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ビジネスモデルの未来

町工場とともに作り上げた世界初の風力発電機の可能性

株式会社チャレナジー

風力発電業界に「風穴」を開ける垂直軸型マグナス風力発電機とは

東京・墨田区、町工場が立ち並ぶ一角に、ものづくり活動を支援する施設「Garage Sumida」がある。赤いガレージに白い工房、その手前の駐車スペースに、3mほどの高さのグレーの円筒が1本、無造作に置かれていた。何の飾りもない円筒のわきで「この円筒がプロペラの代わりになるんですよ」 と出迎えてくれたのは、株式会社チャレナジーの代表取締役CEOでエンジニアの清水敦史氏だ。

清水氏が開発したのは、「垂直軸型マグナス風力発電機」。現在の風力発電機には主に、(1)細く長いプロペラが回転して発電する「水平軸型プロペラ式」、(2)プロペラの代わりにマグナス効果を発揮する円筒をつけた「水平軸型マグナス式」、(3)縦長の羽根(プロペラ)で風を受け支柱の周りを回転させて発電する「垂直軸型プロペラ式」の3タイプがある。チャレナジーの垂直軸型マグナス風力発電機は、(2)と(3)の特長を併せ持つ、新しいタイプの風力発電機だ。

仕組みはいたって単純だ。風の中で円筒形のパイプ(円筒翼)を回転させると、風向きと直交する力が働く現象「マグナス効果」が生じる。このマグナス効果によって円筒翼が中央の支柱の周囲をぐるぐると回るのだ。野球のカーブやサッカーのバナナシュートが曲がるのと同じ力と考えるとわかりやすい。垂直軸型マグナス風力発電機は、その回転力で発電するのである。

実際に模型を見ると「本当にこのカタチで発電ができるのか?」という印象を受ける。が、清水氏は「羽根のない扇風機ができるんですから」と冗談めかしながらも説明するとおり、従来型の風力発電機の欠点を一挙に解決する可能性を秘めている。

それだけの利点が明らかになっているにも関わらず、これまで実用化された例がないという。その理由はマグナス効果を垂直軸型と組み合わせたときに生じる根本的な技術課題がある。マグナス効果を発生させる円筒翼を時計回りに回転させていると、風上にあるときと風下にあるときとで、風向きと同じ方向に力が働く。そのため、円筒翼が風上と風下に位置した場合に力が相殺されてしまい、支柱に対する回転も減衰・停止してしまうのである。軸が回転しなければ、当然発電はできない。清水氏は「円筒翼の回転方向が一方向でも、力が相殺されないアイデアを考案することができました。現在特許出願中ですので、詳細はお話しできないんです」という。

垂直軸型マグナス風力発電機なら、風向きが定まらず台風の多い日本で威力を発揮できる

もともと、清水氏は大手電機メーカーで研究開発をしていたが、2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所事故を目の当たりにして、「もっと安全で環境にやさしい電気が必要だ」とエネルギー分野での起業を思い立つ。そして、調べているうちに行き当たったのが、マグナス効果を風力発電機に応用することだった。

風力発電は、世界ではかなり普及している。風車の本場ヨーロッパには陸上だけでなく、洋上に風車が並ぶウインドファームも多く 、アメリカも広大な土地を利用して多くのプロペラ式風力発電機が設置されている。アジア地域に目を向けると、中国が風力発電機設置数における堂々の世界1位である。

一方、海に囲まれている日本は、「平成22年度 環境省再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」によると、陸上風力が3億kW 、洋上風力は16億kW と、合計19億kWの風力エネルギーが潜在するとされている。また、毎年発生する台風の風力を取り出せれば、それだけでも驚異的なエネルギー量になるだろう。実際、大型の台風の1つのエネルギーは、世界の発電容量の半分に相当すると、アメリカ海洋大気庁(National Oceanic & Atmospheric Administration)が公表している 。

その日本国内の風力発電機設置数は2015年度現在で2,102基、発電能力は311万kWh (NEDO発表)と徐々に成長している。約2,000基の風力発電機はほとんど水平軸型プロペラ式だが、清水氏は「もっと日本の風環境に適合できる風力発電機を作れるはずだと考えたんですよ」という。

まず、従来型の水平軸型プロペラ式では風向きに風車の向きが合わないと効率が落ちてしまうため、日本のように地形が複雑で、季節によって風向きが変わる風環境では使い勝手が悪い。また、強風の際には、暴走(強風で規定値よりも早く回転する)によるプロペラや支柱の破損などを未然に防ぐため、強制的に停止させる必要がある。にもかかわらず、日本は台風や突風といった強風に見舞われることから、毎年のように破損、事故の例が報告されている。さらに、プロペラが高速回転することによる騒音やバードストライクといった環境影響も課題となっている。

