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ビジネスモデルの未来

親・子・孫を結ぶ新しい「絆」をつくる新デバイス

株式会社チカク

機械に弱いシニアでも孫の成長を見守れる「まごチャンネル」

一般的に、シニア世代は機械に弱いと言われている。パソコンやスマートフォンはさることながら、ATMの操作やテレビの録画予約ができないシニアも多い。これはデジタル機器に触れる機会が少なかった世代的な問題であるところが大きい。しかし、子育て世代のなかには、シニア世代もブログやSNSができれば、遠くに住む孫の成長や日々の出来事を知らせることができるのにと、歯がゆい思いをしている人もいるだろう。

そんな気持ちに応える最新デジタルツールが、株式会社チカクの開発した「まごチャンネル」だ。シンプルなのはデザインだけではない。ACアダプターと、テレビをつなぐHDMIケーブルの2つのコネクターしかない設計となっていて、電源ON・OFFのスイッチすらないのである。

受け手(シニア世代)は、本体をテレビとコンセントにつなげれば準備完了。テレビのリモコンを操作するだけで、離れたところに住む送り手(子育て世代)が送信した孫の写真や動画をテレビですぐに見られる。一方、送り手はスマートフォンにダウンロードした専用アプリを使って写真や映像を撮影し、受け手の「まごチャンネル」にアップロードするだけだ。

本体のサイズは縦140 mm、横140 mm、高さ40mmと小さく、重さも350gほど。平屋住宅を思わせる筐体(きょうたい)がなんとも愛らしい。

「画像がアップロードされると、本体の窓のような形のところに明かりがともるようになっています。うちに帰ってくるとまず部屋の明かりをつけるでしょう? そのようなイメージです」そう笑顔で語るのは、株式会社チカクの梶原健司代表取締役社長だ。

まさに、「まごチャンネル」は、おじいちゃん、おばあちゃんの家に孫が帰ってきた、という感覚で家族の“今”を共有できる製品だが、この製品を生み出すきっかけは梶原氏自身、そして多くの子育て世代が抱えている悩みから生まれたものだった。

シニア世代の協力を仰ぎ、徹底的に“簡単”を追求

梶原氏は、兵庫県・淡路島で生まれ育った。大学入学を機に上京し、そのまま大手外資系IT企業に就職した。結婚して子供も生まれたが、「実家に帰りたくてもなかなか帰れないことが多かった」と話す。実家を離れて社会人となった人たちも、同様の悩みを抱えているだろう。

「お盆とお正月に帰省したとして、あと何回孫の顔を見せてあげられるのか、どのくらい一緒の時間を作ってあげられるのか。それを考えると、申し訳ない気持ちになるのです」

そんな家族に対する思いから、「同一敷地内の別棟に住んでいるような感覚を抱かせる製品」という「まごチャンネル」の基本コンセプトが生まれた。当時、まだ会社員だった梶原氏は、スマホやタブレットで写真や動画を共有できる既存のサービスをいろいろと試してみたものの、実家側では使いこなせなかったり、自身の忙しさで共有が滞ったりしていた。

もっと簡単に、もっと使いやすいものでなければ、シニア世代は使い続けてくれないし、日々仕事や子育てで忙しい自分達の世代もなかなか継続的には利用できない。でも、シニアが使える機械とは、何があるのだろうか……。日々考えてきた梶原氏が思いついたのがテレビだった。

どの家庭にもあり、毎日のように見ているテレビは、シニア世代にとっても操作方法のレクチャーが必要ない機械の代表格だ。「シニアこそが使えるツールが必要」と感じた梶原氏は、会社勤めの傍ら専用端末の設計を進め、友人知人の協力を仰いで筐体の試作を繰り返した。並行してシニア世代へのリサーチも行った。友人の家族を筆頭に、知り合いをたどって、試作品を片手に十数組のシニア世代の元に出向いた。

