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ビジネスモデルの未来

製菓業界に吹き込む新しい風。洋菓子×ITは何をもたらすか

株式会社BAKE

行列を生む、スイーツのスタートアップ企業

「スイーツタウン」の印象が強い東京・自由が丘。このスイーツ激戦区において、2014年にオープンした新店舗で初日から1日5,000個のチーズタルトを販売した店がある。スイーツ好きの間で「行列が途切れないチーズケーキ屋さん」として名高い「BAKE CHEESE TART」だ。わずか2年で国内8カ所、海外3カ所に新店舗を続々とオープンし、そのすべての店舗に発生する行列は、もはや名物といってもいい。

サクサクのタルト生地、フワリととろけるチーズムース、ほんのり漂う甘い香り……おいしさを追求するため、1つの製品に全力を投入すべく、単品に絞った工房型店舗にこだわり続けている。「現状の店舗面積や電気容量では、今販売しているペースでしか作ることができず、結果的にレジ1台での対応となるため、行列ができてしまうのです……」。申し訳なさそうに話すのは、株式会社BAKEの長沼真太郎代表取締役社長だ。

2013年にスイーツのスタートアップ企業として創業したBAKEは、洋菓子分野にITを活用するなど、これまでの製菓業界にはない斬新なチャレンジを続ける。「BAKE CHEESE TART」のみならず、簡単に写真ケーキをオーダーできる「PICTCAKE」やシュークリーム専門店「クロッカンシューザクザク」などのスイーツファン御用達ブランドを複数展開し、成長を続けてきた。

しかし出店に関しては、顧客を飽きさせないために同じブランドでも店舗ごとに内装を変え、さらに「カジュアルにしすぎたくない」との考えから、国内は20〜30店舗でストップするという。「ブランドはリアル店舗とオンラインそれぞれで毎年1つずつ増やしていく予定。圧倒的なブランドのコンテンツメーカーになるのが目標です」

失敗やアクシデントも成功への糧となる

長沼氏は、北海道札幌市民に親しまれる洋菓子店「きのとや」の長男として生まれた。幼いころから後継者として育てられ、慶應義塾大学卒業後は製菓ビジネスのシェアが高い丸紅株式会社に入社。希望した食品部門食品流通部菓子食品課に配属されるが、1年で退職する。「仕事はものすごく面白かったです。ただ『きのとや』のほうで、上海でスイーツの店を一緒に展開したいという香港の投資家からの提案を受けることになったのです」。すぐに退職し、上海に飛んだ。

だが結果的に双方の方向性の違いからプロジェクトは立ち消えとなる。先方の計画では、日本では一般的な多種類のケーキが並ぶ店を展開する予定だった。しかし上海に同じような店がなかったため、当初の予算では実現できなかったのだ。

「私が未熟であったがゆえの結果でした。そこから学んだのは、日本から海外に進出するときは『多店舗展開しやすいビジネスモデル』と、そのために『日本である程度の知名度を有していること』が必要であること。それは現在のビジネスに大きくつながっています」と長沼氏は語る。

あらためて菓子を学ぼうと、2012年に「きのとや」へ入社。「きのとや」の店舗のなかで最も売り上げが低い新千歳空港店で店長となる。売り場や商品構成の変更など試行錯誤を行っても状況の打開に結びつかないなか、転機となったのはシンガポールで開催された北海道物産展だった。

そこでは、新千歳空港店では冷蔵で販売していたチーズタルトを、焼きたての状態で箱に詰めて販売していた。けれども途中で箱だけが足りなくなってしまう。苦肉の策で、焼くときに使った鉄板にチーズタルトを載せたまま店頭に並べてみたところ、これが大成功。その瞬間から行列ができた。これが新千歳空港の売り場を工房型店舗へ改装するきっかけとなり、1日5,000個を販売する大ヒット商品誕生のきっかけともなる。

テクノロジーは、お客様との距離を近くする

「BAKEの『日本を代表する製菓企業をつくる。』という企業理念には、世界中の人にスイーツで幸せになってもらいたいという思いも込められています」と語る長沼氏。そのためにはテクノロジーの駆使が必要だと考えている。スマートフォンアプリから簡単に写真ケーキを注文できる「PICTCAKE」は、現在5万件のオーダーがあるという。

「“ツール”としてのテクノロジーと“考え方”としてのテクノロジー、われわれはこの2つを意識しています」。ツールとしてのテクノロジーとは、Webサイトやカスタマイズシステム、クリームを作る高度な機械といったもの。2015年9月よりスタートしたカスタマイズチョコレート専門オンラインサービス「99CHOCOLATE」もツールとしての活用例に挙げられる。

考え方としてのテクノロジーとは、これからBAKEが取り組む新しい試みだ。「製菓業界は職人気質な世界なので、味の改善ひとつとってもパティシエの感覚によるものが大きいんですね。われわれがやりたいのはお客様参加型の製品改善。甘さを控えめにしてほしいとか、もっと柔らかな食感がいいとか、お客様の声をWeb上でヒアリングし、ABテストなどを経て定期的に製品をアップグレードしていこうと考えています」。現在はそのプラットフォームを開発中。すべてのブランドの製品に取り入れる予定だ。

長沼氏一人で立ち上げたBAKEの仲間は280人(2016年2月15日時点)まで増えた。「スイーツのスタートアップとして始めた会社に、優秀な若者がたくさん集まってくれている。彼らの存在がこの成長をサポートしてくれている要因だと思います」。BAKEが日本を代表する製菓企業となる未来は、そう遠くないだろう。

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