探そう、まだ見ぬ未来を。

ビジネスモデルの未来

日本の“おもてなし”を世界と未来へつないでいく

株式会社八芳園 長谷晴義

東京都港区白金台、約1万坪の敷地内に四季折々の風景と渡り鳥のさえずりを楽しめる日本庭園がある。そこが「裏・表なく四方八方から眺めて美しい」ことから命名された八芳園。1952年に創業し、結婚式やパーティー、外国人観光客など年間45万人以上の人々が訪れ、特別な時間を過ごしている場所だ。江戸時代初期には徳川家康の側臣のひとり大久保彦左衛門の屋敷であったといわれ、その後、実業家である渋沢喜作や久原房之助らにも深く愛されたという。現在、代表取締役社長を務めるのは3代目にあたる長谷晴義氏。伝統を守りつつさまざまな業態にチャレンジし、革新的とも呼べる取り組みを次々と打ち出している。歴史ある八芳園を未来にどう紡いでいくのか、その思いを探っていく。

挙式する二人のための“特別”が業績回復の契機

――江戸時代から続く庭園を守り続けてきた八芳園。そのご子息として生まれ、将来をどのように捉えながら過ごしてこられたのですか?

「ゆくゆくは八芳園を継ぐんだ」という思いは、幼い頃から自然とありました。幼少期には学校帰りに立ち寄り、庭園や池で遊び、父と一緒に帰宅することも。八芳園は生活とともにあったので、ごく当たり前のことでした。大学生になると、春休みや夏休みに配膳のアルバイトをしていました。入社をしたのは2002年。当時は、今ほど華やかな雰囲気ではなかったかもしれません。現在は年間約2,000組の挙式がありますが、当時は年間1,000組ほどのお客様で、現在の約半分の組数だったんです。

――業績回復の決め手となったのは?

私が入社した当時の総料理長が、ゼネラルマネージャーも兼務しており、営業面も管轄していました。そこで、業績を回復させるためにも他社と差別化を図らなければならないと、披露宴それぞれにオリジナルメニューを導入することを決めました。例えば新郎新婦の地元の郷土料理や、ご実家でつくられているコシヒカリを使った料理など、お二人らしさを表すメニューを一組ひと組の挙式に取り入れたりしました。

もちろん手間は掛かりますが、結婚式は大切な記念日です。そうした取り組みが大変ご好評いただき、少しずつ流れが変わってきました。他にも、お客様が会場を下見されるにあたって、昔はセッティングも何もない状態だったのですが、それではイメージが湧きませんから、卓上装花やクロス類、ペーパーアイテムもセットしたモデルルームをご用意し、少しでも当日のイメージをお持ちいただけるようにしました。

でも、一番心血を注いだのがスタッフのマインドを変えることでしたね。私はまだ若手でしたが、それをある意味利用し、現場のスタッフと率直に話していました。「しつこいな」って思われているのは間違いないくらい、お客様に喜んでいただくためには何ができるか、何をすべきか、いろいろな話をしていましたね。

――多大な費用を投じずに業績を上げられたのは、まさに長谷さんの手腕と人望のたまものですね。

いえいえ、私一人の力でできることではありません。八芳園のスタッフみんなでやってきたものです。当時はリニューアルをしたくてもお金をかける余裕がありませんでしたし、できることからコツコツと積み重ねてきたまで。その分、スタッフの気持ちやモチベーションの変化でここまで変わるものなのか、というのは実感しています。心構えが変われば、同じ人でも見違えるほどに良くなっていく。非常に興味深いな、と今でも思います。

ストーリーが続く場所であるために

――長谷さんは2015年に代表取締役社長に就任されましたが、就任にあたっての思いをお聞かせください。

八芳園を将来的に継続させていくためにも、代表としてしっかり牽引していくという思いに尽きます。着手したいプロジェクトは数多くありますが、「1年目は状況を把握し、2年目にあたる2016年から徐々に改革に取り組もう」と決めていました。

改革を進めるにしても、世の中の流れを読み違えては意味がないので、情報収集も怠らないようにしています。世間では「わざわざ結婚式を挙げなくても……」という、「ナシ婚層」と呼ばれる方も増えてきています。そのような方々に「結婚式って大事だね」「やっぱり結婚式を挙げよう」と思っていただけるようなプランやサービスも企画していかねばなりません。

