋にも必ず存在しています。テーブルや椅子、本棚、ベッドなど挙げればきりがありません。それぞれの家具には確かな役割が存在しており、従来は家具と家電製品は切り離された存在でした。まずはここを同一化させることで、家電製品を家具の中に吸収させる……つまり『透明』にすることを目指しています」

KAMARQが第一弾のプロダクトとして発表したのは、家具と音楽をかけあわせたSound Tableだ。ユニークなのは「スピーカー付きのテーブル」ではなく、「テーブルそのものがスピーカー」という発想だ。天板全体から音が奏でられ、スタイリッシュなデザインのテーブルそのものが音響装置として機能する。さらに、専用のアプリと連携させることで、好きな時間に好きな音楽が自動的に演奏されるように設定したり、位置情報を登録することで気候予測データなどから天候や外気温に合わせたサウンドが奏でられたりと、さまざまな使い方が可能となっている。

「天板の側面には電源やUSB端子も備えています。電源の配線などを気にすることなく、PCを充電したり、テーブルの上で電子調理器を使って料理を楽しんだりすることもできます。それでいて意匠性にもこだわっており、価格帯についても、同品質のテーブルなどより圧倒的に下げることができています。IoT機能を追加した上で、従来品よりも低価格なのは、KAMARQのプロダクトを特別な人たちだけでなく、世界中の人たちに使ってほしいという願いがあるからです」

サラリーマン経験はゼロ。だからこそ恐れず挑戦できる

ここで少し、和田氏の経歴について触れておきたい。「18歳から経営者として働き始めて、今までサラリーマンの経験はありません」と笑う和田氏。早くから数々の事業を立ち上げてきた和田氏が、KAMARQ設立前に全力を注いでいたのが、インドネシアでの家具製造業だった。

「日本を飛び出したのは、日本という国がなんとなく窮屈に感じていたから。2億人を超える人口がいて、平均年齢は20代。とにかくバイタリティーあふれるインドネシアは自分の気質に合っていたんでしょう。そこで事業を起こし、世界中からありとあらゆる木材を受け入れ、ローコストで高品質な家具を作り、世界中に届けていました。従業員数もかなりの数を抱え、売り上げも数十億円と堅調に伸び続けていた。周囲から見れば順風満帆だったと思います」

それでも家具業界における課題も当時から感じていたという。それは、家具選びには何かと制限が多く存在するということだ。「衣食住という言葉がありますが、今日着る服や明日食べるものは自由に選べるのに、人生の約3分の1の時間を過ごすといわれる住まいには制約がたくさんある。部屋の大きさによって家具や家電製品の大きさが定められ、否応なくライフスタイルの幅が縮こまってしまう。そこを是正したいと思うようになりました」

高度経済成長期には大量のモノを購入することで欲求が満たされ、大量生産・大量消費こそが良しとされていた。しかし、日本という国も成熟期に突入し、「豊かさ=モノにあふれていること」という図式が変わり始めている。「心の豊かさ」といった言葉がフィーチャーされるようになったことからも、世間全体の「豊かさ」に対する価値観が変化していることがわかる。

「欲しいモノをどれだけ手に入れても、ぎゅうぎゅうに詰め込まれた余裕のない暮らしのなかには、本当の意味での豊かさが存在しないように感じます。だからこそ、KAMARQは暮らしのなかに『空間』を作ることで、人々の『世界』を広げていきたいのです。KAMARQの家具によって生まれたスペースに一輪挿しの花を置いたり、思い出の写真を飾ったりすれば、人生がほんのちょっと気持ちよくなると思いませんか」

インターネットの普及、発展にともない、情報過多が叫ばれることも多くなった現代において、Sound Tableにはたき火のはぜる音や川のせせらぎ、花火や風の音もあらかじめ収録されている。「音楽や音が起点となって、家族や人々のコミュニケーションツールになれば良いと考えています」と、和田氏は笑顔で語る。

