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ビジネスモデルの未来

ReTech(不動産×テクノロジー)の最前線を走るスタートアップの挑戦

株式会社GA technologies

リノベーションブームを加速させるReTechアプリ「Renosy」

不動産に対する価値観が、日本の中で大きく変わりつつある。「近年のリノベーションブームが、これまでの不動産に対する認識に一石を投じる存在になるだろう」と、株式会社GA technologiesの樋口龍代表取締役社長は言う。

これまで日本は新築住宅に対する信仰が強いとされてきた。国土交通省による資料「中古住宅流通市場活性化に向けた取組について」を見ても、日本の総流通量の80%以上を新築住宅が占めており、既存住宅の割合は約15%。これが欧米になると比率が逆転する。欧米では「中古住宅を購入するのが当たり前」なのだ。

日本固有の価値観が育まれてきた背景には、戦後復興期の極端な住戸不足、高度経済成長期やバブル期の「新築一戸建て」に対する強いあこがれなど、さまざまな要因が絡んでいると言われる。

「既存住宅やリフォームなどの市場規模は2013年時点では11兆円だったのに対し、2025年には20兆円にまで成長するだろうと、国土交通省は見込んでいます。他にも2018年には住宅診断の義務化、不動産総合データベースの運用開始といった施策が展開される予定です。『中古物件をリノベーションして、自分らしく変える』という価値観が広がりを見せているだけでなく、政策レベルでもさまざまな動きが出てきているのです」

こうした時代の流れを先読みし、GA technologiesが開発したのが、スマートフォン上で自分好みの中古マンション物件やリノベーション方法が選択できるアプリケーション「Renosy(リノシー)」だ。Renosyには人工知能とレコメンドエンジンが搭載されており、ユーザーが欲しいと感じる物件や好みのリノベーションのスタイルを分析、提案する。より詳細な情報が知りたくなったところで、専任のコーディネーターの案内が始まるようになっている。

FinTechなどに続き、不動産×テクノロジー領域はReTech(Real Estate Tech)と呼称されるが、まさにRenosyはReTechの王道を行くサービスだと言える。王道ということは、言い換えれば業界のスタンダード、つまり競合が多いサービスでもある。しかし、樋口氏は「私たちのサービスに直接的な競合はまだ存在していません」と胸を張る。

日本国内においてはまだReTechにはごく一部のサービスしか存在していない。一方で、海外に目を向ければ膨大な数のReTechサービスが生まれているという。

「欧米のビジネストレンドが日本に波及するまでには、大体3年から4年のタイムラグが存在しています。これはFinTechやシェアリングエコノミーなど、あらゆるビジネスで言えることです。そして2014年末ごろから、欧米諸国ではReTech関連企業に対する投資規模は爆発的に伸びています。2017年から2018年にかけて、日本はReTechの本格的な普及フェーズに入るでしょう。そして、その先頭を走っている当社は、圧倒的な先行優位性を持っているという自負があるのです」

事実、同社は2016年8月に総額1億3500万円の第三者割当増資を完了。この資金を元手としてビジネスモデルの拡大、そしてエンジニアの積極採用につなげている。「ReTech領域に進出していても、自社でエンジニアを抱えている企業は実は多くありません。当社では専門家に技術顧問として就任していただいたことを受け、今後はさらに技術力を高めていこうと考えています」と樋口氏は語る。

注文住宅を依頼した際のフラストレーションが加入のきっかけに

ReTechが日本を席巻することで与えられるインパクトは「圧倒的なものになるでしょう」と樋口氏。その背景にあるのは、日本の不動産業界がIT化に取り組んでこなかった点にあるという。

「不動産業界では、現在も書類やFAXでのやり取りがごく普通の風景として広がっています。皆さんも引っ越しするとなれば、駅前などにある不動産屋さんに足を運んだ方がほとんどでしょうが、物件の間取りの表示や閲覧などはいまだに紙が主流です」

インターネットで空き物件の情報などは閲覧できるようにはなっているものの、まだまだインターネット上ですべての手続きが完結するには至っていない。アナログの作業が多く残る領域だ。「だからこそ、私はここにチャンスがあると感じました」と樋口氏は語る。