「『まごチャンネル』の試作品を見せると、どの人も最初はけげんな顔をしていましたが、ご自身のお孫さんの写真が映ると、眼を見開いて声を上げて喜んでくれたのです」

完成した初号機は、立方体の筐体にアンテナが飛び出たユニークなデザインだった。男性ばかりの開発チームにとっては非常に挑戦的で面白いデザインと捉えていたものの、想定する利用者であるママ世代に見せたところ、「アンテナの付け根にほこりがたまる」「掃除しづらい」「部屋になじまない」など、外装、見た目に対する厳しい意見が多かった。そうした意見を吸収し、無駄をそぎ落とし、現在のデザインに少しずつ近づけていった。

同様に、マニュアル作りはシニア世代に協力を仰いだ。シニア世代が集うカフェへ出向き、作成したマニュアルと試作機、テレビを置いて、「これを見ながら設置してみてください」とお願いして実際に設置してもらった。マニュアルでシニア世代に理解してもらえなかった部分は、持ち込んだノートパソコンを使ってその場で書き換え、出力したものを配ってもう一度挑戦してもらう。それを何カ月も続けて、ようやく完成にこぎつけた。

協力を仰いだシニアは100組を超え、筐体のデザイン案は70点を超えるほどになっていた。まさにシニア世代とともに作った「まごチャンネル」だからこそ、誰でもわかり、誰でも使える製品となれたのである。

「家族」から「コミュニティー」、さらに海外へと視野が広がる

2015年9月、クラウド・ファンディング・サイトで「まごチャンネル」が初公開されると、公開50分で目標額を達成し、本格的な生産が開始された。翌2016年4月に出資者へ出荷。同年6月から一般販売を始めると、伊勢丹新宿店をはじめ一部の百貨店やAmazonにもラインアップされ、好調なスタートを切った。それにともない、ユーザーからの反響も多数寄せられるようになった。

「それまでは年に数回、電話で『元気?』『困ったことはないか?』といった少し他人行儀とも言えるような会話だったのが、今は写真や動画をもとに『踊りが上手になったね』『その服かわいいね』などとより具体的な話題を気軽に話せるようになった、といった喜びの声が寄せられるようになりました。『まごチャンネル』は、こうした子や孫と離れて暮らすシニア世代の心の隙間を埋めるツールになりうるのだと再認識しました」

そう語る梶原氏は、既に次の課題にも取り組んでいる。例えば、双方向のコミュニケーションツールへの進化や、送られた写真や動画を外部メモリーにどのように移行するかなども思案している。

さらに、新たなユーザーの開拓という面では、地域コミュニティーの活動を支援するツールとして活用することも考えているという。たとえば、地域の催しを行う際に、携帯電話やパソコンのない家庭にも、写真や動画によって連絡事項を一斉送信で伝えることができる。回覧板やチラシの配布といった手間をかけることもない。また、お店とお客様の間で導入すれば、商品の写真をお客に送り、オーダーの確認に使ってもらうといった使い道も考えられる。

さらに、海外展開も視野に入ってくる。現在、海外に住む日本人の家族が、日本に住む祖父母に向けて孫のデータを送るケースが増えており、その数は30都市を超える。次なるマーケットは海外だが、各国のシステムや規準に合わせたローカライズ作業、現地での営業力を上げていくことが必須であり、そのための人材確保が課題となる。

「だからこそ今は、販路をもっと広げて、知名度を上げたいですね。おかげさまでハードウエア、ソフトウエア、サービス、AIまで一気通貫で自社で手がけられる素晴らしい開発メンバーがそろいました。私以外は全員VRやAIの博士号を持つなどの研究者・エンジニアになりますが、これから事業を拡大していくには営業・マーケティングや事業開発のノウハウを持った人材が不可欠です。10回チャレンジして9回失敗してもいい。果敢にアタックしてくれる人、もっと大きく飛躍しようとしてくれる人がいいですね」

そう語る梶原氏は、「孫」から「家族」、さらには「地域」「世界」へとフィールドを広げる“わが子”を見守る親の目になっていた。

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