「家具製造に特化していた私にとって、ITに通じている町野との出会いは非常にセンセーショナルでした。一緒に事業を始めることはすぐに決断しましたが、せっかくやるのであれば、単なる家具ブランドを作っても面白くない。会社をつぶさないことは大前提ですが、自分たちが21世紀を代表するブランドに成長していくには何が必要なのか、その一点を見据えて事業を展開できている自負はあります」

「家具×IoT」の掛け合わせは、実は参入障壁が非常に高いことも、KAMARQの自信につながっているという。日本でいう「JIS規格」のような工業製品規格が世界各国にあり、それらを把握したモノづくりを推進できる企業は決して多くない。その点、世界中から家具の発注を受けてきた和田氏の知見は大きな武器となっている。「何が良くて、何が駄目か。異業種から参入する際にはその肌感覚を身につけるだけでも相当苦労するでしょう。その点では、ノウハウに絶対の自信があるからこそ、KAMARQを立ち上げられた、とも言えます」

KAMARQで丸ごと1つの街を作ってみたい

Sound Tableに続く製品アイデアも既に多くあるという和田氏。そのうちの1つがMemory Doorだ。「非常にシンプルなアイデアですが、ドアにセンサーを取り付けることで開閉状況を確認、分析できるものです。例えば高齢者の家にMemory Doorを設置しておき、一定時間開閉がなければ、親類や近隣の病院に通知が届くようにするといったことが考えられます。スマートフォンアプリと連動したオートロック機能を設けても良いかもしれません」

これまで見えなかったものが見えるようになることが、IoT普及の一番のメリットと語る和田氏。和田氏にとって、ドアは特別な思いを抱くプロダクトでもあるという。いわく「製造工場を構えているインドネシアでは、玄関のドアがある家のほうが少ない」のだとか。

「インドネシアという国は急速に発達、IT化しています。日本では電話1つ見ても黒電話からPHS、携帯電話、スマートフォンといった流れがありましたが、インドネシアではそれらが一足飛びでいきなりスマートフォンが普及しています。一方で、家に帰ればドアがなく、防犯面で大きなリスクを抱えている。そうした家すべてにKAMARQのSmart Doorが普及すると、錠前を必要としない、スマートフォンが鍵代わりになる価値観が広がるでしょう。KAMARQは世界を見据えた家具ブランドですが、まずはKAMARQのプロダクトを、インドネシアの地に広く浸透させていきたいと考えています」

KAMARQが生み出す家具にはそれぞれ専用アプリが用意され、家具を購入するごとにアプリの数も増えていく。将来的にはそれらの情報を一元管理し、生活空間を丸ごとKAMARQがプロデュースしていくというのが、同社の構想だ。既に、とある介護施設の建物を丸ごとIoT化したトライアルも実行しているという。

「特に興味深かったのは、要介護者のベッドに備え付けたセンサーですね。通常、介護士が各部屋を訪問し、眠っているか確かめていたのですが、どうしても物音で起きてしまう方もいて、結果的に睡眠が不規則になってしまうという課題が介護の現場でありました。しかし、ベッドに動きを検知するドップラーセンサーを備え付けたところ、定期的な夜間巡回の回数を減らすことができ、介護士の負担も軽減できました。さらに、睡眠の妨害がなくなったことで、認知症などの進行を防げるのでは、という期待の声も出てきました」

とあるIoT企業も買収し、いよいよ技術領域にも本格的に着手しようとしているKAMARQ。彼らが目指す未来の1つとして、和田氏は「KAMARQとして、丸ごと1つの街をプロデュースしたい」と力強く語る。

「生活のなかに『空白』が生まれるとゆとりに変わるように、私たちの身のまわりにあるプロダクトがより洗練されたものになれば、面白い化学反応が起きると考えています。良い家がたくさんあれば、その周りに面白いプロダクトが集まってきて、街に住む人たちの習慣や価値観が変わり、ひいては新たな発想、イノベーションが生まれる源泉になるだろう、と。海外では大手不動産デベロッパーが丸ごと街を作ることは珍しくありません。いずれKAMARQも、小さな街をまとめてプロデュースし、子どもたちから『あそこに住みたい!』と言われるような街づくりまで手がけられたら、と思います」

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