「不動産業界におけるアナログな状況に不便を感じているのは、購入者だけではなく、その業界で働いている人も同様です。テクノロジーを導入することで、買い手と働き手、双方にメリットが生まれ、業界をより健全化できます。それならばやらない理由はないだろう、と考えました」

そして、その思いに共感し、GA technologiesの技術顧問就任を決めたのが、日本人で唯一のRailsコミッター兼Rubyコミッターの松田明氏だ。実は松田氏も注文住宅を建てた際に、業界のアナログな状況に大きな不満を抱いたのだという。

「施工業者の方たちと毎週ミーティングして、前回からの進捗(しんちょく)を報告されるのですが、基本的にはすべて紙でやり取りされるんですね。『お願いだから、紙ではなくデータでください』とか『日々の進捗もバージョン管理してほしい』と何度も思いました」

苦笑いしながら当時を振り返る一方で、「だからこそ、この業界には改善の余地しかない」とも感じていたという。

「別に僕は不動産業界から人を排除したいわけではありません(笑)。むしろ、町中にある不動産屋さんに貼られている間取り図を眺めたり、ずっとこの世界で働いているおばあちゃんと会話したりするのが大好きなんです。不動産は物件そのものもそうですが、その街の風景や周辺情報もすごく重要になる。そういう空気感みたいなものは人が伝えて、デジタルにできるものはテクノロジーで変えていく。そういうことができたら面白そうだな、と考えています」

リノベーション、投資、人工知能……成長領域を「面」で押さえる戦略

松田氏の言葉に、樋口氏も深く同意する。実は、Renosyもかつては完全に人の手を介さないシステムとしてデザインしてみたものの、実際にリリースしてみると「大きく成約率が下がった」という背景があったという。

「今はまだ人工知能によるレコメンドに特化させただけでは駄目で、最後には人の力が必要なんだと痛感しました。そこで、現在はRenosyによるレコメンドをまずは当社のコンシェルジュに向けて行い、その中からコンシェルジュがお客様に最適な物件をスクリーニング、提案するという流れにしています。人工知能と人の力によるハイブリッドですね」

Renosyによる挑戦は、中古物件やリノベーション内容の紹介だけにとどまらない。2017年3月末には「Renosy(投資版)」をリリース。不動産投資に興味を持つユーザーも、オンライン上のコミュニケーションだけで物件の選定や物件のお申し込み手続きを進められるようにした。(現時点では法律上、物件の購入には対面での契約が必要。)こちらも人工知能によるレコメンド、そしてコンシェルジュによる紹介・サポートといった流れは変わらないという。

「不動産投資に対する興味はあっても、営業と話すのは煩わしいと感じている人は多くいらっしゃいます。また、過去に投資経験があり、わざわざ細かな説明を必要としていない人もいらっしゃいます。ターゲットごとに適切な情報を提供し、接触回数をコントロールすることで、興味や投資意欲を損ねることなく、実際にアクションしてもらえるようにしています」

不動産投資に対する知識や興味度合いも人それぞれだ。そこで、退職後のライフプランニング、年金シミュレーター、地盤・安全性検証サービス、周辺物件との価格比較、他の金融商品との比較検討といったコンテンツを用意し、幅広い方に利用してもらえるようにする予定だという。1万社におよぶ不動産業者やオーナーから直接仕入れた、合計5万件以上の物件情報をデータベースで一元管理することで、アナログだった不動産業界に風穴を開けていく。GA technologiesの目指す未来には大きな可能性が感じられる。

金融庁らが旗印として掲げる「貯蓄から投資へ」というスローガンに加え、NISA(少額投資非課税制度)が登場している今、投資に対する価値観もまた、日本で着実に変わりつつある。不動産投資はハイリスク・ハイリターンだと見なされる向きもあるが、こうしたテクノロジーが、日本における不動産投資の価値観を変えていくきっかけとなるのかもしれない。

「自分で家を建てる。自分好みに家を改装する。本来ならすごくワクワクする取り組みです。しかし、テクノロジーが行き渡っていないから不便で、面倒になっています。それは、単純に面白くない。そういうことをGA technologiesが変えていきたいですし、変えていけると思っています」と、樋口氏は、自信をのぞかせた。

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