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ビジネスモデルの未来

アイドルにもテクノロジーの波を。フォッグが仕掛ける芸能ビジネスの変革

フォッグ株式会社

金融機関や医療機関などで、テクノロジーによる革命が急速に、そして着実に進んでいる。「FinTech」「HealthTech」といったキーワードは多くのメディアでも取り上げられているが、その大枠は「アナログだったものをデジタライズする」という一言に集約されるだろう。

金融や医療の分野は、言わずもがな「超」がつくほどの巨大産業だ。電子決済プラットフォームの普及、仮想通貨の台頭、紙媒体で管理されていたカルテの電子化、ウエアラブル端末などを利用した遠隔診療……金融、医療に絞ってもあげればキリがないほどテクノロジーの恩恵を受けるものは多い。

一方で、アナログな方法に縛られている業界は数多く存在している。そのなかのひとつが芸能、エンターテインメントの世界だ。フォッグ株式会社はここに目をつけ、従来のビジネスモデルを根底から覆すようなチャレンジを始めている。創業5年目のスタートアップが見据える未来像に迫った。

サラリーマンから起業、そして意図せずアイドルビジネスに

2013年6月に起業し、最初はすべての情報を集約した連絡先交換アプリ「iam(アイアム)」をリリースした。スマートフォンやガラケーのなかにあった連絡帳をクラウド化するという発想から始まったサービスは、「電話番号やメールアドレスはもちろん、SNSやプロフィールもまとめて交換できる点が強み。また、家族や友人だけでなく、ビジネス上でお付き合いのある方、連絡先を交換した店員さんまで一元管理できるようなものを目指していました」という。実際にリリース後は大きな反響があり、学生らを中心に数十万人が利用するサービスへと成長したものの「マネタイズが難しかった」という関根氏。フォッグとして2つ目のサービスを……と考え、市場を調べていくなかで行き当たったのがいわゆる芸能界、そのなかでもアイドル市場だったという。

「実は今でもあまり芸能人やアイドルの世界には詳しくないのですが、市場構造を分析するのは大好きで、調べていくうちにどんどん興味が湧いてきました。アイドル市場は今まさに伸び盛りの時期にあり、2016年は市場規模が1,500億円を突破し、前年度比では30%以上伸びているというデータもあります。そして何より驚異的だったのは、この市場を支えている消費者、つまりファンの熱量の高さです」

アニメやソーシャルゲーム、鉄道、AVなど、さまざまな趣味が世の中には存在する。そこで個人が費やす金額を趣味別に見てみると、「アイドル」に対しては1人あたり年間約8万円使っていることが判明した。2位以降にダブルスコアをつけ、圧倒的に高い金額だ。当然、この金額には「アイドルは好きだけどグッズなどはほぼ買わない」という層も含まれている。「お金を払う母数は少なくとも、熱狂的なファンが市場を支えているというこの構図にユニークさを感じた」と関根氏。そこでユーザー参加型のアイドル応援アプリ「CHEERZ(チアーズ)」を思いついた。

テクノロジーがアイドルとファンをつなぐ新たな架け橋に

「CHEERZ」はアイドル本人が投稿した自撮り写真やスナップをリアルタイムに閲覧できるアプリだ。2017年8月時点で1,000名以上のアイドルが参加。アイドルの人気投票にゲーミフィケーションの要素を取り入れることで、「推したい」アイドルをCHEER(応援)すればするほどメディア露出が増えたり、プロモーションの場が増えたりするというエンターテインメント性をもたせることに成功した。

ファンとアイドルを「CHEERZ」というプラットフォームでつなぎ、さらにインターネットから飛び出して、ライブやファンイベントといったリアルな「場」でのコミュニケーションまでも丸ごと設計していく。たとえば、自分たちがCHEERしたアイドルが渋谷センター街のビジョンに登場したり、雑誌に掲載されたりすることもある。このようなリアルな出来事を含めて「CHEERZ」というプラットフォームで応援できるようになっている。

「アイドルの世界は物販ビジネスで成り立っています。Twitterに投稿されたアイドルの自撮りを見るだけなら無料ですが、アイドルと一緒に撮る『チェキ』であれば何千円というお金がかかります。しかし、その金額を払うこともいとわないファンも多い。ただ、アイドルファンも当然、日本中にいるアイドルを見つけられる訳ではないですし、何よりアイドルはブレイクしたら一気に売れてしまうから、その前までに見つけておきたいというファン心理もあります。アナログな体験やグッズに価値を見出すファンがいるからこそ、テクノロジーによる仕組みを作れたと思っています」

こうした「CHEERZ」の成功は、思わぬ形で波及効果を生み出していく。芸能、音楽業界のことを深く理解しながらも、ITに関しての強みを持つ企業が少ないため、さまざまな依頼がフォッグに舞い込んでくるようになったという。フォッグには有名レコード会社の元社員や、有名芸能事務所に役者として所属していたスタッフもいるなど、芸能界の仕組みや裏側を知っている人間がいることも強みになった。

「自分たちに『CHEERZ』という看板ができたからこそ、いろいろと相談してくれる事務所さんなどが増えてきました。そして、ある映画製作会社とお話ししていて決まったのが、今度新たにリリースする映画業界の仕組みを丸ごと変える『mirroRliar(ミラーライアー)』 なんです」

芸能ビジネスに異業種の成功体験を持ち込み、変革をもたらす

『ミラーライアー』の掲げるビジョンは壮大だ。まずはこれから俳優、女優を本気で目指す人々に演技を軸とした「学び」を提供すると共に、デビューのきっかけを掴めるチャンスを同時に提供していく。

