探そう、まだ見ぬ未来を。

ビジネスモデルの未来

世界中のアイデアやテクノロジーを結びつけ、新たなイノベーションを導く

アスタミューゼ株式会社

一見無関係なテクノロジーをひもづけるプラットフォーム

言うまでもなく、イノベーションは人間の創造力がもたらすものだ。ただ、とある目的のために考案されたアイデアやテクノロジーが、実は、別のことに活用できる可能性を秘めていながらも、その事実に気づかれずに見過ごされているというケースは少なくない。

そこで、2009年にアスタミューゼ株式会社は社名を冠した「astamuse」というプラットフォームをリリースした。これは、アスタミューゼが保有する世界80カ国を対象に収集したデータの一部を、イノベーションをもたらすために求められる人材情報や無形資産情報として可視化したものだ。

少し捕足をすれば、世界のどこで誰がどのようなアイデアやテクノロジーを持っているのか、ビジネス上でどういった課題を抱えているのかを可視化し、利用者がそれらを自由に閲覧することができるプラットフォームである。つまり、それらがうまく結びつけられればビジネス上の課題が解決し、新たなイノベーションが生まれるというわけだ。

アスタミューゼでは、3つのビジネスを中軸と位置づけている。1つ目は、このastamuseを始めとするプラットフォーム事業。2つ目は、同プラットフォームを通じて、優秀な人材を獲得する仕組みや戦略を提供するヒューマンソリューション事業だ。そして3つ目は、同プラットフォームを用いて、大手メーカーやVCへ新規事業や技術活用の戦略を提供するインタンジブルソリューション事業である。プラットフォーム上にあるビッグデータを適切に活用し、着実にイノベーションを発生させるためのトータルサポートを行っているのだ。

同社テクノロジーインテリジェンス部の川口伸明部長は、その具体例の1つとして、次のように説明する。

「某社は排ガスの浄化に関して非常に高いテクノロジーを有していました。そこで、当社はそのろ過装置の部分を飲料の製造工程にも応用することを提案し、新たなビジネスチャンスに結びつけました。通常なら、排ガスと飲料はとても関連性がないように思われますが、収集したデータと分析をもとにひもづけていくことが可能なのです」

川口氏は、分子生物学・発生細胞化学を専門とする薬学博士で、研究者としても活動してきたが、アスタミューゼに入社後は、広範に及ぶテクノロジー・知的財産に関する戦略的なコンサルティングを手掛けている。特に情熱を注いでいるのは、生体情報センシングや再生医療、AI、VR/AR、情報芸術、宇宙地球環境だという。

このようなコンサルティング業務には、さまざまな分野で広く深く造詣を持ち、さらに発想を転換することが必要だ。社会への貢献度が極めて高いため、実現させるのは並大抵なことではない。だが、川口氏が座右の銘として挙げるオランダの哲学者・スピノザの言葉に、その原動力が秘められているようにも思われる。それは、次の通りだ。

「あるものが偶然と呼ばれるのは、われわれの認識に欠陥があるからにすぎないのであって、それ以外のいかなる理由でもない」(スピノザ著、畠中尚志訳『エチカ―倫理学』岩波文庫)

多種多様なデータインフラの開発・整備

もっとも、川口氏がビッグデータを巧みに解析して斬新な提案を行えるのは、アスタミューゼが保有する世界80カ国・のべ1億にものぼる技術、研究、新製品や投資データを分析する基盤があるからこそである。しかし、そのインフラを提供するのは、決して容易なことではない。開発・インフラ部データグループの山縣陽リーダーはこう述べる。

「国内外の数千万件を超える技術・論文情報をはじめ、さまざまなデータを扱っておりその規模は膨大です。しかも、技術情報はデータフォーマットも複雑で、いろいろな面で技術的な課題を解決しなければなりません」

ソフトウェアエンジニアとして約20年のキャリアを持つ山縣氏だが、テクノロジー・知的財産に関するデータの収集とその格納、分析基盤の構築という現在の職務は、これまで数々のIT企業で関わってきたものとは一線を画しているという。その苦労はひと言では説明しきれない。そもそもアスタミューゼが提供しているサービス自体がオンリーワンのものであるため、比較することもできないのだ。

「面接で事業の概要について説明を受けた際ですら、何をやっている会社なのかがすぐにはピンときませんでした。ただ、とても野心的なベンチャーで、社会にとことん貢献したいという情熱はひしひしと伝わってきたのを覚えています」

