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ビジネスモデルの未来

21世紀型スキルを持った子どもを育てる、新たな教育のカタチ

Classi株式会社

36%もの高校が導入している、という実績

「教育の現場にICT(情報通信技術)を活用する」という話は以前からある。しかし「その効果は?」となるとあまり良いイメージが湧かないかもしれない。大手パソコンメーカーが各学校にパソコンを数台納品するだけだったとか、選ばれたいくつかのモデル校の学生にモバイル端末を配布して終わった、といった話ばかりが目立ってきたからだ。先進的で独創的な海外の教育現場と比較して「日本の教育現場はIT化が遅れている」と言われる側面が目立った。

そうしたイメージを払拭できるかもしれないサービスが、日本で今着実に浸透しつつある。「先生が行う授業・生徒指導」「生徒の学習」を、それぞれICTを生かしてサポートするサービス「Classi(クラッシー)」だ。同サービスを運営するClassi株式会社は、「子供の無限の可能性を解き放ち学びの形を進化させたい」という思いから、株式会社ベネッセホールディングスとソフトバンク株式会社が共同で2014年に設立した、先生・生徒向けのサービスを提供するジョイントベンチャーだ。

「2017年4月時点で、全国に約5,000校ある高校のうち1,800校に導入していただいています」と、Classiの加藤理啓代表取締役副社長は言う。つまり、3校に1校、36%もの高校でClassiが導入されていることになる。特定の学年だけ採用している場合もあるため、「導入された高校の学生全員が利用しているわけではありません」というが、それでも数年後にはほぼすべての高校で採用されるようになると見られている。さらに、高校だけでなく中学にも展開している。

「Classi」サービスは、先生のパソコンやタブレットに、生徒はiPhoneやAndroidのスマートフォンに、それぞれアプリケーションをインストールすることで双方をネイティブにつなぐ。そのことで可能となることは主に三つだ。一つ目は実名のクローズドでのグループ制のSNS。たとえば、1年1組といったグループを作り、そのなかで連絡などのコミュニケーションをする。ただし、生徒同士ではグループを作れないようにしており、必ず先生が介在するかたちをとっている。

二つ目は、義務教育範囲の学び直しから大学受験対策までをいつでも閲覧できる、2万5,000本の学習動画サービス。テスト結果を踏まえて個人ごとに問題と動画をセットでレコメンド配信できるほか、授業中や授業前後、自宅学習時に生徒が閲覧することを想定して作られており、先生はどの生徒がどの動画を視聴したかを確認することができる。

そして三つ目が先生が生徒をアシストする「生徒カルテ」。生徒単位で授業や自宅学習の状況などを一元管理することができる。ベネッセコーポレーションが実施する「進研模試」などの各データとも連携が可能だ。「先生から生徒への連絡事項はもちろん、テストの成績もClassiから通達されます。それらは保護者も見ることができます。だから悪い点数の答案用紙を捨てて見せないようにする、ということはできなくなりますね」と加藤氏は冗談めかして笑う。

サービスとビジネスモデルにある優位性

「テストというのは、あくまでも学習度、習熟度を調べるデータの観測にすぎません。大切なのは『次にどうする?』ということ。結果を踏まえて先生が生徒と面談したり、生徒は自分で自分を振り返ったりすることが大切です」

そう語るのは佐々木達也CTO兼プロダクト部部長だ。考え方としてはごく当たり前のことかもしれないが、これまでの教育現場では「その当たり前が難しかった」と佐々木氏は言う。

学習時間や習熟度が可視化できていなかったことが大きな課題だった。しかし、Classiを活用することで、生徒の学習時間や動画の視聴状況が把握でき、たとえば「数学の勉強時間が少ない」といったことがチャートで見ることができるようになる。エビデンスを得た先生は「いまはこういう状態だから、この動画を見て学習して」と適切に指導できるので、生徒も納得して学習に取り組めるようになるという。このように先生にも生徒にもメリットのあるClassiだが、ここまで急速に普及しつつある背景にあるのは、そのビジネスモデルだ。

「ビジネスモデルとしてはBtoBtoCに該当します。Classiの導入を決定するのは学校で、そこだけ切り取ればBtoBとなります。しかし、Classiのサービスの利用料は学校からいただくのではなく、生徒の保護者からとしています。利用料は生徒ひとりに対して月額300円ここはBtoCとなるため、BtoBtoCというわけです」

従来、教育の現場にICTを活用したくとも学校や教育委員会に予算がないという課題が大きく立ちはだかっていたが、この方法であれば学校にも教育委員会にも負担がないので無理なく導入できる。

「考え方としては修学旅行の費用の積み立てに近いかもしれません。行き先は学校が決め、その旅行費は保護者が毎月支払っていますよね。Classiを3年間使ったとしても負担額は1万円ほどで済むため、心理的にも始めやすいのだと思います。多くの学校に導入いただけているのも、そうした価格設定が功を奏しているのかもしれません」

多くの学校がClassiの導入を推進しているのは、機能面や価格面でのメリットもさることながら、大学受験が大きく変容している時期にあるからだと加藤氏は考えている。2020年度からセンター試験に代わる新試験が実施されることが決まっているのだ。

