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ビジネスモデルの未来

急速に普及する「レシピ動画」市場を切り開くスタートアップ

dely株式会社

爆発的な豆苗ブームの火付け役は、開始2年目のサービス

豆苗(とうみょう)という野菜をご存じだろうか。カイワレ大根やもやしなどとともにスーパーの棚に並ぶ、エンドウの若菜だ。この豆苗が2017年5月、前年比160%の出荷を記録した。関係者も首をかしげた「豆苗ブーム」の一因となったのが、日本最大級のレシピ動画サービス「kurashiru(クラシル)」によるレシピ動画の配信だ。人気レシピ「もやしと豆苗の豚肉レンジ蒸し」は累計再生回数1,700万回超を記録している。

数あるレシピ動画配信サービスのなかで、クラシルの特徴は、専属の料理人によるレシピを1分ほどの動画にまとめているところだ。Facebookのタイムラインなどで見たことがある人も多いだろう。

クラシルを運営するdely(デリー)の創立者のひとりであり、取締役/CTOの大竹雅登氏によると「Facebookが動画配信を推奨していた背景もあってか、レシピ動画の人気に火が付きだしたのは2016年の夏ごろ」という。クラシルのローンチは2016年5月。まさにそのブームが起こる直前にローンチしたわけだが、そこからわずか1年ほどでアプリダウンロード数、動画再生数ともに国内トップクラスの成長を遂げている。

レシピ動画の流れは例に漏れず、先に海外で流行していたものだ。しかし「日本と海外では大きく利用イメージが異なります」と大竹氏は語る。海外のレシピ動画は「見ていて面白いけれども、作るとしたら難し過ぎる」「メニューがハイカロリー過ぎる」など実用的ではなく鑑賞して終わりというものが多い。

「普段自分たちが作りたくなる、食べたくなるような食の動画サービスがあったら人気が出るのではないかと考えました。日本人は自炊するのも好きな方が多いですし、簡単なデモでアップした動画の反応も非常に良かった。設立当時は別事業から始まったdelyでしたが、『これはチャンスなのではないか、思いきりアクセルを踏んでみよう』と、レシピ動画に本格参入したのです」

BtoCサービスならではの強靭なバックエンド

クラシルのアプリは、Google Play (TM)の「ベスト オブ 2016」日本版 ベスト自己改善アプリ賞、App Ape Award 2016の「アプリ・オブ・ザ・イヤー2016」スタートアップアプリ賞を受賞。App Storeの総合ランキング1位、Google Play (TM)の総合ランキング1位 、App Storeのレビュー数 20,923件、5点満点中、平均4.9点(すべて2017年7月26日現在)と人気を博し、またたく間に日本最大級のレシピ動画サービスの座に駆け上がった。

料理といえば「主婦層」というイメージだが、クラシルのアプリはこれを覆し、男性ユーザーも多い。ボリューム層は30代中盤だが、バレンタイン時期には女子中高生が増えたり、クラシルアプリをインストールしたタブレットを孫が祖父母にプレゼントしたりといった使われ方もしているという。BtoCサービスらしく、テレビなどでクラシルが紹介されれば、瞬間的にアクセスやダウンロード数が増加する。注目が評価を集め、また評価が注目を集めるきっかけになるという好循環が今のdelyには続いているという。

「正直にお話しすれば、サービス規模に対して従業員数はかなり不釣り合いです」と、大竹氏は笑う。クラシルのローンチから約半年間は、フロントエンドからバックエンドまでほぼ一人で担当していたという。

「どんなに人気のあるサービスでも、BtoBであればトラフィックの大きさも予測できます。しかしBtoCの場合、通常は求められないようなチューニングをしなければならないこともあります。バックエンドとして、かなり強靭(きょうじん)なシステムを作らなければなりません。また、年齢や性別、ITリテラシーまで考慮しながらユーザーが迷わないUI/UXも重視しています。これほど広い層が存在するサービスは、ほかにTwitterやFacebookといった巨大SNSくらいしかないかもしれません。クラシルもまた、社会インフラ化しつつあるこれらのSNSと肩を並べる存在にしていきたいです」

全く新しい市場での試行錯誤の面白さ

一方、広告営業では、市場が新しいゆえの試行錯誤がある。「クライアントとなるのは食品メーカーですが、記事広告やYouTube配信であればイメージできるものの、レシピ動画を広告のようなコミュニケーションツールとして活用するということに、まだなじみがありません。説明会などを開き、コミュニケートしていく必要があります。その試行錯誤が、面白さでもあるのですが」と、取締役/営業部マネジャーの柴田快氏。