――2016年5月にリリースされた「ともに歩いていくアプリケーション」もすてきなサービスですね。あのようなサービスを八芳園が独自でつくられたのは驚きでした。

「ともに歩いていくアプリケーション」は結婚式やご旅行、お子さまが生まれてからのお宮参りや七五三といった家族のさまざまなセレモニーを記録した写真を、ご夫婦共有のクラウド上に保管できるものになっています。人生の節々の素晴らしい思い出をアップデートできるアルバムをつくれたらいいなと考えました。写真は、この取り組みに賛同してくださったアーティストによるオリジナル楽曲と組み合わせ、動画にもできます。数年後、数十年後、それらの動画をつなげ、お二人はもちろん、ご家族の歩みを記録した、世界に一つのヒストリームービーをつくることもできるんですよ。

結婚式を挙げて終わりではなく、そこからお子さまが生まれ、育ち、巣立ちの時を迎え、いつの日かお孫さんを連れて帰省する……そんな人生の一コマ一コマを大切にお預かりできるサービスがあれば、そのお子さまたちもまた、八芳園のファンになってくれるはずだと信じています。

――他にも、記念日専門のレストランも面白い試みだと感じました。

プラチナ通り(東京・白金台)の「ANNIVERSARY GARDEN」ですね。結婚式後も「生涯式場」として、八芳園で式を挙げられたご夫妻、ご家族に寄り添っていくためにできたレストランです。そこは、当時のお二人のご披露宴のお料理を召し上がっていただける、特別なレストランなんです。ご披露宴当日のレシピを大切に保管し、いつでもそのお料理でお二人をお迎えできる。そんなお二人の原点、思い出の地として、少しでもお役に立ちたい。アプリやレストラン、アニバーサリーフォトなどを通じ、ご家族と関わり合い、ストーリーが続く場所でありたいと願っています。

日本のお客様、世界中のお客様へ、“おもてなし”の心を

――2002年ごろからインバウンド事業にも取り組まれていますが、その背景にあるものとは何なのでしょうか?

結婚式場は結婚式だけを行っている、と思われがちかもしれませんが、私は「宿泊がないだけで、それ以外はホテルと同じですよ」とお伝えしています。週末は結婚式、平日は宴会と、「和」を感じられる場所として海外のゲストにも以前からご利用いただくことが多かった。さらに近年では、訪日されるインバウンドの方々も増えていますので、大使館、旅行会社などとタイアップし、伝統芸能を絡めたイベントや日本らしい趣向、演出を凝らしたパーティー、イベントも積極的に開催しています。

観光ツアーなどでお越しいただく海外のお客様は年間約5万人です。庭園を散策し、園内の茶室でのお抹茶体験や折り鶴、水墨画、和太鼓鑑賞、禅体験もお楽しみいただいています。マーケティング的な要素ももちろんありますが、それ以上に八芳園が懸け橋となり、地方の伝統文化や食材など、さまざまな日本の魅力を海外に発信していきたいと考えています。

――ホームページの「おもてなしを、世界へ」というコピーも印象的です。

おもてなしの精神は、私が入社した当時から八芳園に根付いているもの。日本のきめ細かなサービスを、八芳園を訪れた国内外すべてのお客様に感じていただきたい。現場のスタッフにも「自分がお客様の立場になったとき、うれしいと感じることはどんどん実行しなさい」と話をしています。たとえミスをしたとしても、良かれと思ってしたことであれば成長につながります。何もしないで後悔するよりは、何かして後悔する方がいいですから、自発的なサービスができるよう心掛けています。

――伝統を重ね、現代を通じ、未来へ物語を紡いでいく場所として、今後の取り組みについて教えてください。

八芳園の企業理念に「日本のお客様には、心のふるさとを。外国のお客様には、日本の文化を。」という言葉があります。これは創業者である祖父・長谷敏司が掲げた志で、日本のお客様にはいつでも戻ってきていただける心安らぐ場所として、外国のお客様には日本の文化を発信し、感じていただける場所としてあり続ける、という決意が込められています。すべてのお客様の思い出の場所として存続していくため、守るべきものを守りながらも、新しい挑戦に恐れず取り組み、スタッフ一丸となってご満足いただけるサービスを提供していきたいと考えています。

【プロフィール】
株式会社八芳園
http://www.happo-en.com/
代表取締役社長 長谷晴義

1977年、東京都生まれ。2002年、株式会社八芳園入社。各事業の中枢を担ったのち、2015年に代表取締役就任。婚礼から派生する新事業として、結婚を機に顧客と生涯にわたり継続的な関わりを持つ「生涯顧客事業」をスタート。昨今急激な増加を見せる訪日外国人へも、日本各地の伝統文化や職人らとコラボレーションしたさまざまなイベントを企画・発信している。

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