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世界を自由な遊び場に変える、ウエアラブルギア「BONX Grip」

株式会社BONX

カジュアルな「ながら」通話を可能にする、ユニークなウエアラブル端末

雪山で、仲間とスノーボードをしながらワイワイと話ができたら楽しくないだろうか? 「こっちの雪がいいよ!」と教え合ったり、「カッコイイ技が決まった!」と興奮を分かち合ったり。エクストリームなアウトドアシーンで、そんなたわいもない掛け合いのコミュニケーションをハンズフリーで10人までのグループ通話として可能にしたのが、ウエアラブルトランシーバーの「BONX(ボンクス)Grip」だ。

スケートボードの坂=バンクと似たような語感の造語で命名された「BONX」だが、この名前も渋谷で多国籍の人々に印象を聞きまわってみて名付けられたものだという。つまり、その時点で、世界がターゲットとして想定されていたことになる。この社名をもとに「BONX Grip」という商品名が生み出され、チケイと称していた社名もブランディングにより「BONX」に統一された。

プロダクトに話を戻すと、「BONX Grip」はスノーボードやサイクリング、釣りなど大自然の中でのアクティビティシーンで、片耳に装着しておけば、グループ通話アプリで仲間との会話を最小限の遅延でダイレクトにハンズフリーで楽しめるというもの。原理はBluetoothイヤホンと同様だが、タフな環境でこれまでにないカジュアルな通話体験が得られるのが新鮮だ。新しいアクティビティの楽しみ方を創出する「BONX Grip」の原点はウエアラブルカメラのGoProにインスパイアーされた、ユーザーとしてのリアルなニーズにあったという。

「大学卒業後、コンサルティング会社に入りました。そこでビジネスの基本を学びながら、起業するチャンスを狙っていました。もうGDPでは幸せになれない世の中ですし、健康や自然、遊びをキーワードに、次の未来を作っていこうと考えていたのです」

そう語るのは、株式会社BONXの宮坂貴大代表取締役CEOだ。新たな未来の理想像を追求するなかで、宮坂氏のアンテナにひっかかった一つがGoProだった。サーファーである創業者が、リアルなスポーツシーンで自分の姿を撮影できたら……というひらめきから生まれたプロダクト。宮坂氏の場合は「自分は根っからのスノーボーダー」と自認するほどのめり込んでいるスノーボードがきっかけだった。

「BONX Grip」を思いついたのは仲間と行った北アルプスの白馬だったという宮坂氏。実はそのストーリーには一つのセレンディピティがあった。

「リフト1本上ったところで、少し雪が多くて人がたまっていました。仲間の一人が、その中に前夜にバーで仲良くなった外国人の姿を見つけたのですが、彼が実はGoProの社員だったのです」

東京でGoProのイベントがあり、たまたま日程が空いて白馬に来たというGoProの社員と知り合い、そこから2日間、一緒に滑りながらGoProの話を夢中になって聞いたという宮坂氏。その後、カリフォルニア州サンマテオにある本社も案内してもらい、創業した今でも親しい関係は続いているという。そして「BONX Grip」のアイデアを思い付いたのは、その白馬から東京に戻ってからのことだった。

「雪が良いなかで気持ちよくスノーボードで滑っていたところ仲間とはぐれてしまったんです。心配になってグローブを外し、寒さにかじかむ手でスマートフォンを探り当てて連絡を試みたのですが、うまくつながりませんでした。結局のところ、無事にふもとで再会はできましたが。東京に戻ってから、滑りながらでも仲間とコミュニケーションのとれるツールがあれば、と思いつきました」

早速、プロトタイプを製作し、5月に実際にスキー場で使ってみたところ、「想像以上に新鮮でした」という。

「プロトタイプと言えないようなプロトタイプだったので不便はありましたが、スマートフォンやトランシーバーと違って、滑りながら仲間と普通にしゃべっていられるのは、自由で楽しかったです。新しいコミュニケーションの始まりを実感しました」

雪山から日常へ。広く世界を遊び場に変えていく

エンジニアではない宮坂氏が、このハードウエアを発展させていこうとするわけだが、開発は試行錯誤の連続だった。「知らぬが仏。こんなに大変だと分かっていたら、飛び込めなかったかもしれません」と笑うが、音声を扱う苦労は今も続く。音声コミュニケーションにまつわるハードウエアもソフトウエアも開発できるエキスパート集団を集めて、2014年11月に会社を設立。極小デバイスで風切音をカットする技術は、入ってきた雑音を調整するノイズキャンセリング機能とはまったくの別物で、ゼロから作り上げることになった。通話機能はVoIPを活用したが、そもそも山間部のような弱電波環境での使用は想定外であり、プロトコルも自分たちで作り込むことになったという。