動画の人気が、新たなクライアントを生む例もある。冒頭の「豆苗」の一件は、広告がらみで仕掛けたわけではない。「豆苗は安価で入手できるが、使い方が分からない」というユーザーの声を受けて2016年秋ごろよりクラシルではレシピを配信し始め、豆苗レシピの数は現在までに50を超えている。レシピの再生回数と豆苗の出荷量をそれぞれ比較すると、動画再生回数が先行して伸び、その後に豆苗の出荷量が追いつく形になり、豆苗人気を裏付けてもいる。

「『売れるはずのない時期に、なぜか豆苗が売れ続ける』ことに生産元が疑問を抱き、レシピ動画が原因らしいことを突き止めてクラシルに連絡をくださいました。それが縁となり、ビジネスの関係も生まれています」と柴田氏は笑みを見せる。従来のプロモーションとは違い、新しいPRの形が台頭しつつあるのは、YouTuberの誕生にも親しいものが感じられる。

クラシルだけでもこれほど伸びているdelyだが、2017年7月現在で、契約社員を含めた全従業員数は35人だ。累計で約37億円を調達した資金を惜しみなく投入して、スピードで勝つ方針を取っている。「新しい市場を自分たちの手で作っているという実感があります」と、柴田氏は言う。また、delyにはユニークな社員データも存在する。35人のうち、約4分の1は事業立ち上げに関わった経験のあるメンバーだという。起業経験を選考基準に含めてはいないというが、delyが求める人物像が起業家像にあてはまると言えるのかもしれない。

「面接に来た人に僕らのことを説明するときも『仕事は降ってこないから、自分で考えて仕事を作ってください。そういう人こそ活躍できる環境です』と伝えています。それが、起業経験があるといった、自立心のある人を集めているのでしょう。正しいと思えることを自然にできる、人間としても信頼できるメンバーが集っているからこそ、delyは急成長を続けていると言えるのかもしれません」

「クラシル自体が魅力のあるサービスですが、ビジネス的にスケールするモデルを念頭において、せっかくなので世界一だとか、一番大きなところを狙っていきたいと思っています」

「億単位」の人を明るく照らすサービスを作る

柴田氏は知名度もある大手企業で経験を積んだ後、delyに飛び込んできた。その自身の経験も踏まえて「大手企業の社員は『よろいに守られている』状態です」と語る。

「大手企業に所属しているというだけで、競合にも勝ちやすく、また交渉も進めやすい。スタートアップに飛び込むということは、そうしたよろいを脱ぎ捨て、自分だけの力で勝負するということ。評価を下すのは上司ではなく社会です。社会に受け入れられなければ売り上げがたたず、給与も得られない。しかし、覚悟を決めたあとのリターンは大きいです。大企業で活躍しても、入社数年目の社員の名前がメディアに出ることはまれです。スタートアップで活躍し成功すれば、自分の名前を社会に出し、自分自身の価値も上げていくことができます。そのためには成長曲線を描いているスタートアップに飛び込むことが大切です」

また、大竹氏はエンジニアの立場から、delyで働く醍醐味(だいごみ)を語る。

「大手企業の場合、プロダクトをリリースしたいと言っても、まず社内に壁があります。アイデアを出しても稟議(りんぎ)が半分くらいしか通らないとも聞いています。それはもったいないし、自分の力も発揮できないでしょう。ただプログラミングをやることが目的になっているエンジニアは潤沢な資金のある企業で働いた方が幸せでしょう。しかし、『自分の技術で世界を幸せにしたい』と考えているのなら、話は別です。何万人、何億人という人に使われるプロダクトを、自分の手で作っているという実感が得たいのであれば、当社のようなスタートアップを目指すべきです」

設立から間もなく、既に大型の資金調達を実施しているdelyは、数年後の株式上場も視野に入れている。この1年間で一気に普及したレシピ動画というマーケットは、当然競合も多く参入している。しかし、delyのような成長スピードを実現できているスタートアップは非常にまれだ。

太陽のように熱い情熱を燃やし、そして太陽のように大きく世界にインパクトを与え、永遠に世界を明るく照らし続けるような存在でありたい。「BE THE SUN」というビジョンを掲げる同社が、日本、そして世界を明るくしてくれる日はそう遠くない未来なのかもしれない。

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