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「よそ者」たちが挑む製造業の「間接材」調達革命

株式会社アペルザ

3つの壁を打ち破り、ものづくりの現場をオープンに

現在製造業では、ドイツにおける「インダストリー4.0」や、米国の「インダストリアル・インターネット」が急激に浸透しはじめ、大きな変革期を迎えている。その波は日本にも押し寄せており、日々ものづくりの現場の最先端ではFA(Factory Automation:工場自動化)にはじまり、あらゆる面で合理化が進んでいる。

しかし、このムーブメントを加速させ、日本の基幹産業である製造業界が本来期待できるポテンシャルを発揮するためには、3つの大きな壁「情報流通」「コミュニケーション」「取引のあり方」が妨げになっていると株式会社アペルザの石原誠代表取締役社長兼CEOは指摘する。

「IT業界と比較すると分かりやすい。例えば、業界で常識となるテクノロジーやベースとなる情報がIT分野であればオープンソースで共有され、人材流動も活発的になり、結果業界全体の勢いや底上げにつながっている。一方製造業はというと、極めて技術力が高く世界的にも評価を受けているにも関わらず、そのノウハウが共有されることは少なく、コミュニケーションはおろそかになりがち」

特に製造業の現場で働くエンジニアの業務時間5割以上を占める、製品開発に必要な部品や設備を探す「購買・調達業務」においては、未だオフラインが主軸だという。さらに、購買に至るまでのサプライチェーンは極めて複雑で、1つのアイテムを買うまでに複数の流通業者が絡むことも多々あり、星の数ほど存在する製品の中から、自社に最適な製品や部品を探し、比較検討する業務に時間を要しているのが実態のようだ。

そこで、製造業企業が行う日々の情報取集や、購買・調達時における比較・選定に関わる効率を改善し、「ものづくりの産業構造をリデザインする。」ことを目指して生まれたのが石原氏率いるアペルザだ。

製造現場で使用されているものには「直接材」と「間接材」がある。前者は原材料や資材、部品など、生産活動に直接結びつくものだ。これに対し、工具や加工機械、検査装置、生産設備といったものが「間接材」に該当する。

アペルザでは「間接材」にフォーカスし、ユーザーの購買ステージに合わせたプラットフォームを提供。国内で20兆円を超えると言われる間接材取引市場の上流から購買まで一気通貫したサービスを提供し、前述の3つの壁を打ち破っていくという。裏を返せば、壁をクリアすることで、ものづくりの質を一層高め、生産性の向上にも結びつくということだろう。

「製造業の企業にとって購買・調達コストの削減は重要な経営課題と捉えています。海外では一般消費材と同様に急激なオンラインシフトが進んでおり、2020年にはB2BのEC市場がB2Cの2倍の規模になるという予測も出ている。それに比べると日本市場では取り組みが遅れていますが、ものづくりの現場のIOT化が進むにつれて間接材のオンライン調達時代も近づくと確信しています。その時に備え、購買・調達に必要な情報がオープン化されたプラットフォームによって効率化を実現し、製造業の活性化に貢献できることを目指しています」

業界のタブーに果敢に挑む、
製造業版の価格.com「Aperza」

2016年12月に正式リリースされた、工業用資材の価格検索サイト「Aperza(アペルザ)」は、まさにものづくりの購買・調達をオープンにするプラットフォームとして製造業界に強烈なインパクトを与えた。

「Aperza」は間接材に特化した製造業版の価格.com である。「直接材」は原材料や資材・部品などの生産に直結し、大量または定期的な取引を特定の企業と行うため、価格面で厳しい注文が出され、競争にもさらされやすく合理化が進んでいる。その一方で、「間接材」は少量かつ不定期に不特定の企業と取引を行い、そのうえ「間接材」の質が高額投資によって整備された生産ラインの稼働にも影響することから、コストダウンより質を重視される傾向にあり、購買・調達における改善の余地は大きい。これが「間接材」に注目した理由の1つだと石原氏は話す。

前述の通り流通過程で多くの商社や販売代理店が介在する状況から、製品の販売情報をオープンにすることは従来業界内でタブーとされてきた。それらをネットで自在に閲覧できるようにし、しかも極めて専門的な分野にメーカーや商社ではなく、業界外部から参入するのだから、その反響は当然のことだろう。

なお、「Aperza」はサイトを通じた購入や送客により販売マージンを得ているが、購買・調達担当者だけではなく、新たな販路を開拓したい商社や販売代理店に対しても商談機会を提供する場として成立している。

技術上の仕掛けについて、同社の塩谷将史取締役CTOは次のように説明する。「検索エンジンが普及しはじめたころは、事前に登録されている情報の中からキーワードに該当するものをピックアップするという手法が用いられていました。Googleが一気に台頭したのは、ネット上に氾濫するあらゆる情報に対して、『検索』という手法を持ち込んだからです。『Aperza』で提供しているサービスも、製品価格や口コミに関する情報を網羅的に検索できるのが強みで、その検索対象として積極的に海外の情報も収集していく予定です。また、専門用語への対応に加えて、製品情報と販売情報を統合的に掲載するための自動分類の技術など、独自技術を数多く備えたこの製造業特化型検索エンジンを充実させ、UI/UXを向上させていきます」