一方、垂直軸型マグナス風力発電機には、そもそもプロペラがなく、あるのは円筒翼が3本のみ。垂直軸型のため風向きに合わせる必要がなく、またマグナス式を採用しているため円筒翼の回転数を制御することにより風速の変化にも適応できる。さらに、風車全体の回転を低回転に抑えられることから、環境影響を低減できるというメリットもある。まさに、日本向けの風力発電機といえるのだ。

台風下でも発電ができることを実証し、事業は次の段階へ

2016年8月7日、台風下での発電と停止のデータ収集を目的として、チャレナジーの垂直軸型マグナス風力発電機が、フィールドテストのために沖縄県南城市に設置された。そして設置から1カ月がたった9月6日、南城市に接近した台風13号は、中心気圧1,000hPa、瞬間最大風速30m/sとあまり大きくなかったものの、風速20m/sのなかで発電機は強風にびくともせずに発電を続けた。

その22日後の9月28日には、台風18号が沖縄・久米島を直撃した。中心気圧は905hPa、瞬間最大風速は85m/sと猛烈な台風で、一時は特別警報が発表された。南城市のある沖縄本島は直撃を免れたものの、フィールドテストの風速計は風速25m/sを観測していた。強風吹きすさぶ中でも非常用ブレーキを使用せずに安全に停止状態を継続できるか、という停止実験が行われ、これも無事にクリア。これにより強風による暴走を回避できることが確かめられた。

この2つの台風で稼働と停止、両方の安全性を確認できたことになる。しかし、清水氏は「もっと強い風の中でしっかりとデータを積み上げたい」と、結果に満足していないという。今回フィールドテストで使用したのは、全高約7m、円筒翼の高さが3mの試作機。「量産予定のサイズは、円筒翼の高さだけで10mになります。今度はそのサイズでフィールドテストしたいですね」と実用化への意欲を見せる。

ちなみに、清水氏が初めて試作機を作ったのはメーカー勤務のころ、ゴールデンウイークをすべて使って手作りしたという。ホームセンター等で手に入るパイプやネジ類を組み合わせ、発泡スチロールで約30cmの円筒翼を仕上げた。風洞実験に使用した試作機は、円筒翼を1mに大型化し、繊維強化プラスチック(FRP)素材で作った。そして、台風のフィールドテストに臨んだ試作機は円筒翼が3m。一歩ずつ、着実な積み重ねのなかでスケールアップを果たしてきたことが、今回の実証実験の成功につながっていることをうかがわせる。

風力発電から水素を生み出し、エネルギー問題を解消に導く

次期フィールドテストの場は「まだ正式には決まっていませんが」と前置きをし、「強風や風の変化が激しいため、プロペラ式の風力発電機が壊れてしまうかもしれない離島に設置してみたいですね」と清水氏はいう。離島での風力発電はさまざまなメーカーが手こずっており、設置することで実際にどの程度機能するのか、発電効率をどの程度まで向上させられるのかを見たいというのが、清水氏の狙いだ。

しかし、国内の離島よりも「まず先に」と清水氏が口にしたのは、フィリピンだった。台風シーズンが数カ月と短い日本と違い、フィリピンには季節を問わず多くの台風が訪れる。勢力が衰えないまま上陸しやすいのも好条件だという。

また、フィリピンはこれまで火力発電が中心だったが、COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)において、日本とJCM(二国間クレジット制度)の署名国となることで合意。これにより、日本の支援によってフィリピンがCO2排出量を削減すれば、その一部が日本の削減量となる。つまり、フィリピンにとってはCO2排出量削減が急務となる。その際は、「過去に中止になった原発建設計画を再度持ち出してCO2排出量を削減するのではなく、再生可能エネルギーへとシフトするはず」と清水氏は予想している。

さらに、清水氏は、台風の進路にあたる他の島々やベトナムなどのほか、もっと先まで見ていた。「膨大な風エネルギーを生み出すものは台風だけではありません。アメリカのフロリダやハイチなどのカリブ海も想定しています」と、清水氏は巨大ハリケーンに挑む可能性を示唆した。「そのときはもっと大きな発電機で電気を作ります。その電気を使って海水を電気分解すれば、水素を作れます」

水素燃料電池車をはじめ、エコエネルギーの代表的な存在として扱われている水素だが、天然ガスから作られており、二酸化炭素を排出している場合もある。これでは完全なエコではない。もし、清水氏の言う通り風力発電の電気で水素を作ることができれば、タンカーを使って日本をはじめ世界中への輸送が現実的になる。本当の意味で環境にやさしい水素社会が到来するはずだ。清水氏は、「風力発電にイノベーションを起こし、全人類に安心安全な電気を供給する」を目標に、貪欲に強風を追い求める、まさにハンターのような人物だった。

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