従来の大学入試は、一度限りのテストの成績だけで合否が判断されていたが、センター試験廃止後は、テスト結果のウエイトはおよそ50%のイメージになる。残りの50%は「高校生活をどう過ごしたのか」「どんな将来のビジョンを描いているのか」が問われるようになるという。企業への就職時にはSPIテスト(総合適性検査)の結果や学歴だけでなく、課外活動や人間性も評価するが、同様のことが大学入試においても行われるようになる。

「将来のビジョンを大学の面接官に伝える能力は、一朝一夕で身に付くものではありません。自分は何がしたいのか?ということを自分で理解して、それを実績と共に積み重ねる必要があります。それを蓄積するツールに最適なのが、実はClassiなのです」

学校で即戦力の人材を育て、日本という国を強くするために

ほとんどの企業は個人プレーではなく、プロジェクトベースで業務に当たる。そこで必要となるのは人と円滑に業務を推進できる対人能力や、自分が何に貢献できるかを相手に伝えるコミュニケーション能力だ。社会に出て必要な能力を教育の場で身に付けさせようという動きは、国や社会全体が求めている。センター試験の廃止という国家主導のプロジェクトもまたその一つだ。

「われわれはこうした能力を『21世紀型スキル』と呼んでいますが、これは一人きりでは学べません。他人(先生や友人、先輩や後輩)が存在するコミュニティが必要であり、その最適な場が学校なんです。こうした能力を教育の場で身に付けさせる、というのは経済界から大学へのリクエストでもあります。能力が身に付いていないと大学を卒業しても採用されない、という意思表示にほかなりません」

高校生の段階で社会や企業にとって即戦力に近い能力、もしくはポテンシャルを持った子どもに育てなければいけない。その点において、Classiはコミュニケーションツールとして非常に大きな成果を残しているという。

「ClassiのSNSのなかで、生徒は先生の指導のもと、自分でタスクを決め、『設定したタスクに自分はどう取り組んだか?』『もっと効率的なやり方はなかったか?』『友達と話をしたらこんなアイデアが出た』ということを日記感覚でまとめておきます。蓄積されたログを定期的な振り返り面談などで実施すると、この期間中に自分にどんな気づきがあって、どのように変化したのかが目に見えて分かるようになります。『3か月前の自分はこんなことしか考えられていなかった』とか『こんな失敗があったから成功につながった』ということが可視化され、自分がどれだけ成長できたかが実感できる。この小さな成功体験が、圧倒的な成長の差につながるんです」

この取り組みを進めていくと、面白い傾向が現れるという。最初は自分の学習進捗を報告する、簡素な文章だったものが、少しずつクラスメイトとのやりとりや部活動での出来事など、自分以外の誰かについて記載することが増えてくるというのだ。「○○さんから『ありがとう』と言われた」「○○さんを傷つけるような発言をしてしまった」など、記載するボリュームが増えて、具体性が増してくる。それを見た先生から褒められたり、アドバイスを受けたりすることで、また人との接し方を学ぶことになる。そこでまた生徒はモチベートされ、周囲とうまく接する方法を学び、実践するようになるのだ。「自分の思考や言動を客観視できるメタ認知能力が向上する」と加藤氏は表現するように、協調性のある子どもに成長するのだ。

「特に驚いたのは広島でClassiを導入したある学校の女子生徒のエピソードです。ある日、彼女は『日本の大学には進まない、エクアドルの大学に行く』と言い出した、というのです。Classiを活用するなかで将来のビジョンを突き詰めて考えるようになったらしいのですが、インターネットを通じて多くの情報に触れるなかで『地球規模で環境などの課題解決に取り組みたい』『まずは現地でその課題を感じたい。だからエクアドルなんだ』と決意したそうです。親御さんはとにかく驚いたと聞いています。広島で生まれ育った、普通の女の子が急に『エクアドルに行く』と言い出したのですから。ただ、高校時代からそうした目標を自分で見つけられる、自律した意志を持てる子どもを多く生み出すことが、Classiの意義だと感じています」

欧米の教育現場ではディベートの授業などが活発に行われており、「日本の教育は世界に比べて遅れている」と言われることもある。しかし、加藤氏はこうした状況にも悲観はしておらず、むしろ日本らしい教育をポジティブに捉えているという。

「僕は海外で仕事をする機会が多くありましたが、海外から日本を見て『日本の教育はすごい』と常々思っていました。日本では95%の子どもたちが高校を卒業していますが、教育にはお金がかかります。先進国でも経済的な理由でドロップアウトする子どもは少なくない。これだけ見ても日本の教育制度は強いと分かります」

今後、労働力人口が少なくなる構造的問題を抱える日本。労働力人口が減る分、生産性を上げるためには日本の教育現場が変わることが大きなインパクトを与えるとClassiは考えている。

「さまざまなチャレンジをおのおので始めるようになった大学に比べて、中学高校はまだまだ閉鎖的です。今は学校単位で利用されているClassiですが、もっとオープンに、全国の学校をClassiをハブにしてつなげていくことも今後は考えていきたい」と佐々木氏は言う。ずっと変化のなかった教育の分野にようやくITが活用されるようになってきた。Classiは教育、学校という世界を大きく変化させる可能性にあふれているようだ。

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