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ビジネスモデルの未来

世界の資金需給をつなぐ投資型クラウドファンディングの可能性

クラウドクレジット株式会社

「ソーシャルレンディング」という言葉が、じわじわと市場に浸透し始めている。これは銀行などの金融機関を介さずに、お金の貸し借りをインターネット上で行うサービスのことを指す。インターネット上で寄付を募る「クラウドファンディング」の寄付を貸し付けに置き換えてイメージすると分かりやすいだろう。そもそもソーシャルレンディングは「貸付型クラウドファンディング」と説明されることもある。

ソーシャルレンディングは、サービス事業者からの信用情報をふまえて、投資家自身がリスクを取って貸し付けの判断をするサービスモデルだ。貸し付け側は借り手による返済の遅延、貸倒れによる元本割れのリスクを負うかわりに、預金に比べて高い投資利回りを期待できることが特徴となっている。

そして日本における大手投資型クラウドファンディング・サービス「Crowdcredit」を手がけているのが、クラウドクレジット株式会社だ。しかし、杉山智行代表取締役CEOは「正直なところ、ソーシャルレンディングというビジネスモデルにはあまり興味がないんです」と笑う。

今回は、杉山氏が「興味がない」と話すソーシャルレンディングと出合った背景とあえて挑戦した理由、そして日本だからこそ実現できるソーシャルレンディングの未来について語っていただいた。

余剰資金を海外需要とマッチング。銀行を作ろうと思った

杉山氏は国内証券会社で働いた後、2008年よりイギリスのロイズ銀行(Lloyds Bank)日本支社の資金部長、運用子会社の日本代表および運用責任者として、日本国債、海外社債等の運用を行ったキャリアを持つ。

20世紀の奇跡の成長で、日本は資産大国になった。1,700兆円もの家計の金融資産の大部分が銀行に預金されていることも広く知られるところだ。日本では預金は集まっても資金の借り手がないため、銀行は国債を買うしかない。しかもマイナス金利の今、国債を運用すると諸経費で赤字が出てしまう。お金は余っているのに、運用する方法が見つからず、「ただ、そこにあるだけ」に陥っているのだ。

「同じ金融立国でも、各国で状況はまったく異なります。たとえばイギリスは日本と同様に金融業が強く、かつ島国ですが、移民が多いという事情もあり、社会保障などでお金が出続けており、銀行は資金需要をファイナンスする預金が非常に足りないと悲鳴を上げています。一方で日本の銀行にはお金があり余っています。ならば足りないところとつなぎ、活用してもらおう、と思い立ったのです」

杉山氏は当初、銀行を作ろうとしたという。金融監督庁(現・金融庁)が2000年に銀行業への参入規制を緩和したことにより、銀行業への新規参入は可能になっていたが、預金者の預金保護の観点などから、銀行は設立時から100億円規模の資金が必要だった。個人で銀行を起こすとしても、それだけの資金を集めるには膨大な時間と労力が必要となる。試行錯誤を続けるなかで杉山氏が出合ったのがソーシャルレンディングだった。

「ソーシャルレンディングはリスクアセット。設立に必要な資金は数億円と銀行に比べると少額で済みながら、『お金をあるところからないところにつなぐ』という、やりたいことは実現できる。これだ、と思いました」

さらに、起業準備中にロイズ銀行の日本撤退が決定したことも、結果的には背中を押した。元同僚の行員にも参画してもらい、2013年にクラウドクレジット株式会社を設立、2014年6月に投資型クラウドファンディング・サービス「Crowdcredit」をローンチした。

ソーシャルレンディングは途上国の経済活動を支える「ブースター」

「Crowdcredit」を通じて貸し付けされた資金は、海外のノンバンク的な金融機関に供給され、そこから市民にお金が貸し出されていく。貸し出される先も「パン屋さんからタイヤの輸入業者といった普通の中小企業や個人です」という。

着目すべきは、日本人からすると驚く金利だ。オペレーションコストやリスクをかんがみて、10%前後の金利で調達し、35%といった金利で貸し付ける。先進国の感覚でいえば高利貸しと見えるかもしれないが、そこには経済成長段階の大きな違いがあると、杉山氏は言う。

「よく言われることですが、途上国の地方などでは、舗装された道路ができることが“イノベーション”です。舗装された道路ができると自動車が走れるようになる。そして、多くの車が走るためにはタイヤが必要になる。そこに目をつけてタイヤの輸入業者などが立ち上がります。タイヤ市場は完全なブルーオーシャンで、あればあるだけ売れます。膨大なもうけが出るのは確実なので、事業者からすると金利は多少高くてもいいから借りたいのです。しかし、そうした事業者への資金の供給源がありません。結果、途上国の経済発展が遅れてしまうという悪循環が生まれていました」