そして、「ミラーライアー」から原石と言われる俳優、女優を輩出していくことを目的とし、ゆくゆくは映画監督、脚本家などの製作サイドからも「ミラーライアー」に登録している役者の卵達をキャスティング出来る仕組みを提供していける世界を目指している。

「例えば映画を新たに製作するとなった場合、キャスティングを決めるオーディションが必要となります。大規模なものだと3,000名以上の応募があるのですが、これはすべて書類審査を行っていました。3,000名以上がそれぞれ紙の応募書類に写真を貼り付け、スタッフが3,000枚をめくりながらチェックする。これをすべて電子化し、スワイプして判断できるようにする。これだけで大幅な工数削減になります。実はこれ、医療分野ではカルテの電子化といった形で行われていることです。またワークショップという演技の学び場が東京を中心に頻繁に開催されているのですが、これを録画、編集し、サイト上にアーカイブする事で、地方にいる演者志望の子達は東京に出てこずとも学ぶ事が出来るようになります。これもやはり医療で言う遠隔診療と近しいアイデアだったりします」

「芸能界はあえて業務効率化を重視しない世界だからこそ、こうしたことが常態化しているのだろう」と関根氏は推測する。応募書類もフォーマットが都度異なることは当然で、不便を感じつつも是正をすることはなかった。「それならば、フォッグが業界共通のフォーマットを作ってしまえばいいと考えたのです。複数作品への応募も容易になります。キャスティングを考える側も工数が削減できるのです」と話す関根氏。さらに、映画製作の世界にもソーシャルやクラウドファンディングの概念が取り込まれていくはずだという。

「現在もタレント名鑑という俳優、女優のデータベースがありますが、過去の出演歴だけでなく『どれだけソーシャル上で話題を呼んだか』『検索数はどうか』『自身のSNSアカウントでどれだけ告知し、拡散されたか』といったデータから、今まで可視化できなかったステータスや実績も見えてくるようになるでしょう。また、映画製作も逆オーディションになるかもしれません。今までは映画作品ありき、役ありきでキャスティングが決まっていましたが、逆に『この監督、このキャストで作る映画が見たい!』という声が集まり、クラウドファンディングのようにお金や製作陣が集まって、実際に映画化するといった流れも出てくるかもしれません。こうなると、もはやモノづくりの流れが完全に逆転するでしょう」

スポンサーに製作費を募り、製作会社がキャスティング会社に依頼し、各所属事務所が俳優を集め、オーディションを実施し、演者が決まる。こうした中には当然お金の流れも発生する。企業を挟むごとに俳優が手にする報酬は減ることになるが、こうした「中間業者」を介さなくてよくなれば、映像作品がより安価に製作できるようになり、結果として映画全体のクオリティーを底上げすることにもつながる。これもやはり中間業者の介在を極力減らした分、売り値を低く設定できるECビジネスに近い。異業種で成功したテクノロジーの力を芸能界に持ち込むだけで、そのインパクトは計り知れないということになるのだ。

映画製作会社やNTTドコモの協力を得て、さらなる成長を目指す

関根氏の展望はさらに続く。さまざまな話題作に出演している俳優「阿部進之介」氏と「山田孝之」氏がサービスの趣旨に賛同し同サービスの賛同者として参画してくれることとなった。取り組みの第一弾として、山田氏がプロデュースを行い、阿部氏が主演を務める事が発表された映画「デイアンドナイト」の出演者オーディションをこの「ミラーライアー」で募集することになったのだ。

「もともと山田さんは俳優という職の人々がもっと増えてほしいと思っており、協業先のand pictures代表伊藤主税氏が山田さん、阿部さんとたまたまご縁があってお話しする機会があり、「ミラーライアー」の趣旨をお話しさせていただいた時、すぐに賛同してくださり『自分も手を貸したい』と申し出てくれたんです」

具体的には「ミラーライアー」上で役付きキャストのオーディションを実施するほか、山田氏が参加するワークショップの開催や、第一線で活躍する俳優や監督、脚本家らとの交流会なども企画しているという。演技指導やワークショップをオンライン上で受けられるように考えている。

「『俳優になりたい』『女優を目指したい』という方に向けた月額制のプラットフォームを設けようと考えています。今は芸能事務所のレッスン費用だけで月に数万円というところもザラにあります。それらをすべてまとめて一桁安い金額で、具体的には税込み3,240円で展開します。俳優、女優を目指す人だけでも10万人はゆうに超えるはず。そういう人たちから巻き込んでいくことで、次世代のプラットフォームが作れるようになるはずです」

海外に目を向ければ読者モデルやエキストラをネット上で募集するキャスティングサイトなどは存在している。しかし、既に活躍している俳優や女優の卵などを抱える巨大なデータベースは世界的にも例がないという。新たな芸能ビジネスのプラットフォーム、その先駆けとなれるか、その局面に来ているという。また、「CHEERZ」も新しい展開を仕掛けていくという。

「先日発表になったのですがNTTドコモさんと協力して「CHEERZ forスゴ得」をスゴ得(R)上に展開していく事も決まりました。公開は秋ごろを予定していますが、今回のドコモさんの協力により、「CHEERZ」に参加しているアイドル達はさらに沢山の露出先を得る事となる、さらに幅広い層へとアイドルというものを広めていけると思っています。

「アイドルといえば『CHEERZ』だし、俳優や女優を目指すなら『ミラーライアー』だよね、と言われるまでにしたいですね。これからのサービスはコンテンツありきです。フォッグは強いコンテンツを持っており、まだまだこの会社は大きく成長できると確信しています」

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