石原氏は、「Aperza」を立ち上げる以前の2014年から製造業向けカタログポータル 「Cluez(クルーズ)」を運営している。彼がFA関連大手である株式会社キーエンス在籍時代に、同社初のインターネットビジネスとなる製造技術データベース「iPROS(イプロス)」を社内ベンチャーとして立ち上げた経験をもとに構想された。

「ものづくりの現場では、部品選定の際に検討候補となった対象製品のカタログを入手して比較検討されますが、接点がない企業や製品には当然ながら出会えず、優れた製品や技術が見つけられていないことに課題を感じていた」

「Cluez」では、2017年2月現在、8,000以上のカタログ情報が登録されている。ユーザーはメーカーを横断し、カタログPDFを一括してダウンロードすることで新しい製品に出会うことができる。分厚い紙のカタログを取り寄せる従来の方法と比べても収集する手間は省け、選定に関わる技術者は業務効率を上げることができる。

ただし、あくまで「Cluez」のサイトで閲覧できるのは事前に登録された情報で、掲載の呼びかけに応じたメーカーの製品に限定され「情報取集~比較選定」フェーズに対応したサービスであった。「間接材」に関する購買・調達フェーズにおいて、「Aperza」はかつてGoogleが検索エンジンにもたらした革命的変化をもたらそうとしている。

創業当初からグローバル展開を視野に

アペルザという会社が設立されたのは、2016年7月。石原氏が起こした株式会社クルーズと、製造業に特化したマーケティングコンサルを手掛ける株式会社FAナビ、40年以上の歴史を有する製造業向け業界専門紙のオートメーション新聞株式会社の3社が経営統合して誕生したのだ。

そして、「Cluez」「Aperza」とともに、情報サイト「ものづくりニュース」や専門紙「オートメーション新聞」を通じた情報発信から、製造業におけるセールスやマーケティングの支援まで手掛けている。

「Aperza」が収録する製品点数は日々増え続けており、既に数百万点に達するところまできているが、目指すは1,000億だという。某大手商社が取り扱っている「間接材」のラインアップは800垓(京のさらに上の単位で10の20乗)に及ぶとされ、そのポテンシャルは計り知れない。

加えて、先にも触れたように日本の製造現場ではeコマースはまだほとんど浸透しておらず、製造業設備市場のわずか5%程度にすぎない。「間接材」に特化し、オープンなプラットフォームを展開するオンリーワン的存在であるアペルザがeコマースへシフトすれば、驚異的なシェアを獲得しそうだ。

そのうえ、アペルザが見つめているのは、日本国内の市場だけにとどまらない。石原氏はこう宣言する。

「クルーズを創業した当初から、グローバルに通用するビジネスを立ち上げたいと思っていましたし、『Cluez』のサービスは日本のみならず台湾でも同時リリースを行い提供しています。アペルザとしても、すでに2016年9月の段階で米国西海岸にリサーチラボを設立しており、海外展開の基盤を固めつつあります」

周知の通り、現代のものづくりはグローバルなスケールで展開されており、「間接材」の流通も国境を越えるのが常識となっている。しかも、同分野において日本メーカーの製品に対する信頼は厚い。

そこで、石原氏は中国のeコマース最大手であるアリババをライバルとして意識しながら、「Aperza」をグローバルスタンダードなプラットフォームへと成長させていくことを目指している。

「間接材」において「Aperza」がアリババを圧倒する存在となるためにも、資本の充実とともに優秀な人材の獲得が欠かせない。資本に関しては、2件目となるベンチャーキャピタルからの出資も決まった。人材獲得に関しても、石原氏は積極的だ。

「今のところは優秀な人が優秀な人を引き連れてくるという好循環が発生しており、特に製造業以外の分野から集まってきているのも特徴です。今後も、今までの常識を塗り替えられる“よそ者”を積極的に取り込みながら、独自の進化を遂げたいと考えています」

今、製造現場では「インダストリー4.0(第4次産業革命)」が世界的な潮流となっている。石原氏は、この状況を「これまで隔離されていた工場の生産設備が、インターネットとつながること」と語る。アペルザが推進するビジネスは、こうした動きにもいち早く対応したものだといえるだろう。

■プロフィール
株式会社アペルザ
・代表取締役社長兼CEO 石原誠
株式会社キーエンスに在籍中の2001年、社内ベンチャープロジェクト「iPROS(イプロス)」の立ち上げに参画。執行役員として「サービス開発」「メディア運営」「経営企画」を担当。退職後の2014年、教育系(EduTech)スタートアップの株式会社ポリグロッツ、株式会社エデュート(Edut)を相次いで創業。数々のビジネスコンテストで受賞。その後、株式会社クルーズを創業。2016年7月の株式会社FAナビおよびオートメーション新聞株式会社との経営統合を機に、株式会社アペルザの代表取締役社長兼CEOに就任する。

・取締役CTO 塩谷将史
大学卒業後、エンジニア経験を経てWeb系ベンチャーに入社。Web2.0時代のEC、ソーシャル系システムの企画立案、要件定義から開発・運用、チームマネジメント経験を積む。2008年に楽天株式会社に入社し、広告プラットフォームのプロデュースとチームマネジメントに従事。楽天のアジアHQ及び海外開発チームの立ち上げではシンガポールに赴任し、グローバル広告プラットフォームの企画立案・開発から海外拠点への導入を指揮した。その後、アペルザ創業者の石原氏と出会い、そのビジョンに共感し、2016年1月から取締役CTOとして参画する。

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