2006年にノーベル平和賞を受賞した、マイクロクレジットの創始者であるムハマド・ユヌス氏が創立した「グラミン銀行」も、途上国へ高い金利での融資を行っている金融機関だ。設立当初は先進国からその利子の高さを指摘された。しかし、実際には「お金を借り、60~70%というリターンを達成している人もいた」という。経済が活性化し、多くの金融機関が参入するようになれば、やがて銀行が5%で貸してくれるといった状態に落ち着いていく。ソーシャルレンディングは経済的な成長途上の国や地域にとっての、貴重なブースターとなる存在なのだ。

「アメリカにはビッグデータを使った与信を活用して、ケニアで150%の金利で貸し付けを行うベンチャー企業もあります。話だけ聞くととんでもない、となりそうですが、ローン期間は数カ月、しかも少額です。2万円借りてミシンを買い、5万円を返済する。しかしミシンを使って作った製品を売ることで10万円もうかる。貸す側、借りる側双方にとってwin-winなビジネスなのです」

世界の資金需給をつなぐことを目指す「Crowdcredit」では、国内向けの不動産投資や太陽光発電設備への投資などの案件を持たず、すべてが海外への貸し付けだ。よって日本のユーザーは、全員「投資家」ということになる。このビジネスモデルで日本国内の業者の競合はなく、新規参入もない状態だという。また、「既存のソーシャルレンディングを手掛ける会社には、そう簡単には海外案件を手掛けられない理由があるのです」と杉山氏は語る。

海外案件には当然、為替リスクが付き物だ。ヘッジはどうするのか、投資家に対して分かりやすくリスクの説明はできるのか。ビジネスとしてスムーズに展開していく上で、それは大きな壁となる。

「当社は、会社自体が『円建てで世界に投資をしていただく』という仕組みでできています。それは私を含め、大手金融機関でデリバティブ取引を行ってきた人員が為替ヘッジを行うことが前提です。ベンチャーキャピタルにも、一見競合に見える企業ではありますが、本質的には全く異なるビジネスだということを説明しています。競争があった方がいいという考え方もあるでしょうが、そもそも日本にはこのビジネスに精通した人自体が少ないのです。それこそが最大の競合優位性と言えるかもしれません」

預金が増えると銀行が弱る。日本の余剰資金を海外へ

預金に偏りがちといわれる日本人。しかし杉山氏は、日本人の投資に対するゲームチェンジは、ある日突然起こりうるという。

「銀行の預金額は今でも年々増えています。一方で貸し付けがどんどん減り、収益力が落ちています。市場にお金をばらまいたらハイパーインフレが起きるはずなのに、なぜ何も起きないのか、多くの人は不思議に思っているでしょう。その矛盾の原因は全て、銀行に集約されているのです」

毎年多くの地方銀行が倒産するアメリカに比べて、危ないといわれながら日本の地方銀行の倒産話はまだ聞かれない。銀行にお金を預けておけば増えはしなくとも、なくなってしまうことはないという発想があるのかもしれないが、遅かれ早かれ、いくつかの地方銀行が倒産する時代が来るという。そして、その時にこそ、ゲームチェンジは起こるのかもしれない。

もし倒産すれば1人あたり1,000万円までの預金は保護されるが、そのインパクトは相当なものだ。そのときインフルエンサーとなる人たちが「株式投資を行っても資産がゼロになることは可能性として非常に少ない」「証券会社が倒産したとしても投資信託の財産は守られる」といった情報を発信し、金融リテラシーが一般に高まれば、投資へのマインドチェンジが起こりうるという。

経済発展か投資家保護か、という試行錯誤をしながら、新しい仕組みであるがゆえに実験段階でもあるソーシャルレンディングを、それぞれの国が育てている状態だ。日本においても、既述のように行き場のない資金を世界の資金需要者につなぎたいという潜在的な需要があるものの、銀行や規模の大きい金融機関が、いきなりフレキシブルに動くには厳しい面がある。

「20世紀で一番成功し、世界有数の家計資産を築いた日本。その膨大な資産を生かすことで、世界で一目置かれる国であり続けるのか、それとも『昔は勢いがあったけれど今はどうなのか?』と思われる存在になり下がるのか。やりようによってはどちらでもなりうる状態です。『グローバル金融×テクノロジー』の強みを生かしながら、世界の資金需要者がハッピーになり、日本の投資家にも興味深い投資機会が持てるwin-winの関係を築くことを、当社はソーシャルレンディングという手法を通じてこれからもサポートし続けます」

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