「“話ができる”という単純な機能ですが、プロセスの一つ一つが意外にも前例のないことが多く、それらをつぶしていく作業の連続でした。それでもエンジニア集団の闘志に火をつけられたのは、ビジョンが明確だったから。まったく新しいプロダクトを作るというモノづくりの観点や自分も野外で使ってみたいなど、皆がさまざまなモチベーションで共鳴してくれたのです」

共鳴はテクニカルな場面にとどまらず、国内のIoT系クラウドファンディングとして当時最高額の2,500万円を1,344人から集めた。「プレゼンテーション用の動画も粗削りで全然プロフェッショナルではなかったですが、世界観が伝わったようです」と宮坂氏はストーリーの強さを語る。

クラウドファンディングで得た資金を加え、さらに改良を重ねて一般発売されたのが2016年12月。販売チャネルは自社サイトと、ヴィクトリアなどのスキーショップやプロショップ、そのほかガジェットやアクセサリー系の店舗にも展開している。また、飛躍的に認知度を高めたのが、2017年1月にオープンしたAmazon Launchpadストアでの取り扱いだ。スタートアップを支援するグローバルプログラムの日本版で、第一弾プロダクトに選ばれたのだ。

このAmazon LaunchpadでのPR動画の舞台は、雪山ではない。自室で目覚めてから自転車で街に飛び出るというもの。ごく日常的なシーンでの「BONX Grip」の使われ方が示されている。当初は雪山でのコミュニケーションからスタートし、その延長線上で釣り場やキャンプ場、ツーリングなどアウトドアシーンでの使用イメージが強かった。しかし、「世界は僕らの遊び場」がBONXのスローガン。つまり、アウトドアやアクティビティに限定していないのだ。

「日常だって捉えようによっては遊び場であって、楽しめるというのがメッセージです。例えば受験勉強はつらいけれど、点数を上げていくプロセスを競うゲームだと思えば楽しめる要素が出てきますし、友達と一緒に勉強する時間はかけがえのないものだったりしますよね。僕らは遊びをもう一段引き上げて、もっと自由に、面白くしていきたいんです」

音楽の楽しみ方を変えた携帯音楽プレーヤーのように、話す楽しさを進化させる

「The world is our playground!」という企業コンセプトに共感し、集まった仲間たちは今、社員・フリーランス含め20人ほど。テック感満載なエンジニア集団ながら、「移動は自転車かスケートボード」という宮坂氏同様アクティブなメンバーも多く、元プロの釣り師までいるのだとか。

「元プロの彼がメインでやっているのはウェーディングという、ウェーダー(長靴付きのオーバーオール)を着て海の中に立ち込む釣りなんですが、『BONX Grip』はもう必須アイテムだそうです。ウェーディングをしていると好きな場所に移っていくので仲間と離れやすく、海なので波にさらわれる危険性もありますが、両手はふさがっています。こうした状況でのユーザー発想が改良には役立ちます」

大切なのはこのユーザー発想だという。釣りをしながら、スケ―トボードをしながら、自転車を走らせながら……。会話やコミュニケーションの在り方を大きく変えるきっかけになり得る「BONX Grip」は、「音楽の聴き方を変えた携帯音楽プレーヤーに匹敵する」と宮坂氏は熱い。

「アクティブシーンで仲間と意思疎通や感情共有をしようというときに、メインの媒体としては音声に優位性があります。現在のVR/ARでは視界がふさがってしまうからです。僕らがやっているのは、どんな瞬間、どんな状況でも話せるように、話すためのコストをどんどん引き下げるということです。この環境を広げていければ、この先には話す人を選ぶというコストや話すという行為のコストもなくなる時代が来るでしょう。10年後かもう少し先かもしれませんが、テレパシーに近いくらい、コミュニケーションにかかるコストが減っていくのは確かです」

そのためにも早急に「BONX」を普及させることが不可欠だ。子どもが自転車に乗る際にヘルメット着用が常識になっているように、スノーボードのときには「BONX」も、という世界観にしたいという。さらなる普及のカギはやはり小型化だ。さまざまな技術的障壁はあるものの「小指の先くらいになれば」と宮坂氏は展望を語る。

「アウトドアシーンだけに限らず、例えば街中でも耳に気軽に着けて、オールウェイズ・オンで仲間たちとしゃべりながら歩いてほしいですね。ウエアラブルってスマートフォンとは段違いのナチュラル感ですから、つながっているのがあまりにも普通になって、BONX中毒といわれるくらい身近になるのではないかと。そのくらいの社会的インパクトは起こしたいと考えています」

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