その山縣氏の言葉に、同じく開発・インフラ部を率いる並河祐貴部長もうなずく。大手のシステムインテグレータやインターネットメディア会社などを経て、現在はアスタミューゼでインフラ整備や設計に携わる並河氏は「これまでとは比較にならないほど、社会性の高いテーマとデータを扱っている自負があります」と語る。

「データ形式も多種多様でデータ量も膨大ですから、私自身、工夫しながら整備を進めています。従来とは頭の使い方がかなり違っているというのが実感です。自分なりの工夫にこだわるエンジニアにとっては、非常にやりがいを感じる職場だと思います」

世界中から収集した特許や研究テーマの中から、特定のキーワードに合致するものを検索すると、10万件程度がヒットし、そのすべてをダウンロードしたうえで解析を進めていく、技術の進歩に合わせて解析手法も常に見直していく……。これが川口氏率いるテクノロジーインテリジェンス部の日常の業務である。

これらがストレスなく円滑に処理されていくためにも、インフラ整備や設計には非常にハイレベルな要求が突きつけられる。並河氏たちはそれに応え、より使いやすいプラットフォームへと日々改善を重ねている。

未来の創造を生み出す、個性豊かなメンバーが集結

現在、アスタミューゼは世界80カ国の特許・論文情報、大学・研究機関の研究テーマ、ベンチャー企業の投資情報、新製品情報などを保有し、その一部が「astamuse」上で閲覧できるようになっている。それらのデータ解析が新しいイノベーションを育み、その蓄積が未来を創り出していく。

アスタミューゼでは、それをさらに推進するために、外部とのアライアンス締結にも積極的だ。2017年2月には、欧州最大のコンサルティングファームであるローランド・ベルガー社と提携。特に製造業で高い実績を誇る同社は、新規事業や提携企業の提案などにアスタミューゼのプラットフォームを活用することとなった。加えて、同年3月には、国内で製造業の技術マッチングを手掛けているリンカーズ社とも業務提携。世界中の先端技術やベンチャー企業を対象としたリサーチプラットフォームである「astaLinkers」の運営を始めた。すでにシリコンバレーを中心とするさまざまなテクノロジーやベンチャー企業に関する調査を受託しており、今後はイスラエルや欧州などでも幅広く展開していく方針だ。

果たして、一連の活動を通じてアスタミューゼはどのような未来を創造しようとしているのだろうか? 前出の川口氏はこう答える。

「世界中に分散しているさまざまな情報や発想、人を神経ネットワークのようにつなぎ合わせることで、斬新な価値や意味を創出することができます。そうした多様性と好奇心に満ち溢れた進化する未来こそ、私たちの目指すところです」

一方、同社で広報・PRを担当している波多野智也プロジェクトディレクターはこのように語る。

「個人的に私は歴史好きなのですが、約600年前のルネサンスのころと同じような局面に差し掛かっているのが今だと感じています。技術革新によって天動説から地動説へと世の中の常識が変わる転換期を迎えており、その途中で混乱も生じるでしょうが、当社はそんな時代における非常に社会性の高いサービスを提供していると自負しています」

数年前には想像もつかなかったテクノロジーやサービスが次々に生み出されていく激動の時代であることは多くの人たちが痛感しているだろうが、アスタミューゼはその流れのけん引役を果たそうとしているだけに、そこで働く人材には「変化を楽しむ」ことが求められると、波多野氏は言う。

「先ほど、山縣の話にも出てきたように、一見しただけでは何をやっているのかがわかりにくいというのが当社のビジネスです。また、この場に顔をそろえた4人のメンバーが象徴するように、個性がかなり異なっている人が集まった会社です。ただし、『よくわからない会社だから面白そう』と考える点はみんなの共通項でしょう。本来、わからないことにはストレスを感じてしまうのが人間ですが、むしろ面白がって積極的に取り組む人が当社には多いのです」

それを裏付けるかのように、並河氏もこう話を続ける。

「よくわからないということは、言い換えれば、そこにさまざまな可能性が秘められていることも意味しています」

冒頭で触れたアスタミューゼの3つの中核事業は、まるで有機体の結合のように、それぞれが互いに関連していくことでイノベーションを育んでいく。

いわゆるイノベーション・エコシステムが形成されるわけだが、人材情報や無形資産情報を可視化したプラットフォームを通じてそれを果たそうという取り組みは、他にほとんど例を見ないと言えそうだ。

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